日本の大学入試改革の意味(01)大学入学共通テストの成功と失敗のダイアローグ。 なんとかヘーゲル生誕250周年を祝えましたね。
★2020年の大学入試改革の理念が現実の着地点として物質化したのが昨日と今日行われている大学入学共通テストです。大学入試改革反対論者やニヒリストあるいはシニカルな人は、なんだセンター入試とどこが違うんだ、失敗だなと言うでしょう。一方で、PISAやIBのTOKをベースにした適性検査を作成している教師陣、私立学校の思考力入試を開発している教師、PBLを促進している方々は、条件付きでとにかく転換の意思表示はしたねと語るでしょう。
★記述を廃し、選択肢の問題にしてしまったので、見た目はマイナーチェンジだし、解答を導き出す過程はたしかに、センター入試時代と何ら変わらないし、思考コード(首都圏模試センター)によれば、A2(知識・理解軸で複雑な知識の組み合わせレベル)に分類されてしまいます。もちろん、いつの世も、知識を忘れる場合はあるわけで、そのときは推理を発動すればB2になります。
★実は、推理をしても所詮覚えていなければできないという問題が本来のA2ですが、今回は推理をすればかなり正解にたどりつく問題も多かったのです。そういう幅がある問いを作成したという点では、見た目は変わらない選択肢問題も、質的には少し変化があったといえましょう。
★しかし、大学入試改革反対論者は、そもそもPBLも反対なわけですから、ブルームのタキソノミーベースの評価方法を受け付けません。思考コードを受け付けないわけです。そうすると、その認識眼鏡では、今回の問いが、以前の問いと若干違いがあるなんてことは無視して構わない誤差の範囲だと判断し続けるでしょう。
★まあ、予言しておきますが、そういう声を大にして語る方々がでてきますよ。そのとき、ああ、ハラスメントという意味がわかっていない人々だと進歩主義者やSDGsを推進している人々はがっかりするでしょうね。でも、そのような心ある見識ある人は、表現の自由だからと温かく見守ってしまうでしょうが。
★とはいえ、彼らは、今回の問いよりも、マテリアルの構成主義的な設定に少し勇気をもらうでしょう。というのは、PISAは、連続テキスト(文章など)と非連続テキスト(図、グラフ、絵など)をミックスしてマテリアルを構成します。今回の共通テストはそれを踏襲しています。
★したがって、問いの形式は選択肢であっても、設定は変わってきます。マテリアル同士のつながりを比較・対照するという思考スキルを発動させる問いを設定させたり、その違いの歴史的な背景、パラダイムの違いを問うマインドセットをするようになっていました。
★現代文の論説文は「、「妖怪」を権力の道具、人民の道具、内面の道具というアートの歴史物語(文章ではフーコーのアルケオロジーだといっていますが)の応用で書かれています。PBL的な授業を行う時のマテリアルという道具デザインでは、よくやる手法ですね。ジョブスがピカソ自身の内面の変化と作品の変化にヒントを得ているのとシンクロします。
★それにこのやり方は、IBのTOKのやり方です。もちろん、TOKの片鱗であってそのものでは到底ありません。ただ、どの教科も複数の連続・非連続テキストを組み合わせることによって、テーマやトピクに対する複数のアプローチを求める点では、TOK的と言えなくもありません。
★そういう意味では、今後共通テストをマテリアルにして進路指導や教科の授業をデザインする際、単独のマテリアルを歴史的背景も認識の眼鏡の変容も論ずることなく授業ができた時代は終わりを告げることになります。やるじゃないか大学入試センターというわけです。
★しかし、この連続テキストと非連続テキストをミックスしたマテリアルを使う方法は、今年の早稲田大学政治経済学部の独自入試でも予告されているわけです。総合型選抜はすでにそうなっています。実は公立中高一貫校の適性検査は先取りしています。私立学校の中学入試の思考力入試やPBL入試、自己アピール入試という新タイプ入試もとっくにそうなっています。高校入試もその傾向にあります。
★一般入試はどうなるのでしょう。すでに国立大学の独自入試は論述が多いので、マテリアルを複数にするのは容易です。あとは私大の一般入試ですね。やるなあ大学入試センター。追い詰めているじゃないかあとなるるわけですね。
★欧米の入試制度のいいところどりをして、いろいろ欠点もあるけれど、すべての生徒を置いていかないで、複眼思考をできる学習指導要領をつくり、あとは、授業を「主体的・対話的で深い学び」にシフトしようといういつのまにかそうなっている戦術という得意技で、形式的平等をあくまで遂行する我が国の官僚制度の面目躍如ということでしょう。
