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2019年9月

2019年9月30日 (月)

PBLの世界(31)工学院PBLさらなる進化/深化➄最終章

★最初にこう書きました。「工学院のPBL(Project based Learning)は、あることを契機にグンと進化あるいはグググっと深化しました。その契機とは最後の章で語りたいと思います」と。そういうわけで、この進化と深化の契機の話をしたいと思います。私の持論かもしれませんが、PBLが進化/深化するには、その仲間が<学習する組織>という最強で繊細な組織を持続可能にするかどうかにかかっています。これは教師も生徒も同じですから、学級運営も、学習する組織として形成するかどうかは、重要ですね。

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★チーム田中は<学習する組織>として成長し続けています。しかし、最初からそうであったわけではありません。結成された今年の4月から互いの授業をスクライビングして思考コード分析をしながら、PBLのシナリオデザインや思考コードの意義、なんといっても生徒が授業の中でどんな小さなサインをだしているのか、それをどう把握するかなど対話しながら、ダイレクトにはPBLの研修なのですが、徐々にインダイレクトにはPBLを通して人間とは何かを考えていくディープダイビングが始まったのです。

★その契機は、夏みなそれぞれ海外研修などに旅立つ前に、それぞれ空いている自由な時間に田中歩先生と対話する機会を設けたときに最も深くなりました。いつも個人的には田中先生と話しているのでしょうが、今回は集まったメンバーで話し合ったのです。

★前期の総決算としてPBLの技術的な不安について共有するのかと思っていましたが、自分たちが行っていることの同僚や社会へのインパクトの恐れや不安が中心だったと思います。田中歩先生は回答はもちろん出しません。ただ、若い先生方よりというか他校の先生方と比べても外で多くの先生方と勉強会をしているし、海外出張も多いので、外の目からそれぞれの悩みがどのように見られているか情報を提供していくだけでした。

★もちろん、すべてポジティブな価値創造の対話です。

★その場ではモヤ感だけがふくらんだのすが、田中先生は知っていましたし信じていました。夏の経験を通して、このモヤ感は人生の選択のベクトルに凝結することを。

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★私はそのとき、<学習する組織>は、ビジョンの共有、チームワーク、システム思考、自己マスタリーなどが必要なのはわかっていましたが、それらは、メンタルモデルの開示と相互尊重ができたとき、すべてが結びついて相乗効果が生まれるのだということを実感しました。

★<対話>をするとき、自分の経験や知識や習得した理論で語り合っているだけでは深まりません。互いのメンタルモデルを開示し相互尊重できるとなぜか対話は深まります。

★経験や知識、理論は対話で必要ですが、メンタルモデルを開示しない鎧にもなります。そして、メンタルモデルを開示しないで対話をしていると、それはビジネスや仕事としての対話で、そこに各人の意志がみえないわけですから、人間関係は表面的なままです。

★もちろん、そんなメンタルモデルを開示することなどプライバシーの侵害だと意思決定するメンタルモデルもあるでしょう。それはそれでありでしょうが、人間関係を大事にする学習する組織をベースにする組織をえらぶとき、それはミスマッチングになります。そのような組織の場合、新しい仲間を採用する側も、応募する側もメンタルモデルの相互尊重ができるかどうかは、もしかしたら大切かもししれません。

★いろいろな肩書でビジネスネットワークを構築するのか、人間の価値で人間関係を創るのか?対話は見た目は言葉を交わしているのですから、その違いがなかなかわかりません。しかし、ディープダイブしたときに、ともに深まりゆく人と、そうでない人がいるのに気づきます。理論的な用語や知識では、ディープダイビングのポジションを語るのですが、自身の意志はそこにはいないという場合があります。

★PBLが嫌いな教師が世の中にいますが、実は技術的な問題よりも、生徒や自分のメンタルモデルを開示して相互尊重するのが怖いのかもしれません。知識や理論を提供するだけでよければその必要はありませんから。

★メンタルモデルは、人それぞれによって違います。授業と対話と論述をPBL授業で展開していくと実はそれぞれが見えてきます。ですから、教師の声掛けは、そのメンタルモデルを傷つけることを回避しようという繊細な感覚を作動させることができます。ところが、そこが見えない時、無頓着な声掛けが、深く傷つけるということがあるのです。

★チーム田中のメンバーのメンタルモデルも様々です。歴史的パースペクティブで意志決定をしようとするメンタルモデル、理想と現実のギャップをプラグマティックに超えようとするメンタルモデル、ペルソナを役割演技の総体で形成しながら意思決定をするメンタルモデル、ものごとを関数的な関係に脱構築して意思決定するメンタルモデル、抑圧的言語や態度を見破り、その状況をいかに対話によって好転させるかをベースに意思決定するメンタルモデル、システム思考的な善なるループと負のループの見極めをしながら意思決定するメンタルモデル、相手の言動を受け入れながら、自らの先入観を打ち砕いて意思決定をするメンタルモデル、歴史を通貫するアンビバレンツを深いところで見出しにもかかわらずそこにある生活の楽しさを見出しながら意思決定をするメンタルモデル、ルーチンを打ち砕く非日常を自ら持ち込むことによって、自分の中に生まれる葛藤をどうシミュレーションするかで意志決定するメンタルモデル、道具とつながる人間の神経や循環器の反応を見抜く内在的価値をベースに意思決定するメンタルモデル、実に多様です。

★そして、一つ言えることは、これらは、人によっては知識や理論として有していて、メンタルモデルを開示しているつもりでも、知識や理論を並べまくっているに過ぎなく、実際にはメンタルモデルは隠されているという場合がありますが、チーム田中にはそれがないということです。つまり、それこそが<学習する組織>の信頼関係の広がりとそれがゆえの安心安全の場の広がりになります。しかし、これはかなりメンタルモデルの開示と相互尊重ができるかどうかというスリリングな背景が併存していて、表層的な安心安全とは違います。

★メンタルモデルの知識や論理はたくさん持っているけれど、実際の自分のメンタルモデルは、日常の損得勘定に気が取られ、損をしないような道徳を振り回す人も世の中にはたくさんいます。道徳は自分を守る正当化ルールですが、倫理は世界を守る正当化ルールです。オルテガがかつて「大衆の反逆」で民主主義の風化を予言しましたが、それは、自分を守る正当化ルールとしての道徳を振りまわす大衆のことを風刺していたのでしょう。しかし、それは今の日本の国についても当てはまらないということはないかもしれません。

★チーム田中は、そのような世の中にあって、生徒たちとどういう活路を開いていくのか挑戦しているのかもしれません。まさかそんな少ない人数で何ができるのか?たしかに量の問題ではそうかもしれません。しかし、田中歩先生のプロトタイプーリファインのDNAを生むことを大切にする発想は、からし種のようにやがて世界を変えていくのではないでしょうか。

そんな思いを込めた「未来を創る教師セミナー」が、10月6日聖学院で行われます。聖学院の児浦先生、工学院の田中歩先生をはじめ、想いを共有する教師との出会いが世界を変えるエナジーを生み出すことを期待しています。

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2019年9月29日 (日)

PBLの世界(30)工学院PBLさらなる進化/深化④

★工学院のチーム田中(TGプロジェクト)は、授業リサーチとスクライビング研修のカップリングを実践しています。メンバー1人ひとりの授業を見学して、見学者が「アクティビティのアイコン分析」「思考コード分析」「思考スキル分析」をA4一枚のPPTシートに即転記していきます。そして、授業終了後の10分間でリフレクションやフィードバックを行います。

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★土曜日に原則行うので、2時からチームメンバーが集結してスクライビング研修を行います。授業実施者が、自分の授業の物語を7分間くらいで語ります。すると同時に、別の仲間がそれをフローチャート化するスクライビングをする役割を演じます。そして、次々とみんなで思考コード分析をしていくわけです。

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★今まで、授業リサーチの分析は、おせっかいにも私がサポートしてきました。スクライビングでチームみんなで分析した結果と私の結果を最終的にはぶつけあって、違いがあれば、さらにそこを詰めていきますが、だいたち一致するようになりました。それゆえ、そろそろチームで共有しようということで、スクライビングで研修でも、私が行うリサーチの中の「アクティビティのアイコン分析」もすることにしました。

★ハーバード流儀のアクティビティタイプだけでは不足していたので、今年の前半で、21世紀型教育研究センターのリーダーの児浦先生と田中歩先生と新しくアイコンを作って補充したものを使いました。

★ファシリテーターの新海先生が、「アクティビティ」のアイコン分析をすることで、直感的に思考コードや思考スキルをPBL授業のデザインに盛り込めるので、使いやすいと語っていました。新海先生は数学教諭でICTや統計学的な発想をするメンタルモデルを有しているので、パッといろいろなものが相関的にあるいは関数的に結びつくというのです。この発想は重要です。PCやプログラミングもアイコン化で加速度的に世界に浸透しました。関数的関係をイメージに置き換えるというのは、実は数学的思考の肝ですね。

