工学院インパクト(04)高橋一也先生の「自己変容」研修
★ポストコロナ。この事態は私たちすべてにとって未知なる経験です。この思いがけない出来事を、人生の妨げとするのではなく、むしろ、弾みと見なして、いまここで明日への新しい自分に自己変容していこう。これがコロナ禍のオンライン学習を乗り越えた工学院の学内雰囲気です。
★とはいえ、ビジョンだけでは実現できません。そこで、この自己変容の最新の発達心理学の成果であるローバート・キーガン教授(ハーバード大学)の成人の成長のための「免疫マップ」を高橋一也先生は活用して研修をすることにしました。
★もともと、工学院の先生方はPBLを共有し浸透させています。したがって、構成主義的な発達理論を構築しているローバート・キーガン教授の考え方とは親和性があります。同校のPBLのルーツは、デューイやピアジェ、MITメディアラボのシーモア・パパート、同じくMITのピーター・センゲなどです。構成主義の流れを汲んでいる理論ですね。
★キーガン教授も、彼らの理論も射程に入れていますが、フロイトの流れを汲む精神分析理論やマズロー、ロジャーズなどの実存主義的な心理学も統合しています。そういう意味では、学習理論や心理学の広い領域をカバーでき、多くの先生方それぞれの理論に接続できると高橋一也先生は考えたのでしょう。
★それに、一也先生自身、直接キーガン教授のワークショップに参加して学んでいるということもあるでしょう。
★ハーバード・ビジネス・レビュー(2014.06.04)「人は変革を望みながら、無意識に変革を拒んでいる~ハーバード大学教育大学院のロバート・キーガン教授に聞く」という記事の中で、キーガン教授はこう語っています。
「日頃、私たちは「自分はこう考える」「私はこうしたい」ということを言ったり感じたりしています。これは自分が意識していることだと考えられます。しかし、実際には自分自身が感じていない、認知できない思考や感覚というものが隠されています。そして私たちの行動の一部には、こうした認知できない思考や感覚に支配されている面があるのです。それだけでなく、自分自身が意識して取っている行動の裏にも、無意識の思考や感覚が隠されていることも往々にしてあります。この認知していない部分を知ることこそが、人間の成長なのです。」
★そして、この無意識の思考や感覚を可視化するツールが「免疫マップ」です。
★超自我とエゴとエゴのジレンマ、それを無意識で支えている固定観念という岩盤を、上記のようなシートに書き込み、それについて高橋一也先生のようなメンターあるいはコーチと一対一で対話していくことによって、ブラッシュアップしていきます。正当で信頼できる妥当な「免疫マップ」ができたとき、人は自己変容しているのです。
★ただ、この無意識の領域は極めて繊細で、あたかも暗闇の洞窟の奥に深く潜入していくかのようなので、1人で行くのは危険です。
★もし一人で行くと、自分も知らない仲間も知らない領域に足を踏み入れてしまう可能性もあります。誰も知らない無意識の領域はフロイトは認めていません。基本は意識が無意識化し、それが意識しないで躍動するサーキュレーションです。それゆえ、創造的であり狂気をうむわけですが、原因は突き止められます。
★ところが、私もあなたも知らない暗黒の世界は、オカルト的な世界で、解決がつきません。憑依や自己崩壊が起こる可能性があります。そして、現代社会はこの領域がかなり拡大しています。先生方が自己変容しなくてはならない本当の理由は、この時代の波に生徒が飲み込まれないようにするためでもあります。
★それはともかく、一也先生はレゴなどでチームでワークショップを行い、そのオカルト領域に引きずり込まれるのを防いでいます。
★自己変容とは、仲間といっしょに相互に助け合いながら進むことが肝です。PBLという授業も、生徒の個人化が進んでいる昨今、自己肯定感が低いどころか、そこを突き破ってオカルト領域に滑り落ちるのを防ぐ役割も果たしているのです。
★自己変容はきとんとケアしなければ、つまり共感的コミュニケーションの状況を基盤にしていなければ、自己破壊で終わる場合があります。また、ケアがない場合、自己変容は恐ろしくて、飛べない現状にとどまる状態になります。しかし、それは激動の変化の時代に飲み込まれてしまいます。
★留まることも先に進むもリスクはあります。しかし、そのリスクを回避するケアマネジメントとして共感的コミュニケーションを生みだす必要があります。
★工学院は、そこができているので、高橋一也先生も「免疫マップ」を活用しながら対話を開始したのでしょう。工学院のように、自己変容の道をケアマネジメントしながら進んでいく学校は少ないですが、この道を歩まなければ、時代の波に打ち砕かれてしまうでしょう。
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