和洋九段女子のSDGsの活動 優秀賞受賞 その意味の重要性を改めて感じる。近代人を超える新しい人間の表象。
★和洋九段女子の中3生が企画し創作し世に広めるアクションを起こした<SDGsすごろく>プロジェクト。「SDGs探究AWARDS2019」で優秀賞を受賞しました。同審査会により、着眼点や想像力、表現力、具体性などの観点から、各部門の「最優秀賞」1件、「優秀賞」3件が選定されたのですが、そのうちの1校が和洋九段女子だったのです。
★2019年12月1日にエントリー受付が開始され、2020年2月5日までの期間で、総数945件のエントリーがあったというのですから、これは“凄いコト!”です。
★個人的には、中3生の活動のインタビューを昨年10月にしていたし、実は2月16日(日)和洋九段女子で開催した「新中学入試セミナー」で中3生が<SDGsすごろく>のミニワークショップを実施してくれ、さらに感動していたので、この感動が広く公共的な場でも<共感>されたのだというのを知り、感無量でした。
★しかしながら、この受賞発表は、今回の新型コロナウィルス感染拡大を防ぐために政府が発表した「全国一斉休校」の話の直前だったために、和洋九段女子はサイトなどでの発表はまだしていません。また、『SDGs 探究 AWARDS』当局も、3月14日(土)に予定していた表彰式を中止するとサイトで発表しています。
★受賞者のみなさんは、ちょっと残念な気持ちもあるかもしれませんが、おそらくそれよりも自分たちが取り組んできたことの重要性をより感じ、ますます探究を深め今まで以上に活動を展開していこうという意志を強くしたと思います。
★なぜなら、新型コロナウィルスもまた、文明が支配被支配の関係を強め、格差を拡大し、自然を破壊し気象の正義の怒りに触れるたびに出現し猛威を振るったペストや天然痘、コロナ、スペイン風邪のように、警鐘を鳴らしているからです。
★そして、その警鐘を中3生自身も鳴らしているのですから、世界の痛みや自然の痛みと自分たちのマインドがシンクロしている実感を今ほど抱き、内側から湧き出る使命感は相当なものでしょう。今度学校に立ち寄ったときにその気持ちを尋ねてみたいと思います。
★さて、しかし、和洋九段女子の中3生の<SDGsすごろく>はSDGsのことを知ってもらいたいというとことから始まったのですが、その探究は、身近なところに世界の根本問題があることに気づくところにまで到ります。多種多彩な団体と話し合う中で、自分たちは何ができるのか、そもそも自分たちは何者なのか探究を深めていったわけです。
★ですから、<SDGsすごろく>は、主体性、協働性、多様性を自ら展開していく社会的な活動になり、多くの人々を巻き込む貢献につながっているのです。そして、さらにすごいのは、<SDGsすごろく>を開発したというイノベーションを起こしているのです。PBLというリベラルアーツを学ぶイノベーションとそのときにICTを活用するというテクノロジーとしての教育イノベーションを巻き起こしているのです。
★このことの重要性は、学校という現場で今までにない革新的なシステムが生まれたことを意味します。この革新的なシステムについて、安宅和人さんは、社会において同じように語っています。しかも、そのシステムは学校内カリキュラムシステムで終わることなく、未来創りの知のシステムとしての価値を持っているのです。
★安宅さんは、未来を創るヒントの1つとして、SDGsの動きとソサイエティ5.0の動きの合流を論じています。今回「シン・ニホン」という著書でそのことについて1節をあてて論じています。SDGsは社会運動論的ダイナミズムで、ソサイエティ5.0はテクノロジーのイノベーションのダイナミズムととらえ、この二つが合力となって私たちの生活の諸問題を解決する未来社会を創るヒントになるだろうというのです。
★このことは、和洋九段女子の中3生にすでに起きています。社会運動論的なダイナミズムにつながる、つまり世界を変える動きにつながるのは、PBLというリベラルアーツを学ぶイノベーションを起こしていることでしょうし、テクノロジーのイノベーションのダイナミズムにつながるのは、<SDGsすごろく>を創発するというイノベーションそのものでしょう。
★SDGsの17のグローバルゴールズには、世界に広がる感性症リスクに対応する項目ももちろん組み込まれています。今回の新型コロナウイルスの感染拡大によるパンデミックへの可能性を危惧する世界同時的危機感は、中高生を巻き込む文明や近代の見直しに転換するテコになるかもしれません。その支点に和洋九段女子の中3生は凛として立っているのではないでしょうか。
★そして、これは安宅さんははっきりとは言ってはいないのですが、それでも、どうも今までの近代化路線の手なりの対応策では未来は創れないという確信には到っているようです。このことは、今までのように警鐘を受けいれる方法とは違うということです。
★新世代のドイツの哲学者マルクス・ガブリエル(40歳)は、そのことをもっと明快に構想しています。今までと同じように警鐘を近代化路線の枠組みの中で受け入れていても、世界史の針が巻き戻るだけで、未来を創ることなどできないのだと。だから、今までの枠組み内の老朽化・形骸化・物象化された思考様式を捨てて、新しい思考様式を構想しようというわけです。
★その思考様式が新しい存在の在り方を創り出す、つまり未来を創り出します。そして、和洋九段女子の中3生の活動は、この新しい存在の在り方そのものを形作っています。
★マルクス・ガブリエルやカンタン・メイヤスーのようなせ新世代の気鋭の哲学者が描く世界は、あらゆるシーンが変わります。主体性という概念自身も変わります。そういえば、和洋九段女子の中3生の主体性は、コレクティブイなあるいはコネクティブな主体性で、自分ひとりの脳神経系内で化学反応を起こしている感じとはだいぶ違います。
★また、主体が対象とする客体も、流動的で複雑系です。今までとは違う主体的・対話的という感覚が生まれています。しかも学びも既存の知識の適用では収まり切れません。世界の矛盾についてクリティカルシンキングを発動し、その矛盾を解決する創造的思考を稼働します。問題解決といった場合、たいていは条件の欠如を埋めることを意味します。それが今までの近代のやりかたです。安宅さんが「手なり」というのはそういうことでしょう。
★なぜそんなやりかたが続いたのか?それは、矛盾を解決されてしまえば、近代の枠組みそのものに内在している矛盾が解決してしまい、近代の存在理由がなくなってしまうからです。
★和洋九段女子の中3生が探究しているSDGsは、条件の欠如や不足のみならず、この近代の矛盾を追い詰める活動だったのです。近代を成り立たせている矛盾=格差・ジェンダーギャップ・マイノリティの排除などを生み出す根源的問題の追撃です。
★近代化路線がそこは外部の問題として境界線を引いてあたかも問題はないかのごとく取り扱っていた空間です。ところが、その境界線を越境すると、そこに矛盾の波が洪水のようにあふれ出てくるのです。
★それを見て見ぬふりをしてきた近代人とそれを見て痛みを共有して、自分は何をするべきか、何ができるのか、そもそも私は何ものか、もはや近代人ではなく新しい人間であるとなっていくのでしょう。新しい人間の表象がシステムとして構想される時熟の到来ということでしょう。
★安宅和人さんの気づきやそれをもっと先鋭化し構想力に転換しているマルクス・ガブリエルのような哲学者らの登場と和洋九段女子の中3生のような活動が、互いに会ったこともないのに、共振共感の輪を拡大している時代がやってきているということなのです。そして、それに気づかなければ世界史の針がまたあの独裁者を生んだ時に巻き戻るぞと新型コロナウィルスは警鐘を鳴らしているのかもしれません。
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