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2020年12月25日 (金)

2021年中学入試情報(05)宝仙理数インター「できちゃいました!フツーの学校」の「フツー」の意味。

首都圏模試センターの記事「宝仙学園中学高等学校共学部理数インター2020~生徒の自由なチャレンジを後押しする“知的で開放的な広場”」は必見です。そして、同校のワクワク楽しい学園生活を通して広く深く探究にのびやかに羽を広げて成長する生徒の様子、いっしょに知的に大騒ぎする教師の真骨頂が描かれている一冊「できちゃいました! フツーの学校 (岩波ジュニア新書) 2020/7/18 富士晴英とゆかいな仲間たち (著)」は必読です。

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★内容については、両方をぜひ読んでいただきたいと思います。ここでは、2つコメントしますね。

★1つは、首都圏模試センターの記事の中で富士校長の語りを扱っている箇所についてです。こうあります。

<「都の私立中高協会から一般入試でのオンライン入試の実施は自粛という申し合わせが出された以上、どのような方法でも入試を必ず実施するとは名言できませんが、本校が「日本一入試方法が多い中学」と自ら謳っているのは、同時に「日本一柔軟な学校である」ことを意味しています。だからこそ、入試は何としても無事にやり切るのは当然のことです。>

★この冨士校長の語りは、首都圏私立学校の心意気を代表する発言だとお気づきになりましたか。どういうことかと言いますと、私立学校は1校では文科省と闘えないのです。エっ!?文科省と闘うの?と思った方もいるかもしれませんが、基本明治以来私立学校は官学の長である文科省とはつかず離れずバランスをとってきたのです。スキを見せれば私学はつぶされてきましたから(汗)。

★今回の大学入試改革も、半ばとん挫していますが、それは公立の校長会の猛反発に文科省が耐えられなかったという見方もありますが、そればかりではありません。私立学校の日本の教育を牽引する最先端の学びを取り入れたいとも文科省は思ったものの啓蒙思想やキリスト教、仏教などの宗教と理念を受け入れるわけにはいかないのです。

★明治の政府は、それは拒否してきました。戦後教育基本法ではGHQの背景がありましたから、うけいれてしまった形になりましたが、すぐに改正の動きがあり、2006年に改正されたのは記憶に新しいところです。

★基本形式的平等を保つ必要が政府にはあるので、あまりに先鋭過ぎると平衡感覚の力が働きます。文科省のメンバーの中には、私立学校出身者もたくさんいますから、先鋭的に動きがちです。しかし、ブレーキがかかるのは、日本のガバメントのあるあるですね。

★ですから、私立学校はスクラムを組む必要があります。しかし、スクラムを組んだら組んだで、組織の力学がやはり働きます。日本全体に比べれば先鋭化したグループでも、その中での先鋭化の次元はばらつきがあります。

★平衡感覚として標準化します。それでもその標準化は日本全体では群を抜いているのです。何せ、東京の私立中高一貫校に通う生徒は同世代人口の2%ぐらいです。文科省がこの2%に合わせて動くわけにいかないのは、考えてみれば当たり前ですね。しかし、一点突破しようというメンバーも文科省の中にはいるのです。彼らが何度もアタックして100の提案のうち1つでも通ればという覚悟で行っているから、少しずつ改善されていくのでしょう。

★そんな経緯があるので、冨士校長が私立中高協会と協力するのは当たり前なのです。しかしながら、私立学校は独自の建学の精神をもっています。同校の経営母体は、真言宗豊山派です。宗祖は、あの空海です。この系列のお寺は全国に約3,000寺あるそうです。僧侶(教師)数は約5,000人、檀信徒数は200万人だというのです。

★東京の私立中学・高等学校は合わせて25万人くらいですから、冨士校長が背負う身内の数と歴史はそれ以上です。ずっしりと重いですね。ですから、私立中高協会と協力するところはするけれど、独自性を維持することも両立するというのが富士校長の心意気です。先の記事の箇所には、そういう意味があるのです。

★もう一つは、岩波から出版した本のタイトルです。「フツーの学校」の「フツー」という表現が気になります。首都圏模試センターの記事を読んでも「フツー」ではないですね。茶室をPBLの拠点にしてしまうんですよ。多くの日本の教師が憧れるシリコンバレーのチャータースクールHTHが羨望の眼差しで見つめる茶室空間を使っているんですよ。

★日本の私立学校は、慶應義塾に代表されるように、イギリスのパブリックスクールをモデルにしています。「義塾」とか「共立」とかはパブリックの意味ですね。エエっ!?私立学校は公立学校をモデルにしているの????と思われるかもしれません。イギリスのパブリックスクールは、イートンカレッジやゴードンストーンスクールのような私立学校を意味します。

★イギリスでは、常識のことをコモンセンスと言いますが、このコモンセンスは、共通感覚も意味し、ヒュームやアダム・スミスが内なる最適判断をする基準とみなしているものです。

★よって、冨士校長は「コモンセンス」を「フツー」とカタカナでカジュアルに表現したのです。そして演劇作品「ユタと不思議な仲間たち」にちなんで「富士晴英とゆかいなな仲間たち」とサブタイトルを付けたのでしょう。

★演劇と言えば、シェークスピア。そうこれもまたイギリスの話ですね。

★私のように小難しいことを言うのは野暮ですから、冨士校長の粋なユーモアや遊び心がこうした本に結晶したのでしょう。そして、その前に学校となったのです。

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