品川翔英の進化(10)突き抜ける国語科 物語思考を共有。
★今年度の国語科の研修ワークショップは、第1ステージでは、PBL授業の開発と質のアップデートを目標にし、第2ステージはメンバーの関心ある領域あるいは専門領域をPBLにどのように結びつけるかを目標にしてきました。前回から第2ステージに突入し、平岡先生のICTを駆使したPBL授業のワークショップを行いました。今回は今井先生の物語の構造をいかにPBL授業に結びつけるかというワークショップを実施しました。
★今井先生の専門は近代文学で、特に芥川龍之介の研究を深めてきました。そこで、金子満さんの提唱する13フェイズ構造を活用して、芥川の「杜子春」のプロット(物語の構造)をメタ分析するプレゼンをしました。物語の読解と言えば、キャラクター分析、心情のフロー曲線、ストーリーのあらすじなどで終わりがちです。
★しかし、今井先生は、それだと生徒は授業でしっかり学んだ物語や小説しか理解が深まらない、主体的に読み進み、なおかつ自ら語る創造的思考を働かせるようになるにはどうしたらよいのかについて考えていたわけです。そこで、金子満さんの13フェイズ構造を活用することにしました。
★というのは、プロットという物語の構造は、実は共通の構造があるという研究が伝統的にあります。ギリシャ時代、源氏物語の時代から洋の東西を問わず人間は語る存在です。ですから語りの謎を解き明かす試みは複眼的になされてきました。
★昔話の構造分析をしたプロップや構造主義的アプローチのロラン・バルト、映画において成功するための共通の構造を提唱したシド・フィールドなど有名ですが、中高生には少し難ししいかもしれません。
★そこで、今井先生は、生徒も親しめる映画やドラマのシナリオヒットメーカーでありプロデューサーである金子満さんの13フェーズ構造を活用することにしたのでしょう。この理論の詳細は、検索していただくとすぐにでてくるので、おまかせします。とにかく、見事に杜子春のプロットを今井先生は分析してしまったのです。国語科のメンバーは、驚嘆し、すぐにも自分も活用してみようと。
★平岡先生のICT活用方法もすぐに使い、今度は物語の構造分析の方法(=メタ分析)を使うことになるとは、国語科のメンバーはどんどん授業技術をアップデートしているのですね。
★しかし、次に宮崎駿さんの作品「千と千尋の神隠し」まで、鮮やかにメタ分析し、13フェーズ構造は、金子満さんが提唱するように、活用できることを検証したのです。国語科メンバーがますます活用しなくてはとモチベーションを内燃させたのはいうまでもありません。
★さらに、今井先生は、分析で終わりませんでした。授業案までプレゼンしました。それは生徒自身が創作活動をするというのですから、まさにPBLそのものです。もうメンバーは、聞いているだけでは満足できなくなりました。いかに物語を創作する授業ができるのかいまここでやってみようということになりました。
★そして、物語は必要かというテーマで7分間ロールプレイ(RP)をすることにしました。RPですから、たんなる議論ではありません。4タイプのキャラクターを決めて、それぞれのキャラクターになりきってRPをしていくアクティビティに挑戦しました。そして、その様子をタブレットで録音しました。
★RP終了後、音声を再生しながら、7分間のRPというドラマを13フェース構造で分析していきました。各人が分析してポストイットに書いたものを13フェーズごとに配列していきました。すると、すべて埋まりました。
★なんということでしょう。対話は物語を生成していたのです。もちろん、4人の分析はそれぞれ違いますから、13のフェイズのうち少ない部分があります。たとえば、7分間の創発対話ですから、「対決」「排除」はなかったと感じたメンバーの方が多かったですが、言論の対決と勝利という流れはあったと解釈したメンバーもいました。
★しかし、何がいいわるいではなく、売れ筋シナリオ作成会議では、おそらく、どのフェーズを強調するか軽くするかなど、このようにスクライブしながら行っていくのではないかと、シナリオ作成ミーティングさながらに盛り上がりました。
★実はこのRPは、物語思考養成プログラムでもあります。
★思考力と言っても、世界標準のレベルに対照すると、読解や要約、小論文、大学入試問題の難問を考えるなどのレベルは低次思考と言われています。エっ~!と思われるでしょう。戦時中長崎では、ここから先は登ってはいけないというルールがありました。そこから先は一般国民は登って眺めることができなかったのです。軍のエリートが作成した機密事項が漏れては困るからですね。
★日本の教育は、憲法が変わったのですが、なんと2007年まで、この低次思考以上考えてはいけないというルールがちゃんと削除されていなかったのです。本当はもちろん削除されていたのですが、学校教育法で、高次思考をやるよと条文化しなかったために、低次思考まででよいと勘違いされてきたのですね。学習指導要領がいう思考力は、低次思考力を指していたのです。
★それはたいへんということで、ひっそりと2007年に学校教育法が改正され、高次思考をやるよと文言化されたのです。でも、多くの国民はそれに気づいていません。大学入試改革のねらいはそこだったのですが、うやむやになってしまいました。
★そんなあ~!とお思いでしょうが、それに気づいていた先生や一部の私立学校では、さっさと高次思考をトレーニングしていました。東大でも、一般入試は学習指導要領の縛りがありますから、低次思考の枠の中で難問を作ってきました。しかし、帰国生対象入試問題では、高次思考まで問う問題を出題しているのです。なぜなら、帰国生の体験してきた海外の教育は、高次思考までやっているので、低次思考の問題を出してしまうと差がつかなくなるからです。