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★スクライビング研修は、最初は私がファシリテーターを頼まれていましたが、今では新海先生が行っています。研修は外部の講師と行う時期も必要ですが、やはり最終的には内製的に行っていくことが学習する組織を形成していくのには効果的です。

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★そこらへんの発想は田中歩先生の得意とするところで、若手の教師も生徒も同様に、手を放して抱きしめるカウンセリングマインドというメンタルモデルを自分軸としているわけです。新海先生も田中先生をメンターとして、ファシリテーターを進めていきます。

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★「アクティビティアイコン」分析は、ある意味成功でした。この手ごたえ感は、やはりジョエル先生、ベッキー先生、山口先生の役割は大きいと思います。PBLとかアクティブラーニングとかは、やはり欧米で生まれています。外国人教師の英語の教師が仲間でいるというのは、本場の授業デザインを他の教科の先生が学ぶことができるというわけです。それに、アクティビティという発想は、外国人教師にとっては当たり前の発想です。

★工学院の先生は、数学や理科は、ハイブリッドインタークラスがイマージョン教育を行うので、その時チームティーチングで参加しますし、教職員会議も英語が語られますから、スクライビング研修で英語が飛び交っても違和感はありません。みなICTを持っているので、いざというときは、グーグル翻訳を稼働させます。もっとも山口先生の同時通訳があるので、全く問題ないというのが本当のところですが。

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★かくして、「アクティビティ」分析を今までは授業者と私との間でコミュニケーションをする道具として活用してきたのですが、今回は全体の共通言語となりました。田中歩先生は、これで、授業リサーチも、そろそろ本間さんに頼らずに、自分たちでも行えるし、メンバーでない先輩の先生方の授業リサーチもして、大いに学べる時がきた。それに、次回のスクライビング研修は、海外拠点で帰国生入試を行うために上海に行っていて自分はいないけれど、ファシリテーター新海先生もいるから大いに羽を伸ばしてやって欲しいとエールをおくって会を閉めました。

★つまり、田中歩先生の目論見通り、チーム田中は立派な「学習する組織」として持続可能な歩みを始めたということでしょう。

なお、このPBL授業の「アクティビティアイコン」分析に関心があるかたは、10月6日、聖学院で行われる「第1回未来を創る教師セミナー」にご参加ください。そこで体験ワークショップがあります。聖学院の児浦先生、内田先生、本橋先生と田中歩先生をはじめとする工学院の先生方も参加してワークショップを行います。また、21世紀型教育機構からの団長としてあのカンザキメソッドの神崎先生が総合司会で活躍します。

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PBLの世界(29)工学院PBLさらなる進化/深化③

★山口先生の中3ハイブリッドインタークラスのPBl授業はミニドラマエデュケーションでした。工学院は日本初のケンブリッジイングリッシュスクール認定校ですから、ケンブリッジ出版の<Uncover3>を活用しています。CLIL型の授業ができるような編集になっていて、中3の段階でCEFR基準でB2レベルを目標にしています。わかりやすく英検に換算すると準1級レベルとなります。これは学習指導要領でいうと高校卒業時に到達できたらいいねというほど高いレベルです。

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★しかしながら、山口先生は、ハイブリッドインターの中3の生徒は、この時期、このレベルはもう到達しているので、テキスト以上の授業を展開する必要があるのだと語ります。

★PBL授業の肝はオーセンティック(本格的に実社会で活用できるぐらいの意味)です。ケンブリッジ出版のテキストもここを重視しています。しかし、テキストの限界は、今生徒にとって旬な社会的事象や現象についてビビッドに取り扱うことはそう簡単ではなないということです。リアルタイムな学びは出版物にとっては不得手の領域です。

★そこで、山口先生は、iPadで、生徒が関心を持っているニュースや情報のファクトをリサーチし、それを素材に自分の考えや互いにクリティカルシンキングを発動するスキットをつくり、ロールプレイ型のプレゼンエーションをするいわばミニドラマエデュケーションのアクティビティを創意工夫しています。

★今回は、インタビュアー、レポーター、キャスター、コメンテーターなどの役割演技をするゴールにむかって生徒は取り組んでいました。もちろん、オールインングリッシュです。

★すべてのチームがスキットを完成させるには1時間ではさすがに無理ですが、それでもただ作業をして授業が終わるのではなく、中間報告的に1チームがロールプレイをしました。千葉の台風の打撃のさすまじさについて報告をし、それについて、どうしてこの自然災害や人的災害が起きたのか解決するにはどうしたらよいのかコメンテーターが語っていました。

★山口先生によると、この夏中3のハイブリッドインターは、米国のスペースアンドロケットセンターのSTEAMとチームビルディング、リーダシップを学ぶ研修を2週間体験してきたそうです。他国の生徒と協働する多様性の中の研修だったようで、英語の問題以上に、バックボーンの違う世界の生徒とディスカッションすることの難しさやリーダーシップを発揮することの難しさを感じ、それを乗り越えたいという気づきをえた研修だったということです。

★そういう体験を目の前でみてきた山口先生は、このクラスではプレゼンとディベートだけではなく、もっとグロウスマインドセットができクリティカルシンキングが成長するアクティビティはないか創意工夫することに気づいたそうです。

★その結果ミニドラマエデュケーションを多用するPBLを実践することにしたようです。スペース&ロボティクスキャンプで体験したSTEAMは実は単なるモノ作りではありませんでした。もちろん、ICTは活用しますが、チームワーク、リーダーシップ、アーティスティックな発想も大事にしていました。

★したがって、英語の授業の中で、ミニドラマエデュケーションを行うことはSTEAM教育の一環にも貢献すると山口先生は語ります。なぜ、STEAM的な要素が必要なのですか?生徒はZ世代ですからということでした。なるほどですね。Z世代はグローバルもデジタルも当たり前の世代です。自分の世代でいつまでも見ていてはいけないと実感した瞬間でした。

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PBLの世界(28)工学院PBLさらなる進化/深化②

★臼井先生の中1の国語は、口語文法のPBL(Project based Learning)授業でした。国語の文法ぐらい退屈だった授業はないという記憶しかない私ですが、臼井先生の授業は目からウロコでした。

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★臼井先生は、文法は生活に役にたつ言語のルールだから、それを実感できる授業を展開したいし、実際に文法という言語ルールを知っていると読解にも論述にも大いに役立つという<言語プラグマティズム>なメンタルモデルを有しています。

★生徒1人ひとりにアーティスティックな絵が描かれているカードを配り、その絵の説明を文章化するペアワークを展開していました。文章化する前に、その絵から想起できる単語をできるだけ書き出します。

★次にそれらをペアで交換し、さらに互いに想起する単語を追加していきます。

★絵→知識と想像→文章化→プレゼンというシークエンスでPBL授業が進んでいました。

★臼井先生は、自分たちが学生時代に好奇心を旺盛にしにくい文法のようなテーマは、今の生徒も同じです。ですから、ディスカッションを導入するより、ペアワークでスモールステップの問いを自分で考えその考えをペアで共有していく対話型の展開の方が、集中できると考えています。

★ある意味、誘導的になりがちだですが、<想像>という作用を盛り込むことによって、文法という規則という雰囲気が前面にでてきてしまうテーマの学びも、自由な空間が脳内に創られ、自由度はかなり高くなるのですと。

★本格的な自由度は、絵の言語化です。ただし、二人で想起した単語を全部つないで文章化するので、枠組みの中で自由を生み出さなくてはなりません。しかし、枠を壊す瞬間を感じるシミュレーションが授業の肝だと思いますと臼井先生は語ります。

★なるほどプラグマティックなメンタルモデルの面目躍如ということでしょう。

★とにかく、このアクティビティの多様な創意工夫は、臼井先生のPBL授業の大きな特徴です。

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PBLの世界(27)工学院PBLさらなる進化/深化①

★工学院のPBL(Project based Learning)は、あることを契機にグンと進化あるいはグググっと深化しました。その契機とは最後の章で語りたいと思います。ここでは、まず、そのPBL授業の様子を簡単にご紹介します。

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★柳田先生は、中1の歴史の授業で、東大の社会の一般入試レベルの思考の視点を最初の20分で、問答形式で展開していきます。東大の一般入試のレベルというのは、教科書以上の知識はあまり必要ないのです。知識と知識の関係をアウトプットできることと、時代が異なっても共通の構造を見出して、知識を紡いでいく視点があればよいのです。

★すなわち、共時的な知識の関連と通時的な知識の関連の複眼思考ができればそれでよいのです。それでよいといっても、中1の段階でこれはかなり挑戦的です。それゆえ、生徒によってレベルが高すぎます。すると、そういう生徒は内発的モチベーションを鎮火してしまいます。

★そこで、普通なら外発的モチベーションや抑止力を外から発動するあの見た目、ピシッとした授業が成り立つわけですが、柳田先生は、それをやっては教師として負けだと語ります。あくまでも、内発的モチベーションにこだわります。

★歴史は、ある意味権力関係の変遷史でもありますから、その生徒が好奇心を持っている世界の言葉をふってみます。奈良時代の政権について、授業をしていたので、部活やポケモンの人間関係を「見立て」るわけです。この「見立て」は、カイヨワに言わせればミミクリーであり、アリストテレス以来重視されているリベラルアーツの「ミメーシス」です。つまり、模倣ということですが。

