« ポスト・コロナショック時代の私立学校(106)和洋九段女子 教育の危機を救う教育出動 その自然体が強み | トップページ | ポスト・コロナショック時代の私立学校(107)三田国際 オンラインPBL授業も順調に高い次元で展開。 »

2020年5月27日 (水)

2021年の入試(04)中学入試の新動向が未来の教育モデルになるわけ

★朝日新聞(2020年5月27日 5時00分)は、「9月入学見送りを政府に提言へ 自民党ワーキングチーム」という記事を掲載しました。また、北九州市は、「市長メッセージ(5月26日・改めて「5つの行動目標」の徹底を)」を掲載しました。

★この2つは、一見関係ないように見えますが、教育現場では、教育制度設計の将来的な話といまここで学びの機会を止めないためにはどうするかという話で極めて重要です。

51t1r4zdmxl

★この未来の話といまここでの話を、メディアや現場ではいろいろ議論があるみたいですが、今の制度の枠内で身動きがとりにくい公立学校とある程度自由度が高い私立学校とでは動きが違います。私立学校はお金持ちの子弟が行く学校だからできるんだとみなさずに、自由度が高い分、ある方向性を見出せる実践的な機会がそこにあるとみなして、中室牧子教授(慶応義塾大学総合政策学部教授)のように科学的に調べていくことが大切です。

★9月入学は、現状のコロナ禍で学びの機会を奪われている子供たちのための特例措置としての政策論議から100年後の国の教育の枠組みを形作る制度変更を議論する話が混在していて、なかなかわかりにくい問題です。

★こういうときは外出自粛のおり、私立学校は、学びを先延ばしにすることなく、粛々とオンライン授業をスタートしています。「粛」の意味が、したくても何もできないという意味なのか、新しいことを動きながら冷静に考えていくのかという意味なのかでは、大きな開きがあります。概ね私立学校は、いまここで、できるだけ普段の授業で行っていることができるようにオンライン授業を日々進化させています。

★私立学校によって、その進化ステージの位置づけは違います。東大や早稲田大学、ICUのようにステージ4.0に到達している私立中高一貫校は、首都圏でも10%くらいですが、慶應義塾大学のようにステージ3.0までは、どの私立中高一貫校も実施しているでしょう。

★実は、私立中高一貫校は、私学助成金をもらいながらも、半分以上は学費に頼っていますから、経営も考えなくてはなりません。ですから、今回のパンデミックに対する外出自粛というPRC検査や抗体検査が追いつかなくて医療現場や介護現場に高ストレスをかけている現状を救済するための外出自粛の重要性と経済ダメージのジレンマを引き受けています。

★したがって、科学的出動がなかなかできない制度設計・運営に対し、今目の前の子供たちの命と学びの権利を守るために、遠くの制度設計変更の話より、いまここでオンライン授業を行うことを最優先にしているのです。

★そして、この教育出動は、北九州市が、緊急事態宣言解除が出されたときに、はやくも第2波の兆候に機敏に動いたことに象徴されるように、外出自粛の緩急が続くことを想定してなされています。ポストコロナ、アフターコロナ、withコロナということばのうち、withコロナということばを私立中高一貫校が使う率が多いのは、そういうことです。

★かくして、この教育出動は、いまここで柔軟に対応できる出動なのです。中室教授のいう、経済学的に不経済な対応策は私立学校は資金が十全でないのでできません。ぎりぎりの中で教育出動をしなくてはなりません。

★そのためには、何をするのかというと、時間概念を変えることなのです。制度変更は現状コスパが悪いのですが、時間概念の変更はコスパは実にいいのです。それは、制度設計の話は、リニアな物理的な時間で組み立てられるのですが、円環的な内的時間では、制度の欠点を補完します。もともとリアルな時空での私立中高一貫校の授業は、高1くらいで中高の学習指導要領の内容を収めています。したがって、1時間かけて行わなければならないことも、内的時間では0.67時間くらいでできてしまいます。

★これが、オンライン授業のステージ4.0以上になると、0.4時間くらいでできてしまいます。したがって、ステージ4.0以上の学校は残りの時間で視野を広め世界を深める学びを行うことができます。

★これを最近先生方と「T字型(横線が広めるイメージで、縦線が深めるイメージ)学び」と読んでいます。慶応大学の井庭崇教授のランニングパタンのうちの1つのパターンランゲージなのですが、とても気に入っているのです。

