PBLで世界は変わる(02)ノートルダム女学院の場合 生徒が<新しい学びの経験>を共有していく
★昨年、ノートルダム女学院中高(以降「ND」)は、教育のアップデートを開始しています。そして、今期のパンデミックで、一気呵成にオンライン授業をフルセット(オンディマンド×プラットフォームで課題配信×テレビ会議システム)で行い、それはさらに加速しました。
★ソサイエティ5.0やVUCAの時代と呼ばれて久しいですが、新型コロナウィルスは、それは遠い未来ではなく、いまここですでに起こっていることを世界同時的に示したのでした。
★それでも、動けた学校もあったし、動けない学校もありました。危機感を感じながらも、自粛が解除になってから、元に戻る反作用もあります。もちろん、さらにアップデートを果敢に行っていく人も学校もあります。ノートルダム女学院は、アップデートにチャレンジしていく学校です。
★ある日中1の3クラスの授業をいくつか拝見しました。すると、社会の森兼先生は、カースト制度について調べ、その問題点を見出し、解決策を考えて、プレゼンするPBL授業を行っていました。森兼先生は、中身の深さとか論の組み立て方とかは、中1だから完璧なものは求めません。調べ方や、編集の仕方、チームワークなど、これからの学びで大切な方法を、試行錯誤しながら悩みながら身につけていくことがこの時期大切ですと。
★そして、遠くの国の話と自分の身の回りとを比較して、同じ問題があることを知り、自分ごとであることも知って欲しいのですと。関心や好奇心は、他者や出来事への愛から生まれるのだと。森兼先生は、ケアフルでフィードバックでは鋭くかつ温かいメッセージを投げかけます。カトリック学校の真骨頂です。
★数学の北島先生は、中1では代数が担当です。方程式や関数(特に微積)や数論につながっていく式の計算の基礎の授業を展開していました。自分で考える姿勢、考える過程をていねいにたどる授業展開でした。北島先生は、リアリスティックなリフレクションをその都度、生徒自身、生徒同士、黒板でのプレゼンなどで行っていきます。
★計算は手順を暗記するのではなく、分解と合成という数学的思考の基礎が詰まっている。この基礎が次への応用や発展にもつながる。6年後、自分のやりたいこと研究したいことのためのモチベーションが高ければ、この数学的思考の基礎力は必ず役に立つと。長年多くの専門家が議論し、多様な目がはいって編集されている教科書は、その数学的思考の基礎を生徒とひもといていく体験をするのには適していると。根源的な基礎の意味を語ってくれました。
★星野先生の英語の授業は、調べたことを英語でキーノートやパワーポイントでまとめ、プレゼンしたり、1人ひとりの生徒の作品をギャラリーウォークをしながら、ピアエンパワーメント評価をしていました。タブレットを1人1台活用して学ぶ自然な姿に驚愕でした。もちろん、生徒の皆さんは、オールイングリッシュに挑んでいました。
★英語のノートルダムと言われているのは、なるほど納得でした。中1からこのようなシーンが、あの高2、高3のディーン先生をはじめとするネイティブスピーカーの先生方のスペシャルな授業に結びつくのだと感じ入りました。
★理科の村田先生の授業は、昆虫類やクモの生態について授業を展開していました。虫というのは、世界でその数が人間よりもはるかに多い生物で、生態系にとって欠かせないとか、ゴキブリを研究する大学の研究室の話とか、牧野先生の植物学の話など、多様なエピソードを瞬時に挟み込みながら、生徒の虫に対する恐怖心を好奇心に転換していく見事な博物学的なPBL授業です。
★実際に野に観察に行くことはできませんからと、タブレッドに資料を配信し、その映像をみながら、生徒に昆虫類やクモの違いがわかるように図式化する作業時間も設けていました。フロー状態(没入状態)はPBLの醍醐味です。村田先生は、観察して図式化するという学びは科学的思考の基礎をつくる入口なのですと。
★フィールドワークも大切ですが、いつもそれができるわけではないので、デジタル環境を効果的に活用していくことはやはり大事だとも。
★別の時間で数学の中村拓先生の授業を拝見して、驚愕だったのは、生徒が三角形の合同条件を自ら議論してチームで見つけていくというゲーム感覚のPBLを行っていたことです。ルールや法則、あるいは公理をはじめに教えてしまうのではなく、自ら発見していく体験を大切にしていますと。
★生徒は教科書にない4番目のルールを発見してもいました。2つのチームがそこに到っていました。教科書を突き抜ける授業。
★しかしながら、なぜ合同条件は3つなのだろうと、中村拓先生は問いを投げかけます。生徒たちは思考をフル回転させていました。中村拓先生は、いろいろ発見していくプロセスを体験する。そして、一見違う物でも見方を変えれば同じだと気づいたりする。そんな置換操作をするのも数学的思考の基礎です。基礎とは易しい問題をやることを意味するのではないと。代数と幾何の授業という違いはありますが、北島先生と中村拓先生のND数学科の共通点は、数学的思考の基礎を大事にすることなのだと了解できました。
★ND教育開発センター長の霜田先生は、PBLをやろうというのは、共有していますが、何か一つのマニュアルをみんなでやるというのではなく、本間さんもいっている5つの基本要素(前回紹介しました)の組み合わせは共通していますが、アプローチは様々でいいんですと。観察をベースにしていたり、社会課題をベースにしていたり、数学的思考や科学的思考をベースにしていたり、ピアプレビューをベースにしていたり。
★大事なことは、それぞれの教師のPBLを生徒はみな体験するということなのです。本間さんが見学してくれた中1の先生方がそれぞれのPBLを実施することによって、生徒は小学校では体験してこなかったPBL体験をしているわけです。
★1人の先生だけがPBLをするのではなく、多くの教師がチャレンジすることによって、生徒は<新しい学びの経験>をドーンと受け止めます。PBLは、学力や非認知的な面をサポートしますが、人間存在の価値の気づきが生まれてくる場でもあります。しかし、それは自ら気づかなければ自分の血肉にはなりません。しかも、生徒によって嗜好性が違いますから、いろいろなアプローチのPBLが行われることの方が相乗効果は生まれやすいのですと。
★そう語る霜田先生の高2の授業を覗くと、生徒たちはその見出した価値をGoogleサイトでホームページを作成して発信する編集活動を行っていました。アメリカの学校だと、最終的に本として出版して、果たして市場価値を得られるかという教育まであるわけです。まさにPBLの醍醐味です。
★しかし、お金がかかりますね。クラウドファンディングもいいのですが、その前に、今ではホームページは簡単にできますから、そこをうまく使ってみようかなと思ったのです。パンデミックでオンライン授業を実施しながら、新しいアプローチも発見できましたと。
★自らサイトを立ち上げる時に、SNS上の様々な問題にも気づきます。フェイクニュースが表現の自由問題でなかなか解決できないというリーガルマインドも学びます。18歳成年はもう直です。自分の良心や正義の重要性とそれだけでは解決できない紛争もあるということに気づくわけです。倫理と法のせめぎ合い。霜田先生は哲学の先生でもありました。
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