★しかしながら、それだけではまだまだ足りないので、生徒1人ひとりの最近接発達領域を見出し、そこから思考が展開するようにするにはいかにしたら可能か、柳田先生の探究はさらに深まっていきます。自己マスタリーに余念がないわけです。

★そして残りの30分は、いきなり「幸せな社会を君ならどうつくるか、チームで話し合ってプレゼンしてね」とぶち上げます。生徒は、いつものことだという雰囲気です。もちろん、この問題を考える時に条件は提示します。税金や法律について言及すること。そうなると、iPadでリサーチしないわけいにはいきません。

★これは、歴史の学びは過去の事ではなく、ある意味物語を編集してはその事実性の検証をしていく作業であると同時に、その時代の人々にとっては、未来の歴史物語を紡ぐことだという再認識をすることでもあります。過去を見れば事実性ですが、過去から見れば未来性なのです。

★というわけで、その時代その時代の社会を学ぶと同時に今ならどうするのかを考えるわけです。共時性、通時性、未来性の3点で歴史のPBL授業を展開していくのが、奥田先生のPBL授業の特徴でしょう。生徒は、ピータ・センゲ教授のいうシステム思考を拡大していくのです。

★そして、この未来性の視点は、東大の帰国生入試の小論文を考える視点とシンクロします。東大の文Ⅰの帰国生入試問題でもズバリ「幸せな社会をあなたはどうつくっていきますか、論じなさい」と問いかけてきます。

★グローバル教育を推進している工学院のコンセプトは、柳田先生の歴史のPBL授業にも反映しているのです。

★とはいえ、この挑戦は教師も生徒も並大抵のものではありません。同僚がその経過を切り取ってみると、ハラハラドキドキでしょう。しかし、授業は点ではありません。全体の見通しが必要ですね。

★すなわち、その全体の授業のダイナミズムをまるで嵐の海を教師と生徒が乗り越えていくかのように踏ん張るわけです。柳田先生の心の葛藤は凄まじいけれど、同時にそれを乗り越える学問に対するあくなき追究力と生徒の成長を願う心意気がそのつど、その葛藤をポジティブエナジーに転換していきます。

★それができるのは、もちろん、そういうメンタルモデルを持っている柳田先生の資質が大きいですが、チームTGプロジェクトのメンバーであるがゆえということもあります。このチームは要するにチーム田中ですから、教務主任の田中先生や仲間と対話できる機会が一般の学校に比べて多いということも大きな要因でしょう。

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2019年9月27日 (金)

第3回 グローバル教育における国際バカロレア教育の意義。

第3回 グローバル教育における国際バカロレア教育の意義。
                                                   2019年9月27日(金)3時限目

ニュース)グレタ・トゥンベリさんの国連のスピーチ
0)Speed Date:感じたことを語る。
1)グレタ・トゥンベリさんのスピーチと10の学習者像
グレタ・トゥンベリさんのスピーチ全文
IBの10の学習者像

アクティビティ リサーチ×ディスカッション×編集×プレゼン
どの思考スキルを活用したか?

2)10の学習者像が1997年以降に形成されたのはなぜだとあなたは考えるか?
IBの歴史

アクティビティ リサーチ×ディスカッション×編集×プレゼン
どの思考スキルを活用したか?

比較
根拠
カテゴライズ
具体化
抽象化
置換
変換・転換
矛盾・逆説
統合
文法・計算
インプロ(Improvisationは英語のみならず創造的思考において重要な能力)

3)事後リサーチ
「10の学習者像の現代の教育における意義について400字でまとめる」→メールで提出
・パラグラフライティングに従って書く。

5)事前リサーチ
「TOKについてWebリサーチをして、概要をイメージしてきてください。」

6)評価について

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2019年9月26日 (木)

学習する組織(1)アサンプション国際小中高の連携の兆し 新次元のPBLへ

★アサンプション国際小学校は、全体にPBL型授業が浸透しています。先生方1人ひとりが悩みながらも創意工夫して進んできたのですが、ここにきて自然発生的に<学習する組織>が生まれてきました。それぞれの先生方が自分の授業が果たしてPBLになっているのだろうかという疑問をもち、それを蒲生教頭やPBLの第一人者阿弥先生に相談するようになってきたのです。

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(小1のPBL授業:調べ学習のファイナルアクティビティ<プレゼンテーション>をどうするか生徒と話し合う岡市先生)

★蒲生教頭や阿弥先生は、その質問をいっしょに考えます。その場で回答するというより、実際に授業を見学して、どこがPBLになっているのかフィードバックしていくのです。実にオープンマインドな雰囲気で、いつもPBLのビジョンを共有する姿勢がここにはあります。

★そして蒲生先生は、ときどき私に声をかけ、いっしょに授業リサーチをします。たとえば、岡市先生の授業をみながら、互いにどうフィードバックするか、<いままここ>でを重視し、対話します。互いに見方の差異があることに気づきます。そこを他の先生の授業リサーチをするときに重ねていきます。アサンプションのPBLのシステムは、このような視点が多角的になっていけばいくほどクオリティが豊かになっていきます。

★岡市先生のプレゼンテーションを通して、コンピテンシーや非認知能力のサポートをしているのが私たちの中で明快になりました。そのとき丹澤校長も参加し、蒲生先生にフィードバック。認知能力の部分はプレゼンで終わりではなく、その次につながる問いをどうつくるか蒲生教頭、先生方と話し合っておいてくださいねと。フィードバックのフィードバック。ここには蒲生教頭先生の<自己マスタリー>という自己研究が行われているのです。

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(小1のPBL授業:川尻先生の算数の授業もペアワークをベースにして進行していきます)

★川尻先生の算数の授業は3つの数字を使った数式の考え方についてペアで対話するPBL授業を行っていました。解き方というより、考え方を大切にしています。ここに関しては、算数というより、すでに数学的思考の基礎が含まれているので、アサンプション国際中高のPBLのアップデートプロジェクトの座長中井先生が、別のミーティングで小学校に訪れていたので、質問してみました。分析統合の数学的思考の基礎と置換操作の感覚を学ぶ大事なカリキュラムですねと。

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(左から蒲生教頭、丹澤校長、阿弥先生、中井先生。PBLのアップデートと小中高の接続の創発ミーティングのシーン)

★アサンプション国際小学校中学校高等学校のすべての教育と経営のマネジメントしているのは丹澤校長先生。そういうこともあって、小中高の先生方が、カリキュラム上の小中高接続について議論をスタートしています。そのミーティングにちょうど中井先生が訪れていたので、このような議論ができるわけです。

★議論と言っても抽象的にではなく、互いのPBLのケースメソッドをベースに行っていきます。

★かくして、①PBLビジョンの共有継続のための対話、②オープンマインドな学内のチームワーク、③PBLをシステム思考的にデザイン、④自己研鑽としての自己マスタリー、➄各先生のメンタルモデルの尊重(先生方1人ひとりの授業を見学してエンパワーメントとしてのフィードバック)の5つが、自然発生的に生まれています。自然発生的にといっても、実際には蒲生教頭が丁寧に先生方のコミュニケーションネットワークをつなぎ、内発的モチベーションの火を大切にしてきたのです。

★このような5つの要素が関係してできている組織のことを、あのMITのピータ・センゲ教授は<学習する組織>と呼んでいます。各学校がPBLを全面展開するには、この<学習する組織>の形成が重要です。

★小学校でできつつある<学習する組織>と中高のアップデートを目的にしたプロジェクトが結びつき、アサンプション国際小中高全体が<学習する組織>をベースにする動きがでてきました。このダイナミズムが丹澤校長の夢でもありましょう。

★それにしても、<学習する組織>は、バージョンアップやアップデートが当たり前の組織です。小学校の副校長三宅先生は、音楽教諭でもあり、かつ三宅先生の音楽のPBL授業は奥深いのです。

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★音楽室を少し覗いてみると、なんとコパカバーナの合奏が軽やかに爽やかに行われていました。

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★このラテンリズムは、さっきまで流れていた聖歌とは全く違うアップテンポで愛と微笑みが前面にでてきます。こういう曲もアサンプション国際小学校の生徒は授業の中で演奏できるのだと感動しました。もちろん、専科の先生と外部から招いた先生との協働で行われていて、ここにも<学習する組織>の渦がうねっていました。

★しかしながら、三宅副校長と蒲生教頭は、この音楽を脳科学の成果に基づいて、他の教科の授業に結びつけようとしています。詳細はまだ企業秘密だそうです。共学化、21世紀型教育改革、校名変更をして来年は4年目になります。いよいよ高学年の21世紀型教育のカリキュラムになります。PBLのアップデートをする時がきたということです。どう変容するのでしょうか。実に楽しみです。

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2019年9月25日 (水)

