思考コードがつくる社会(13)ポストコロナの社会を変えるリーダーが生まれる場が絞れた①
★2021年のダボス会議のテーマは「ザ・グレート・リセット」。座長であるクラウス・シュワブ博士は、フランス出身の個人投資家ティエリ・マルレ氏と、書籍という形でブローシャ―を先駆けて出版しています。それによると、こうあります。
「今回のパンデミックによって人は皆、哲学的議論に引きずりこまれた。市民も政策決定者も、好むと好まざるにかかわらず、ダメージをできるだけ抑えつつ公共の利益を最大 化する方法をめぐって深く考えさせられた。何よりも、これを機に公益の本当の意味をじっくり見つめるようになった。公益とは、社会全体のためになることを指すが、社会 にとって何がベストかをどのように決めたらいいのだろうか?何がなんでも失業の増加を食い止めるために、GDPの成長と経済活動を維持することが公益なのか?社会的弱者に手厚くし、お互いのために犠牲を引き受けることなのか? それとも公益はその二つの中間にあるというなら、どのようなトレードオフが存在するのか?リバタリアン( 個人の自由を最優先する自由至上主義者)や功利主義者(最大多数の最大幸福を求める人々)のような哲学者は、公益は追求する価値のある大義だという意見に異論をはさむ だろうが、道徳論的な対立は解決できるのだろうか? パンデミックによってこうした人々の議論が沸騰し、対立する陣営の間で熱のこもった議論が交わされた。「冷徹」で 合理的だとされる意思決定は、その多くが経済、政治、社会のみを考慮したものだ。しかし実際には、人としての在り方を教えてくれる思想をひたむきに求める道徳哲学の深い影響を受けている。もっと言え ば、パンデミックへの最善の対応を目指した判断はすべて、倫理的選択だと捉え直すこともできるだろう。 」
(クラウス・シュワブ; ティエリ・マルレ. グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界 (Kindle の位置No.3085-3091). 日経ナショナル ジオグラフィック社. Kindle 版.)
★リバタリアン的な経済がつくってきた格差社会を覆すような哲学議論をみんなが考えるようになったのが、今回のパンデミックの衝撃なのだと。グレート・リセットが起こるのだと。そこには「哲学」が生まれたのだと。
★大事なことは、格差社会を、今までのように公正資本主義などの経済的な制度によって解消しようというのではないということです。そのような制度改革はもちろん大切です。しかし、パンデミックは、もっと大事なことに気づかせた。そのような制度改革を突き動かす背景に、「人としての在り方を教えてくれる思想をひたむきに求める道徳哲学の深い影響」があることをというわけです。
★だからといって、「道徳」が大事だと飛びつかないでください。あくまで、法と経済の制度設計と良心の総合的な判断力を、シュワブ博士は念頭に置いています。日本の教育哲学者は、この法と経済の制度設計の部分を射程に入れていないので、パターナリズムをクリティカルシンキング出来ずに、べき論を排したべき論を振りかざします。自由の制限を柔らかいパターナリズムによってあたかも相互自由の承認みたいなものがすばらしいというようなすり替えを行ってしまいます。
★これが教育を改革しないサイレントキラーを増やします。とても世界のグレートリセットの動きについていけないでしょう。しかし、そこを嘆いても仕方がないのです。日本の教育の90%は、そういう相互承認の自由みたいなべき論によってがんじがらめです。そこに、そうでないと言っても響きません。
★私の友人の1人は、その90%に向かってそうではないとクリティカルシンキングを繰り返し、打ちひしがられ、心を弱くし、心身共に疲れています。この90%を何とかするには、別の方法を考えなくてはなりません。
★実は、これがグレート・リセットの本意です。
★90%は、救われたいと思っているのですが、変わるのも嫌だと思ってもいるのです。このアンビバレンツな人間像は、実は近大が誕生するや生まれ、ますます広がる格差を生み出す近代社会に寄り添ってきた資本主義によって持続可能にされてきました。産業革命以前は、戦に負ければ奴隷になる、生きるべきか奴隷になるべきか、それとも死かそれが問題だだったのですから、それに比べれば大きな進歩です。
★しかし、2011年から広がる格差は、純金融資産保有額5000万以上の富裕層の数も増やしてきました。格差が広がるということは、富裕層も増えるということです。純金融資産保有額とは、ざっくり言えば、すぐに現金として使える経済力を示唆しています。日本全体の9%が富裕層だそうです。3000万以上5000万未満の準富裕層をいれると23%になります。
