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2020年2月21日 (金)

首都圏模試「思考コード」2021(4)桜蔭×フェリス(≦聖学院×工学院)→C3思考=システム思考 →自己変容への足場づくり

★今年の桜蔭の国語の問題は相変わらずB2領域とB3領域の問題が多く、全体の75%も占めていました。このような問題を思考できてしまう生徒が入学するのですから驚きです。

★また今年のフェリスの国語も相変わらずC3領域の200字問題を出題していました。こちらはこの問題が仮にできなくても合格するので、もったいないような気もしますが、フェリスに挑戦する生徒は、事前準備の段階でC3領域の問題を効率よく飛ばすということはしませんから、C3領域の思考ができる生徒が入学しているということはさらに驚きです。

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★桜蔭は、角幡唯介さんの作品から素材文を出題していました。ノンフィクション作家で有名な探検家です。角幡さんの探検は、まさに探究の学びのイメージそのものです。

★また、フェリスは阿部勤也さんの作品から素材文を出題していました。暗黒の中世ヨーロッパを憧れの中世ヨーロッパに転換した偉大な歴史家です。

★共通点は、自然や歴史とできるだけ直接コミュニケーションをとる態度です。角幡さんは、<GPS>を頼り人間の力の限界を乗り越える探検をしているのですが、ふと「もどかしく」感じるわけです。自分が立ち臨む自然、自分にたちはだかる自然と自分の身体全体でコミュニケーションするのではなく、GPSという現代の科学の武器を介在してコミュニケーションしていて、何か見失っているのではないか、いったいそれは何かがわからなくなているのではないかと。

★阿部勤也さんは近代から現代にかけて科学がつくってきた均質な空間という<常識>を媒介に、古代人や中世の人びとの生活をみては理解ができないのだと。その<常識>を捨てる根拠を歴史的なものの見方や考え方によって検証していくのだと。

★この点について、桜蔭は100字以上で説明する問題が立て続けに出題されます。文章の要約スキルでできてしまうので、B軸思考で解けますが、逆コペルニクス的転回をテーマにしているために、そのマイナス発想の転換の理解は難問です。

★科学の力でバラ色になったけれど、失ったものも大きい。科学は暗黒の闇の時代をコペルニクス的転回によって転換したはずなのに、さらにコペルニクス転回によって、大事なものまで失ってしまったのだというパラドクスの推理は要約スキルだけではわけもわからず書いているだけとなるでしょう。

★矛盾や逆説に関する事例収集やそのなぞ解きをどうするか、ひごろの学びの中で行っていなければ、何がテーマかあるいはトピックなのか、あるいはそもそも角幡さんの存在価値への問いなのかとらえきれなかったでしょう。

★フェリスの方はストレートに、C3領域の問いを投げてきました。あなたが変えたい<常識>について説明し、それを変えたら何が変わるのか?あなたが変わるのか?社会が変わるのか?で、どう変わるのか?という問いを投げたのです。

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★東大の帰国生問題でも出題されるような問いですね。もちろん、字数が違いますから、レベルが同じだということを言っているのではないのです。C3思考の構えが大切にされているということを言いたかったのです。

★いずれにしても、桜蔭やフェリスの入試を受けようと準備する生徒は、C3思考を身につける学びを行っているわけです。ただ、桜蔭の場合は、本番では限定的な情報の枠内で考えるので、B2やB3の領域のB軸思考で解決するのです。フェリスは、非限定的な情報で自由にのびのびと自分の意見とその根拠を展開すればよいのです。そういえば、フェリスの教育理念はman for othersだけではなく、自由もありましたね。

★さて、問題はC3思考をどうやって身につけるのでしょうか。ここはまだきちんと解き明かしている先生方はいないかもしれません。塾の先生方は秘伝になっているかもしれません。学校の先生方は、思考コードまでは理解しますが、思考スキルはなかなかもちだしません。思考スキルと解法テクニックは同じだとみなし、自分の授業は受験勉強のためのものではなくもっと教養が豊かな授業だということでしょう。

