ポスト・コロナショック時代の私立学校(106)和洋九段女子 教育の危機を救う教育出動 その自然体が強み
★昨日(5月26日)、和洋九段女子の教頭新井誠司先生とZoomで対話しました。毎月会議やセミナーなどどこかでお会いするのですが、ここのところ、コロナ禍にあるので、いくつかのZoomセミナーなどウェビナーとしてご一緒する機会も増えました。お互い参加しているのはわかっているのですが、声もかけられないのが、リアルな空間とは違いもどかしいですね。ブレイクアウトルームも一緒になることはなかったので、直接Zoom対話しようということになったのです。
★本日27日に、職員会議で、6月以降の分散登校の詳細を決定して公開するということでしたから、そこはお聞きしませんでしたが、1月あまりの期間で、急激にオンライン授業進化ステージ5.0に突き抜けたのですから、分散登校というノー3密なリアル時空とオンラインというサイバー時空のハイブリッド時空で学びを続けることは予想するに難くありません。
(オンライン進化ステージ5.0は、首都圏の私立中高一貫校でもまだ10%くらいでしょう。東大や早稲田大学、それからスタンフォード大学などの欧米の名門大学は、当然ステージ5.0です。慶応大学の学部の講義はステージ3.0です。)
★それにしても、このスピードはどうして果たされたのでしょう。もちろん21世紀型教育を4年間実践してきていますから動きやすかったということもありますが、それにしても急に出された一斉休校や緊急事態宣言発令にあって、多くの学校は新中1生にタブレットやPCを配布する準備ができなくて、すぐに動けなかったところも多かったのです。
★学校というのは、教師1人ひとりが納得するというか合意形成するのに時間がかかるので、今回すぐに動けたかどうかは、組織の在り方の差がでたといっても過言ではありません。
★新井教頭先生によると、「本質的なことを大切にする教員が多いので、ICTなどの機器を新たに使う時には慎重に検討します。ですから、即決で動き始めた協調力と俊敏力には驚きました。ワンチームってこういうことかなと改めて感動しながら動きました。そして、動きながら考えました。不思議なことにZoomや複数のプラットフォームやアプリを使っているうちに日々ICT技術の向上を実感し、オンラインでもPBLができることに気づきました」ということです。
★パンデミックのような危機を乗り越える時には、1人ひとりの独自の意志が1つの大きなベクトルに変容する組織になっているところが強いという一つのモデルケースだと思います。
★価値観や感じ方はそれぞれ違うだろうし、方法論も違ってよいのですが、和洋九段女子は生徒中心主義、生徒の存在第一主義、生徒が何事においても主語であるという理念は共有しています。そこに行き着く方法論やアプローチは多様です。
★今回は、どういう価値を前面に出すとか、どういう方法論をみんなで活用するのかという選択判断の合意形成ではなく、生徒の命を守りかつ学びの継続を果たすという共有理念を実行するということだったので、在宅環境でも、できる限りふだんのPBL授業に近いカタチで実施できることはなんでもやろうという動きになったのだと思います。そこにおいて、合意形成はふだんからできていたので、あとは状況に対応すべく俊敏に動けたのだと思います。
★校長・教頭の危機管理という垂直機能と学習する組織という共感的かつ戦略的コミュニケーションの水平機能の動態平衡がふだんからうまくいっているということが今回証明されたのだと思います。
★学習する組織とは、ピーター・センゲが形にした実践と理論の一致した考え方で、とても有名ですが、実際にそれを遂行している組織はGAFAのような組織だし、起業家精神旺盛な組織です。創造的な活動を重視しますから、議論ベースのチームワークが得意な組織ですね。
★学校の場合だと、PBL授業を学校全体で取り組んでいるところでないと学習する組織は成立しません。常に垂直機能だけ作用している組織は官僚タイプですから、意思決定は遅れます。
★当然、そういう学校組織は、PBLなどやらないし、それゆえオンライン授業のステージも1.0です。
★学習する組織のわかりやすい例は、1995年というデジタルネイティブ誕生のエポック的な意義ある年に公開された映画「アポロ13号」で描かれている乗組員のチームとNASAの協力体制です。トム・ハンクスが出演していたので、彼が感染したというニュースを聞いたとき、思い出していました。
★宇宙飛行士やNASAの科学者は超優秀です。互いにプライドが高く、アポロ13号プロジェクトが成功するか否かは、学習する組織になるかどうかにかかっていました。
★そんなとき、地球に帰還するアプロ13号にトラブルが起き、NASAとアポロ13号のリモート操作で乗り切ろうとします。まるでオンライン授業さながらです。プライドがぶつかっているうちは難局を乗り越えられません。いろいろあって、なんとかなりそうなとき、地球のNASAとの交信ができなくなりました。
