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2019年9月30日 (月)

PBLの世界(31)工学院PBLさらなる進化/深化➄最終章

★最初にこう書きました。「工学院のPBL(Project based Learning)は、あることを契機にグンと進化あるいはグググっと深化しました。その契機とは最後の章で語りたいと思います」と。そういうわけで、この進化と深化の契機の話をしたいと思います。私の持論かもしれませんが、PBLが進化/深化するには、その仲間が<学習する組織>という最強で繊細な組織を持続可能にするかどうかにかかっています。これは教師も生徒も同じですから、学級運営も、学習する組織として形成するかどうかは、重要ですね。

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★チーム田中は<学習する組織>として成長し続けています。しかし、最初からそうであったわけではありません。結成された今年の4月から互いの授業をスクライビングして思考コード分析をしながら、PBLのシナリオデザインや思考コードの意義、なんといっても生徒が授業の中でどんな小さなサインをだしているのか、それをどう把握するかなど対話しながら、ダイレクトにはPBLの研修なのですが、徐々にインダイレクトにはPBLを通して人間とは何かを考えていくディープダイビングが始まったのです。

★その契機は、夏みなそれぞれ海外研修などに旅立つ前に、それぞれ空いている自由な時間に田中歩先生と対話する機会を設けたときに最も深くなりました。いつも個人的には田中先生と話しているのでしょうが、今回は集まったメンバーで話し合ったのです。

★前期の総決算としてPBLの技術的な不安について共有するのかと思っていましたが、自分たちが行っていることの同僚や社会へのインパクトの恐れや不安が中心だったと思います。田中歩先生は回答はもちろん出しません。ただ、若い先生方よりというか他校の先生方と比べても外で多くの先生方と勉強会をしているし、海外出張も多いので、外の目からそれぞれの悩みがどのように見られているか情報を提供していくだけでした。

★もちろん、すべてポジティブな価値創造の対話です。

★その場ではモヤ感だけがふくらんだのすが、田中先生は知っていましたし信じていました。夏の経験を通して、このモヤ感は人生の選択のベクトルに凝結することを。

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★私はそのとき、<学習する組織>は、ビジョンの共有、チームワーク、システム思考、自己マスタリーなどが必要なのはわかっていましたが、それらは、メンタルモデルの開示と相互尊重ができたとき、すべてが結びついて相乗効果が生まれるのだということを実感しました。

★<対話>をするとき、自分の経験や知識や習得した理論で語り合っているだけでは深まりません。互いのメンタルモデルを開示し相互尊重できるとなぜか対話は深まります。

★経験や知識、理論は対話で必要ですが、メンタルモデルを開示しない鎧にもなります。そして、メンタルモデルを開示しないで対話をしていると、それはビジネスや仕事としての対話で、そこに各人の意志がみえないわけですから、人間関係は表面的なままです。

★もちろん、そんなメンタルモデルを開示することなどプライバシーの侵害だと意思決定するメンタルモデルもあるでしょう。それはそれでありでしょうが、人間関係を大事にする学習する組織をベースにする組織をえらぶとき、それはミスマッチングになります。そのような組織の場合、新しい仲間を採用する側も、応募する側もメンタルモデルの相互尊重ができるかどうかは、もしかしたら大切かもししれません。

★いろいろな肩書でビジネスネットワークを構築するのか、人間の価値で人間関係を創るのか?対話は見た目は言葉を交わしているのですから、その違いがなかなかわかりません。しかし、ディープダイブしたときに、ともに深まりゆく人と、そうでない人がいるのに気づきます。理論的な用語や知識では、ディープダイビングのポジションを語るのですが、自身の意志はそこにはいないという場合があります。

★PBLが嫌いな教師が世の中にいますが、実は技術的な問題よりも、生徒や自分のメンタルモデルを開示して相互尊重するのが怖いのかもしれません。知識や理論を提供するだけでよければその必要はありませんから。

★メンタルモデルは、人それぞれによって違います。授業と対話と論述をPBL授業で展開していくと実はそれぞれが見えてきます。ですから、教師の声掛けは、そのメンタルモデルを傷つけることを回避しようという繊細な感覚を作動させることができます。ところが、そこが見えない時、無頓着な声掛けが、深く傷つけるということがあるのです。

★チーム田中のメンバーのメンタルモデルも様々です。歴史的パースペクティブで意志決定をしようとするメンタルモデル、理想と現実のギャップをプラグマティックに超えようとするメンタルモデル、ペルソナを役割演技の総体で形成しながら意思決定をするメンタルモデル、ものごとを関数的な関係に脱構築して意思決定するメンタルモデル、抑圧的言語や態度を見破り、その状況をいかに対話によって好転させるかをベースに意思決定するメンタルモデル、システム思考的な善なるループと負のループの見極めをしながら意思決定するメンタルモデル、相手の言動を受け入れながら、自らの先入観を打ち砕いて意思決定をするメンタルモデル、歴史を通貫するアンビバレンツを深いところで見出しにもかかわらずそこにある生活の楽しさを見出しながら意思決定をするメンタルモデル、ルーチンを打ち砕く非日常を自ら持ち込むことによって、自分の中に生まれる葛藤をどうシミュレーションするかで意志決定するメンタルモデル、道具とつながる人間の神経や循環器の反応を見抜く内在的価値をベースに意思決定するメンタルモデル、実に多様です。

★そして、一つ言えることは、これらは、人によっては知識や理論として有していて、メンタルモデルを開示しているつもりでも、知識や理論を並べまくっているに過ぎなく、実際にはメンタルモデルは隠されているという場合がありますが、チーム田中にはそれがないということです。つまり、それこそが<学習する組織>の信頼関係の広がりとそれがゆえの安心安全の場の広がりになります。しかし、これはかなりメンタルモデルの開示と相互尊重ができるかどうかというスリリングな背景が併存していて、表層的な安心安全とは違います。

★メンタルモデルの知識や論理はたくさん持っているけれど、実際の自分のメンタルモデルは、日常の損得勘定に気が取られ、損をしないような道徳を振り回す人も世の中にはたくさんいます。道徳は自分を守る正当化ルールですが、倫理は世界を守る正当化ルールです。オルテガがかつて「大衆の反逆」で民主主義の風化を予言しましたが、それは、自分を守る正当化ルールとしての道徳を振りまわす大衆のことを風刺していたのでしょう。しかし、それは今の日本の国についても当てはまらないということはないかもしれません。

★チーム田中は、そのような世の中にあって、生徒たちとどういう活路を開いていくのか挑戦しているのかもしれません。まさかそんな少ない人数で何ができるのか?たしかに量の問題ではそうかもしれません。しかし、田中歩先生のプロトタイプーリファインのDNAを生むことを大切にする発想は、からし種のようにやがて世界を変えていくのではないでしょうか。

そんな思いを込めた「未来を創る教師セミナー」が、10月6日聖学院で行われます。聖学院の児浦先生、工学院の田中歩先生をはじめ、想いを共有する教師との出会いが世界を変えるエナジーを生み出すことを期待しています。

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