品川翔英の進化(03)授業を実施するたびに学校が変わる(了)脳科学も意識して
★今井先生のハイブリッドPBL授業は、ペアワークやディスカッション、クイックライト、問い作りなど多様なアクティビティを授業にデザインしていきます。また、グーグルやロイロのプラッとフォーム、アプリなど、適宜オンラインの学流ツールを活用していきます。リアルとサイバーのハイブリッドというわけです。これが第2波や第3波に直面した時の備えにもなっています。学びのリスクマネジメントの時代でもあります。
★さらに、今井先生は、ハーバード大学の研究者と現場の教師が協働して授業の中でどのようなアクティビティが使われているかタイプ別にその生徒への効果について研究している成果を活用しています。欧米の学習理論は、AIのディープラーニング(機械学習)も同時に研究が進んでいて、fMRIなどを活用した脳科学は相当進化しています。その研究成果と学習理論は切っても切り離せない関係になっています。
★その研究成果も様々ですが、テレビを見ている時と講義を一方的に聴いている時は、対話をしている時や夢を見ている時より活性化していないということはもう20年も前から結果がでていて、ハーバード大学のマズール教授やあのハワード・ガードナー教授をはじめとして授業や学習の理論が新しくなっているのです。その成果の一つがPBLやアクティブラーニングです。
★この手法はJ.デューイのときからすでに始まっていますから、新しい授業や学習の理論ではないのですが、現在ではAIと脳科学の成果を取り入れて授業や学習のデザインをするようになっているのです。PBL自体も時代と共にアップデートしているのです。
★もちろん、脳科学や機械学習は、まだまだわからないことだらけですから、リフレクションするときに生徒が脳を活性化しているかなと意識する段階です。それでも、生徒の表情や身体の動きを見ることによって、脳情報の処理中か処理した情報を表出しているかはわかります。観察の仕方がまた違う角度から意識できるようになります。
★コロナ禍にあっては、授業はやはり楽しくしたいし、互いにオープンマインドになって励まし合いたいしという想いが今井先生の授業には盛り込まれていました。それが脳を活性化したいという想いと重ね合うわけです。
★また、生徒が「自立」して学んだり、「創造」したりするには、授業は教師が全部主導するのではなく、生徒も学びの「責任」を引き受けなければなりません。その理論はピアソンとギャラガーが、ずいぶん前にGRRモデルとして提示していて、アメリカとカナダの教育では定着しています。ミネルバ大学のオンライン上のアクティブラーニングでは、このモデルが相当意識されています。
★ですから、今井先生も授業をデザインする時、教師の時間と生徒の時間の割合を巧みます。すると、レクチャーというアクティビティだけではなく、生徒が自ら動くアクティビティが重要になってくるというわけです。
★多様なアクティビティのタイプを活用すると、生徒は多角的なアプローチで記憶していくし、思考スキルもたくさん活用します。ワークショップのメンバーと話し合いながら、どの問や解答を作成する際に、どんな記憶術やスキルを生徒は使うのか議論していきましたが、実に複眼的な思考を生徒はトレーニングしていることがわかりました。この議論は、実はリベラルアーツの言語技術のトレーニングの議論でもあります。
★特に、参加メンバーは、物語における主人公の成長を捉える生徒のペアワークの成果に焦点をあてて対話していました。比較・対照、カテゴライズ、逆説といったスキルの変化に注目していたようです。
★また、高3で扱った丸山圭三郎の「言語と記号」という難しい言語哲学のテキストについては、言語と文化のカルチュラルスタディにまで進んでいく生徒と調べ学習で終わる生徒とのギャップをどう埋めるかという話にもなりました。ここは時間がなかったので、いずれ探究していくと思いますが、このギャップがなぜ生じているのか、アクティビティやスキルの分析をしていくとヒントがあるかもしれません。
★このギャップこそ、ビゴツキーの言う「最近接発達領域」です。今井先生は、生徒と対話し、アクティビティや学びのツールを駆使して、ここを発見していく教師です。この領域が見つかったとき、生徒の自立と創造は始まります。そして発見するには互いに協働する貢献が必要なのです。
★今井先生は、経験から学び、その学びを同僚との対話によって、理論として共有する過程を螺旋状の気流に乗って進めていきます。品川翔英のカリキュラム進化論はこの探究の竜巻が生まれているところにあるのですね。
★このような授業の進化論の話は難しくなるので、受験市場では話されないし、メディアも光をあてないでしょう。つまり本質的なものや大切なものは目に見えないものです。そういったのは星の王子さまでしたか。
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