感染症に対応する都市機能の変容能力(12)工学院はZ世代地球市民の才能開花の拠点 未来の都市機能を創発する③
★工学院は、8年前にすでに緊急事態が起こっていました。それゆえ、今回の一斉休校の事態は工学院の先生方にとっては世間のような混乱を呈することはないわけですが。ともあれ、新校長平方先生が就任して21世紀型教育をやるんだとなったのです。現場は柔軟に対応するも、混乱は予想に難くありません。1年めは理念の調整。これは一番大変です。昔でいえばイデオロギー闘争です。
★2年目は、理念に基づいた実践のデザインです。一方で「アドミッション―カリキュラム―ディプロマ」ポリシーのグランドデザインも始まっていました。その大きなパターン予測は、しかしながら、学校組織の現場が何か創発しはじめなければ、できません。
★このような組織を複雑系の組織と呼びます。従来のようにツリー構造の統御型組織の方がシンプルでわかりやすいのですが、時代対応ができるかどうかは、おそらく無理でしょう。だからといって、8年前の21世紀型教育のアイデアは、未来の予想を創るところから始まりましたから、予想パターンがないのです。どうすればよいのでしょう。
★とにかく、今となってはカオス型複雑系ではなく、複雑適応系(CAS:complex adaptive system)組織になっているので、先生方にとってはのど元過ぎればでしょう。しかし、カオス型から複雑適応型になった経緯は、私たちにはものすごく参考になります。
★新しい経済や市場創出は草創期は盛り上がります。カオスがかえってエネルギーになります。しかし、適応型に変わらなければ、2,3年でしぼみます。工学院は生徒募集が山あり谷ありで、受験業界は慎重に見守っていたわけです。
★先生方の危機意識は相当なもので、そこは乗り越えました。しかし、それができたのは、<広報―PBL-CEFR×思考コード×ICT>という複雑適応系をマネジメントできるGrowth Mindsetができる教師がたくさん生まれたということでしょう。前回紹介した鐘ヶ江先生もその1人です。
★そして、もう一人加藤昌弘先生です。鐘ヶ江先生も加藤先生も、それから本ブログでよく登場してくる田中歩先生も、カオス時代のプロジェクトのメンバーで、そのときに<PBL-CEFR×思考コードーICT>のプロトタイプ創発をしたメンバーです。
★しかし、このとき足りなかったものは<広報>だったのです。新しい<広報>。21世紀型<広報>をと言われたところで、電博やリクルートであるまいし、どうやって。とにかく<PBL―CEFR×思考コードーICT>は現場でどんどん進行していきました。複雑系ですから、あちこちでブレイクルーが起きて、現場の先生方も全体を俯瞰することができないでいたでしょう。
★ただ、自分たちが授業で行っているのは、思考コードやCEFRを活用するので、互いの位置づけはわかります。21世紀に飛びたいけれど、授業で飛んでいるのかどうかは、思考コードやCEFRの物差しを当てて、議論ができるようになっていったのです。そのときPBLの肝の1つ共感的コミュニケーションを授業から引き出して工学院のコミュニケーション文化にしていったのが田中歩先生です。
★そして、その共感的コミュニケーションによって、結晶化したのが今回の<グローバルプロジェクト>だったのです。工学院の複雑系がカオス型組織から複雑適応系組織=学習する組織にシフトした記念碑的なプログラムです。そう、記念碑的な運命的な体験を工学院の先生方はしたのです。
★ここにきて、<広報―PBL-CEFR×思考コード―ICT>が複雑適応系組織マネジメントのエネルギー態として出来たからです。
★ここ2,3年、すでに加藤先生が、現場のブレイクルーを整理したりまとめたりして、その火を消してしまうような無粋なことはせず、ただ全貌出来るような広報支援ができないかと挑戦していました。英語教諭なのですが情報の教師免許もとり、イラレの学びも深めました。英語とICT堪能な教師の出現です。これは他の学校ではなかなかあり得ないことでしょう。
★手始めに、同校のサイトのSNSの在り方のマネジメントから始めました。自ら授業の合間に写真を撮りながら、現場のブレイクスルーを発信していったし、先生方の協力を仰ぎ、どんどん発信する緩やかなチーム作りをしていきました。田中歩先生の心理学的共感的コミュニケーションを形にするのに大いに役立ったと思います。
★しかしながら、加藤先生は、SNSの全貌性の可視化の難しさに気づいていました。図書館司書教諭でもある有山先生(も初期プロジェクトメンバーです)が紙ベースの本と電子図書の両方のメリット・デメリットを考えていましたから、やはり全貌性は紙媒体に今のとこ軍配ありと判断したのでしょう。学校案内ができああと、作成時に載せられない現場のブレイクスルー活動をSNSで発信するだけではなく、ある程度まとめながら旬な情報として提供する8ページリーフレットを作成するようになったのです。
★これは説明会のときに大好評となりました。説明会にはリピータの保護者がいます。毎回新しい情報を得ることができるのです。もちろん、1カ月の間に多様な教育活動が創発されていないとリーフレットはできないわけですから、学内中ますます凄いことになったわけです。
★嬉しい悲鳴というか、加藤先生は担任もやり、英語も教え、情報の時間も担当し、探究論文のチュータリングもやらなくてはなりません。その合間にやるわけです。しかも、ICTです。どこでも仕事ができるので、加藤先生自身凄いことになってしまいました。しかし、アートな感覚の持ち主で、さらにその合間を縫って、ミュージカルやミュージアムに、そしておいしい食事に出かけていました。
★しかし、その教養が実際には加藤先生を突き動かす原動力なのかもしれません。
★ともあれ、こうして<広報―PBL-CEFR×思考コード―ICT>を体現できる加藤先生が出現したのです。これによって、工学院は複雑適応系組織に成長し、生徒募集も右肩上がりに向かいます。自己変容しないと、エントロピーの法則に巻き込まれてしまいますが、そこを見事に乗り越えました。
★と思っていたら、実はさらなるブレイクスルーが起きたのです。もともと工学院の生徒は外で社会貢献をしていますし、国際コンクールや国連で、Z世代の提案をし続けています。セミナーをやったときなど、たんなるお手伝いではなく、ファシリテーターまでやってのけます。それが2019年顕著になっていたのですが、その生徒たちがグローバルプロジェクトのメンバーでもあったわけです。
★こうして、<広報―生徒の世界―PBL-CEFR×思考コード―ICT>というさらなる複雑適応系組織のエネルギー態が生成されたのです。
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