首都圏模試「思考コード」2021(11)A軸思考(知識・理解)とB軸(適用・論理)思考の関係性を考える②事実と存在 武蔵・麻布・聖学院
★今年の武蔵の社会の入試問題の最終問題は、ハザードマップの例を挙げ、その有効な使い方の<説明>を記述する問題でした。武蔵の社会科の入試問題全体は、昨年の台風や洪水の災害の経験を通して、社会、自然、科学技術、生活世界、人間の存在について総合的に思考する問題でした。自分ならどうするというC軸問題は出題されていませんでしたが、A軸思考とB軸思考を重ね合わせる思考力を発揮する問題だったわけです。
★武蔵や麻布は、探究の入口に誘うテーマ主義的入試問題で、受験するしないにかかわらず考えてみる価値ある問題です。聖学院の思考力入試問題も同じ響きを奏でています。聖学院の場合は思考力セミナーを開催していますので、参加すると、麻布や武蔵同様の思考力を膨らませる体験ができるし、さらに、実は、C軸思考をフル回転させるところまで行き着きますからわくわくする学びになっています。
★やはり、自分ならどうするという、<事実>と向かい合う自分という<存在>に思いを巡らすところまでいかないと好奇心や開放的精神、深く鋭い問いが自分の中から生まれてきません。
★しかしながら、もちろん<事実>を理解するスキルとそれを説明する<論理的>思考力は大切です。このハザードマップの有効な使い方の<説明>も、<事実>に基づいていなければなりません。ウム?アレっ?武蔵のこの問題は、<事実>を<説明>するだけでは実はなかったのですね。
★ハザードマップの有効な使い方とは、誰にとって有効かというと、ハザードマップの便利さや有用という機能としての<事実>とそれによってリスクを回避したりサバイブできる私たち人間<存在>が重なり合っていなければ意味がありません。
★この問いは、ハザードマップの機能としての<事実>を説明するわけですが、そこには、実はその地域の地理的条件や経済的状況、生活世界の実態などが集約されているはずです。マップとしての<事実>は、その地域の地理的条件や経済状況、生活世界の実態としての<事実>が反映しているということです。
★つまり、そこには人間<存在>があるということです。しかし、それを全貌する直接的経験はできないわけです。ハザードマップという機能(ファンっクション:関数)としての<事実>は、その向こうに人間<存在>の現状がどうなっているかを感じたり考えたりする間接的経験の場だったのです。
★この間接的経験は、もちろんハザードマップによってイマジネーションを膨らませて復元するのだけれど、そのイマジネーションがフェイクでは困ります。そのアイデンティティを検証しなくてはなりません。自ずと地理的データをベースにする自然の状況や経済社会の状況を示す様々なデータを調べたり読み取るA軸思考が動員されることになります。しかし、生活世界はどうでしょう。ここはA軸思考では実はとらえられないで見落とされているところですね。
★だから、人間<存在>が幸せに生きるとはどういうことかという基準に合わせて、ハザードマップが示す<事実>では満たされない部分がでてきます。そうなってくると、その満たされないギャップの部分をどのように解決していくかという話になります。生活世界の多くの部分が見落とされていることも明らかになるでしょう。
★ですから、本当はここの部分はC軸思考が働いています。
★武蔵の問題は、A軸思考とB軸思考を重ね合わせて終わっているのではなく、その向こうにC軸思考を働かせている受験生を想定しています。ただ、そこを入試問題で問うてないだけです。
★そして、<事実>というのは、結局<物語>であることもわかるでしょう。ただし、それはファンタジーではありません。しかし、真実であるかどうかというと、それも汲み尽くせていないでしょう。
★私たちは、<事実>と<存在>の両方が真実に到達していない果てしない物語を巡って生きている<存在>なのかもしれません。だとしたら、固定された<事実>や<存在>をA軸思考だけに閉じ込めて学んでいると、不正確なハザードマップに従って生きて行くことになります。
★思考をA軸思考から解放している入試問題を出題をできる学校こそが、生徒の未来という果てしない物語を生成する場なのでしょう。武蔵や麻布、聖学院のような学校は、もちろんまだまだあります。和洋九段女子やかえつ有明もそうですね。入試問題でそれを探すのが実は大事なことなのです。<事実>と<存在>のスクランブル物語。それは果てしない物語。その物語を教師と生徒が共に編集し創造していける学校を探しましょう。
★そうそう、この武蔵の問題はB3レベルです。もう説明するまでもないでしょう。思考が<事実>から<存在>領域ギリギリまでに変容しているのですから。
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