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2020年8月24日 (月)

中高生の活躍(04)文化学大学杉並DDコースの生徒と和洋九段女子の生徒のシステム思考×デザイン思考

★聖学院の三浦さんのプレゼンのあと、文化学園大学杉並DDコースのチームが発表し、それに和洋九段女子の2つのチームが続きました。三浦さんもそうですが、各学校のPBLの学びが反映していて、学校教育の必要性が裏付けられているなあとしみじみ感じました。

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★聖学院のPBLは、タイ研修や海外起業家研修MoG、キャリア甲子園、パラリンピック支援活動など多くの実際的なプロジェクトがベースです。これらの研修は外部のネットワークと結びつくもので、彼らファシリテーターは、U理論とEQ、そして心理学系の見識を社会実装しています。そんな中で、タイ研修のスーパーファシリテーターは、同校の教頭伊藤豊先生です。おそらくもっともハードで、心揺さぶられ、あらゆる学術的理論の無力さを思い知り、そこからどうやって立ち上がるか、自己の狭い視野をぶち壊していくかという米国のWASPというプロテスタンティズム階層構造をぶっ壊すディサイプルズ派の面目躍如というマインドが底流にあります。

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★キング・オブ・ファシリテーターといっても過言ではない伊藤先生。お会いすると、その控えめだけれど互いの存在の重さをシェアできるオーラがあります。三浦さんが共感するはずです。伊藤先生のような存在が学内にあって、外部とつながるので、バックヤードでは、その意味をしっかり話し合っています。そういう分厚い、外からでは見えないマインドの広がりが豊かなわけです。これなくして、外部とつながると、たんなる観光旅行になってしまいますね。

★文化学園大学杉並のDDコースもすさまじい授業が展開しています。もちろんPBLなのですが、カナダのブリティッシュコロンビア大学の学問的な連携がなされているプログラムです。カナダのブリティッシュコロンビア州では、それがあたり前で、すべての公立学校がその恩恵に浴しています。

★DDコースの先生は、すべてBC州が認定した教師が派遣されています。ネイティブスピーカーの教師ですが、BC州公認というところが他を圧倒するクオリティの高さです。ですから常に大学で学びながら授業も行うので、研究者であり高校の教師でもあるわけです。学問の最前線の成果をダイレクトにDDコースにつなげているわけです。

★だから、スタンフォードやブリティッシュコロンビアやトロント大学で活用されるデザイン思考も当然取り扱われています。またカナダの教育はグローバル市民育成をベースにしていますから、地球環境問題は当然射程に入っています。デザイン思考ですから、3Rからアップサイクルへという新しい環境問題を解消する活動も採用します。

★基本は、モダンアートの古典的戦略のレディメードです。ですから、文杉のPBLはアート思考満載です。あまりアートとデザインの区別はしていないところが柔軟です。日本だとアートとデザインはどう違うのかから入ってしまいます。コンセプトの名称と商標の区別がついていないところがあります。それはアート思考もデザイン思考もパッケージとして輸入している日本の教育産業界の悲しい定めですね。最初から自分たちで生み出していないので、そこから出発すると誤謬確信に導かれていくというピーター・センゲのシステム思考の指摘はその通りです。

★そうそう、文杉の生徒が提案するハピネスサイクルはシステム思考そのものです。それぞれの格子をステップに分けていて、それぞれの格子の幸せ感の違いがプレゼンされていました。シンプルなサイクル図なのですが、実際にはそれぞれの格子からループする輪がたくさんついている複雑系になっています。しかし、それをあえて描かず、シンプルなサイクル図とフローチャートに分けてデザインし、あとは聴き手にイメージしてもらおうという戦略でした。

★フランスのマカロン大統領のダブルメッセージである「プランネットBはない」というプラカードでプレゼンを終わったのも心憎いですね。これは日本の教育でもやる掛詞の戦略です。古典や詩で学ぶ表現技法を、こういうところに反映させる遊び=学びが日本にはまだまだないのが残念です。教科の知識を軽視し、知識なき探究をやろうとしていますから、そういうことになります。両方を遊びというゲームでつないでしまえばよいのに。

★身近な体験から気づきに気づき、探究を深めていくことが好きな割には、身近な教科学習を探究につなげないというシステム思考のなさが現状のようです。そんな矛盾から思い切って飛び出しているのが文化学園大学杉並のチームのプレゼンでした。

★つづく和洋九段女子の2つのチームのプレゼンもすばらしかったですね。徹底的に体験の中でリサーチをするのだけれど、そのリサーチはインタビューという対話によるものも多いのです。もちろん文献リサーチもたくさんしているし、データも活用しています。しかしながら、基本対話の中から仮説を立てて、それを体験の中でリフレクションしつつ軌道修正したり検証したりしていくスタイルです。

★仮説のきっかけをマズローの5段階欲求説に依拠していましたが、最終的にはそこから離れていきます。学術理論を超える新しい発想を生み出す息吹が溢れていました。

★同校のPBLのデザインのリーダーの一人である新井教頭は、シリコンバレーで注目されているマインドフルネスも学び、実はマズローの5段階欲求説を超える幻の6段階目の目を持っています。また新井先生の仲間である水野先生や本多先生は、文化人類学的な発想の社会理論をベースにPBL授業をデザインしています。通時的・共時的な視座で社会を多角的に分析する目を生徒と一緒に学んでいるのが日常です。

★それから、数学科の石原先生は、社会を分析する時に、データをどう創るのか、社会現象や社会の中で人々がどう反応するか心理的反応を関数関係に変換するアイデアを大事にしています。

★そういう和洋九段女子の日ごろのPBLのプラクティスでよく学んでいるなあというのが手に取るようにわかったのが今回のプレゼンでした。私はたまたま3校の先生方の取り組みを知っていたので、見える部分も多かったと思います。問題は、日本の教育産業界は、平気でビジネスマン養成目線(勝ち組負け組という欲望の資本主義目線)で生徒を見るので、本質がみえませんね。

★そういう矛盾の嵐の中で、見えない部分をどのように表現しようかとチャレンジしている3校の中高生の皆さんの姿にこそ、世界を変える突破口が広がるのだと確信しました。

★それにしても、三校とも、思考コードやルーブリックが日常化しています。PBLをやるのに、そういうメタ基準があるのは当然なのですが、実はないところもまだまだいっぱいあります。また、ICTを普段使いもしています。文杉のDDコースのリヨ校長先生は、ICTのないPBLは考えられないということです。それが、カナダではニューノーマルではなく、すでにノーマルなわけです。

★そういう意味で、文杉の生徒さんのプレゼンは、世界標準ですから、3校とも甲乙つけがたいプレゼンをしているということは、それだけでもすごいことですね。みな世界標準だということです。

★来春ダボス会議で、資本主義から才能主義へというテーマで、国際会議が開催されますが、21世紀型教育機構はそれを先駆けてやっています。最近あの落合陽一さんも、21世紀型教育機構の規約の前文で掲げている「クリエイティブクラス」へのシフトを提唱していますね。

★今回の生徒のみなさんはクリエイティブクラスへの道を着実に歩んでいます。ワクワクしながら、緊張しながら、情熱をメラメラ燃やしながら、世の痛みを引き受けながら。

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