ポスト・コロナショック時代に、新しい教育活動を開始する私立学校(43)チョート・ローズマリー・ホールのオンライン学習を通して日本のオンライン学習が注目を浴びる逆説的な転回。 工学院や聖学院の重要性高まるワケ。
★米国の超名門校ザ・10スクールにチョート・ローズ-マリー・ホールがあります。開成や成蹊が交流している超名門プレップスクールです。ボーディングスクール(寮制学校)ということもあり、年間学費は500万円くらいかかります。開成や慶応など高いですけれど、その5倍くらいの学費ですね。OBにケネディー大統領がいます。
(図は、チョート・ローズマリー・ホールのサイトから)
★平均クラスサイズが12名ですから、あの有名なラウンドテーブルを囲んだソクラティックメソッドが有名な学習スタイルです。
★英米の有名私立学校と同じように、チョートスクールも、新型コロナウィルス感染拡大防止のために、休校になっているわけですが、当然オンライン学習を行っていると、しっかりサイトで発信しています。ここまでの発信をどうして開成とかしないのでしょうか?工学院とか聖学院は発信しているのに。
★しかし、それはどうやら理由があります。開成などの御三家は、英米の名門校と比べて、学費が違いすぎますから、効率よく生徒の才能を東大に進学させて伸ばすという一石多鳥戦略でカリキュラムを組んでいます。それに寮制学校ではないので、それほどリモート学習をする必要もないのです。
★どういうことかというと、イートンカレッジもケイトスクールも、チョートスクールも、世界中から生徒が集まっていますから、オンライン学習は本当の意味でリモート学習でなければなりません。時差があるから、同期(リアルタイム)学習ができないことの方が多いでしょう。特に米国では、国内と言えども、たとえば西部と東部で時差があるわけです。
★日本国内では、オンライン授業と遠隔授業の違いは何だとか、実態は同じなのに、名づけにこだわる議論は多いですね。こういうと、実態だって違うとかやたらコンテンツの具体的な差異について突っ込みを入れてくる方もいますが、もっとざっくり時空の違いなんですよというのが世界標準の考え方でしょう。
★問題はしかしながら、オンライン学習やリモート学習をやっていくと、このリアル時空とサイバー時空がハイブリッド時空になっていき、この新しい学びの時空を基準にカリキュラムを考えていくと、学費の高い英米の名門スクールの教育の質に追いつくし、超えてしまうかもしれないという動きが今回日本の私立学校で起きているということなのです。端的には、工学院と聖学院が先鋭的です。他の学校もやっているかもしれないけれど、両校のように発信していないという点で、先鋭的ではないのです。
★英米の名門校だって、グループウェア―で学内だけで情報を共有すればよいのに、きっちり発信するわけです。それは危機の状況にあって、リソースを共有しようというコンパッションが働いているからです。社会貢献の姿勢ですよ。ただ、たんにそれを宣伝という意味で広報活動をとらえて、控えめが美徳だとか、この際だから宣伝しようというゆがんだ広報活動のイメージをもちすぎということで、世界標準ではないということです。
★ともあれ、御三家は、控えめにそんな効率の悪いことはしなくてよいと考えるし、工学院や聖学院はICT教育は限界費用ゼロ社会を持ち込むので、むしろ効率がいいんだという話になります。
★それで、何が起こるのかと言うと、英米の名門校が、一般的なアカデミック(教科学習のこと)だけではなく、スペシャルな専門的なプログラムを本格的に導入しているのですが、開成や御三家は、それはやらないのです。ところが工学院や聖学院はそれをちゃんとやるんですね。
★スぺシャルな専門的なプログラムとはIBやAレベル、APコースのことかというと、それはまだアカデミックな学びの延長なので、共通点もありますが、まだまだです。
(チョートスクールのsignature programの選択肢。同校サイトから)
★チョートスクールなど米国の私立学校は、一般的なアカデミックな学習と私立学校の精神を現代化するsignature programを行っています。日本では、最近STEAMとかいわれているわけですが、そこの部分を教科の合間で行うのではなく、カリキュラムとしてどんと入れてしまうということです。それに、米国ではSignature Programは一大市場になっています。日本は細々とベンチャー企業が少しやりはじめてはいますが、アート市場と同じで、日本はまだ広がっていませんね。
★私立学校は、建学の精神によれば、グローバル市民のリーダーを輩出するミッションを有していますから、当然パブリックスクールで決められている学びもやるわけですが、それ以外にも特色あるプログラムをやれるわけです。やるのが本筋なのです。