★このT字型学びの構えは、内的時間での話です。中室教授も、このような学びにエールを送ることは経済学的視点からも内発的モチベーションはあがるのだと。リニアな時間だとにんじんをぶらさげる外発的モチベーションになりがちで、これは経済的な意味でも一定以上しか効果はないのだと。

★PRC検査や抗体検査及びワクチン開発が世に広まるまで、外出自粛の緩急の山谷は続くのは、北九州市の例でも明らかです。分散登校とオンライン学習、つまりリアルな学習とサイバー上の学習のハイブリッド時空教育時代がやってきています。

★このハイブリッド教育時代は、withコロナのあとも続きます。時間概念が変わることによる今までの社会システムは大きく変わります。クロノス中心だった時代からカイロス中心の時代というパラダイムシフトが実は、私立中高一貫校のいまここでの教育出動で起きています。

★この発想はクロノスというリニアな時間で考えると理解することができません。いまここに未来があるという発想はカイロス概念そのものだからです。時間概念が変わるということは、ものごとの関係やスケージュールの立て方が、一次関数から多次元関数に変わるということです。

★ですから、評価も開成がとりあえず、夏までは形成的評価に切り替えるという話(伝聞ですが)は多次元関数評価を活用するということを示唆しています。

★開成はとりあえずということのようですが、外出自粛の緩急がこれからも起こり、ハイブリッド時空教育になることを想定すれば、形成的評価という多次元関数の発想で評価することになるでしょう。

★この形成的評価はグローバルスタンダードですから、9月入学の議論でも極めて重要な話です。しかしながら、評価1つをとっても、とてもグローバルスタンダードに、日本全体が動くことは考えにくいですね。

★ただ、オンライン授業進化ステージ4.0以上の動きをしたのは、偏差値に関係なく動きました。静岡聖光学院、聖学院、工学院、和洋九段女子ははやかったですね。新渡戸文化、横浜創英、品川翔英、八雲学園も次々と教育出動しました。そして、偏差値と大学合格実績を重視していた教育業界の重鎮の方々を驚かせたのは、筑波大駒場と開成がそのステージで動いたことでした。

★現段階でオンライン授業進化ステージ4.0以上の私立学校の特徴は、海外大学まで進学準備教育の射程を広げているということです。開成の今年の海外大学進学の数は例年の倍になっているほどです。聖学院や工学院も海外大学の実績は負けていないのです。東大はまあ開成には歯が立っていませんが(微笑み)。

★そして、これらの学校は、世界同時的パンデミックに海外の姉妹校や大学も苦しんでいる痛みを共有しています。9月入学が実は問題でないことはすでに知っています。オンラインですでにつながって教師や生徒もグローバルな範囲で議論しはじめています。

★交流や生徒募集に関しても、ダイレクトに話し合いながら相互意思決定をしていきます。制度がどうあれ、子供にとって最適の環境をつくるのに共創していく構えが広まっています。この流れは、グローバル教育出動コミュニティとして成長するでしょう。そして、すでにこのグローバル級育出動コミュニティのカギを握っているのは、ラウンドスクエア加盟校八雲学園です。

★戦争やテロやパンデミックの防止に国家機能というかある意味大きな政府の役割が見直されています。たしかに、効果を出した国家もあります。しかし、物事にはリスクはつきものです。あのワイマールの悪夢を再来させないためにも、それとは違う路線のコミュニティが必要ですが、オンラインはそのコミュニティ形成への道を大きく開きます。

★明治時代、≪官学の系譜≫という近代化路線と≪私学の系譜≫というもう一つの近代化路線があり、それは今も脈々と続いていることが、明らかになったということかもしれません。

★そうそう、中学入試の話でした。このオンライン授業の進化ステージ3.0以上の私立中高一貫校の教育出動は、当然中学入試のあり方も変えていくでしょう。それがどう変わるか、今首都圏模試センターと各学校の広報の先生方がZoomミーティングで議論しているところでしょう。もう少したったら、その姿が現れてくると思います。

|

« ポスト・コロナショック時代の私立学校(106)和洋九段女子 教育の危機を救う教育出動 その自然体が強み | トップページ | ポスト・コロナショック時代の私立学校(107)三田国際 オンラインPBL授業も順調に高い次元で展開。 »

入試市場」カテゴリの記事