首都圏模試「思考コード」2021(5)小まとめ
★私たちは、子供であれ大人であれ、経験から学ぶのです。経験の中に浸り脳神経系身体全体がその経験を創り出す他者や自然と共感する時、共有できる知識をつくり感動的な情感を生みだし新たな課題に気づくのです。その共感が経験を生み出す状況に偏りがあったりすると、不十分な知識だったりネガティブな情感が生まれるわけです。そして課題に気づかないのです。
★それゆえ、経験の最中にリサーチしたり、対話したり、議論したり、記録したり、編集したり、公開プレゼンをしたりするわけですね。そしてリフレクションをする。まさに人生はPBLなのですが、意外とそれに気づいていないのが私たちです。
★この経験から知識や情感、課題に気づく過程。そして新しい経験に適用して、ズレたら、リファインしていきながら子供が成長するのを発見したのがピアジェです。20世紀の偉大な発見、「子供の発見」と言われる所以です。
★それから、私たちと同じように未開人も経験を知識につなげていく知をもっているし、私たちが近代化の過程で忘れてしまった自然と社会と精神の循環の知恵を野生の思考として持っていることを発見したのが文化人類学者のクロード・レヴィ・ストロースです。20世紀の2つ目の発見「未開人の発見」ですね。
★そして、精神の構造を発見したのがフロイトやユングです。無意識の中に潜在的な創造性があり、それを自我と超自我の葛藤によって爆発させてきた。その爆発がネガティブな方向に行くかポジティブな方向に行くかは、フロイトとユングによって分かれるというのは諸説ありですね。ニーチェや夏目漱石もこの精神の構造を発見していたと言われています。ともあれ、20世紀の3つ目の発見「狂人」です。
★私たちは、これらが象徴するように、結界をはり、隔離してきた歴史があるし、それが今でもときどき身近なところでも爆発しています。ピアジェ、レヴィ・ストロース、フロイトらはそこを越境して公共的な世界を開こうとしたわけです。
★そしてその分断を生み出す戦略的コミュニケーション行為とそれをつなぐ生活コミュニケーション行為というカテゴリーを発見したのがハーバーマスです。公共的な世界は、戦略的コミュニケーション行為では分断されます。共感的で創造的なコミュニケーションの必要性が問われるのはそういうわけです。20世紀の4つ目の発見は「共感的=創造的コミュニケーション」です。
★さらに、これらを学習理論に変換したのがベンジャミン・ブルームでした。彼の形成的評価やマスタリーラーニングそしてタキソノミーは、第二次世界大戦後の世界の教育やカリキュラムのシステムとして議論を呼び続け、今もまだそれは続いています。国際バカロレアやCEFRは大きな影響を受けています。OECDのコンピテンシー論や昨今のルーブリックの盛隆も私たちの思考コードも同様です。5つめの発見は「タキソノミー」でしょう。
★これら5つの関数関係のパラメーターによって、様々なマーケティングや組織論、人材論が展開してきました。しかし、この5つを統合する考え方が1970年代に生まれたのです。それは地球規模の危機を救うためのものです。ドネラ・メヅウズさんらによる「システム思考」です。それが、ピーター・センゲらによってダイレクトにPBLにうながっています。
★かくして、私たちは経験から学んできたわけですが、その経験は実は第1の経験と第2の経験に分かれます。本当はもっと分かれるでしょうが、今は2つに分けておきましょう。たとえば、自然の中で戯れるのは第1経験です。実際の経験です。読書は疑似体験を含みますから第2経験です。第1経験を再構築した情報による経験ですね。
★<思考コード>と学びの関係をこれまで4回にわたって書いてきましたが、これはすべて第2の経験の話です。ですから、学びは思考コードをまだグーグルマップの上を探るように扱ってきました。あるいはシミュレーターマシンに乗って学んできたとたとえてもよいかもしれません。
★したがって、この段階では、自己変容の足場はできても、子供たちが一斉に自己変容するかどうかはわかりません。やはり第1の経験が必要です。
★しかし、だから第2経験は机上の空論だと紋切り型の批判をするつもりは毛頭ないのです。というのは、私たちは、あらゆる経験をすることはできないのです。まして他者と共に歩くことはできても、他者の経験を同じように経験することはできないのです。死の経験から直接学ぶことができないのはもっともわかりやすい例ですね。
★それゆえ、私たちの生活は、第2経験によって彩られている方が多いのです。したがって、大事なことは第1経験と第2経験のシナジー効果です。それにはどうしたらよいのか。実は私たちは、第1経験をするにも、第2経験をするにも、必ず<媒介項>を必要としています。直接第1の経験をしていながら、直接知識や情感、気づきを体得できないのです。<媒介項>が必要なのです。それゆえ、もどかしいし見失うことも忘却していることも多いし、エラーも多いのです。
★そのため、その<媒介項>の精度を上げるのが実は学びや探究の賜物で、そこを担うのがクリティカルシンキングでもあります。
★というわけで、<システム思考>こそがその<媒介項>なのです。システム思考がリフレクション機能を色々なところに埋め込んでいるのは、この<媒介項>の精度を上げるためです。
★むしろ私たちの学びは、この<媒介項>を磨き上げアップデートし、そこから汲み取ることが尽きない知恵を掘り当てているのかもしれません。そして探究というのは、シミュレーションマシーンから飛び出てスリリングな第1の経験の中に飛んだり、ワープしたり、ダイブしたりすることなのかもしれません。
★というわけで、中学入試での学びが、今のところもっとも<媒介項>である<システム思考>を磨き上げている場になっているのです。受験システムに組み込まれているのが日本の教育の在り方らしいですよね。であるならば、ここをもっと拡張したり開いたりして、<システム思考>の学びの場にしてしまえばよいのです。
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