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2019年11月15日 (金)

新しい思考力生成(05)首都圏模試センターの「思考スキル」を麻布の問題にアレンジして使ってみる。

★首都圏模試センターのアクション型思考スキルとシンキング型思考スキルを少しアレンジしながら、麻布の30年以上前の問題を考えてみましょう。麻布は、7000字近い物語一題の出題が伝統なんですが、その年は物語と随筆でした。物語は、立原エリカさんのファンタジックな物語で、あっさり解けるので、あれっと思っていると、800字くらいの随筆で、その随筆のテーマである「今個性的であろうとすることは個性的ではない」について、自分の考えを論述しなさいという問題も出題されていました。100字記述だったか200字記述だったか記憶がとんでいるのですが、骨太の問題だなと感じた記憶は今も新鮮です。

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(この麻布の問題を考える時に活用する思考スキル)

★なんとも、これで、バランスをとるとは、麻布らしいというかそうでないというか微妙でしたが、実際に合格したメンバーに話を聞くと、随筆の方は、意外とできなかったということでした。次の6年生が麻布を受験する準備をするときに、過去問としてこの問題に挑戦した時も、意外と苦しんでいるのに気づきました。今ならどうでしょう。

★当時は思考コードはなかったので、思考スキル(はあったのです)だけで詰めていきました。たいていは、<比較・対照>と<因果関係>、<具体・抽象>、<メタファー>という<置換>といったスキルで、彼らは解いていけるので、今でいうなら、思考コードのB2やB3で取り組めたのです。

★<矛盾・逆説>というスキルも、スキルとしてではなく、心情読解の内容としては彼らは理解ができていました。ですから、この問題も随筆ではありますが、考え方は同じです。矛盾や逆説的な心情の構造をそのまま素直に適用して解いていける生徒ももちろんいましたが、スキルとして形式知化していないので、そこに飛べない生徒もたくさんいました。

★当時は、自己言及やパラドクスの記号論理学的な現代思想は大流行りでした。ラッセルやヴィトゲンシュタイン、ベイトソンの話を盛り込みながら、こういうダブルバインド状態をどうやって解き明かしていくかみんなで議論したのを思い出します。

★クリティカルシンキングとかクリエイティブシンキングという発想は、当時はありませんでした。物語も論理で解けるという信念が、邪魔をしていました。

★生徒はいきなり論理的ではないように見える文に直面して、その信念では、もしかしたら解けないのではないかといきなり躓いた可能性があります。今までみたことのない論理的関係に直面した時、しかもその素材文が800字で情報が少なくて、情報獲得が十分できない場合、多くの場合、自分で推理しながら論理を創造していかなくてはならない問題に慣れておく必要があるとリフレクションしていたのを思い出します。

★いずれにしても、図に書きだしたように、スキルをたくさん活用しなければ、この問題は解決しないので、思考コードでいえばB3ですが、もしあなたの個性論についてさらに書きなさいとなったら、C3になるでしょう。そうでないとしても、パラドクスに気づくには、クリティカルシンキングがあれば、迷わなかったのでしょうが、それでも、論理的につめていって、おかしいと感じればよいわけですから、B3でしょう。

★ただ、自分でパラドクスを発見するとなると、やはりC3ですね。

★記述式や論述式の問題の採点について、世の中騒いでいますが、大学入学共通テストの問題に比べはるかに骨太の麻布の問題の採点が成立するのはなぜでしょう。それは麻布という共同体の基準にしたがって、複数の教師が採点し、議論して合意形成して採点していくからです。

★この共同体のビジョンに基づいて合意形成をしていくというシステムは、たとえば、共立女子の総合型の入試においても存在します。大学入学共通テストでは、この採点システムを構築することはなかなか難しいし、国家の学びの統一基準なんてものは、あっていいと思いますか?ここに合意形成の、そして民主主義のパラドクスが存在するのです。

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