« 首都圏模試「思考コード」2021(6)A軸(知識・理解)思考を考える① | トップページ | 首都圏模試「思考コード」2021(8)B軸(適用・論理)思考を考える①結局レベルA3とB1が重要? »

2020年3月18日 (水)

首都圏模試「思考コード」2021(7)A軸(知識・理解)思考を考える②レベルA3が実は重要だった。

★今年の慶応中等部の国語の入試問題で、次にのような語句に関する問題が出題されています。単純な漢字の読み書きに比べ、複雑です。レベル的にはA2ということになりますが、それは<想起>するときに、同音異義語どうしの「意味」「文字」「文脈」の情報が増えるからですね。

K0

★そして、一般には、<格納>するときには、同音異義どうしで格納していませんから、受験勉強をしていない人にとっては、このような問題は難しいし、ゲーム感覚であれば楽しいかもしれません。知識の問題ですが<想起>するときに考えますから。

★かくして、知識の問題だからといって、条件反射的にアウトプットするわけではないということがこのような問題を通してわかるわけですが、この問題ができるかできないかで、何の差が付くのかは、本当はよくわかりません。

★たぶん、慶応中等部を受験する生徒は、前回のような漢字の書き取り問題では差がつかないので、このような複雑な形式で出題するのでしょう。

★塾の方は塾の方で、同校を受験する生徒には、このような複雑な語句問題を予想して作成してトレーニングすることでしょう。この手の問題を出題するところは、難度の差はありますが、灘や聖光学院、雙葉など結構あるので、それらの対策問題はつくっておくことは無駄ではないはずです。

★しかし、ここで重要なのは、このような問題の解答を<想起>するときにどのような思考が起こるかということです。この思考作用は、試験問題であるなしにかかわらず重要です。試験問題の世界だけに通用するということはないからです。

A_20200318053201

★みなさんは、この問題をどのように考えましたか、「意味」「文字」だけで解答できる漢字の書き取りとは違い、同音異義語どうしの「文脈」を比較することによって「意味」が<理解>できます。「文字」については、この問題に関しては曖昧のままでよいですね。たとえば、(1)のカイシンが、文脈の比較ででてくれば、「会心」なのか「快心」なのか「改心」なのか「回心」なのかは詰めなくてもよいわけです。選択肢から「心」を選べばよいわけです。ただ、「回診」や「改新」とは違うということは<理解>できていればよいのです。

★しかしながら、大人はこの問題は、「意味」「文字」「文脈」で考えていくでしょうか。実は、「会心の出来」「怠惰→改心」という言葉の文脈はだいたい習慣上決まっています。つまり、「語用」「語法」というチャンネルを活用しながら、「意味」や「文脈」のズレを比較しながら確認していきます。

★「語用」は、こうした状況文脈と語の使い方がカップリングされ習慣になっていることを示しているわけです。たとえば、「全く~ない」というのは、論理的には「全く~ある」といったって問題ないわけですが、「語用」上、つまり「習慣」上使ってこなかったわけです。

★したがって、現在は、その習慣が崩れて、「全く~ある」という使い方は広まっています。「腑に落ちる」という表現もそうでしょう。もともとは「腑に落ちない」という語用の習慣があったと思います。しかし、これは「腑に落ちる」というパロディー的な表現がおもしろいので、使われるようになってきたということでしょう。果たして、本当にそうなのかどうかは、語源については学者に任せますが、言語の語用の<恣意性>がここにはあります。<自由>が生まれれる源泉は、この語用が生まれる時の<恣意性>にあるのかもしれないいとはソシュールやJ.J.ルソーの考え方につながるでしょう。