★ダボス会議に参加する世界の政財界人、起業家、慈善事業家は、この層までです。
★自分たちがこのような格差社会を造っておいて、今度は道徳哲学を持ち出すなんてと驚きませんか?77%%は驚かないのです。そんなもんだなんです。しかし、このままいくと、世界はしぼんでしまいます。目の前でその光景が広がっているわけです。これが今回のパンデミックの凄いところですね。
★90%の中の10%ぐらいの部分の人びとは、もしかしたら変わらなければならないのかもと思い始めたわけです。
★だから、私の友人は、その富裕層の9%を含む準富裕層以上の23%にグレート・リセットの火をつける仕事をしたほうがよいのです。これによって、救われたいけど動けないと思っている人々が、動ける制度設計に変えることができます。
★富裕層・準富裕層は、経済はある程度循環しなくてはならないことは理解しています。今回のパンデミックで、出入りの循環がストップしました。この状況によって、自分たちが造ってきた制度設計が間違っていたことに気づくわけです。あまりにリバタリアンで損得勘定旺盛な功利主義で動いてきたために、というよりも、その価値観がうまくいくような制度設計にしてきたために、パンデミックのように、あらゆる階層や壁を乗り越えて襲い掛かるリスクを回避することはできなかったのだと。
★そこでグレートリセットだというのです。シュワブ博士は、「幸せの王子」や「サロメ」で有名なオスカー・ワイルドの次の言葉を引用します。「あらゆるものの値段を知っているくせに、いかなるものの価値も知らない人間のことである」(クラウス・シュワブ; ティエリ・マルレ. グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界 (Kindle の位置No.3174-3176). 日経ナショナル ジオグラフィック社. Kindle 版.)。
★リバタリアンや損得勘定旺盛な功利主義者である準富裕層の人びとのことを示唆しています。もちろん、シュワブ博士自身、その仲間です。しかし、そこから抜けなければどうしようもないことを知り、21世紀にはいるや、制度設計を変更しようと警鐘をならしてきたのです。しかし、リーマンショックにも耐えて、強欲資本主義は洋々たるものでした。ところが、今回のパンデミックで、パタッと循環が止まったのです。
★シュワブ博士はこのタイミングを見のがさなったわけです。
★制度が壊れたのだから、新しくしようと。公益のためにだが、準富裕層の持続可能のために。情けは人のためならず戦略で行こうと。タイミングとしては、産業革命以降、これまでの経済社会を支えてきた機械産業からAi産業への飛躍の時代でもあるから、すでに痛みを強いられてしまったのだから、思い切りAi社会に切り替えようと。するとベーシックインカムのような制度設計に変わり、今回のようなパンデミックが発生しても、経済循環は止まらないと。
★そして、それには、産業革命時代に技術革新を生んだ発明家、つまりクリエイティブな人材が活躍したように、AI時代にふさわしいクリエイティブ人材の集団、クリエイティブクラスが必要なのだと。ここは、テクノクラートのような論理明晰な人材だけではなく、創造的思考に満ち溢れた人材が必要だと。
★では、そういう人材が育つ場所はどこなのか?これが思考コードでいうB3思考とC軸思考を学べる教育を実施しているところなのだということになるわけです。そして、それと共に、救われたいけれど、変わりたくないというアンビバレンツな近代的自我もグレート・リセットされることになります。
★変わりたいけれど、産業革命以来の延長上の変容ぐらいでは満足がいかない。現状を救うけれど、準富裕層の利益を守るだけでは嫌だと。クリエイティブ・クラスは、実はダボス会議にとって両刃の剣ということになります。
★思考コードでB3を重視する教育は、グレート・リセットと称して、準富裕層以上のファーストクラスの人生を幸せにするでしょう。しかし、C軸思考を重視する教育は、その準富裕層とマスの間にある境界線も突破してしまいます。それは道徳哲学でではなく、法と経済の制度設計と倫理とテクノロジーというトータルな<哲学>によってです。ファーストクラスからクリエイティブクラスへ。ダボス会議とは違うもう一つのザ・グレート・リセットの誕生です。(つづく)
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