水都国際教頭太田晃介先生に聞く(1)現実的で未来性のある組織開発
★大阪市立水都国際中学校・高等学校(以降「水都国際」)が、国家戦略特区制度を活用した全国初の公設民営の中高一貫教育校で、高い人気と評判を得ていることは説明するまでもないでしょう。中学は、今後も5倍前後の高い倍率を維持するでしょうし、高校も自治体の公正な配分に沿ってレベルがあがるでしょう。
(水都国際の中学説明会の様子などがわかる動画が公開されています。)
★この高い評判が生まれた理由を知りたくて、同校高等学校の教頭太田晃介先生にZoomインタビューをしました。太田先生とは、7年前に東京で出遭いました。先生の前職の学校のPBL授業授業デザインのプロジェクトをごいっしょさせていただいたのです。
★学内外の研修でファシリテーターも共にしたり、ルーブリックのルーブリック(メタルーブリック)である思考コードの活用について東大の入試問題を分析しながら議論したりした思い出がいっぱいあります。特に、国立大学入試問題研究やPBL授業トレーニング研修を「思考コード」を前面に出して先生方と行ったときの太田先生のファシリテーターとしての活躍ぶりは今でも鮮明に記憶に残っています。
★そのときの様子をたまたま覗いたミネルバ大学の当時のアドミッション・オフィサーの山本さんが、日本の学校もやるではないですか新鮮です!最後まで見学していいいですかとなったのは印象的でした。太田先生は、私たちのやっていることは世界標準だと改めて感じましたと、山本さんを見学者としてではなく、ゲストとして巻き込んでやっていった臨機応変な姿も目に焼き付いています。
★そして、そんな太田先生のファシリテーターとしてのリーダーシップが、水都国際の組織開発方法論に活かされているというのが、了解できたのが今回のインタビューの結論です。
★太田先生は学内外でファシリテーターをやっていますから、内外のネットワークをつなげて相乗効果を出すのが巧みです。また、たとえば山本さんをいつの間にかゲストとしてしまうように、巻き込む力と瞬発力があります。
★そもそもPBLの研修は生徒であれ教師であれ、参加者の様子や状況、行われている空間に応じて、あらかじめ予定していたプログラムの内容やプロセス、道具を変えていく必要があります。構想力とブリコラージュ的な創発力が大事ですが、それによって、PBLもチームのグロースマインドセットは大きな影響をうけます。チーム作りは学校組織のマネジメントと親和性があると実感できたのも今回のインタビューの成果です。
★水都国際の組織図、いわゆる校務分掌は、実にシンプルだそうです。大きなカテゴリーは3つしかありません。教務とwell-beingとPRということです。これらは、コミッティという表現がされ、それぞれのカテゴリーにサブ・コミッティがあるというのです。年間通じての組織を形成する部署ですから、プロジェクトではありません。かといってデパートメントという言葉もぴったりこないそうです。
★というのも、水都国際にはIBのディプロマコースがありますから、外国人教師も多く、かれらにとって、ディパートメントという表現は、上下の位置づけがはっきりしているイメージで、フラットな感じがしないからということのようです。
★自由闊達に対話し、何かあったらすぐに動ける組織にするには、ある程度自由度のあるフラットな感覚が必要だと太田先生は語ります。世界標準の教務力だけではなく、世界標準の組織開発力まで身につけた太田先生がそこにはいました。
★太田先生はめったなことでは愚痴はこぼしません。何か思っているなあと感じることはありますが、すぐにニカーッと白い歯を見せて、乗り越えるフェーズを考案し前進します。
★それゆえ、外から見ていると、公設民営という複雑な力学が働く組織をゆっくりじっくりいつの間にか急激なチーム力を生み出して進んでいるのわけです。
★自治体と民間企業が協力して学校を運営するなんて想像しただけでたいへんだと思うのですが、太田先生の場合は、自治体に対する私が想像するような階層構造をイメージしていません。それはファンクションとして逆に必要だと。権威の権力構造ではなく、機能としての階層構造だというのです。
★そこは、さすがに生物の教師です。生物の組織だって階層構造ができあがっていますが、サイバネティックスやオートポイエーシス、自己組織化などの自発的秩序化としての機能を果たしています。
★世界を共創の渦に巻き込むグローバル市民を育成するのが太田先生の本意ですし、そこは自治体と運営会社とは共有しています。ならば、自治体も運営会社も世界標準の価値観を共有すれば、おのずとそういう機能的な自己組織化された組織になるはずという信念があるようです。建築学で特に応用されている認知心理学のアフォーダンス手法を巧みに活用していますね。
★それにしても、PRというのは、アドミッションポリシーとディプロマポリシーの両方を行うコミッティなんだというのはおもしろいですね。広報部と進路指導部は、一般的には別々の校務分掌のツリー構造になりますが、パブリックリレーションとして機能は同じだとみなしているのでしょう。新しい組織に入会するスキルを生徒が身につけるには、内外のネットワークをつなげる力と交渉するコミュニケーションスキル(ハーバード大学流儀の交渉は、取引ではありません。夢を共に創っていくコミュニケーション力です。慶応の田村教授のウケウリですが。)が大切です。中学入試や高校入試でその潜在的能力を測り、その能力を最大化して大学というネットワークをリサーチし交渉しながらシフトしていく生徒たち。
★太田先生は、大学合格することだけが目的ではありませんが、生徒のライフデザインのプロセスにそれが必要なら、それを実現する環境を創るのは学校のミッションでもありますから、一期生がどんな実績をだすかまでは、そこはあまり多くを語らないことにしますと。でも、期待していて下さい。今でもすでに20%は海外大学に行ける実力をもっていますからと。
★これについては、前職の学校で改革に携わっていた時の生徒たちが海外大学にたくさん羽ばたいていったデータと感触を太田先生は既に持っていますから、そう言えるのでしょう。
★それに、水都国際の開設準備の時代に、教師はみな英語を話せるという方針をたてるべく、自らも英語の勉強をしてきました。生徒の英語の実力が開校2年目にして急激に伸びている実感を肌身で感じているのでしょう。
★かくして、太田先生の組織開発手法の一つの柱である、機能的な組織図は、自発的に秩序化する有機体モデルを活用し、しっかり根付かせているということが了解できました。そして、もう一つは、組織は機能だけでは動きません。人材開発のよしあしで、活性化もし老化現象も起こします。次はこの点に関して紹介したいと思います。(つづく)
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