★欧米の入試制度や授業デザインを見て、いいなあと憧れても、見ている教育は超富裕層と貧困者の大格差を生み出している教育なんですね。イギリスのすばらしいパブリックスクール(イギリスでは私立学校)を見て、憧れても、年間の学費1000万だったりするんです。
★シリコンバレーのHTH(ハイテックハイスクール)のPBL憧れちゃうなあという先生方も多いですよね。でも、アメリカは自治体によって教育につぎ込む予算、つまりお金が違うわけで、シリコンバレというGAFAで潤っているエリアはそりゃあHTHのようなチャータースクール運営ができまるのです。
★デューイのPBLすごいですよたしかに。私も大好きです。でも彼が最初に創ったラボラトリースクール資金難で10年もたんかったんです。その間デューイは「学校と社会」という本を出版して、印税つぎ込んでいた。たしかに126年続いているけれど、それは途中であの世界大学ランキング100位内の資金調達がうまくいっているシカゴ大学の付属校になったからです。今年は、OGがノーベル物理学賞とったんで、寄付も多くなるでしょうね。そもそも、通わせている家庭の両親はシカゴ大学のメンバーが50%以上だとも言われているし。。。
★世界の平和や幸せを実現するなら、市民全体に還元できる教育を実施することが必要なわけです。そんなこと言っている本間さんは私立学校研究家を標榜しているじゃないかと。
★それは、だって、日本の私立学校は、自由を維持したいという家庭が、公立学校だったら1人に支払われる税金分を自前で払っているだけで、学校で使われる教育費そのものは変わらないんです。海外とは台所事情が違いすぎるんですね。
★ただ、相対的に自由だから、やろうと思えば、PBLだってハイグレードなグローバル教育だってできてしまう。
★だから、労働集約型で、資金がない分、創意工夫しようという環境が私立学校なんです。私学の先生方に頭が下がるのがそこなんです。この自由の火を維持したいというので、私立学校研究家を標榜しているんですね(汗)。
★もちろん、大学進学主義の方が生徒募集という学校経営的には効率が良いという私立学校もあります。しかし、そこだって、魂を売っているわけではない。今回のパンデミックでオンライン授業に移行できたのは、new power schoolだけではなかったのは、私学の自由を大事にしているスプリットは健在だったことを示唆しています。
★そして、そこも、今回の共通テストでいっせいにPBLやアクティブラーニング型授業に移行していく流れができるでしょう。
★偉大な哲学者ヘーゲル。でも大学人としては権力をもてなかった家庭人ヘーゲル。ルソーに憧れ、ヘルダーリンという詩人を友人にもった青春を謳歌したヘーゲル。サビニーやヘルバルトという官僚学者に捨てられ、近代国家のラインアップから外されたヘーゲル。でも、なぜかマルクスに担ぎ上げられぢ同時に踏みつけられたヘーゲル。国家主義者的なレッテルを貼られたヘーゲル。
★デューイに影響を与え、デューイに批判されたヘーゲル。イギリス経験哲学者やバートランド・ラッセルという哲学者にさんざん攻撃されたヘーゲル。
★デューイもラッセルも学校をつくったけれど、教師としては活躍しなかったし、その学校はうまくいかなかった。でも、ヘーゲルは生涯教師だった。ギムナジウムの校長もやり、日々生徒と対話した。ダイアローグという対話を。でも日本ではこのダイアローグを弁証法なんて訳されて祭り上げられた。でも、ヘーゲルは一年間ベルリン大学の総長やっただけで、あとはコレラであっけなく死んでしまった。
★ルソーと共に市民社会を愛したのに、フランス革命の戦火に「精神現象学」の原稿が紛失・消失しないように大事に抱きかかえながら逃げまくったヘーゲル。ルソーも市民社会を愛したがゆえに逃亡者になりました。ヘーゲルも市民社会を愛したがゆえに、近代国家主義者と間違われました。昨年はヘーゲル生誕250周年でした。でもベートヴェン生誕250周年の影にすっかり隠れてしまったヘーゲル。
★でも、ヘーゲルは言うんです。ミネルバは空が灰色になって飛び立つのだと。歴史は理性の狡知なのだと。パラダドクスなのだと。デューイがあなたを批判してプラグマティズムをつくり、あなたを捨てたヘルバルト主義と闘ってくれたおかげで、あなたの1教師としての対話型授業が今ようやく出現しようとしているのです。
★2020年大学入試改革は、満身創痍、結構ボロボロだったけれど、あなたの生誕250周年を祝う記念行事となんとかなりましたね。おめでとう。そしてありがとう。
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