2020年からの中学入試(23)STEAM教育を実施している学校を探そう。

★「STEAM」という言葉もかなり浸透してきました。2011年以来、ドイツの国家政策として、インダストリー4.0が広がっていますが、今では第4次産業革命として、一国家の政策を超えて、第1次産業革命以来の歴史的なウネリになっています。「STEAM」は、メルケル首相に影響を与えたシリコンバレーのIT産業界界の人材を育成する教育を推進したオバマ大統領時代に生まれました。最初は「STEM」でしたが。

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★かくして、第4次産業革命とSTEAM教育との間には相関関係ができました。

★日本の教育でも、STEAM教育という言葉は広がっていますし、実際にそれをうたっている学校も多数出てきました。しかしながら、今のところは、総合学習や探究の時間、情報の授業んどに盛り込まれ、プログラミングや3Dプリンターを通してモノ作りとしてのSTEAM教育が主軸です。

★これはこれでもちろん重要です。しかしながら、大切なのは第4次産業革命のデストピアシナリオを回避して、ユートピアにする叡智としてのクリエイティビティを生み出す授業を実現することです。

★各教科の授業でSTEAM教育を行うには、まずはPBL(Project Based Learning)でなければなりません。座学だけでは第4次産業革命の主体者を数多く生み出すことができません。PBLは、未来を創る<新しい学びの経験>です。

★そこに「哲学」的思考が入り込み、ICTの活用が加われば、STEAM教育になります。なぜなら、このPBL×哲学×ICTが、今まで実現できなかった自然と社会と精神の循環社会を生み出す泉になるからです。

★アクセンチュアなどが「サーキュレーター・エコノミー」というアイデアを打ち出していますが、これはまだ自然と社会の繋がりだけで、人間の精神がつながっていません。したがって、まだまだ欲望経済社会の延長です。

★これでは、第4次産業革命はデストピアになるリスクが高いです。グレタ・トゥンヴベリさんに「よくもそんなことができますね!私たちは許しません」と怒られるでしょう。

★第4次産業革命をユートピアにするには、自然と社会と精神の三位一致の循環型社会を生み出す叡智としてのクリエイティビティが必要です。IoTなどの新しいモノ作りも大切ですが、それを作り出すだけではなく、循環型社会を生み出す叡智としてのクリエイティビティも必要です。

★モノ作りSTEAM教育だけではなく、クリエイティビティそのものを生み出すSTEAM教育を授業でやってのけている学校を探すことがこれから重要になってきます。そのような学校はどこにあるのでしょう。受験情報誌ではなかなか記事になっていないでしょう。

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★落合陽一氏や孫正義氏のような第4次産業革命を牽引している人々が掲載されている雑誌News Picksなどにも目を通しておく必要がでてきましたね。

 

 

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2019年9月24日 (火)

「人工光合成」2040年は全く違う世界を開くエポックになる

★米ニューヨークで開幕した国連(UN)気候行動サミットで、スウェーデンの高校生環境活動家グレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)さん(16)が、怒りのスピーチを行いました。世界の首脳らが温室効果ガス排出問題に取り組まず、自分たちの世代を裏切ったのだと怒りをぶつけたのです。その怒りが届いて、首脳らが決意を示したというサミット側の演出・シナリオだったのか、それはわかりませんが、世界中が注目したことは確かです。

★さて、これに対してニューヨークに飛んだ小泉進次郎環境相は何を語るのでしょう。環境相が何を語るかわかりませんが、いま日本で、「人工光合成」への研究とその実現性へむけて産官学が力を入れていることを環境相が知らないはずがないでしょう。

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★Society5.0に向けてもとても大事な研究です。というのも、このベースは第4次産業革命ですが、今までの第1次産業革命から第3次産業革命までとは、次元が違うのが第4次産業革命の肝なのですから。

★それは、脱化石燃料ということです。戦争の原因も格差の原因も権力横暴の原因も、すべて化石燃料の覇権をめぐる奪取競争だったのです。化石燃料を産業に注ぐ以前は、奴隷制度が根源的問題でした。

★今でも形を変えて、この制度は表面的には消えていますが、構造的には残っています。化石燃料を奪取するには、その力が必要だからです。その構造とは、ブラックという言葉で表現されているところに存在しています。

★しかし、石炭も石油も使わなくてよい社会になれば、あらゆる世界の問題は解消の方向に向かうでしょう。

★もはや食料や水を購入しなくても手に入る時代になったとしたら、どうでしょう。今の経済社会は不要になります。エネルギーを地球市民1人ひとりが自前で獲得できるようになったとしたら、どうでしょう。権力的な政治社会は不要になります。

★自分の身体を維持でき、自分の生活環境を維持できるようになれば、あとは共創時代になる以外にほかはないでしょう。

★そんなことが起こるはずがないと多くの人が思うかもしれないけれど、人工光合成の研究は実際に行われているのです。しかも、各企業が多様なアプローチで行っています。

★2025年には、人工光合成自動車が走るとまでいわれています。

★経済の心配がない、政治の心配がない社会で、互いの才能を使って共創していく社会にシフトするのが2040年だとしたら、2040年問題を日本は解決できるし、それは日本だけの話ではなく、世界中に広がるエポックになるでしょう。

★少ない財源を人工光合成研究に集中するときが今なのかもしれません。日本の政治家はまだまだやるべきことがありそうですね。

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2019年9月23日 (月)

2020年からの中学入試(22)なぜ公立中高一貫校や私立中高一貫校なのか?何が日本の教育の水面下で動いているのか?

★2020年大学入試改革における大学入学共通テストにおける英語民間試験を巡って、全国高等学校校長会(私立学校も属しているが比率は公立学校が圧倒的に多い)は、文科省に中止を要望し、日本私立中学高等学校連合会は、円滑に実施することを文科省に要望しました。なんだか、文科省のコントロール下の公立の学校が多く所属している全国高等学校校長会が、文科省に苦言を呈し、文科省と距離をおいているはずの私立学校側がエールを贈るのは、外から見ているとなんだかねじれているようにみえます。

★しかし、それは「2040年問題」に対する認識の違いがもたらしている歴史の捉え方の違いがそのような現象として現れています。2040年の18歳人口は、文科省によると、約88万人になります。現状が約117万人ですから、令和元年に比較すれば、25%も減少することになります。

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(文科省作成資料から)

★現状高校(中等教育学校も含む)は、4941校ありますが、単純に考えてはいけませんが、傾向を見るという意味で、2040年は統廃合されて3705校になるわけです。そして、統廃合のコントロールは自治体は、公立学校にしかできません。私立学校は自ら廃校を決断しない限り、サバイバルしようとします。

★そして、文科省や教育委員会が統廃合する時、どういう学校を残すかを必ず考えます。

★実は、「2040年問題」は18歳人口の減少よりもっと恐ろしいのが、生産年齢人口の半減です。このまま何もしなければ、GDPは、半分になります。日本の国力はもはや一気にさがります。このことは自分は関係ないとは言えない事態が日常生活にしわ寄せになってくるでしょう。日本のパスポートの信用は衰退し、今のようなグローバルな活動はスムースにいかなくなります。

★地域創生と言いながら、もはや財源がありません。ただでさえインフラ劣化しているのに、昨今の異常気象によるすさまじい地域の破壊は、今も各地で復興が遅れていますが、それはもっと拡大するでしょう。だからAIの登場なのだと、こぞって政財官はいいますね。間に合えばよいのですが。

★先進諸国でも世界同時的に、これは起きています。そこで、21世紀は教育の世紀で、みんなが所得倍増できる高度人材になる<新しい学びの経験>の教育イノベーションを起こす計画が立案され実施されているのです。昨年のノーベル経済学賞を受賞したポール・ローマ教授は、実はこの<新しい学びの経験>を創る内生的成長論を提唱した成果が認められたわけです。

★そして、これは世界中がコラボレーションして取り組まなければならないし、高度なIT技術は不可欠です。それゆえ、共通言語としての英語は必要だし、コラボレーションできる準備として授業はPBL(Project Based Learning)である必要があるし、ICTの教育での活用も必須ということになっているのです。そして、それを実施するには、既存の知識を暗記している勉強では役に立たずに、論理的・批判的思考のみならず、創造的思考が必要だということになっているわけです。

★その流れに現場が混乱するから中止して欲しいというのか、前に進んで欲しいというのかは、統廃合されても人事異動で生きていける公立学校と廃校になった瞬間に職を失う私立学校では、認識のギャップがあるのは、当然です。

★しかしながら、それだけではないのです。よいかわるいかはわかりませんが、日本の学校はどんどん民営化の方向に進んでいるのです。「日本の教育公的支出は最低 15年のOECD調査」(日本経済新聞 2018/9/12 10:06)によれば、

<経済協力開発機構(OECD)は11日、小学校から大学までに相当する教育機関に対する公的支出状況などを調査した結果を公表した。2015年の加盟各国の国内総生産(GDP)に占める支出割合を見ると、日本は2.9%となり、比較可能な34カ国中で前年に続き最も低かった。OECD平均は4.2%。


