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2020年1月14日 (火)

シンポジウム「探究的学びと高大接続」の感想

★昨日順天堂大学A棟講堂で、シンポジウム「探究的学びと高大接続」が開催されました。溝上慎一桐蔭理事長と日野田直彦武蔵野大校長が登壇するということ、文科省と森上教育研究所が後援し、NHKがEテレ「TVシンポジウム」で放送するということもあって、出かけてみました。

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★というのも、高校から始まる「総合的な探究の時間」を文科省や経産省はどのあたりを目標にしているのか雰囲気がわかると思ったからです。NHKも組んでいるし、良識派の森上教育研究所も後援していますから、突飛なアイデアというより、まだ「探究」の授業がイメージできない教師や保護者にモデルとして提示するというのが、このシンポジウムのねらいにあるでしょうから。

★しかしながら、テレビ番組にするのだから、レベルが低いものは困るという配慮もあったのでしょう。「探究」をこれから本格的に取り組みたいという教師にとっては、そのねらいは目的を達成したし、教育の変化に関心がある保護者にとってもイメージはわかりやすく伝わったと思いますが、学校経営者にとっては、どれも難しかったと思います。

★というのも、武蔵の例も、武蔵野大学の例も、桐蔭学園の例も、北原さん(子どもの理科離れをなくす会代表)がコーディネートしている明法の例も、学校経営者にとって、学校全体を考えたり、カリキュラムマネジメント全体を考えると、どれもハードルが高いものばかりだったのです。

★武蔵の例は、武蔵という学問的な授業やゼミの伝統がすでにベースになっているので、それをすぐに真似することはできないでしょう。武蔵野大学の魅力的な外部団体と現場の教師の協働活動も、コストと人材育成のことを考えれば、なかなかハードルが高いわけです。

★桐蔭学園の例は、すべての教科の授業に「習得・活用・探究」という学びのループを埋め込み実施するというものです。ですから北原さんのような高度な課題解決型の探究を目的にしていないわけですが、すべての教科の授業にという発想は、組織的な壁があり、すべての学校でいますぐ行うのは難しいですね。

★北原さんの高校から大学へ接続するのではなく、大学から高校へ接続する学術的な基礎研究を前提にするプログラムは、魅力的だし、AP的発想だから実におもしろいのですが、どこの学校でもすぐに真似ができるわけではありません。

★佼成学園の理科の探究授業と佼成学園女子のグローバルな探究の例もビデオで流されました。登壇者はすばらしいといいつつ結構ここは違うと言っていましたが、おそらくこの両校の取り組みが最も導入しやすいモデルだったでしょう。

★川添健教授(慶応SFCの総合政策部前学部長)は、今回の高大接続改革にあたって、今の高校の授業を変えなければならないという前提で立ち上がったのが探究で、そもそもその前提でよいのかねと半分いいかけて、NHKの番組になるということを意識してかすぐに穏やかに、どのモデルもすばらしいと切りかえしていました。その刹那がおもしろかったですね。番組ではどう編集されるのでしょう。

★川添教授のような改革の枠海の設定を問い返して、探究のプロトタイプを作成しているということをわざわざ表明する登壇者が1人もいなかったのは、彼らがそれを考えていないということではなくて、文科省、経産省、NHKのねらいという前提があるからやむを得なったということかもしれませんね。

★いずれにしても、探究とかPBLがオプションで行われるにしても、各教科の授業全てで行わるにしても、こんなに広がったのだという雰囲気は、2011年に21世紀型教育機構(当時21世紀型教育を創る会)を発足した当時の事を考えれば、隔世の感があります。明らかに現場も大きく変化しているのです。

★そして、同時に、同機構の加盟校のPBLや探究活動は、今回拝見した例に比べ、ずいぶんクオリティも高くハイレベルだなと改めて確認できました。もちろん、これは比較優位の事をいいたいのではないのです。なぜ高くなるかというと、今の日本の大学に合わせて高大接続を考えると、脱工業化時代に突入できないまま日本の国力が下がるのは目に見えています。

★そこをなんとかするためにはPBLや探究の活動は世界的水準をもとめなくてはならないし、スタンフォードやMITを崇め奉っていてもしかたがないでしょう。世界中の情報を収集し、フィールドワークをし、世界にインパクトを与えるソフトパワーがあふれでる新しい学びの経験に挑戦するしかないでしょう。

★もっとも、日野田校長は、こういう言い方に対し、もっとカジュアルにワクワクするようなやり方でいきなはれと言うでしょうね。まあ、それは生き方の違いだし、価値観の違いですからどちらでもいいでしょう。Hard Funで進みたいし、学術的なコトを大学に任せる時代も終わったでしょうから、GAFAの風も10年前とはだいぶ違うでしょう。

★いずれにしても、新しいステージが急務であることを改めて確認できる機会をいただくことができました。

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