ポストコロナ時代の教育(09)ノートルダム女学院のPBLの再定義はニューリベラルアーツ
★昨夜(19日)、ノートルダム女学院中高の霜田先生とノートルダム学院小の梅下先生とZoom対話しました。小中高のPBLの接続の仕方について、いつも対話する仲間で、互いの実践をもとにこれからの時代を生徒といっしょにどう創っていこうかというのが共通のテーマになっています。
★今回は、一斉休校中のオンラインPBL授業、分散登校、学校再開におけるハイブリッドPBL授業の実践を経て、次のステージはどこなのかシェアすることにしました。というのも、メディアをはじめ多くの教育関係者がオンライン授業の是非を現状のメリット・デメリットのアンケートの分析で留まっていると感じているからです。
★現状認識は大切ですが、デメリットを語るあまり、オンライン授業に対するネガティブな感じに足元をすくわれる議論も多く、仮にそのデメリットを改善したとして、結局は現状で停滞してしまうのでは、子供たちの未来はやってこないという危うさを感じているからです。
★この危うさは、今回のパンデミックによって、現状に留まっていることは、停滞どころか衰退を意味するというサインでもあります。
★霜田先生や梅下先生が行っているハイブリッドPBL授業は、そのリスクを回避したり解決するセンサーや思考力を子供たち・生徒が身につける場になっています。ですから、すでに第2段階に入っています。
★また、小学校でも中高でも「思考コード」というメタルーブリックを作成し始めています。まだ霜田先生と梅下先生の研究段階ですが、オンライン効果として学内シェアの可能性が見えてきたというのです。
★すでに、こうして小中高の横断的な対話が行われているし、霜田先生は哲学がベース、梅下先生は理科がベースですから、教科横断的な対話もなされています。Zoom対話で互いのケースをシェアし、ICTのテクニカルな話だけではなく、そもそも子供の能力とか知性とかは社会とどうかかわりながら発達していくのかという対話にもなっています。
★第1段階は、前者の話題が大勢を占めていましたが、第2段階では、ほぼ後者の話ばかりです。この物理的時空の越境性と精神的時空の越境性は、オンライン効果だったでしょう。そうして、その越境ができる共訳性の基準が「思考コード」という気づきもありました。
★第3段階は、おそらくニューリベラルアーツの実装が生徒にとって課題になるだろうと。
★こうしてその次の段階に到来する未来は、全く新しい経験となる社会が立ち上がるのだろうと。
★ゆるゆると話しながらもストイックな対話でもありワクワクするような物語でもあります。
★Zoom対話後、セルフリフレクションしていると、はたと次の本のラインナップを想起しました。
〇ウィリアム・モリス(William Morris、 1834年3月24日 - 1896年10月3日)
『ユートピアだより』 1890年
〇マックス・ヴェーバー(Max Weber、1864年4月21日 - 1920年6月14日[1])
『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』 1904年~1905年
〇ヨハン・ホイジンガ(Johan Huizinga、1872年12月7日 - 1945年2月1日)
『ホモ・ルーデンス 人類文化と遊戯』 1938年
〇ヨーゼフ・アロイス・シュンペーター(Joseph Alois Schumpeter、1883年2月8日 - 1950年1月8日)
『租税国家の危機』1983年
〇ヴァルター・ベンディクス・シェーンフリース・ベンヤミン(Walter Bendix Schoenflies Benjamin、1892年7月15日 - 1940年9月26日)
『複製技術時代の芸術』1936年
★お二人の話は、ニューノーマルな都市づくりという観点がありました。これはモリスの「ユートピアだより」の脱構築を意味すると思いました。
★それは、新しい経済社会を創ることでもあり、ヴェーバーの「プロ倫」の脱構築も意味するでしょう。脱構築の動きは、2017年ころから過労死やブラック企業を社会課題として受け止めたころから始まっていますが、未だに是正されていません。今回のテレワークでそれが明らかになってもいます。
★オンラインという新しいシステムは新しい「学び=遊び」も意味します。オンラインがストイックだと子供たちは疲弊します。ですから、「遊び=ゲーム=文化」の脱構築です。ホイジンガ―の「ホモ・ルーデンス」のアップデートも必要です。
★また、今政府の議論になっている政策が、税金の話であることに焦点があたっています。この税金とは何か?シュンペーターが予言している税金の限界を見直そなければなりません。「租税国家の危機」のアップデートはやはり必要です。
★そして、オンラインやYouTubeのような複製技術のグローバルな拡大。ベンヤミンが見通した通りの時代がやってきました。「複製技術時代の芸術作品」の再考も必要です。
★今挙げた学者や作家は、100年前に、それぞれの視点から20世紀社会の進化を見通しながらも、その進化がデストピアに突入するリスクを見破っていました。
★しかしながら、20世紀社会はその進化を驀進し、リスクは目に入らないままでした。それが21世紀になって顕在化してしまったということではないでしょうか。この顕在化した世界規模の社会課題を解決するには、100年前に彼らが見て取った20世紀社会のシステムの再/脱構築です。
★しかし、現状の解決策の多くは、20世紀社会のシステムはそのまま活用します。その問題を生み出しているのが20世紀社会なのに、その社会のシステムそのものはそのままにしておくという知見は、実は教養=リベラルアーツの欠如がもたらした可能性が大です。
★そこで、リベラルアーツの再興/再考が世界規模で、GAFAも含めて叫ばれています。
★しかし、そのリベラルアーツ自身もアップデートする必要があります。なぜなら、その知見を有したメンバーが20世紀社会システムを2000年以上の歳月をかけて作ってきたからです。
★しかし、作ってきた源がわかるのですから、そこをアップデートすることで、20世紀社会のシステムは再/脱構築されるはずです。21世紀は教育の時代だと言われるのは、このリベラルアーツのアップデートを示唆しているのではないでしょうか。
★そこに明快に気づくきっかけを与えたのが今回のパンデミックであり、それを乗り越えるためのオンライン授業だったということなのでしょう。ニューノーマルな生活圏でハイブリッド授業に移行しましたが、このハイブリッドPBL授業の本意は、どうやらニューリベラルアーツの生成ということかもしれません。そんなことを思い巡らすZoom対話でした。
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