一方で、日本の子どもにかかる学校関連の費用の総額は、小学校から大学までで1人当たり1万2120ドルとなり、各国平均の1万391ドルを上回った。教育費が比較的高いのに公的支出の割合は少ないことで、家庭負担に頼っている現状が浮かんだ。>

★日本は教育にお金をかけなくてはとみな思うでしょう。でもそれには財源がいりいます。そのために、来月から消費税10%ですが、おそらくそれも限定的で、基本は家庭が教育費用を出していくという流れはとまらないでしょう。

★団塊ジュニアの18歳人口は1992年ピークになっていますが、それ以降18歳人口の減少ははどめがききません。ちょうどそのタイミングでバブルが崩壊して、日本の経済のデフレへの突入が始まったのです。18歳人口の動向はそれほど重要なサインなのかもしれません。2040年、今の12歳の中学受験生が33歳になるとき、このままでは壮絶な情況になっているのは予想するのは難くないでしょう。こういう話をすると「脅威論」で煽ると言われますが、21年後の話です。予測不能ということは実はないでしょう。どの業界でもそれに対応しようと必死です。

★教育も本来そうである必要があるのですが、現状維持によって混乱を防ぐことを中心にするグループと未来から今の学びを見直そうとするグループに分かれています。

★そんな中で、公立学校の中でも未来志向型の学校を開設して、来たるべき時に備える、つまり統廃合しても最後に残る学校を創っておこうという政策の一環で誕生したのが公立中高一貫校です。

★公立中高一貫校が民営化するかどうかはわかりません。おそらくあってもその優先順位はまだ低いですね。しかし、21世紀に入って公立中高一貫校が続々誕生していたのと同時期に、今も蛇行運転していますが、生まれたのが「国立大学法人化」ということでした。国立大学の民営化です。もちろん、補助金なしでは運営できませんから、完全な民営化とはいえないでしょうが、日本はその路線に舵を切っています。

★大学の無償化の話は、この国立大学の民営化の制度を根底から切り崩すものではありません。大学の運営ではなく、家庭や受験生に対する政策です。

★初等中等教育の民営化などあり得ないと思う方もいらっしゃるでしょう。そうです。国や自治体はあえて民営化を謳いません。ただ人口減に伴う統廃合を行っていくだけです。今は圧倒的に公立学校が多いですが、そのうち黙っていても、私立学校が多くなります。なし崩し的に公立学校の民営化にいきつくのです。

★ただ、そのときに国家としての教育をいかに守るかという話になったとき、残しておく学校があります。それが公立中高一貫校であり、IB導入公立学校でしょう。

★私立学校もサバイブしようと頑張りますが、<新しい学びの経験>を創れない学校は衰退していくでしょう。

★つまり、<新しい学びの経験>をつくる学校を選択することが「2040年問題」に対応できる1つの作戦です。

★この<新しい学びの経験>は、伝統校であっても果敢に挑戦しているところもあります。この視点で学校選択を推奨している論者はあまりいないので、学校説明会にご自身で参加して、確かめることがこの秋の学校説明会巡りの重要な視点となるでしょう。

★ともあれ、サバイブできる最先端をいく学校グループは、公立であれ私立であれ、中高一貫校に多いということでしょう。聖パウロ学園のように高校だけの私立学校でも<新しい学びの経験>の環境をいちはやく整えているところは、すでに人気校になっています。そんなところからも、この<新しい学びの経験>という教育イノベーションの視点は大切です。

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2019年9月22日 (日)

2020年からの中学入試(21)聖学院インパクト④未来を創る教師セミナーに向けて

★昨日学校説明会終了後、児浦先生と内田先生は、多様な仕事をこなし、18:30に思考力セミナーのリフレクションを通して「第1回未来を創る教師セミナー」のプログラムブラッシュアップのミーティングを行いました。10月6日に、聖学院のフューチャーセンターで、開催します。総合司会の神崎先生(株式会社カンザキメソッド代表)も、卒業生の披露宴終了後かけつけました。

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★今回の5年生対象に行った「思考力セミナー」のプログラムを振り返りつつ、そのまま実施するのではなく、大人バージョンにパラメータを変えていくミーティングをしていきました。

★物語思考という思考コードでいう「C3」の領域の深い学びを形作るには、認知的スキルのみならず、EQ的なアプローチやU理論的自己開示プロセスも必要だというのが、聖学院の授業デザイン研究会の発見です。

★そして、このPBL(プロジェクト型学習)は、授業のみならずカンボジア研修やタイ研修、記念祭(文化祭)、糸魚川農村体験、ミツバチプロジェクト、2020東京パラリンピックプロジェクト、高大連携STEAMプロジェクト、SGDsプロジェクトなど多くの教育活動にも共通する土台です。

★すなわち、聖学院は授業と多様な教育活動、キャリアデザインなどが有機的に結びつき、シナジー効果があふれでているのです。それゆえ、そのあふれでる好奇心が旺盛になる学びの環境に受験生が魅了されているわけです。

★この「有機的な結びつき」というのは、どこでもよく語られるわけですが、実際にはどのように結びついているのか言語化や見える化がなされているわけではありません。むしろそうありたいという話で、実際にはなかなかつながっていないというのが現状です。

★しかし、PBLですべての学びを行う聖学院は、そのPBLのプロセスやデザインの方法を見える化しているので、ち密にロジカルに有機的に結びつけることが可能なのです。それがゆえに、EQ的アプローチやU理論的アプローチの恒常的な実行が可能になります。

★生徒の成長は、認知的能力だけではありません。認知的能力の成長する様子は、模擬試験、定期試験などで教師も生徒も知ることができますが、非認知的能力については、形成的評価を行っていくしかありません。そして、成長が見える評価にするには、プログラムの仕掛けが明らかになっている必要があります。

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(神崎先生も披露宴に出席したままのフォーマルスーツ姿で登場)

★場当たり的なプログラムでは、EQ的な成長は比較のしようがありませんし、U理論的プロセスも常に行われるわけではないからです。このプログラムのデザイン方法の重要性は、まだまだ多くの学校では気づかれていません。しかし、実際には、モチベーションや人間関係、倫理観などをどう形成するかは、大問題になっているはずです。

★児浦先生と内田先生、本橋先生をはじめ聖学院の多くの先生方は、ここに挑んできたのです。そして、仲間の学校とも連携し、情報交換や勉強会を通して、普遍化と聖学院の独自性の合力を着々と創っています。

★10月6日は、児浦先生、内田先生、本橋先生をはじめとする聖学院の先生方と児浦先生といっしょに21世紀型教育研究センターを企画運営している工学院の田中歩先生も集結して、「普遍化と聖学院の独自の合力」としてのPBL授業を「未来を創る教師」とシェアします。

★多忙な先生方ですが、自分の学校だけではなく、仲間の学校とと共に、現状に満足することなくさらにパワーフルなZ世代の未来をサポートする<新しい学びの経験>を創ろうというミッションに燃えているのです。このような世界知視野と倫理をもった先生方に頭が下がります。と同時に、ここに希望があるのです。

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2020年からの中学入試(20)聖学院インパクト③自己の成長に気づく思考力セミナー 物語創作とモノ作りの融合

★今回、内田真哉先生は、5年生は5年生に合った「思考力セミナー」をという前々からあった要望に満を持して挑みました。このセミナーは「思考力対策講座」という趣旨があるため、どうしても6年生に合わせたものになってきました。もちろん混在してもよいのですが、5年生はやはりもっと自分でこんなことが想像できる自分がいる、こんなことができる自分がいるということを学びの経験を通して気づいてもらうプログラムにしたいという内田真哉先生の想いもありました。

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★内田先生は、技術科教諭ということもあり、モノ作りの学びの経験を通して、道具を使う技術を習得するだけではなく、自己を導く至福志向への気持ちの流れを生み出すモノ作りの過程とはいかにして可能かについて独自の研究を積んできました。IQよりもEQの重要性が近年言われていますが、そのEQの本格的な研究を研修会に参加したりたくさんの文献を読破したり続けてきているのです。

★そして、そのEQ的な心の至福至高な状態が生まれる過程をU理論で構築しています。自らを見つめる経験を通して自らの問題を発見し、それを他者と対話する中で解決の糸口を発見する過程です。そして、その糸口をさらに掘り下げていくとと突然稲妻が向こうからやってくるのです。自ら創造的に動き出す閃きがおとずれるわけです。そのようなU理論的な気づきと創造の発露の過程を授業の中に盛り込むことに成功したのです。

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(今回5年生は6年生とは別の空間で思考力セミナーを楽しみました)

★今回は、6年生がデータ分析を通して自分に必要な学びに気づきその学びを実現できる未来の学校を創るという学びの経験を通して自分に気づき、自分の技術をいかにしたら鍛えていけるかにまで到達しました。

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★一方5年生は、病気になった象のランディーを救う物語を創作する学びの経験通して、自らに気づき、自らを他者や世界に開く状態を生み出すことをやってのけました。

