水都国際教頭太田晃介先生に聞く(2)「人材採用―人材育成―well-being」と「内なる思考コード」
★今回のパンデミックのような予測不能な事態に直面する昨今、組織は、報連相が循環する機能的な階層構造であり、メンバーが生き生きと価値を見出し共有する機動性を生み出す機能的(ファンクションですから相互関係や関数関係、シナジー効果作用などと置き換えられます)働きが求められています。
★従来の組織は、格付(等級)、配置・異動、評価、報酬といった外発的なモチベーションで組織活性化を図ろうとしてきました。しかし、そういう功利主義的な考え方はどうも通用しなくなってきたというのが、世界標準の雰囲気です。来春のダボス会議でも「ザ・グレート・リセット」というテーマで多種多様なサブテーマの分科会がありますが、この新しい組織開発も話題になるでしょう。
★しかも、学校は利潤を生み出す組織ではありません。学費と自治体からの助成金で成り立ちます。ゼロサムなわけで、毎朝今日の売り上げがんばろうという朝礼はありません。ですから、今も昔も勢いのある学校組織は内発的モティベーションで燃えています。well-beingにつながる生徒や教師一人一人にとってかけがえのない価値が生まれてくる組織創りが最終目的なのだと太田先生は語ります。
★ですから、人材採用のとき、応募してきた先生方に「自由にどれらけ耐えられますか?」という問いを投げかけるそうです。これは、どういうことかというと、無秩序に耐えられるかということではなく、民主主義社会における社会通念や習慣、法律など大人が遵守しなければならいものと同じルール以外は生徒に課していないという自由のことです。
★学校は、特殊な校則がいっぱいあってマスメディアのスクープの対象の1つになるぐらいですが、そういう校則がないのです。灘や麻布みたいな学校ですが、「~すべきではない」という道具が使えないけれど、それにストレスを感じない教師を採用したいというのです。
★むしろ、「みんなで何かしたいことをいっしょにする自由」を喜んでやれる資質のある教師を採用しているようです。もちろん、みんなでしたいことで、自分のしたいことではないのです。ここはちょっと理解が難しそうです。自分のしてもらいたいことを生徒にもするという自分のしたいことを自由に楽しめるということのようです。深いですね。
★エっ!これってNY国連のギャラリーにあるノーマン・ロックウェルのモザイク画に刻まれている「黄金律」ではありませんかと気づく方もいるかもしれません。人類共通の最高のルールで、このルールに従うのではなく全うすることが最高のwell-beingなのだという信念です。国連自ら言っているように、あらゆる民族、人種、宗教などに共通する精神であり、一部のグループのルールではないと。
★宗教性や異文化の特徴を超えた国際的なリーガルマインドを水都国際はちゃんと意識しているということですね。まさに水都国際の名にふさわしい、面目躍如の人間観です。IBのディプロマを認定されているので、当然と言えば当然ですが、これを組織開発に一貫させているところは驚きです。
★そして、そのように入ってきた先生方は、経験豊富で、たとえばアジアやアフリカで教育に携わり、とかく日本の功罪をあげつらわれがちですが、現地では日本人の精神や行いに感謝している人はたくさんにるのだから、世界的視野を日本の子どもたちがもっと広げればよいのだと、情熱と意欲を持っている教師もたくさんいるそうです。すてきですね。
★太田先生も、それは生徒だけではなく教師も同じで、生徒と共に世界的視野を広める刺激をし合える組織でありたいし、そうすることではじめて社会で共創できる人間力が生まれてくる。そういう組織にしたいと。そういえば、太田先生自身、闊達に世界を経めぐり、リサーチをしたり、セミナーに参加したり、やがては自らが多くのセミナーのファシリテーターとしてセッションを行ったりしています。
★そして、今水都国際で最終的にはwell-beingを共創できるところまでもっていきたいと。功利主義的な競争の自由は一握りの幸せを生んできたし、それとて本当の幸せだったかどうかわからないのであって、やはり一人一人の才能を生かし大切な価値を共創する幸せを生み出すのだと。それは生徒だけではなく教師の未来もそうなのだと。
★デストピアが渦巻く世の中で水都国際はユートピアの拠点になるかもしれないと感じながら聞き入っていました。
★そして、そのように確保した人材が生き生きと機動力を発揮する仕掛けは何かと問うたところ、すべてはコミッティというチームで活動するのだけれど、やはり活動の仕方はプロジェクト型で、それは授業もPBLなので、親和性のあるあるいは一貫性のある思考と行動をするようになっているからですと。
★PBLでは、ルーブリックが必要ですが、それはメタルーブリックである思考コードのレンズを通せば、先生方のファシリテーターの仕方の視野がどれくらいなのかが見えます。フィードバックする時は、コンテンツや方法というより、どこまでいくのか、そこで終わってしまっていいのかなどを問い返します。基本的には生徒にも教師にも問いを投げかける役なのですが、それは場当たり的な問いの投げかけでは、先生方も生徒もいつも対処療法で終わり、未来のビジョンにうながる日々の活動ができません。
★価値を生み出すには、太田先生は、コラボレーションが大事ですと。そして一貫性。そうなっているかどうかをモニタリングするレンズは「内なる思考コード」だということです。「内なる思考コード」は、東京時代に前職の学校で同僚と創ってきた経験と他の学校や企業とも連携してきた経験があるので、いずれ可視化して共有したいのだとも。
★太田先生は、教務の中だけではなく、組織全体で「内なる思考コード」を発動させるようになっていたのです。もちろん、このシンプルな思考コードには、認知心理学、MITメディアラボの学習理論、ハーバード大学の自己変容理論など多くの知の粋が凝結したものです。評価とかに特化しては使える人も多いですが、領域横断的に活用するには、太田先生のように、広く深い見識が必要です。
★そんな組織のフォームと相互作用で価値を生み出す人材がいる有機体的な環境の中で、生徒が自由闊達にそれでいて共創する学びが広がっています。それについて次回少し触れましょう。(つづき)
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