ポスト・コロナショック時代がもたらすコト(36)日経のシリーズ「教育改革 危機が促す」の思惑。
★ここ数日、日本経済新聞は、シリーズ「教育改革 危機が促す」を連載しています。
・「一律・平等」脱却に芽 個に応じた指導、柔軟に
教育改革 危機が促す 2020/7/7 20:00 (2020/7/8 5:41更新)
・「一斉授業は限界、最適な方法考える必要」小林いずみ氏
教育改革 危機が促す 2020/7/7 20:00日本経済新聞 電子版
・揺らぐ「学びの保障」 デジタル対応、世界に20年遅れ
教育改革 危機が促す 2020/7/6 22:50 (2020/7/7 5:27更新)
・「デジタルで効率的な学びを」豊福晋平・国際大准教授
教育改革 危機が促す 2020/7/6 22:50
(写真は和洋九段女子のサイトから。同校のオンライン授業の質は高く、写真のように生徒同士がオンライン授業を行うまでになっています)
★この連載の中で、インタビューされている方々の発想や学校の試みはかなり先進的です。とはいえ、多くの私立学校にとっては当たり前の発想や取り組みです。
★私立学校の話をあえてしていないのですが、明らかに私立学校をモデルにして教育改革の輪郭を描いている日経の編集方針はいったい何を狙っているのでしょう。
★憶測にすぎませんが、おそらく公立と私立のICT教育格差を一気呵成に縮めようというのでしょう。
★というのは、初等中等教育の児童・生徒数は、ざっくり1,200万人いるのです。この1,200万人が、イノベーション教育の恩恵に浴すことができれば、日本の経済は大復活なのです。
★シンガポールやフィンランドなどは総人口がそもそもその半分もないのです。ということはこの1,200万人がイノベーションのスキルを駆使できるようになれば、圧倒することができるはずです。
★日経は、そんな日本の教育を救うねらいがあるのかあ!すごいなあ。いやたしかに結果的にそうなるのかもしれませんが、それよりも、世界経済の動きを追っていくと、日経の広告費を稼ぎ出すターゲット企業は、この1,200万人をターゲットにしている企業だからということが本音でしょう。
★日経はダボス会議をずっと追跡していて、来年の会議のテーマが「ザ・グレート・リセット」で、キーワードは「タレンティズム(才能主義)」です。
★このアイデアは、21世紀になってから日経が翻訳までして追跡してきたリチャード・フロリダ教授の「クリエイティブ・クラス論」です。最近、落合陽一さんんも新刊書で、この論を持ち出してアップデートまでしています。
★ノーベル経済学賞の流れからいくと、人口成長論から内生的成長論へという、やはり才能を発掘して経済を活性化するという文脈です。この内生的成長とは、教育において新しいイノベーティブな学びの経験を生み出すことによって可能になるという話です。
★この新しい経験は、すでに私立中高一貫校の30%は果たしているのですから、パレート原理に従えば、私学に広まるのは必至です。あとは公立ですが、コロナ禍の危機に乗じてギャップを埋めようという思惑があるのでしょう。
★しかしながら、このシリーズで批判的に検討されている一斉主義や一律主義の日本の教育は、おそらくそう簡単には変わらないでしょう。なぜなら一斉主義や一律主義の根本問題は教科書主義ということなのです。
★ここは、インタビューをされている方々は痛いほどわかっています。ほとんどが私立学校出身者のラインナップなのですから。取材されている中高一貫校である白鴎にしても、市川源三つながり(白鴎高校と鴎友の両方の校長をしていた)で、公立中高一貫校に移行するときに私立の鴎友学園の支援も得ているぐらいですから、基本は私学の研究をしっかりしている学校です。
★開成や聖学院、工学院、あるいは日比谷や筑駒のオンライン授業のケースを出したら、あまりのすさまじさに一般には公立はモチベーションを内燃させないでしょう。そこで、そこはマスクをかけて仕掛けているのでしょう。
★私立学校としては、真似をされては困るとは思っていません。全体が底上げになるのならば、大歓迎です。オンライン授業のインフラが公立も私立も整うのは、デジタルシフトが起こることで、日本の新しい経済基盤を創るのに重要です。しかし、そこから先のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、ソフトパワーの腕の見せ所で、タレンティズムの領域です。
★ここで、切磋琢磨することは経済の活性化に重要です。土台の段階で格差があるうちは、日本の経済は復活しないでしょう。企業のテレワーク、学校のオンライン授業のデジタルシフトの確立はザ・グレート・リセットの大前提だというのでしょう。
★さて、日経の描くストーリーはどうなるでしょうか。うまくいくかもしれませんし、そうでないかもしれません。
★もし、日経以外のメディアが一斉に日経の右に倣えば、動くかもしれません。あれっ?やはり一斉主義は日本の文化ですね。一斉主義という箱の中での入れ子の差異。繊細な文化のメカニズムかもしれません。
★となると、やり方はまた別にあるのかもしれません。
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