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★チームによっては、自己変容を創作にまで生かすところにまで到達し、内田先生は自分ながらU理論のパワフルさに驚いていました。しかし、自分に気づき他者や世界に開かれることによって、5年生であってもファイナルアクティビティである200字記述になんのそのという構えで取り組むことができました。やはり書きたい欲求が生まれれば、文章があふれ出るということでしょう。その経験こそが、のちのち編集技術を高めるモチベーションにつながるはずです。モチベーションのモチベーションを生み出すEQ的アプローチは、学びにおいて欠かせないことを実感しました。

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(勢いよく200字記述に挑んでいる様子が、鉛筆の音で伝わってきそうなシーン)

 

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2019年9月21日 (土)

2020年からの中学入試(19)聖学院インパクト②発展する思考力セミナー 200字記述ができるようになる秘密

★聖学院は学校説明会と同時開催で「思考力セミナー」を実施しました。「思考力入試」の対策講座です。インプットばかりでなくアウトプットも大事であるという流れは昨今の学びではすっかりお馴染みになりました。それゆえ、iPadで動画を作成したり、ダンスで表現したり、絵で表現したり、データで表現したりと表現活動は多様です。

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★聖学院の「思考力入試」も多様な表現をします。特にレゴで自分の想いやアイデアをカタチにする表現は男子受験生には超人気です。みな鼻を膨らませてすぐに取り組みます。その没頭する姿は、フロー状態といって、学びの大切な条件です。そしてクリエイティビティを生み出す内面的な泉となります。

Tinkering

★この手法は、米国ではオバマ政権以来メ-カーズスペースが各学校で作られ、<learning by making>という学びが奨励されたとき、明確な輪郭を描いて登場しました。アイデアを図面に描いてから創るだけではなく、つまり考えてから創るだけではなく、まず指を動かしながら創っていくことによって思考が同時に形になっていくという<ティンカリング>という手法が広がっています。

★小6の受験生の思考力セミナーを担当した児浦先生は、まず生徒に「指は第二の脳だよ。脳みそで考えてから指を動かすのではなくて、まず指を動かしながら考えていくんだよ」とSecond Brainを合言葉にしています。

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★児浦先生は、多くの塾に招かれ、出張「思考力セミナー」も行っています。それゆえ、ファンも多く、彼らも再度参加しているため、「指は第二の脳だ」ということはすでに知っています。ですから、「さあやるよ」と児浦先生が号令をかけるや「ウーン」とならずに、指に集中したフロー状態が一気にフューチャーセンター全体に広がります。

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★普段使わないそんな第二の脳をウォームアップしてから、しかし今度は大量のデータが配布されます。グローバル関連データ、少子高齢化データ、技術革新データなどSDGs関連のデータと言っていいでしょう。おもしろいのは、その客観的なデータをみて、生徒自身が何か痛みを感じそこをなんとかしようと、自分は何を学ぶのか自らをリフレクションするアクティビティを行うのです。

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★Growth Mindsetが生徒それぞれの内面でカチッと音を立てるのです。そこから一気に「未来の学校」をレゴで表現していきます。結局、この思考力セミナーは、自分は何者で、その自分を形作るためにどんな学びを行うのか、しかも仲間に表現しながら自己修正して、他者との関係性に気づくEQやU理論が背景にあります。このEQやU理論はかなり難しいので、いずれお話しますが、それがちゃんとプログラムに盛り込まれているところが、他の追随を許さぬ思考力入試になっているのですね。

★もちろんデータ分析やそこから感じたものを論理的に統合するという認知的なプロセスも必要です。なんといっても、最後にセミナーを通して気づいたことや自分が表現したかったことを200字以内で書くというファイナルアクティビティがあります。しかし、それは認知的能力と非認知的能力(EQ)の融合がなされているからこそ、今まで書いたことがない生徒も自然と挑戦でき、こぼれるように鉛筆が走るのです。そして、自分も書けるのだと鼻を膨らますのです。

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聖学院の肝は、多様な表現はするけれど、やはり最後はちゃんと言語化するということです。これが第一義的な目的ではありませんが、Second Brainから学ぶ発想がない多くの学校では、かなり賢いスピーチをしたり発想力があるのに、言語化で悩むという生徒が多く出てしまいます。まして、大学入試で200字以上の記述がないところがほとんどですから、書く行為のトレーニングが放置されたまま大学に合格していく生徒もたくさんいます。

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(本橋先生は、英語と数学の両方の世界を結びつける純粋数学的思考をテーマにしたM型思考力入試を主軸に、児浦先生方と内田先生と他の2つの思考力入試についても協働しています。)

★今ではありえないはずなのですが、理系だから論述ができなくてもよいという先入観をもっている生徒もまだまだたくさんいます。まして、アートの世界は関係ないだろうと。しかし、グローバルなアートの世界では、アート化と言語化のシンクロは必須です。一人で黙々と絵画を描いていても、生きていけないのですね。アーティストはアイデアを企画するイベントインキュベーター的な役割も持っています。売れっ子になれば、ギャラリーというスポンサーがつきますから、行わなくなりますが、そこに行くまでは、何でもやるのです。

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(今回の小6の思考力セミナーを児浦先生といっしょに行った社会科の伊藤航大先生もまたすばらしいPBL授業デザイナーです。)

★しかし、それはアーティストに限らず、すべての仕事や研究に関しても同じです。思考力セミナーに参加する生徒の未来が頼もしく大いに期待しないではいられません。

 

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2020年からの中学入試(18)聖学院インパクト①1000人の学校説明会。

★本日21日(土)、聖学院は学校説明会を開催しました。講堂は一杯になり、「1000人の学校説明会」となりました。説明会のみならず、「思考力セミナー」「クラブ体験」「学食体験」「帰国生説明」などが、同時開催される一大イベントでもありました。

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★雰囲気が昨年までとだいぶ違いました。男子校聖学院が偏差値という基準だけではなく、生徒1人ひとりの才能を見出し受け入れる多様なj可能性があることをしっかりと認識し、参加しているのです。

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(思考力セミナーの教室に向かう受験生)

★思考力セミナーの参加者も、今までにない人数だったのではないでしょうか。小6と小5を別々のクラスで実施するほどだったからです。

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★また、「帰国生説明会」も会場がいっぱいになりました。もともと聖学院は、偏差値にこだわらないグローバルな視野をもっている帰国生に人気があったのですが、そもそもそのような帰国生の数そのものが少なかったのです。ところが、いよいよ帰国生も、自分たちが育ったグローバルな視野を生かすことの方が、東大受験のためのカリキュラムより大切だということに気づき始めたようです。

★帰国生のための英語の取り出し授業SSコースの充実ぶりが、認知され始めました。とにかくエッセイライティングとTOEFL、SATの対策が充実しています。海外進学準備教育が万全だし、数学教師の本橋先生のように、高校から大学まで留学している経験者がいて、ネイティブスピーカーの教師に丸投げしないで、協働し合える関係が大いなる強みです。

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★それにしても、この大イベントを生み出すウネリは、副校長清水先生の存在が欠かせません。これだけの大イベントであるのにもかかわらず、教師と生徒と大学生チューターが協力して、スムースに実施していきます。まさにプロジェクト的な動きなのですが、サポートする先生方はまったく右往左往しません。受験生や保護者が安心して笑顔で目的の体験スペースに向かっていました。

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2019年9月20日 (金)

第2回 2025年から国際バカロレアのグローバル教育の意義を考える。

■2019年9月20日(金)3時限目

ニュース)IBのエッセンスを反映したPBL授業のビデオ(小学校1年生国語)

0)Speed Date:事前リサーチを情報共有

1)2020年から2025年 グローバル教育に影響を与える未来年表を創る
「未来年表/生活総研」(博報堂)から調べる
・IBの10の学習者像とどのように関係するか

アクティビティ リサーチ×ディスカッション×編集
どの思考スキルを活用したか?

2)ギャラリーウォーク
・情報の再編集

アクティビティ ギャラリーウオーク・編集
どの思考スキルを活用したか?

