パンドラのパラドクス シノプティコンを生み出すブロックチェーンの最後のエルピスにかける
★功利主義者ベンサムが生み出した幸福を生み出す「監獄」パノプティコン(一望監視装置)は、近代社会の構造のプロトタイプになりました。これについてはミシェル・フーコーが「監獄の誕生」という刑罰の正義の系譜の中で取り扱われ、一気に世に広まった考え方です。
★近代の社会の基礎構造は、ガバナンス構造ですね。ピラミッド型といいます。自由で平等で博愛が等しくメンバーにいきとどくようにコントロールする中心点やあるいは頂点があります。そこが一望監視し、自由や平等や博愛を阻害する要素を修復したり排除したりしています。そして、昨今問題なのは、このガバナンスのチェック機構が非対称性をどうしても払しょくできないことですね。それでも、なんとか第三者機関を作ってやっているわけですが、危機管理ではなく、事の起こる前に防止する策はないか議論は果てしなく続いています。
★大学入試のために日本に戻ってきている帰国生のための小論文ワークショップを行う時に、ここらへんの対話をすると、生活していたお国の事情によるのかもしれませんが、ものすごく敏感な帰国生と意外とスルーしてしまう帰国生と違いがあっておもしろいのですが、究極のパノプティコンは?もちろんメタファーだけれどというと、すぐに反応するのが第二次世界大戦の強制収容所の話です。各国にそれはあったのですが、特にアウシュビッツの話になります。
★強制収容所の想像を絶する凄惨な体験の中で精神科医で心理学者のヴィクトール・フランクルがいかに生きる意味を見つけて生還したかその体験記「夜と霧」が書かれていますが、本書を読んだひとは、このパノプティコン構造を再生産することは決して許されないと思うでしょう。「夜と霧」はナチスの作戦名です。
★帰国生には、この時期は入試間近なので、NHK出版の諸富教授の著書をベースに小論ワークショップを行います。そのときに、岡本裕一朗教授の本も紹介します。ネット社会が相互パノプティコンであるシノプティコンを形成している点を語っています。
★しかし、このシノプティコンは果たしてデストピアなのかユートピアなのかという点は意見の分かれるところです。究極のシノプティコンは、ブロックチェンによるシステム社会の完成ですが、基本はパノプティコンであることに変わりはありません。
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★おもしろいのは、落合陽一氏の考え方ですね。中心と周縁、頂点と階層という構造について、目的と手段という関係に置き換えて話します。ベンサム的な発想があるんですが、この構造をシノプチコンにシフトすることによって、解消するというパラドクスをずっと論じているのです。
★目的と手段という関係は、気づかないうちに支配と被支配にすり替えられますから、近代社会の光と影の交錯はこのすり替えを可能にする悪法も法をいかにチェックするかという攻防戦でもあったわけです。合法的にファシズムを生みだした恐ろしい事実を忘れないためにも「夜と霧」という本は大切なのですが、ともあれ歴史の検証の学びはすべての市民にとって重要ですね。
★落合陽一氏は、このパラドクスという難問をわかりやすく目的と手段の二元論で論理的に詰めていきます。そしてシノプチコンにブロックチェーンを登場させるのです。なんと究極の監視社会となるはずなのですが、中心と周縁とか、頂点と階層という関係が、それらをむすんでいるネットワークそのものがブロックチェンになるため、消失します。
★すると、目的と手段という関係も消失します。ということは支配―被支配という関係も消失します。
★なんと、シノプティコンというパンドラの箱が開かれ、この世におびただしい災いがふりまかれるはずなのに、最後は目的と手段の二元論の消失という結果をもたらします。新刊書では、そんなことが書かれているかどうかはわかりません。しかし、すでに新しいルールで動いているということはそういうことでしょう。
★新しいルールはまさにパンドラの箱で、論理的に詰めていくと、災いが拡大するはずなのにその論理は最終的に破綻して、エルピス(希望)が生まれるわけです。つまり、パノプティコンが再構築(Reconstruction)され続けてきたはずなのに、最終的に脱構築(Deconstruction)されてしまうのです。
★あのゲーデルの「不完全性定理」のストーリー版ですね。さすがは、落合陽一氏、高校時代、数学の神童と言われたはずです。
★そして、なんといっても落合氏はアーティストですから、ゲーデル、エッシャー、バッハのあの本の続きを描いているのでしょう。実は、自然と社会と精神とを結ぶ不思議の輪はまだみつかっていないのです。ブロックチェンによって顕在化してくるということでしょうか。
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