ノートルダム女学院のハイブリッドPBL授業(01)PBLの再定義
★ノートルダム女学院中高(以降「ND」と表記)は、数年前から21世紀型スキルをベースにPBL授業を試みてきました。その進化/深化の広がりやスピードはコースによって、学年によって違っていたのですが、昨年の夏以降、全学年全クラスで取り組んでいこうという話になり、私もサポーターとして先生方といっしょに授業リサーチをしてきました。
★同校の先生方の実践しているPBLと私の実践してきたPBLは、共通するところもあるし違いもあります。共感しながら差異を気づきとするかどうかは、あくまで先生方の問題です。対話によって、お互いにPBLの大切さに改めて気づいていく瞬間が実に快く、私自身もアップデートしていきました。感謝の連続です。
(理科の村田先生の中1の理科の授業をリサーチしたのち、Zoomでリフレクション対話をしました)
★そんな時、今回のパンデミックでした。休校期間中は、当然ながら、リアルに授業リサーチに訪れることができません。オンライン授業にシフトしていましたから。そこで、しばらくは、ND教育開発センター長の霜田先生及び有志の先生方とオンライン上で、オンラインPBL及び学校再開に向けてハイブリッドPBL授業の模索をしてきました。
★この模索は、NDにととまらず、複数の私学の先生方とも行うことができましたし、今も続いています。オンライン上の知の茶室と称して継続しています。
★そして、いよいよ分散登校が始まり段階的に学校完全再開になってきました。しかし、COVID-19の感染者数は、第2波が来たかと思うほど拡大し始めてもいます。やはり、ノー3密のリアル空間では、以前のディスカッションやペアワークをベースにしたPBLは難しいということも実感しています。
★講堂や多目的ホールのような広いところで、マナボードを活用しながら以前から行っていたリアルPBL型授業は可能です。ただ、全学年全クラスが同時間に行うことができないのは言うまでもないでしょう。
★コンパクトに教室の中で行うしかないわけです。したがって、PBLの再定義をして、ハイブリッドPBL型授業を新たに創る授業リサーチを始めたのです。従来は多様なアクティビティタイプから取捨選択して、各授業の生徒の成長のゴールイメージ、つまり全人教育的な包括的なゴールイメージを実現するPBL授業をデザインしていくリサーチプロジェクトでした。
★どちらかというとアクティビティの再定義でした。たとえば、アクティブラーニングとかPBLは、「講義」はしないという極端な先入観があり、そのために自分はそのような授業はできないという壁が出来てしまう場合が、一般的に問題になっていました。
★しかし、講義の質をブルームのタキソノミーに対照して考えていくことによって、アクティビティとしての「講義」もあると再定義を共有していったりしました。講義といても、一方通行の講義は、そもそもなく、先生が問いを投げ生徒が考えながら、進んでいく講義がほとんどでした。問答法型ですね。
★先生方と、なぜ問答法型か?と対話していくと、思考力をトレーニングするには当然そうだろうと。そうでうよね。そこが根本ですよね。ただ、問答法のデメリットは?と。ラウンドテーブルで12人ぐらいで行うソクラテスメソッドのようにはいかないし、ミネルバ大学のアクティブラーニングフォーラムのようにはやはりいかない。人数の問題だということになります。単純に多いから少ないからというのではないのです。問答法は特定の限られた生徒になりがちで、他の生徒が同様に思考しているかどうかは実は不安が残るわけです。
★そんな対話をしていくと、すぐに問答法講義にペアワークが盛り込まれ、あるときはディスカッションが盛り込まれていくわけです。こうしてPBLのフォームはシェアされていきます。
★ですが、ディスカッションをやっても、調べ学習の延長に終わる場合どうしようという新たな疑問がすぐに現れてきます。そんな疑問を持った先生方が、私が訪れたとき用意して頂いている部屋にやってきてくださる機会も増えてきました。
★そこで、哲学対話もNDでは、宗教科の山川先生や保健体育科の三井先生が実践されているので、そのような雰囲気で私も対話をしていきます。「問いの創り方」が重要なのだと。そして、それが肝なのだと。しかもその問いは教師主導だけではなく、生徒自身が生み出すということなのだと。それにはペアワークやディスカッションは最高の場なのだと。
★ここまで共有し、オンライン授業にシフトしましたが、オンライン授業は、なおさら問いと対話が大切だということになっていったのです。
★ところが、学校再開は、withコロナです。ノー3密空間では、最高だと思ったペアワークやディスカッションは条件や制約が付きます。思うようにできません。そこで、PBL自体の再定義が始まったのです。
(村田先生による牧田富太郎博士のサインの解読問答は実に興味深いもので、博士の人生そのものが凝縮されたものだという仮説を生徒ともに語っていったのです。もちろん、科学とは何かも。)
★昨日も、中1の理科の村田先生の授業リサーチに訪れました。先生も放課後までは時間が空かなかったし、私も移動しなくてはならなかったので、放課後Zoomでリフレクション対話をしました。今までは、忙しいので、私の描いたアクティビティのスクライビングをみながら、10分の休み時間で対話し、そのスクライビングに私からのコメントを添えたものをフィードバックしていました。
★気づきの共有がポイントでしたが、いかんせん対話の時間が短いですね。しかし、時間をどこかで別にとろうとすると、物理的に不可能ですから、瞬間瞬間でシェア・フィードバックという仕組みをつくっていったのです。
★ところが、今回のパンデミックによるオンライン授業体験が、授業リサーチの方法まで再定義してしまいました。私が東京にいても、Zoomでできます。
★リサーチもハイブリッドになったわけです。とはいっても先生方は忙しいので、40分ぐらいが限界です。オンライン研修をしようと5人くらいで行うのは2時間くらいですが、1人の割合は20分強です。やはり40分は少ないわけではないということなのかもしれません。
★これによって、再びレクチャーや生徒へのフィードバックなどの再定義についても対話が進みます。ハイブリッドですから、実は生徒がタブレットやラップトップを操作することもアクティビティになっているという発見もあります。
★村田先生の授業は、クラスルームを活用して問いを生徒が考える時間を同期非同期で進行していきます。そのとき生徒は自らデバイスやアプリを操作しなければ成立しないのです。
★リアルな時空のやりとりとサイバー上のやり取りがパラレルに進行するには、一見教師のスピーチだけが続いているようなのですが、生徒の能動的なデバイス操作が介在します。この重要な意味について対話するなどということは、コロナ以前にはなかったことです。
★そして、何より村田先生の講義におけるストーリーテリングが実にパワフルになっているのです。探究とはなにか?信念を持って生きるとどうなるのか?豊かさとはどういうことなのか?そしてもちろん科学とは何か?科学的思考とは何か?それらの関心を掘り起こし、科学の扉を開くマインドセットを中1のこのタイミングだからこそ語り行うわけです。
★従来のように事実説明ではないのです。TEDばりのキーノートスピーチになっています。これはオンライン授業では、丁寧に明示的にかつエピソードを交えた暗示的な要素を編集して語りかけるとことの重要性に気づいたからだということです。
★また、サイバー時空を活用すること自体が、脳内刺激を新たに活性化するという仮説推理の話にも広がっていきました。
★7つの切り口で、ハイブリッドPBL授業をアナリーゼし、統合していくわけですが、その対話の中でいろいろなPBLの構成要素の再定義が行われていくでしょう。これからも実に楽しみです。
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