※「思考スキル」

比較
根拠
カテゴライズ
具体化
抽象化
置換
変換・転換
矛盾・逆説
統合
文法・計算
インプロ(Improvisationは英語のみならず創造的思考において重要な能力

3)チームごとプレゼンテーション
・プレゼン評価を考えてから
・自己評価の結果提出

Meta1

4)事後リサーチ
「チームで設定した2025年問題を乗り越えるために、ひとはどんな問いを生みだせるとよいか?400字でまとめる」→メールで提出
・パラグラフライティングに従って書く。

Meta2

5)事前リサーチ
「国際バカロレアの歴史についてWebリサーチ。400字でまとめる。」

 

6)評価について

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対話の世界(3)聖パウロ PBLの質の転換点そしてトランジション

★聖パウロ学園の先生方との<対話>は、いつも生徒の成長の様子とぴったり対応しています。成長といっても、高校ですから、同時にキャリアデザインとも重なります。すなわち、生徒の成長は生徒自身のキャリアデザインと呼応しています。ですから、心理学的な発達段階だけではなく、高校段階ならではの人間関係や大学入試の制度上の問題や社会の変化に対応できるキャリアデザインなど複合的な観点で<対話>することになります。

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★たとえば、国語科の高橋先生と、聖パウロ学園の古典の位置づけや意味について<対話>したとき、高橋先生は、単純にカリキュラムの意味について話すわけではなかったのです。古典の話題は、一般的には、結局大学入試向けの授業になってしまってそれ以上のことができないとなるところですが、高橋先生は、聖パウロ学園のキャリアデザインからいって、大学入試向けだけにガチガチにやる必要はないのですと。

★もちろん、文法や古語は学びますが、はやめに古典教養的な世界にはいっていけますということです。源氏物語から「もののあはれ」の世界観をとりだし、枕草子から「おかし」の世界観をとりだしたりすつというのです。そんな古典の授業受けたことがなかったので、こちらも古典というのが興味深い世界ではないかという想いが生まれてきました。

★こういう古典の世界の切り取りは、本居宣長以降ではないかと思っていますと、ですから本居の視点を生徒と共有したり、九鬼周造の「いきの構造」の視点を活用してみたいということでした。平安期の文学も、時代によって見方は違うという感覚は興味深く思いました。授業でも、源氏物語と枕草子の表現の比較を、生徒のいまの感覚で考えていくシーンがありました。

★生徒はSNSの種類で分けていました。枕草子はインスタグラムで、源氏物語はツイッターだという議論は、なるほどなあ、これだと古典に対するアプローチが身近になると確信しました。

★高橋先生が語るには、聖パウロ学園の生徒は文系に進む場合は、古典教養と受験対策の両方を行っていきますが、グローバルコースの生徒と理系の生徒は、3年間で教養としての古典を学ぶことを中心に授業を展開していけばよいのですと。学園全体で、文系理系にかかわらず、グローバルな世界で生きて行くということは共有されていますから、日本文化への深い自己理解が必要であることは、実は生徒自身が海外研修や修学旅行で身に染みてわかっているというのです。そのための古典教養は、生徒も受け入れやすいというのです。

★それに竹取物語や今昔物語の物語の構造は、文化人類学的な切り口からすれば、学びの宝庫ですから、どうやって授業を開発するか考えるとワクワクしますということでした。

★そのあと、高橋先生もメンバーである研修部の創発ミーティングに参加したのですが、なぜ多角的な視点で高橋先生が古典をとらえているのか了解できました。

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★英語の大久保先生、数学の松本先生、国語の小島先生と高橋先生が、PBL授業への挑戦を振り返り、後期の展開のビジョンの確認をしていました。

★自身の教科における、3年間の中で、どの時点でPBLの質が転換するのか、そのフローチャートを描き、さらにそれにトランジッションを追加していました。

★転換点はそれぞれ教科によって違います。しかし、シフトの方向性は似ている部分があることが改めて確認されていました。おもしろかったのは、このシフトが、一般入試とAO入試などそれぞれにどのように対応できるのかがきめ細かやかにデザインされ、かつPBL型の授業が大学や社会にでたときにどのような効用があるのかトランジッション的視点で議論されていました。

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★進路実績だけではなく、その先にも役立つという抽象的な話は多くの学校で聞くことはできますが、具体的にここまで明快に<対話>できることは驚きでした。なぜそういう話ができるかというと、実はOB・OGとの継続的な<対話>によって豊かな情報を蓄積してきたこととトランジッションに関する見識をもっていたからです。

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2019年9月19日 (木)

2020年からの中学入試(17)公立中高一貫校の「適性検査Ⅰ」の効用。

★東京都の公立中高一貫校の「適性検査Ⅰ」は、課題文が提示され、提示された文章を理解していることを示す問いが2つと課題文の趣意に沿って自分の意見を論ずる論述式問題が出題されます。問いの数は学校によって違いますが、大差はありません。ウム、大差はありません?

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★実は、次の5校の「適性検査Ⅰ」は大差がないどころか、課題文も問いも全く同じ問題です。

小石川中等教育学校
両国高校・附属中学校
武蔵高校・附属中学校
富士高校・附属中学校
大泉高校・附属中学校 

★東京の公立中高一貫校の問題作成は、共同作成問題と独自作成問題の2種類あるのですが、上記の5校は共同作成問題を採用したわけです。

★ということは、最大公約数、生徒の思考のモデルは、この問題タイプだと予想できます。

★つまり、この「適性検査Ⅰ」に学ぶことは、一つの典型的な深い思考レベルを学ぶのに役立つのです。しかも、文章理解のための学び方がわかるし、事実と意見をわけ、意見を推理する方法もわかります。

★というのは、この共同作成問題は、どう考えていくのか丁寧に条件を示して問いかけてくれるので、自分は何をどう考えていけばよいのかわります。基本的に原因と結果、目的と手段という「因果関係」思考スキルを発動するようになっています。しかし、そのスキルをしらなくても、あらかじめ、そこは提示されています。

★また論述も、各段落何を書くのかきめ細かく条件が設定されていますから、論述の書き方を学ぶことができます。

★こうやって、読んで、考えれば、書けるのだという学びの体験ができます。

★したがって、統一合判を受けるにしても、最難関模試を受けるにしても、適性検査型模試を受けるにしても、この小石川をはじめとする5校が採用した共同作成問題である「適性検査Ⅰ」に学んでおくことは役に立ちます。

★また、公立中高一貫校の受検を考えているひとは、共同作成問題というプロトタイプを前もって理解しておけば、各学校の「適性検査Ⅰ」を解いたとき、各学校の特徴が見えてくる可能性があります。特に桜修館は全く違うので、思考の広がりを身に着けるのには最適です。「適性検査Ⅰ」は、共同作成問題と桜修館の問題に学ぶと、受験するしないにかかわらず、思考の大局を学ぶことができます。

★中学受験(受検)の段階で、このような読む力・考える力・書く力を身につけられるとは、ある意味ラッキーです。この手の学びは、スルーしても大人になることができます。もちろん、社会に出てから、いろいろな領域での活躍度に差がついてしまうのは明らかです。

★一方で、日本の教育はそれでよいのでしょうか。若者の読解力を嘆く前に、このような問題に真摯に立ち臨める環境をいかにして整えるのか考えなくてはならないでしょう。

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パンドラのパラドクス シノプティコンを生み出すブロックチェーンの最後のエルピスにかける

★功利主義者ベンサムが生み出した幸福を生み出す「監獄」パノプティコン(一望監視装置)は、近代社会の構造のプロトタイプになりました。これについてはミシェル・フーコーが「監獄の誕生」という刑罰の正義の系譜の中で取り扱われ、一気に世に広まった考え方です。

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★近代の社会の基礎構造は、ガバナンス構造ですね。ピラミッド型といいます。自由で平等で博愛が等しくメンバーにいきとどくようにコントロールする中心点やあるいは頂点があります。そこが一望監視し、自由や平等や博愛を阻害する要素を修復したり排除したりしています。そして、昨今問題なのは、このガバナンスのチェック機構が非対称性をどうしても払しょくできないことですね。それでも、なんとか第三者機関を作ってやっているわけですが、危機管理ではなく、事の起こる前に防止する策はないか議論は果てしなく続いています。

★大学入試のために日本に戻ってきている帰国生のための小論文ワークショップを行う時に、ここらへんの対話をすると、生活していたお国の事情によるのかもしれませんが、ものすごく敏感な帰国生と意外とスルーしてしまう帰国生と違いがあっておもしろいのですが、究極のパノプティコンは?もちろんメタファーだけれどというと、すぐに反応するのが第二次世界大戦の強制収容所の話です。各国にそれはあったのですが、特にアウシュビッツの話になります。

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★強制収容所の想像を絶する凄惨な体験の中で精神科医で心理学者のヴィクトール・フランクルがいかに生きる意味を見つけて生還したかその体験記「夜と霧」が書かれていますが、本書を読んだひとは、このパノプティコン構造を再生産することは決して許されないと思うでしょう。「夜と霧」はナチスの作戦名です。

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★帰国生には、この時期は入試間近なので、NHK出版の諸富教授の著書をベースに小論ワークショップを行います。そのときに、岡本裕一朗教授の本も紹介します。ネット社会が相互パノプティコンであるシノプティコンを形成している点を語っています。

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★しかし、このシノプティコンは果たしてデストピアなのかユートピアなのかという点は意見の分かれるところです。究極のシノプティコンは、ブロックチェンによるシステム社会の完成ですが、基本はパノプティコンであることに変わりはありません。

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★おもしろいのは、落合陽一氏の考え方ですね。中心と周縁、頂点と階層という構造について、目的と手段という関係に置き換えて話します。ベンサム的な発想があるんですが、この構造をシノプチコンにシフトすることによって、解消するというパラドクスをずっと論じているのです。

★目的と手段という関係は、気づかないうちに支配と被支配にすり替えられますから、近代社会の光と影の交錯はこのすり替えを可能にする悪法も法をいかにチェックするかという攻防戦でもあったわけです。合法的にファシズムを生みだした恐ろしい事実を忘れないためにも「夜と霧」という本は大切なのですが、ともあれ歴史の検証の学びはすべての市民にとって重要ですね。