★しかし、もともとリベラルアーツは思考スキルの鍛錬です。このリベラルアーツの思考スキルが開発された長い歴史の中で、日本の大学受験システムは念頭に置かれていなかったのです。それが明治にはいってきたとき、受験システムの中に取り込まれ、思考スキルが解法テクニックにすり替えられたいっただけのことです。だから、心ある塾講師は受験勉強で合格力以上の未来への資質能力を養えるのだというわけです。

★本末転倒なわけですが、そこを批判するのではなく、逆コペルニクス的転回をもう一度正のコペルニクス的転回で切り返してしまえばよいわけです。それがおそらく首都圏模試センターの<思考コード>の野望ででしょう。受験市場を未来を創るC軸思考の市場に転換してしまうということでしょうか。<新しい学びの経験>の市場こそ、内生的成長論の新しい経済社会の基盤です。

★ともあれ、このリベラルアーツの思考スキルを現代化して、見事に世界の痛みを掘り起こし、SDGsの動きに世界を巻き込んだ思考システムがあります。それが「成長の限界」を書いたドネラ・メドウズさんらのチームです。彼女は2001年に亡くなりましたが、多くの人がその意志を継ぎました。継承した人の中にはピーター・センゲというMITの教授もいますが、彼らの周りで生まれているのが、今日本でもなんとか現場に広めたいというPBLで扱われる<システム思考>です。

★そして、正のコペルニクス的転回の発想を持っている角幡さんや阿部さんのような人々の探究的な思考の構えには、この<システム思考>が潜在的に展開されています。暗黙知として回転しているのです。ですから、この潜在的な<システム思考>を言語化したり可視化したりして多くの生徒と共有することこそ日本の未来は正のコペルニクス的転回のウネリを生み出すことになります。

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★たとえば、上記のように桜蔭とフェリスの問いを比較して抽象化してみると、システム思考の片鱗が見えます。桜蔭だけあるいはフェリスだけの受験準備だと、ここに飛べません。ですから、両方の素材を生徒と読みながら、生徒自身が両方の全く違う人が書いたものの関係を考える学びをやるわけです。

★その時大事なことは、決して私たちが教えないということです。システム思考は、子供たち一人ひとりが、自分の内側から生みだすことが大事なのです。もちろん、その環境というか足場やツールが<思考コード>だったり<思考スキル>だったりはしますが、実はこのコードやスキルもいきなりは教えないのです。子供たちの内側からでてくるのを待つのです。<思考コード>や<思考スキル>は、人間の脳神経系身体循環全体に埋め込まれているものです。そのポテンシャルがカタチになって現れるのを待つことが大事です。序破急のリズムで。

★国際バカロレアのTOKや、ランゲージの学びは、結局同じことをやっています。でも、このIBのプログラムも限られた子供たちが体験できるだけです。

★対話や思考は、自由が前提ですから、本来すべての子どもたちが共有しているはずです。高偏差値の生徒だけが身に着けるでは未来は正のコペルニクス的転回にならないでしょう。

★ここに果敢に挑戦しているのが、聖学院と工学院のPBLや思考力入試なのです。両校では、偏差値にかかわらず、6年間の中で自分の存在価値を輝かせる潜在的才能を開花させ羽ばたいています。桜蔭やフェリスは思考コードを学内で使っているわけではないので、生徒1人ひとりが頑張っていますが、聖学院や工学院のように、学校がまるごと1人ひとりが自らの存在価値を自ら輝かせる才能開花の環境づくり=自己変容への足場づくりをしているわけではないでしょう。

★C軸思考=システム思考が、すべての子供たちに共有されるためには、深イイ問題を作るのに教師が悩んで解かせるだけではなく、悩む過程をシステム思考で言語化し、生徒と共有し、その深イイ問いを生徒自身が発せられるようになることがポイントです。

★<思考コード>と<思考スキル>の言語化あるいは可視化は、まずその第一歩なのです。

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