工学院のPBL 生徒自身の「探究」行為をマインドセット①
★今、多くの学校で行われているアクティブラーニングは、「習得」「活用」で終わっています。知識を丸暗記する授業に比べ、各段の変化です。しかしながら、さらに「探究」という活動も埋め込み、「習得」「活用」「探究」という流れでアクティブラーニングを行う学校も出てきました。溝上慎一理事長(前京都大学教授)を中心に桐蔭学園全体で取り組んでいるのは代表的ですね。
★しかし、工学院は、ある意味、この並びを変えています。「探究」「習得」「活用」という並びのPBL授業(アクティブラーニングと呼ばないのはどうやらここらへんにも理由はありそうです)です。この配列の差異がいったい何をもたらすのでしょう。それを少し考えてみましょう。
★こんなことを考えてみたいという刺激を受けたのは、工学院の保健体育と家庭科の先生方が連携して作成したセルフエンパワメントプログラム(自分の器を広げるとかパワーアップ駅伝とか呼ばれてもいます)の開発のお披露目に立ち会ったからです。
★やがては、学内全体で共有されるのでしょうが、今はTGPチーム(別名「チーム田中」)で体験・検証・アップデートがなされています。
★このチームは、昨年各メンバーの授業リサーチをしたあとチーム全員でその授業の分析をスクライビング手法で行ってきました。メンバーはいろいろな教科担当者なので、そのスクライビングを通して議論や対話は、自ずと教科横断的になり、互いに思いもよらない気づきや発見をし、授業をアップデートしていきました。
★その繰り返しが、おそらくシンプルにプロトタイプとリファインのループとして授業デザインのマインドセットになっていったのだと思います。ここまで来ると、教務主任の田中歩先生は、教科担当のPBL授業の次のステージである授業の連携デザインができるタイミングが来たのではないかと感じたそうです。
★そこで、その旨をチームメンバーに伝えると、保険体育の先生方と家庭科の先生が手を挙げたということです。高2のグローバルプログラム(他校の修学旅行に相当するが、コンセプトが全く違う)、中学入試、高校入試、そして大学入試に重なるように突入しているこの時期に、時間の合間を縫って対話をしたのでしょう。
★田中歩先生にとっては、この「対話」の行為が日常化することが、実は大切です。「対話」といっても世の中には、「哲学対話」や「オープンダイアローグ」、IBの「TOK」という専門的なものがあります。田中先生にとっては、もちろん、これらの「対話」のメソッドと共通点はありますが、専門家ではなく、誰もができる共感的コミュニケーションが生成される柔らかい「対話」を示唆していると思われます。
★いずれにしても「対話」は「会話」とは違い、共通のテーマについて多角的に思考し、話し合って、そのテーマについて深さと広がりを拡散し収束していきます。そのテーマが哲学的領域に結びついていくようにファシリテートする専門家がいるのが「哲学的対話」だし、心の平安を生み出すようにカウンセラーがファシリテートしていくのが「オープンダイアローグ」だし、多様な学問的な領域からアプローチして問題の問題性を明らかにしていくサポートをするIB教師がいるのが「TOK」です。
★しかし、そういうタイトルがないとなかなかできない対話ではなく、ナチュラルに誰もが共有できる「対話」を目指しているのが田中歩先生です。
★工学院は日本初のケンブリッジ・イングリッシュ・スクールです。そのテキストや発想を田中歩先生も推進した一人ですから、その発想はイギリスのコモンセンスに近いものがあります。「対話」は市民の財産です。イギリスは、市民革命先進国で、ディスカッションは表現の自由として、市民全員が獲得した自由権なんですね。
★資格というタイトルにこだわる独仏や北欧、米国とはちょっと文化が違うようです。ナチュラルなコモンセンスを共感的なコミュニケーションで生成し続ける。それがたぶん工学院の対話なんです。
★工学院の系譜をたどると、実はそのルーツはイギリスであったりもします。しかも、ジャパノロジーの影響も受け入れたアールヌーボーや19世紀末の美術に影響を受けた若きイギリス人建築家ジョサイア・コンドルの薫陶を受けた日本第一号の建築士がかかわった学校です。
★このへんは、建築や芸術に造詣が深い平方校長が6年前に就任したときによく語っていたことです。私学の創設時の息吹というのはその学校の文化としてこんなに脈々と続いているのかと感動しました。
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