★東大にたくさん合格している学校の中には、低次思考までしか行っていない学校が多いのですが、A学校のように、高次思考まで行っているところは、自然と東大に受かっていく生徒が多いわけです。
★合格実績を増やすことが目的ではありませんが、低次思考の枠の中で競争するのと、低次思考を突き抜けた高次思考をトレーニングして、低次思考の問題を解くのとでは、アドバンテージが違いすぎますよね。
★低次思考は暗記の競争です。高次思考は論理的・批判的・創造的思考の競争です。品川翔英は後者をやるのです。前者は辛い抑圧的な学びです。後者は好奇心に満ちた開放的な学びです。
★総合型選抜のような入試は、試験当日に到るまで、志望理由書やレポートなど作成するわけですが、客観的な記述ではなくて、自分の感情と情熱を織り交ぜながら論理的な構造を物語る記述です。ストーリーテリングなわけです。
★採点者をワクワクさせ、感動させ、共に研究していきたいと共感させるような物語を語らなければならないのです。海外大学進学となると、もっとこの力が必要ですね。
★品川翔英の国語科の物語の構造ベースの創作活動は、国語という教科を超えて生徒の人間としての生き様に影響を与える学びを生み出しているのです。私たちの人生は、ドラマ以外の何物でもないでしょうから。
| 固定リンク
« 新しい教育社会(28)ポストコロナはシステム思考とPBLの時代 和洋九段女子とかえつ有明の12人のZ世代に触発されて。 | トップページ | 新しい教育社会(29)現代化リベラルアーツ 教科でもなく探究でもなく、教科でもあり探究でもある。 »
「創造的才能」カテゴリの記事
- 2026中学入試準備(10)富士見丘の突出型グローバル教育 チームワークと自分の言葉としての英語へ(2025.02.15)
- 2026中学入試準備(08)MiddleからCreativeへ ようやく(2025.02.13)
- 2025年中学入試動向(13)和洋九段女子 生徒の才能が豊かになる生成AIの使い方勉強会はじまる(2024.11.24)
- 聖学院の教育宇宙(3)すべての教育活動をつなぐ存在としての授業があった <奇跡の男子校>(2024.11.23)
- 聖学院の教育宇宙(2)すべての教育活動をつなぐものが生まれる仕組み化(2024.11.22)
「中学入試」カテゴリの記事
- 2026中学入試準備(12)3Fマインドと3Tスキルを大切にする教師がいる学校を探そう(2025.02.17)
- 2026中学入試準備(06)知られざる工学院と聖学院の思考力セミナーものすごいバックボーン(2025.02.11)
- 2026中学入試準備(05)すべてが才能創出型入試の中で海外進学準備もしている学校は(2025.02.11)
- 2026中学入試準備(04)すべてが才能創出型入試へ(2025.02.11)
- 2026中学入試準備(03)聖光学院工藤校長出版!「男子校中高6年間でやっておきたいこと」(2025.02.10)
「創造的対話」カテゴリの記事
- 2026中学入試準備(13)東京私立中高の理数教育の教科横断性 実に深い(2025.02.17)
- 2026中学入試準備(07)東京都 本来の人間とは何かをどうとらえるか議論が進み始めている(2025.02.12)
- 2025年中学入試動向(15)日大豊山女子 新タイプ入試60%占める ルーブリックも公開(2024.11.25)
- 2025年中学入試動向(13)和洋九段女子 生徒の才能が豊かになる生成AIの使い方勉強会はじまる(2024.11.24)
- 聖学院の教育宇宙(3)すべての教育活動をつなぐ存在としての授業があった <奇跡の男子校>(2024.11.23)
「創造的破壊」カテゴリの記事
- 本田由紀教授の短いメッセージにも日本の根本問題を暴く(2024.10.29)
- 日経ビジネス 禅と哲学 駒沢学園女子の教育がグローバルなわけ(2024.10.22)
- 2027年に向けて動く世界と私立中高一貫校(了)2050年以降の社会は、だれもが創造的才能者になる(2024.10.01)
- 2027年に向けて動く世界と私立中高一貫校(7)2050年以降の社会を創出する創造的才能者を生み出す教育(2024.10.01)
- 2027年に向けて動く世界と私立中高一貫校(6)いわゆる高偏差値学校の教育と筑駒湘白型教科教育(2024.10.01)
「入試市場」カテゴリの記事
- イエール大学と音楽国際交流(6)リハーサルのクライマックス(2024.06.04)
- 私学の教育を支える私学財団(2024.05.30)
- 私立学校の教育は経営システム基盤と経営コミュニケーションがレバレッジポイント 事務長の人間力が凄い(2023.10.06)
- 2023年夏の「私学経営研究会 教頭部会」 21世紀型教育と生成AIとリーガルマインド(2023.07.27)
- 東京私学教育研究所情報(05)私学経営研究会(理事長・校長部会)第1回委員会開催(2023.04.23)
「PBL」カテゴリの記事
- 2025年中学入試動向(35)富士見丘 学習指導要領をそのままグローバル教育化としてトランスフォーメーションに成功(2024.12.15)
- 八雲学園をカリフォルニアから考える(了)英語祭の意味 グローバルSTEAM探究教育(2024.12.14)
- 八雲学園をカリフォルニアから考える(5)UCサンタバーバラで学ぶ八雲生(2024.12.12)
- 工学院(2) 田中教頭インタビュー第2弾 オープンマインドの世界に通じる意味(2024.12.12)
- 聖書・宗教の授業・礼拝 聖ドミニコ学園・聖学院・桜美林・恵泉・湘南白百合・女子学院・普連土など 自己を見つめ世界の痛みに向き合い対話し言葉を紡ぐ(2024.11.26)
最近のコメント