★言葉の「知識・理解」は、かくして<転用><語用>というチャンネルを活用すれば、<論理的思考>や<創造的思考>を楽しめるわけです。

★たとえば、さきほどの「会心」「快心」「改心」「回心」「回診」「改新」の違いやどんな時に使うのか説明してみてと問いかけてみてもおもしろいわけです。この6つの言葉が言い当てている世界を理解するには、「意味」「文脈」「語用」「転用」「文字」を<想起>するだけではなく、関連する状況情報を大量に動員・結合しなくてはなりません。<抽象と具体>という思考スキル、<比較・対照>スキル、<因果」相関>スキル、なんといっても<置換・変換>スキルは大活躍です。

Photo_20200318065001

★もっとも、これだけでは、説明的でまだまだ盛り上がらないというか、面倒だと思う生徒もいるので、これら6つの言葉を全部使って、物語を創ってみようとなると、目を輝かせる生徒もでてきます。

★というわけで、この慶応中等部の語句問題を解けるようになることももちろん大切ですが、ルビンの壺よろしく、図と地をひっくり返すと、その背景にある<思考作用>が見えてくるわけです。A軸思考には、ファイリング知識という条件反射的な暗記行為だけ活用するのではなく、多様な記憶のチャンネルを活用することで、多様な<思考スキル>を発動し、<論理的思考>や<創造的思考>の土台を形成するのに役立ちます。

★A軸思考のレベルA3とは、このようにA軸思考がB軸思考やC軸思考に変容していく入口だと捉えられます。

20_20200318061601

202

★ちなみに、今回の慶応中等部の語句問題を学ぶときに、A3レベルまで拡張すると、実は今年の東大の上記の地理のような問題を考える時の<思考作用>と同じだということに気づくでしょう。国語がどの教科においても重要だとよく言われますが、その言説(言い方)は、A軸思考のレベルA3まで射程に入れた学びを行っておかないと絵に描いた餅になります。

★意外と、A軸思考の学びはレベルA1で終わっています。知識と思考の分断が俗説になっているのはそういうわけです。国立大学に合格していく生徒は、実はA軸思考のA3レベルまで丁寧に行っている生徒が多いのです。上記の東大の問題形式は、世界史や日本史でも出題されるし、東大に限らず、一橋や名古屋大など多くの国立大学でも踏襲されています。

★ところが、そうでない大学も、特に私立大学ではたくさんあります。大学入試改革をしなくても、A軸思考をA3レベルまで拡張してくれるだけで、日本の教育はかなり変わっていきます。

★もっとも、A軸思考だけでは、論理的思考や創造的思考の入口に立つだけですから、これだけでは世界には通用しないでしょう。ただ、A軸思考でA3まで丁寧に学んでいないために、論理的思考や創造的思考になかなか飛べない生徒もいます。

★あっ、それから、このA3レベルの学びは、実は教室から外に出て、読書をしたり、自然と戯れたり、都市と農村の両方をフィールドワークしたりしていると、自然に備わるケースもあります。

★低学年までに、それができている生徒の中には、天才的な言動をする生徒もいますが、その生徒は、≪読書≫と≪自然との戯れ≫と≪社会のフィールドワーク≫によってすでにA軸思考のA3レベルまで経験の中で学んでいるわけです。

★しかしながら、同じ経験をしてもそうでない生徒もいます。それはなぜでしょう。それは、経験の中から得た気づきや知識を<格納><想起>思考の段階で、A軸思考作用のチャンネルの多様性が開発されなかったからです。

★なぜそれが起こるかと言うと、大人が介在する時に、その大人が知識と思考は違っていて、憶えることは暗記だというファイリング知識のチャンネルしか持っていない場合、それを子供に植え付け、他のチャンネルが作動しなくなるからです。

★大人があまり介在しないほうがよい。環境を設定するだけがよい。認知スキルだけではなく非認知スキルが大事なんだということは、この多様なチャンネルの芽を摘まないようにということと同義なのかもしれません。

|

« 首都圏模試「思考コード」2021(6)A軸(知識・理解)思考を考える① | トップページ | 首都圏模試「思考コード」2021(8)B軸(適用・論理)思考を考える①結局レベルA3とB1が重要? »

思考コード」カテゴリの記事