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2020年1月 9日 (木)

自由と市場と組織と国家(16)創造主義志向の意志が生まれる:工学院の田中歩先生チーム・麻布・八雲・首都圏模試④

★開成と麻布の偏差値合格分布をみると、開成に比べ麻布はバラツキがあるということは何を意味しているのか?それをタキソノミーという切り口で考えていくことで、「思考コード」を創っていったというのが工学院のチーム田中(6年前の当時TOKと呼ばれていた)でした。ブルームのタキソノミーはその後多くの研究者でアレンジされていったので、工学院でも同校の校訓に合わせてアレンジしていました。

★ここでは、首都圏模試センターがアレンジした思考コードのタキソノミーを使います。工学院の思考コードは中学入試問題を分析するものではないのですが、作成経緯の段階で使っていたのは、首都圏模試センターのものに近かったので再現しやすいからです。

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★模擬試験を受けたとき、「A軸思考:知識・理解」の問題の正答率のグラフ、「B軸思考:応用・論理」の問題の正答率のグラフ」、「C軸思考:批判・創造」の問題の正答率のグラフを並べて、そのタイプを表現したのが上記の図です。首都圏模試の思考コードの縦軸はここでは使っていません。

★今では、これは模擬試験のデータで首都圏模試センターは証明できていますが、当時は仮説として立てていました。A・B・C軸思考すべての正答率が高い生徒はやはりいるものです。万能タイプですね。どの学校でも合格するのは当然です。

★しかし、それは首都圏中学受験生の0.3%くらいの話ですから、基本は、開成はABタイプが多く、麻布もABタイプが多いのですが、中にはBCタイプが混じるということです。

★このABタイプこそ20世紀社会の工業化時代で、勝ち組といわれる知の在り方です。正解主義―成果主義の知の象徴です。しかしながら、開成の生徒はピアノを弾く生徒も多いし、弦を奏でる生徒も多いですね。それは家庭層の価値志向の影響です。

★ですから、C軸思考も養われているように見えますが、それはあまり学校教育の影響ではないでしょう。

★ところが、麻布は、開成のようにABタイプも多いのですが(現在麻布が若干困っているのは、ABタイプの中の偏差値の高いのが開成、開成に受からないのが麻布を選択するという偏差値輪切りの指導がなされる傾向。従来は理念や校風で選んでいたのにと)、BCタイプも結構いるのです。

★BCタイプは模擬試験ではA軸で得点がとりにくいし、どうしても模擬試験はA軸問題が多いので、偏差値はそれほど高く出ません。ところが、麻布の過去問を自ら戦略的に学ぶと、合格点をとることができるのです。なぜなら、開成に比べ、A軸問題で難問というのは出題されないし、B軸問題が中心です。これはBCタイプにとっては戦略が立てやすいわけです。

★工業化時代はまずA軸思考を鍛えてからB軸思考を鍛えるという順番でいき、C軸は個人の才能に任せるといことで、そこは開発しないまま終わっていたわけです。ところが、C軸から必要に応じてA軸思考をゲットしていくという順番もあるのです。C軸には批判的思考という論理的思考を前提にしますから、C軸を開発していくと、B軸思考も成長するのです。

★しかし、模擬試験や開成の入試問題では、A軸思考の充実や高確率のB軸思考でなければ、合格できないのです。はいってから、その不足部分を豊かにしていくという機会が選抜試験の段階で奪われてきたのです。それが麻布では、その機会をある程度つくっている思考力型の入試問題を、4科目の中に埋め込んでつくっていたのです。麻布の自由な校風の中で、ABタイプはC軸思考を豊かにし、BCタイプは不足していたA軸思考を豊かにしていけるのです。

★ところが、中学受験業界は2011年ころまで、一般にABタイプかAタイプしか合格できないシステムだったのです。そこに公立中高一貫校の適性検査が中学受験市場に参入してきて、潜在的万能タイプを掘り起こしていったのです。

★このあたりから適性検査型の新タイプ入試というのが誕生し、2013年以降に麻布型の思考力入試を聖学院、工学院が制作しはじめ、今では新タイプ入試が首都圏中学入試では市場拡大をしています。この背景には脱工業化社会への準備というのがもちろんあるわけです。首都圏模試センターの戦略的新市場創出と言ったのも影響したでしょう。

★そうはいっても、工学院が麻布型入試をいきなり作成するわけにはいきません。2科4科のABタイプとAタイプの生徒が入って来てから、C軸思考を育成する新しい学びの環境をつくることにしたわけです。そして、BCタイプの受験生はまだそれほど多く工学院にチャレンジしませんから、Cタイプの受験生に入学の機会を設けました。それが「思考力入試」です。入って来てからは、ICTによってA軸思考を補填するデフォルトモード授業を創っていったのです。

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★このBCタイプとCタイプを比較すると、実は上記のグラフのように、偏差値では麻布合格可能性が低いタイプ、偏差値では工学院合格可能性が低いタイプという違いがはっきりします。これは聖学院の思考力テストでも同じことが言えます。2015年ころから開始したときは、学内外で基礎学力はどうなのだと喧々諤々でしたが、今では、特に聖学院は、Cタイプの生徒が学内の成績トップ層を占めるほどになっています。

★工学院の場合は、ハイブリッドインタークラスといって、もともと偏差値という尺度が眼中にない集団が合流して、大活躍しています。

★それゆえ、チーム田中はCEFR(ハイブリッドインタークラスが最初は中心だった)と思考コードの融合を果たし、C軸思考を開発したり、Cタイプの生徒のICTによるA軸思考をデフォルトモード戦略で豊かにしたり、戦略的カリキュラムデザインを確立していくことになります。

★この脱工業化時代への準備は、大学合格実績を第一義の目的にはしていませんが、結果的に出てしまうのです。それは2021年に21世紀型教育改革1期生が卒業する時に明らかになりますが、すでにプレ改革段階で、つまり2020年の春にその兆しが現れるでしょう。すでに、GLICC主宰鈴木氏がブログ「【速報】工学院の海外大学合格者数躍進!」で記述しています。(つづく)

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