★しばらく、通信が途絶えたのです。オンライン授業でも、Zoomが一瞬落ちてしまう時があります。焦りますが、なんとかしようと冷静になって対処していく先生方の姿さながらなのですが、ともあれ、NASAの科学者たちも、一瞬絶望し、うろたえ、NASA始まって以来の危機だと叫んだのです。すると、ボスが目を輝かせてこういいます。「栄光の瞬間だ」と。ほどなく、通信が復活し、無事帰還します。学習する組織が出来上がった瞬間でもありました。
★和洋九段女子の先生方も、このような感動体験を共有して今前進しているわけです。生徒の心にもこの感動は響き渡ります。内発的モチベーションが教師も生徒もあふれ出ます。学びを止めないということは、実はこの内発的モチベーションの火を途絶えさせないという意味なのだと新井教頭先生は語ります。
★そういえば、「1人でそこに達成したければ、1人でいきなさい。でも、もっと遠くにいきたければ、みんなでいっしょに行きましょう」という精神を新井教頭は教師と生徒と共有しています。
★実は、学習する組織の考案者ピータ・センゲは、SDGsの発想のルーツである『成長の限界—ローマ・クラブ人類の危機レポート』の執筆者ドネラ・H・メドウズの親友です。彼女は、2001年に急死してしまいますが、生前の彼女の原案は『世界がもし100人の村だったら』という書に結実しています。知っている方も多いでしょうが、同書は、システム思考とか生態経済学のプロトタイプなのです。
★ピーター・センゲは、このシステム思考をマインドフルネスにも応用しています。このシステム思考は、学習する組織のベースになる思考方法です。
★学習する組織は、「ビジョン共有」「チームワーク」「システム思考」「メンタルモデルの相互承認」「自己マスタリー」という5つの要素が絡み合ってできるのですが、よくみると、協働系と自分を鍛える自律系があります。つまり、学習する組織は、「自律分散協働系」の複雑系組織です。
★ですから、和洋九段女子の先生方は自己研鑽である自己マスタリーにも意欲的です。昨日も新井先生は、私とのZoom対話の後、マインドフルネスZoomセミナーで学ぶということでした。オット・シャーマー博士のU理論の博士主催のセミナーでも学んでいるそうです。実は、オットー・シャーマー博士もピーター・センゲの友人で、U理論の巻頭言はセンゲが書いています。
★いずれも、MIT(マサチューセッツ工科大学)関係者で、現代のPBLの基本セオリーに大きな影響を与えています。マインドフルネスはGAFAを中心とするシリコンバレーでも研修で活用されています。
★今回、和洋九段女子がすぐに教育出動ができたのも、こういう大きな世界マインドに日ごろ先生方が接していることと、マインドフルネスの根っこであるZENや生態経済学の発想でありシリコンバレの最先端の高校HTHが希求するガーデニングの発想のルーツでもある茶の道などの日本の文化が重なり合っているからということもあるでしょう。
★新井教頭先生は「マインフルネスを極めながら、他者の判断基準や考え方に左右されなくなった自分を感じます。何が大事な存在の在り方なのか、内側にあふれると、何が起きても自然体の構えで対応できます。その構えが、今回の不測の事態でも適用できたし、何より生徒とコミュニケーションとるときに大切だなと思う今日この頃です」と語ります。
★そういえば、同校サイトで、毎日のように更新される「和洋九段のオンライン授業の様子」のシリーズは、新井教頭先生が書かれているとのことです。
★この記事は、授業を実際に見学して書かれています。もちろん、Zoomの授業に新井教頭先生も参加するわけですが、教師も生徒も新井教頭先生が参加していてもまったく自然だというのです。信頼関係ができているからこそできることだし、担当教師も、生徒のプレゼンに対し、新井教頭のフィードバックを求めるのだそうです。
★システム思考的に言えば、温かい眼差しで未来へ向けての行動指針になるようなフィードバックは、内発的モチベーションをあげるわけです。この化学反応が、和洋九段女子のオンライン授業の中で生まれているのです。これはメディアによる取材ではありえない話です。それゆえ、新井先生の毎日書かれる「和洋九段女子のオンライン授業の様子」は貴重な発信なのです。今後も注目していきたい記事です。
| 固定リンク
「創造的破壊」カテゴリの記事
- 本田由紀教授の短いメッセージにも日本の根本問題を暴く(2024.10.29)
- 日経ビジネス 禅と哲学 駒沢学園女子の教育がグローバルなわけ(2024.10.22)
- 2027年に向けて動く世界と私立中高一貫校(了)2050年以降の社会は、だれもが創造的才能者になる(2024.10.01)
- 2027年に向けて動く世界と私立中高一貫校(7)2050年以降の社会を創出する創造的才能者を生み出す教育(2024.10.01)
- 2027年に向けて動く世界と私立中高一貫校(6)いわゆる高偏差値学校の教育と筑駒湘白型教科教育(2024.10.01)
最近のコメント