ポスト・コロナショック時代がもたらすコト(15)田中歩先生の工学院オンラインマネジメント <メタ共感的コミュニケーション×メタ戦略的学び>②
★緊急事態宣言が解けている自治体もありますが、東京は休校がまだ続くわけです。2カ月にわたる休校ですから、家庭学習で授業に出席したことになるのか、高校の単位は取得できるのかなどの話題もメディを騒がせています。しかし、前回ご紹介したように、田中歩教務主任によれば、工学院は、オンライン授業で時間割通りふだんの授業が再現できるようにアレンジ・マネジメントしていくので、問題ないし、第2波、第3波の予測もされていますが、対応できるでしょうと。
★歩先生は、バックヤードのマネジメントもしつつ、各先生のオンライン授業の質のモニタリングも忘れません。同校サイトに「工学院のオンライン」という連載記事が載っていますが、それも田中歩先生が、そのモニタリングの中から公開できる分を記事にしています。
★いわば、メディアがあまり取り上げないオンラインPBL授業の質を自ら学内学外共有情報を発信しているわけです。
★話を聞くたびに感心するのは、オンラインPBL授業の多様な形態を実現する組織マネジメントもしつつ各先生のオンラインPBL授業のデザインの質の相互フィードバックの場もマネジメントし、その質の部分に関しては広報発信もしているのです。そして実は何よりご自身が高3などの英語のオンラインPBL授業を運営しているわけです。
★そして、田中歩先生はこう語るのです。「とにかくチームで複雑な動きを適合的に平衡感覚を生み出す感じが結構高揚感を生み続けています。ちょっと日常のリニアな時間感覚とは違って、ポジティブでいいですけど、少しセルフメンタルケアには気を付けなくてはと思っている程です。そこは、保健体育科の先生方が、生徒に対するのと同じようにケアしてくれるのでありがたいのですが。」
★たしかに、オンライン学習は、リニアな時間であるクロノスと円環的な時間であるカイロスの相互関係が、日常のリニアなクロノスの安定度と違うので、メンタルケアは必要だと最近言われています。田中歩先生は英語教師の前に心理学的な素養がベースなので、そこは了解済みです。しかし、同時に自分の顔は自分で見ることができないということもよく知っていて、<メタ認知>を自分や仲間、生徒ができるように環境をセットしています。リフレクションやフィードバックがタイミングのよくできる仕掛けをつくっているのです。
★オンラインHRで対面でやるのも、プラットフォームに日誌を互いに共有し、ピアレビューできるようにシステムを構築していくのもそういうわけです。もともと、Growth Mindsetを<共感的コミュニケーション>で形成していますから、それをオンライン上で再構築しているわけですね。
★バックヤードのマネジメントが、結局オンラインPBL授業の質を生み出す知のインフラとして循環しているということにも気づき驚愕です。田中歩先生は、このメタ認知とかリフレクションのきめ細かいやりとりは、教師も生徒もオンライン授業の体験を通して身に染みて了解できる重要な体験になっていると思うと語ります。
★しかも、ピアレビューや情報共有、サイバー上の動画やスピーチ、ライティングの共同編集などは、オンラインだからこそ頻繁に行う必然性みたいなものがあるというのです。それゆえ、田中歩先生は、「工学院のオンライン」の記事の中でも、Zoomミーティンの最中も、頻繁に<interaction>の重要性を語ります。
★「それに、PBLもブレイクアウトルームを活用すると自然とできてしまうのです」とも語ります。でも、ただブレイクアウトルームしているだけでは、気晴らしにはいいだろうけれどと最近SNS上で疑問視される話題もでていますよねと尋ねると、「たぶん、それはシステム的なスキルをきちんと適用していないから見えていないだけだと思いますよ。ピアレビューやグーグルフォームでアンケート集計を適宜取りながら相互メタ認知ができる機会を活用すると、効果的です。それは、リアルな時空での授業で経験済みですから、それをいかにオンライン授業に埋め込むかですが、それには少し技術的なサポートが必要ですね。だからマニュアルをみんなで必死に創りました」と。
★田中歩先生は、ご自身の英語の授業で、様々な言語タスクを生徒と展開するのです(一番目の写真を参照)が、そのタスクは英語を超えて言語的な思考スキルをトレーニングしています。連続型テキストである英文テキストだけではなく、画像や動画、グラフなど非連続型テキストを読み解くだけではなく、生徒は感じたことや考えたことを自分でも編集していくわけですが、そのときの読み解く思考スキルや編集スキルを身につけることが大切だと言います。
★さらに、「その基礎的ないわば世界制作方法としての思考スキルや編集スキルを自在に使えると、主体的に自立して学びに取り組めます。このスキルは同時にICTを活用するときにも通じます。スキルを身につける学びを設定しないのに、主体的になれと唱えたところで、生徒は身動きできないでしょう」と。
★日本の教育がスローガンで終わるのは、この知のスキルが共有される学びを行っていないからですね。いや行っていないわけではなく、以心伝心だから、伝わる生徒には伝わるけれど、そうでない生徒は指示待ちにならざるをえません。田中歩先生は「工学院の生徒はみんないろいろスキルを学んで欲しいんです。一握りの生徒だけが身につけるだけではなく、1人ひとりみんなです。ただ、機械を動かすスキルのようになかなか目に見えません。それゆえ生徒が了解するのは難しいですが、幸い、オンライン授業は、知の道具としてのICTの機能が山ほどありますから、それを活用することで、逆に知のスキルを内面で言語化できます。リフレクションやメタ認知はそれをさらに促進するでしょう。平常時に戻ったとき、オンライン機能はハイブリッド使用しなければとは思っています」と。
★どうやら、田中歩先生が、オンラインPBL授業の質を創り出す場合の視点というのは、<メタ認知><interaction><オンライン授業のICTスキル><知のスキル>という認知能力、それからメンタルやフィジカルのケアによる信頼関係創出という<共感的コミュニケーション>の5つの能力であると感じました。もちろん、このスキルは工学院の思考コードという知識論理から創造的思考までの知と行動のマップがあるから、どこでスキルを活用しているかポジショニングがわかるので、ドリルトレーニングだけやることもないといういうことです。
★ルビンの壺よろしく、5つの能力は<図>の部分ですが、その背景の<地>には<思考コード>という判断。評価基準があります。
★それから、これは、今後また田中歩先生や他の学校の先生方とZoomミーティングをしていかなくてはと思っているのですが、<共感的コミュニケーション>生成には、クロノスとカイロスという時間のマネジメントが必要です。田中歩先生の場合は自然と行っていますが、この点について、お聞きしてロゴス化共有をしたいと思っています。
★いずれいにしても、工学院は、先生方が共感的かつ戦略的にコミュニケーションをとっていく<学習する組織>そのものです。田中歩先生は、<複雑適用系組織>と語っている通りだと思います。(つづく)
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