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2019年12月21日 (土)

<新しい学びの経験>を創る教育改革が現場で起こらざるを得ない3つの防壁

★もはやこのままの人材教育では、日本の国力は衰退するばかりであることは周知の事実となってきました。にもかかわらず、<新しい学びの経験>を創り出し内生的成長を果たす人材教育投資を邪魔する動きもまだまだあります。もっとも、日本では、アダム・スミス以来の経済の新しいパラダイムを生みだしたポール・ローマーらの内生的成長論は今ようやく光を浴びはじめたばかりですから、それもやむを得ないでしょう。

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★上の写真、デヴィッド・ウォルシュによる内生的成長論に向かう近代経済学史の本は、2007年に出版されたもの。それが今ようやく邦訳されるのですから、日本の政治経済社会に対する見識がいかに遅れているかがわかります。

★本書を読むと、1930年代に経済学の拠点がイギリスから米国に移ったときに、「数学は言語である」というテーゼが一世を風靡して、今に至るということが書かれていますが、今世界でも注目されているSTEAMと教育界でいわれているのは、当然この流れがはいっていますが、STEAMを教育と政治経済社会の関係で捉える教育関係者が日本ではあまりいないために、なかなか<新しい学びの経験>を創出する教育改革が進まないのは当然といえば、当然なのでしょう。

★日本では未だに英語を教育することが教育改革なわけです。でも世界は、そこはすでに済んでいます。多言語から出発できてしまっているのです。日本はまだ母語が大事だとか愚かなことを言っている人もいます。もちろん、母語が大事なのは当たり前です。

★世界でも母語教育は当たり前です。フィンランドなどでは、多様な民族が学んでいますが、公教育でたとえば、日本人が一人でもいれば、その子のために日本語の講座が用意されます。母語の環境も作りながら、フィンランド語や英語を学んでいくわけです。

★だいたい言語の問題は、世界では、戦争と平和の大きな問題であり、命がけの問題です。今の日本では、受験では日本語で考えるのだから、母語である日本語が大事だなどという、グローバルイシューから見れば、何を言っているのかわからない低い見識の理屈がまかり通ています。とても、世界市民と協働してやっていける見識はないのではないかと驚いてしまいます。

★母語も英語もやるんですよ、しかし、そのうえで次に進まないといけない時代なんです。日本が孤立して生きていけるのであれば、それでよいかもしれませんが、すでに自給率も低く、世界との交易が途絶えれば、日本人は生きて行けません。

★ともあれ、世界は知識を大事にしていますが、その知識は新しい知識を創ることを意味し、既存の知識をどれだけ記憶するかということではないのです。そして、アイデアを重視します。アイデアは思い付きから始まり、実現するまでに成長していきますが、日本では、思い付きはダメだの一言で、イノベーションへの芽を摘んでしまいます。対話も議論もないからそうなるのですね。

★経済成長は、新しい知識を創れる人材教育、アイデアを拡散できる人材教育、イノベーションを起こせる人材教育が必須です。そのために<新しい学びの経験>を無限に創っていくのです。ただ、自由な雰囲気だけではそうはなりません。自由な雰囲気とプログラムが必要です。

★そこで、日本は、学校教育法を改正し、学力の3要素まで条文に刻み込んだのです。法律で学力とは何かを決めなければ機能しない国であることに驚きはしますが、心ある方々が仕掛けたのでしょう。

★学力の3要素とは、いまでは当たり前になっている「知識・技能」「思考力・判断力・表現力など」「主体的に学びに向かう態度」ですが、ここに、教育改革を阻止する保守勢力に対し、防壁を3重にして、なんとか教育改革を前に進めていこうとしたのでしょう。

★この3要素中で、まずやらないという抵抗をうけるのが、「主体的に学びに向かう態度」の評価です。評価をしないのですから、口では「主体性」は大事だと言いながら、それを育てる学びのプログラムは創らないのです。これによって、新しい知識・アイデア・イノベーションを創る回路は一つ消えてしまします。

★しかし、ここをやろうとする学校も出てきますから、なんとか新しい知識・アイデア・イノベーションを創る道は細々と続くのです。これが第一の防壁です。

★いずれにしても第一の防壁は90%は保守勢力に破壊されてしまうでしょう。それでも「思考力・判断力・表現力など」はなんとか保守勢力もやるでしょう。しかし、思考力と言っても、論理的思考力のお話であって、批判的思考と創造的思考は評価できないとしてやらないところがほとんどでしょう。かくしてこの第二の防壁も60%は崩されます。

★しかし、密かに判断力と表現力が盛り込まれています。これは、たぶんわからないまま、論理的思考力と相まってやることになります。保守勢力がわからないままやることによって、防壁の自然回復が生まれる仕掛けです。というのも、判断力と表現力は実はアートの領域もあります。ICTと数学は論理的思考の枠内でやりますから、これにアートが加われば、無意識のうちにSTEAMの基盤はできていくのです。100%自然回復することはできませんが、50%までは回復し、なんとか持続可能にすることはできるでしょう。

★そして、「知識・技能」というのが第三の防壁です。これもまた、保守勢力は、「知識」をICTなどの「技能」によって依然として定着だとか沢山記憶するという作業に集中させるでしょう。しかしながら、この「技能」こそ無意識のうちに潜ませるアートの真骨頂なのです。

★アーティストは、新しい美術作品は新しい技術を自ら発見・開発して挑みます。美学という哲学的素養とテクネ―としての技術はアートでは表裏一体なのです。あのパルテノン神殿は芸術的価値はもちろん高いですが、建築学的技術、工学的技術、石材という知識などテクネーの部分がなければ存在しません。

★このアーティストの知を美術館に陳列して閉じ込めているのが、従来の日本の教育でした。欧米の工学系の大学は、学部の中に芸術学部が併存しているのに、日本ではそんな工学系の大学はないですよね。

★しかし、学校教育法は、第三の防壁として「知識・技能」という誰しも疑わず、すんなり授業で実施する学力を盛り込んだのです。これにICTが結びつけば、なんとかSTEAMの教育の基礎はできるのです。それでも、知識を暗記させるだけで、ICTを使わないところも出てくるでしょうが、生徒の方がICTをどんどん使っていくでしょう。

★こうして、満身創痍になりながらも3つの防壁は、保守勢力による教育改革全面阻止を免れることができるでしょう。

★そして、保守勢力は世代との相関が強いですから、あと5年もすれば、その勢力は放っておいても総崩れになるでしょう。

★そのときまで、日本の国力が持ってくれるかはわかりませんが、起死回生の技術革新は、すでに日本では水面下で行われているので、なんとかなるのではないかと希望はあります。もっとも、これとて、資金力にものをいわせ、米国や中国に買収されてしまう可能性の方が大ですが。そうしたら、また新しいイノベーションを起こせばよいのです。そのための<新しい学びの経験>を創る環境を生成し続けましょう。

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