対話の世界(2)聖パウロ 松本先生の数学<対話>の挑戦
★聖パウロ学園の松本先生(数学教諭・教務部長)の授業は<対話>が中心のPBL授業。同校の生徒は,3年間じっくりと協力して互いに切磋琢磨していく学びの構えを形成していく。高1の段階では、数学における<対話>は教え合うということが中心。それがどの段階で学び合いにシフトし、最終的には多角的にアプローチする論理を互いに議論し合えるかという成長過程を松本先生はデザインしている。
★教科によっては、言葉や概念についてすぐに多角的にアプローチしながら議論ができるわけでが、やはり<対話>の成長過程は教科特性みたいなものがあるのかもしれない。日本の教育学は、制度的な研究やその社会学的批判は優れているし、教育心理学も盛んだ。しかし、生徒の直接的環境である授業における成長過程の研究はまだまだだ。まして、教科特性の成長過程はほとんど目にしない。
★おそらく研究の素材や情報を収集するが困難ということもあろう。やはり、そういう分野は現場で教師が主体的にアイデアを出して、実践して検証していくことと教師の情報共有のコミュニティが必要だ。21世紀型教育研究センターのセミナーで、いずれ松本先生は実践の報告をするだろう。
★さて、夏期講習中、松本先生は、大学入試問題を1題90分かけて高2の生徒と<対話>した。問題を見るや、生徒はシンプルだけど重い問題ですねと目を輝かしていた。
★最初は個人で考える。中にはぶつぶつ独り言を言っている生徒もいる。図形的アプローチで行くかズバット数式で計算していくかどっちでいくかなあと。
★円の方程式と反比例の方程式と条件が提示されているシンプルな問いだから、すんなり解法パターンをあてはめて解いていくのかと思っていたらそうではなかった。
★そのうち、仲間で議論が始まっていった。そっちのアプローチでいくのかあ、いけるだろうけど、計算がめんどうではないかとか、その発想はなかったなあとか、互いのアプローチの情報交換をしていく。やがて、そっちのほうがシンプルに飛べるなあとなっていく。
★アプローチと計算処理の微妙な相克が入試問題らしいが、松本先生はもちろん、この段階では多角的なアプローチをまず大事にしている。
★議論の後、松本先生がレクチャーをする。それは生徒が活用したアプローチをまず解説した。生徒は、図形によるアプローチ、計算によるアプローチ、相加乗法を活用したアプローチ、線形計画法によるアプローチを活用していたので、それらを全貌した。
★そして、松本先生はこれ以外にほかのアプローチはないかと問いかける。生徒は限界に挑戦することになる。
★なかなかでてこないところで、実は全部で11通りはあるのだというレクチャーを再度して授業は終わるのだが、90分という時間は生徒にとっては実に短かった。
★松本先生は、解き方にばかりこだわると、数学的な直観が養えないという。問題というのは数学的世界の氷山の一角、水面下の数学的世界全体を分析したり統合したりして、直観できる状況にすることで、ようやく発想というものが生まれるというのが松本先生の持論である。
★松本先生は、この直観力がすでにある生徒もいるけれど、それはいわゆる天才で、みんながそうではない。それにみんなが数学者になるわけではない。しかし、数学的直観は創造力を生み出す一つではある。数学以外の分野に将来かかわるときにも役立つでしょうと確かな信念を静かに語った。
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