★ところが、学習指導要領は、そんな特色あるプログラムはメインストリームではないし、大学入試に直接役立たないので、開成や御三家のように、教科学習の質を高めることで、結果的に特色あるプロラムを実施したことになるようにコンパクトに創意工夫されています。ですから、学費が、英米私立学校に比べて安くてもできるのです。
★しかし、工学院や聖学院のように、海外大学の進路指導もしてしまうと、signature programのように特別な創造的才能を豊かにする体験学習が重要になります。海外大学は、アカデミックなスキルと創造的才能の能力の両方を要するからです。
★ですから、工学院や聖学院は、開成や御三家に比べて学費が安いか同じくらいなのに、その両方をやっているのです。世界標準をあてがうとコスパが破格にいいのです。
★さらに、開成などの御三家(ばかりではなく、ミニ開成やミニ桜蔭を自称しれいる私立学校も含みます)が、英米の名門校のようにオンライン学習やリモート学習に熱心にならないのは、実はアカデミックプログラムだけやっているからです。プリント通信学習でも最低限いけちゃうでしょうから。それが本音でしょう。
★ところが、英米のプレップスクールなどは、その特別プログラムをオンラインやリモートで学ぶ環境を創らなくてはならないのです。それをやらないと、私立学校の精神の現代化教育ができなくなるので、存亡の危機なのです。
★というか、学費をこれまでのように高くとれなくなるので、財務基盤が崩れるからです。
★そこへいくと、聖学院や工学院は、開成や御三家と違い、私立学校の精神の現代化を進めるという意味で革新的だし、学費を抑えて欧米のプレップスクールの高品質の教育を行えるのです。
★これで、はっきりしたことは、アカデミックなプログラムでいくら革新的なことをやってもあまり意味がないのです。いいんですよ、アカデミックな学習は一方通行で。もしPBLをやりたければ、学費を倍以上とって、少人数にしてやるしかないのです。
★だって、既存のテキスト内の知識の格納想起思考と論理思考だけやるのに、PBLの必要はないでしょう。
★ところが、創造的才能を豊かにしよとするとsignature programのような特別なプログラムが必要です。探究がその領域に重なりますが、本格的ではないのが現状ですね。どうも教科学習の延長というのが探究の実態です。
★ともあれ、そうなってくると、PBLやオンラインやリモート学習は必要になってきます。工学院や聖学院がふだんから準備ができていたというのは、ふだんからこのSプログラム(Signatur Programなどの特別なプログラムをこう呼んでおきましょう)が充実していたからなのです。
★もちろん、極端な話をしてしまいましたが、アカデミックプログラムで、40人クラスでPBL型授業をコンパクトにやっておく必要は極めて実は重要なのです。もしこれをやったら、英米の名門私立学校ではできないことを日本はやっていることになるし、知識の概念を完全にコペルニクス転回へシフトすることになるからです。これは、最近の新世代哲学者が考えていることとシンクロすることになりますしね。
★とにかく、少人数だからできるという先入観をぶっ壊しているのですから、インパクトありありありです。
★そのうえさらに Sプログラムを本格的にやっている。
★聖学院と工学院がそのことを意識して行ってきたかという、それはわかりませんが、C1英語×PBL×ICT×STEAM×哲学という21世紀型教育を6年以上実践している中で、進化/深化していったことは確かでしょう。
★学費の制約、学習指導要領の制約、大学入試の制約というアドミッション、カリキュラム、ディプロマという3ポリシーをたてるうえで、それぞれのポリシーの局面で制約があるわけですが、開成などの御三家のようにこの制約内で効率の良い教育で成果をあげるのではなく、その制約をどのように越えられるのか挑戦して破格の質の教育に挑戦していく工学院や聖学院のような革新的学校が、この全国的なオンライン学習やリモート学習デザインの動きの中で注目を浴びることになるでしょう。
★そして、さらなる進化をする学校がまた出現してくるのです。2校ほどその兆しありだと思っているのですが。この工学院や聖学院の進化は、シリコンバレ―に位置するチャータースクールHTHが求めるエンジニアリングの次の段階である茶の道やマインドフルネスの道、ジョブスが見抜いていたZENなどのスマート時空の考え方なのです。宇宙船ですでに使われているミウラオリという白銀比の世界ですね。エンジニアリングは黄金比の世界ですから。
★聖学院の思考力入試セミナーでは、黄金比と白銀比の違いを共有するプログラムがありますが、さすが先見の明ありですね。
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