京都のノートルダム 動き出す(7)ノートルダム女学院中高の内なる通奏低音が奏でる新しい響き。
★ノートルダム女学院の精神的ルーツは、1833年にドイツバイエルン地方に創設された「ノートルダム教育修道女会」。創設者マザーテレジア・ゲルハルティンガーの進取の気性に富んだ精神にあるというのは、このシリーズで繰り返し述べてきました。100年周期で起こる産業革命・市民革命のパラドクスを解決する教育イノベーションをその都度創発してきた「教育修道女会」です。しかも、19世紀初頭から、いやだからこそなのかもしれませんが、女性による修道会です。
★その後、世界へその布教活動は及ぶのですが、京都のノートルダム女学院は、米国のノートルダム教育修道女会が創設しました。これは実に重要な意味を持っているはずです。というのは、米国というのは、アメリカの政治学者ロナルド・イングルハートらのWorld Values Survey(2010-2014)の調査によると、ポスト産業化時代に入っているにもかかわらず、宗教的な伝統的価値を他の先進諸国に比べると大切にしている国のようです。
★プロテスタントの国なのですが、イギリスや北欧とはまた違います。そんな中でカトリックの修道女会が活躍する意味とは何か?これは追究しなくてはなりません。少なくともそこから通奏低音が響いています。米国の大統領はその多くが米国聖公会出身です。要するにプロテスタント信者が圧倒的なのですが、ケネディ大統領は唯一カトリック信者でした。バイエルン時代は、まだドイツという近代国家が成り立っていなかったのですが、近代国家になってからはドイツもやはりプロテスタント信者が圧倒的です。そんな中で、マザーテレジア・ゲルハルティンガーは、カトリックの修道女会を立ち上げたのです。
★ですから、ミッションスクールとして、あるいはカトリックの学校としての一般的なミッションだけではないある特別な使命を帯びているのかもしれません。いずれにしても、ノートダム教育修道女会は、第一次産業革命の経緯の中でドイツで、第二次産業革命の経緯の中でアメリカで、第三次産業革命の経緯の中で日本でという布教活動広めていったわけです。しかも今、第四次産業革命を迎えようとしている日本社会です。京都のノートルダム女学院の果たす役割はそのルーツから考えてとても重要です。
★いずれにしても、ノートルダム女学院は、そのルーツから言って、進取の気性に富んでいて、「徳と知」を時代の要請に対応して革新的な教育を開発し、産業革命や市民革命の光と影の交錯する中で混迷する子供たちに光の知を渡してきました。
★それは、真理を追究する目を覆い隠そうとするさまざまな問題を払拭し、真理を探究し続ける自由をサポートすることによってでしょう。その点に関しては、時代を超えて同じだったでしょう。「真理は自由にする」というのは聖書の言葉です。
★最近、知識を憶えて理解する思考だけではなく、論理的・批判的・創造的思考~国際バカロレアやCLILのプログラムでは「高次思考」と呼ばれている思考の種類です~が、希求され始めています。しかし、ノートルダム女学院は、ルーツからいっても、ここ数年のチャンレンジからいっても、すでに思考型の授業や教育活動を行ってきました。
★先週のサンデー毎日(2020年3月1日号)にあるように、京大特色入試にチャンレジして合格する生徒もでています。医学部―人間健康科の特色入試における小論文試験は、課題文は英語と日本語の両方が出題されます。それにデータやグラフなど大量の情報も出題されます。それらを読み解き・分析しながら、社会問題を解決する方法を考案し、さらに自分事として何ができるのか、その貢献の社会的インパクトはどれくらいあるのかを問うてきます。「私とは何者か。私たちとは何者か。世界とは何者か。」根源的な存在論的問題が突き付けられるのです。
★これは、教科書を憶えて問題集を大量に解いて学ぶだけでは合格できませんね。そういう意味ではノートルダム女学院の思考型の授業や体験重視の教育活動は、役に立つでしょう。
★しかし、そんな良質の教育を行っているにもかかわらず、世間には気づかれていないというのは、人が変われば世界が変わるというマザーテレジア・ゲルハルティンガーの本意ではないでしょう。そこで、昨年夏から、教師の潜在的能力や暗黙知でなされている授業の質を見える化するリサーチが始まりました。
★そして、その過程で、先生方が対話をさらに深め、互いにつながるものがあるのではないかという新しい響きが奏でられ始めました。各人のクオリティがつながるとき、あるいは共振する時、相乗効果が生まれます。その響きはやがて世に広がるでしょう。
★そのような動きは、私たちが直面している教育の問題もつながっているSDGsがかかげるグローバルゴールズの解決を超えてさらに先に進める原動力になると私は感じています。ですから、このことを共有することは大切な時代だと思っているのです。(つづく)
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