首都圏模試「思考コード」2021(9)B軸(適用・論理)思考を考える②生活世界の経験も重要。
★前回ご紹介した跡見の問題のつづきを見てみましょう。
★問4は、問3までの一本のばねの現象に対するものの見方・考え方を、二本のばねに適用するだけではなく、てこの原理を加えて考えていく問い。
★受験生は、すでにパターンとして知識にしているから、そのパターン知識(順序づけ知識)を想起して、計算していくだけだから、(1)はA1思考でいけるし、(2)もそうでしょう。
★(3)(4)は、ばねの原理とてこの原理を合わせる複雑な問いになるので、そこは論理的に考えるレベルはB2になるでしょう。
★ここで重要なことは、直接的経験からパターン化された知識を間接的経験に適用していく過程だということですが、理科の場合、直接的経験が身近な<生活世界>のケースが多いということです。
★ばねは、最近日常生活で目に見えるところにはないかもしれません。しかし、ゴムはまだあるでしょう。また、二つのばねの感覚は、2つの荷物を右手と左手の両手でもってみると体感できるかもしれません。
★その<生活世界>の直接的経験を力学という目に見えない間接的経験に転換するわけですね。
★これまで、経験というのは大切だと述べてきました。≪読書≫・≪自然との戯れ≫・≪社会のフィールドワーク≫。これに≪生活世界≫が加わりますね。そして、うすうす感じていると思いますが、目には見えない間接的経験を可視化するには、<格納・想起>思考、<思考コード>、<思考スキル>が必要だったということです。
★そして、今は<格納・想起>思考と呼んでいますが、これは<思考スキル>のうちの<置換・変換>スキルを分類したものです。
★それから、これまで<言語>と<グラフ>が問いの素材になっていたところからおわかりのように、≪読書≫体験は、<言語>と<記号>の両方があります。A軸思考では、<言語>ベースの読書に偏りがちですが、B軸思考に飛ぶには、<記号>ベースの読書も必要になります。
★そして、いうまでもなく、≪読書≫体験は、行為そのものは直接的経験ですが、イメージする世界は間接的経験です。エッ!それは、≪自然との戯れ≫も≪社会のフィールドワーク≫も、行為としてとらえれば、同じことがいえるのでは?その通りです。
★実は<直接的経験>は、その背景に<間接的経験>がカップリングされているのです。ですから、経験は<直接的経験/間接的経験>と<間接的経験/間接的経験>の2種類があり、結局は<間接的経験>に私たちはどっぷり浸かっているわけです。
★そして、だからこそ、<越境>できるわけです。ということは、たとえば、<生活世界>という<直接的経験/間接的経験>をしながら、背景の間接的経験に気づいていくことが学びであるということであり、そこに気づけば、具体的な感覚的な対象や教科という具体的な領域を<越境>できるということになるはずです。
★ゴムやばねという<生活世界>の経験が、マシーンの領域で生かされたり、組織マネジメントの発想に活かされたりするのはそういうわけです。マシーンの場合は要素分解主義的に精緻化された使われ方をし、組織マネジメントなど社会制度に対しては構成主義的なメタファーとして活用されるわけです。
★しかしいずれにしても、あるモノを外から内側に組み立てていくわけですから、その効果の出方が違うだけです。A軸思考とB軸思考は結局は組み立て主義なのです。
★ところが、C軸思考は、生成主義です。細胞学的あるいは免疫学的なアプローチですね。細胞はあらゆる可能性をもっています。それがなぜかはまだ解明されていないでしょう。人間をはじめ生物は、物質でできているのに、物質以上です。それなのに、要素還元主義も構成主義も物質の組み立てによるメタファーで語られています。
★私たちは、物質以上のものは見えないからです。ところが、見えなくても明らかに物質以上であることはわかる。この存在を<ガイスト:Geist>とドイツ語では呼ぶわけです。物質と精神という分けて、人間は精神的存在という固定観念を創造的に破壊して、人間は物質であり同時に物質以上という両方を含む<ガイスト>という存在なのだと発想しているのが、マルクス・ガブリエルの<新実存主義>ですね。
★C軸思考というのは、そういう現代の文化人類学的哲学に及ぶ領域です。したがって、今までC軸思考は言葉では言われてきましたが、なかなか現場の授業で展開されなかったのは仕方がない面もあります。現場は要素還元主義か構成主義化どちらかで動いていますから。つまり組み立て主義で動いていますから、C軸思考も組み換えレベルまでいけばいいところでしょう。
★しかし、たとえば、IBのTOKが果敢に挑戦しているように、この領域は人間存在そのもにかかわる大事な学びのプラットフォームです。<探究・研究・芸術>の領域なわけです。要素還元主義や構成主義では満足できないのです。組み立て主義から生成主義へ。文化人類学的免疫学的哲学が新時代を拓こうとしています。
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