聖学院インパクト(08) 「教科学習」が「研究」へパラダイム転換
★聖学院の授業はブレイクスルー!パンデミックによってフルスペックのオンライン授業を行い、学校再開後も、リアル時空とサイバー時空のハイブリッド授業を展開しているわけですが、そのためか、授業の方法論やマテリアル(素材)の扱い方、生徒の主体性などが大きく変わりました。
★そんな卵の殻を破って羽ばたくアプラクサス(ヘルマン・ヘッセ「デミアン」)が目の前を飛んでいました。おそらく、聖学院にとって、パンデミックは授業の脱構築のためのインキュベーターの作用を果たしたのだと思います。
★何を言っているのかとお思いでしょう。ごめんなさい。あまりのインパクトに、ファクトより驚きを言わなければという気持ちの方が先になってしまいました。とにかく、これで開成の牙城にあいている3%の穴に突入し、牙城を崩すことをまず聖学院が行うのだということがはっきりしたわけです。
★半年ぶり以上行っていなかった「授業デザイン研究会」が再開されました。座長の児浦先生は、新しい授業の孵化期を通してブレイクスルーしたがゆえに、再開しようと決意したのでしょう。
★国語の土屋先生の現代文の授業のシェアをしました。この間の授業がどのように行われたのか、プロセスごとに動画がつくられていて、それを見ながらプレゼンされたので、イメージもしやすかったですね。それに、授業で生徒がどのように学んでいるかプロセスフォリオをきちんとインタビューしながら撮影しているのがすでに革命的です。
★一般に現代文の授業は教科書にあるマテリアル(文章素材)を使います。それを通して、新出の漢字や言葉の意味を調べ、文章の構造を読み取ったり、物語だと心情の変化を読解していきます。そのうえで、自分の意見や感想を書くという段取りになります。そして定期テスト。
★これだと、与えられたマテリアルの理解度を評価することができても、そのマテリアルを通して得たはずの文章の構造などを他の文章に適用することができるかどうかはわかりません。出来る生徒もいれば、出来ない生徒もいます。
★土屋先生は、その従来の授業の手法をひっくり返しました。文章の構造を読み取ったり、自ら書いたり、表現したりするスキルを前面に出したのです。そこを生徒が学ぶことにしたのです。ですから、マテリアルは生徒の興味・関心に任せます。そのマテリアルを自分なりの文章の論理構造を読むスキル、物語の構造を読むスキル、エッセイを書くスキル、物語を創作するスキル、要するに「言語」そのものの機能を適用していくわけです。
★もちろん、最初は自分なりのスキルですから、せっかく見つけたマテリアルも十分に理解したかどうかは、学年によって違うと土屋先生は語ります。しかし、この授業方法をらせん状に実施していけば、自分なりの言語の機能スキルを学問的なスキルに変容できるのだということです。
★どうしてそんなことができるのかというと、これが目から鱗ですが、論文作成というタスクを用意したのです。小論文ではありません。大学で行う研究論文の制作方法をダイレクトに現代文の授業に入れてしまったのです。
★ある意味リサーチスキル(調べ学習ではなく、研究の仕方そのものです)を鍛える授業です。生徒は、漫画、ゲーム、AI、SDGs・・・など自分の興味・関心のある分野やテーマについて、論文を探して読んでいきます。文献リサーチもします。そのとき、自分なりの論理構造で読んでいきますが、初めは当然行き詰まります。そんなときペアワークやグループワークを通して壁を突破していきます。
★論理構造のループが増えるし、余計なものは削除されます。世界を問う論理構造のループがシステマティックに成長していきます。もうマテリアルは、誰か一人の著者の断片的な文章ではありません。それどころか、無限に増えていきます。論文を読めば、そのビブリオから読むべき論文や文献が増えていくのですから。
★しかし、一般に、このような授業は、現状では、「総合学習」とか「探究」で行われるものです。それを「教科学習」の中で実践してしまっているというのは、本来大いに驚くべきことですが、集った先生方はそれが当たり前という顔をしているのです。
★研究会終了後、児浦先生に少しインタビューしたところ、国語だけではなく、社会や理科もそのような流れになっているし、音楽の教師と、音楽と数学は親和性があるという対話をしているぐらいなのですよと。なるほど、すでに「教科学習」=「研究」というのが聖学院の先生方にとって、ニューノーマルだったのです。知らなかったのは私だけだったということです。
★さて、さらに面白かったのは、この流れに、数学と英語はすぐには乗れないというフィードバックも本橋先生や榊原先生からなされていたということです。これはネガティブなフィードバックではないのです。このパラダイム転換がおきたからこそでてくる話です。
★今後の聖学院の学びの構造をどうするかという問いなのです。国語と社会と理科はある程度共通した学びのというか思考の構造がみえてきたわけですが。数学はその構造はストレートに使えないのです。数学は実数の世界よりもガウス平面で考える構造が多いので、次元が違うからです。それをあたかも実数でことたりる日常生活で行っているのが従来の数学の授業です。しかし、それは数学にとっては、フィクションなのす。そこを基盤とすることはなかなかできませんね。他の教科でフィクションだと思われる次元が数学にとってはリアルなのです。
★また英語も、日本語と違い、ことばのデフォルトネットワークが圧倒的に少ないので、そこをどうするのかという言語生成論的な話が必要になってきます。その際、日本語のデフォルトネットワークを転換できることも考慮しなければなりません。どうやって?体験が極めて重要になってきます。フィールドワークという領域をどう結びつけるのか?なのですが、フィールドワークの科学ということですね。
★またまた本間は何を言っているのかといわれますね。しかし、しかたがないのです。開成がそのことの重要性に気づき3%の穴の中でそれをひっそり実現していくことを2013年からはじめています。聖学院も同じ時期から、それを全面展開しようとしてきたわけですが、それがようやく実現されはじめたのです。世の中の97%の人が気づかないことですから、わけがわからないのもしかたがありません。
★もっとも、この世の中というのはここでは日本のことを意味しています。ですが、海外で議論すると盛り上がります。聖学院はそういう局面に進んだということでしょう。
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