★落合陽一氏は、このパラドクスという難問をわかりやすく目的と手段の二元論で論理的に詰めていきます。そしてシノプチコンにブロックチェーンを登場させるのです。なんと究極の監視社会となるはずなのですが、中心と周縁とか、頂点と階層という関係が、それらをむすんでいるネットワークそのものがブロックチェンになるため、消失します。

★すると、目的と手段という関係も消失します。ということは支配―被支配という関係も消失します。

★なんと、シノプティコンというパンドラの箱が開かれ、この世におびただしい災いがふりまかれるはずなのに、最後は目的と手段の二元論の消失という結果をもたらします。新刊書では、そんなことが書かれているかどうかはわかりません。しかし、すでに新しいルールで動いているということはそういうことでしょう。

★新しいルールはまさにパンドラの箱で、論理的に詰めていくと、災いが拡大するはずなのにその論理は最終的に破綻して、エルピス(希望)が生まれるわけです。つまり、パノプティコンが再構築(Reconstruction)され続けてきたはずなのに、最終的に脱構築(Deconstruction)されてしまうのです。

★あのゲーデルの「不完全性定理」のストーリー版ですね。さすがは、落合陽一氏、高校時代、数学の神童と言われたはずです。

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★そして、なんといっても落合氏はアーティストですから、ゲーデル、エッシャー、バッハのあの本の続きを描いているのでしょう。実は、自然と社会と精神とを結ぶ不思議の輪はまだみつかっていないのです。ブロックチェンによって顕在化してくるということでしょうか。

 

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2019年9月18日 (水)

2020年からの中学入試(16)学校選択 「探究」「自分事」「安心安全」という言葉を多様する教師が力を持っている学校は要注意!

★言葉というのは、奥行きがあります。同じ言葉を使ってもその意味は受け手によって異なります。それなのに、奥行きの浅い流行り言葉を多様する学校があります。何言ってんだ、本間だってわけのわからない言葉をいっぱいつかっているではないか!と叱られそうです。たしかにそうです。しかし、それは流行り言葉を置き換えてその奥行きへの気づきを喚起しようという意図があります。成功しているかどうかはわかりません。また、おまえのいうことは難しい、易しいことを難しい言葉で説明する奴はバカだといわれます。

★そうかもしれませんが、易しい内容ではないので、そのセオリーはあてはまりませんが、まあいいでしょう。またある人は、難しいことを易しくわかりやすく説明することが大事だといいます。なるほど、そうかもしれません。しかし、それは知のディズニーランドで、本当に大切なことは捨ててしまうのです。ディズニーラーンドははテーマパークですから、何の問題もありません。しかし、そこで語られる童話は、原作にある耳障りの悪いことはすべて捨てられハッピーエンドにデザインされています。

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★よって、ディズニーランドはアートスペースではありません。デザインスペースです。では、学校や授業はどちらのスペースなのでしょう。アートスペースとデザインスペースの両方があります。商業的な学校は、デザインスペースです。創造的な思考を大切にする学校はアートスペースです。どちらでもない学校が実は多いのですが、それはモラルモードスペースです。麻布はもちろんアートスぺースです。JGもそうですね。

★麻布もJGも、「探究」「自分事」「安心安全」という言葉をむやみに使いません。使うとしたら、吟味したうえでしかたなく使うということはあるでしょう。そのほうが通じやすいのですから。

★しかし、「ハロウィン」や「クリスマス」と同様、今や「探究」「自分事」「安心安全」という言葉はその本質を切り捨てられて使われている場合が多いですね。「ハロウィン」や「クリスマス」がアイルランドやキリスト教に関係する祝祭だとは誰も考えず商品を売るためのサインとして活用していますね。

★今や、「探究」「自分事」「安心安全」も商品を売るためのサインである場合が多いです。それを見破るにはどうしたらよいのか?

★意外と簡単です。これらの3種の神器ともいうべき言葉を頻繁に活用する人は「起業家精神」という言葉が大好きな場合が多いですね。起業家精神を発揮するには、悠長な「探究」はできないはすです。探究そのものを脱構築する必要があるからです。再生産や再構築は起業家精神と反します。「自分事」などという「主観」に閉じこもる時間も実は「起業家精神」にはありません。かといって、「客観的な不動の安心安全」も求めはしないでしょう。そこでは、イノベーションの起こる芽は摘まれてしまうからです。

★ワークショップをやっていてゴールをはっきりさせてくれというインストラクショナルデザインを求められますが、ワークショップはアートですから仮にゴールを設定したとしても、そんなダイレクトな目標は通過点にすぎません。探究とは常に通過点でしょう。

★ゴールは思いもやらないものに変質してくのです。そして、今までの学び方があるいは解決策が通用しないのです。だから、そこでは再生産も再構築も力はありません。脱構築あるのみです。

★そのときはじめてアートが生まれます。STEAM教育とはここのレベルの話でしょう。探究もしかりです。自分事は実は不遜です。問題意識をもつことが自分事ではありません。遠くの悲惨な事件に共感しようというのが自分事でもありません。なぜそれが起きたのか、その根本問題を打ち砕く問題解決をいち速く実行する創造力が自分事として重要です。そんなことは安心安全の場でできるはずがないのです。

★そんなふうに言葉を吟味しないで、学校をデザインスペースとしてあるいは知のディズニーランド化している学校を選ぶと、たいへんなことになります。もちろん、吟味して使っているところは構いません。しかし、これらの言葉を使っているところは、SDGsも大好きです。

★SDGsこそ耳障りなことを無視できないのに、SDGsのディズニーランド化が起こっています。どうなってしまうんでしょう。でも、ディズニーランドは人気のあるテーマパークです。残念ながら、この流れを止めることはできないでしょう。

★であるならば、そこはなるように任せて、その間に、仲間と根源の淵を探し、そこをなんとか解決するチームをつくるしかないでしょうね。そういうチームが存在する学校があります。まだそんなに人気がでていません。人気がないわけでもありません。このことが、そこが本物の学校である証拠です。麻布やJGの併願校として、そのような学校を併願しておくとよいでしょう。

★それはどこでしょう?私が言うまでもなく、アンテナの高い方はおわかりでしょう。

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2019年9月17日 (火)

2020年からの中学入試(15)この時期だから「読解力」を統一合判でアップデートしよう!

★子供たちの「読解力」が不足しているという幻想が世に出回っています。きちんと「読解力」を身に着ける学びの体験をしてもいないのに、そういわれる子供たちは、なんだかふんだりけったりですね。そうはいっても、次のような問題をうまく解けない子供がいるのも事実ですから、どうしたらこの手の読解ができるようになるか考えてみましょう。今年の9月の小学校6年の「統一合判」国語の2番の問7の記述式問題です。

<線⑤「たとえばあなたが雪の積もった原野を旅していて、その雪面に対してなんらかの表現をこころみようとした時、どんな言葉が出てくるでしょうか。思いつくところで『白い』『冷たそう』『かたそう』『まぶしい』といったところではないでしょうか」とありますが、このような言葉しか思いつかないのはなぜですか。本文中の「イヌイット」という言葉を用いて四十字以上六十字以内で答えなさい。>

★首都圏模試センターのサイトの記事<9/8第3回小6統一合判『偏差値5上げる!この1問』>で取り上げられていた問題です。同センターによると、この問題の正答率が 37.3%、無答率が 32.6%、誤答率は 16%でした。おもしろいのは、<減点された多くの受験生は「イヌイットは、雪質や気温や風によって微妙に変わる雪原の見え方や区別がつくので、言葉が生まれるから」と、イヌイット側からの立場 で答えを記述していました>ということのようです。

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★この箇所は、文章の中に書かれてありますが、問いは私たちはそうではないのはなぜかですから、この箇所と比較して理由を推理する必要があったのですね。

★思考コードB2レベルの問いで、思考スキルは「比較」「理由」「推理」とちょっと複雑です。ですが、「推理」するための思考スキルの「理由」の書かれている場所を見つけるだけでも部分点がもらえるのであるから、無答はもったいないという指摘がされていました。

★その通りです。しかし、得点技術としてこの問題を取り扱うだけではもったいないですね。文章を読む際に、文章のどこに何が書いてあるのか探すことが読解力かというと、実はそうではないのです。

★文章から、自分はどう推理するのか、そしてその推理をサポートするエビデンス(証拠)はどこにあるのかという読み方を授業でトレーニングすることが要ですね。自分の主観をなくして、文章に書いてある事実だけをしっかり探しなさいでは、読む意欲がわきません。この姿勢では、筑駒の詩の問題は思考できませんね。

★自分だったら、どう考えるかのかをまず対話によって語り合い、それは文章のどこにエビデンスがあるのか、そして何より「ないものがあるかも?」というクリティカルシンキングを動員するのです。

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★この文章では、雪面に関してはイヌイットの方がわたしたちよりも、表現は豊かですが、わたしたちだって、ぶりなどの出世魚に関してはその成長に合わせて多様な表現を有しています。そんな事例をあげながら、対話していけば、おのずと、この文章の話は、あくまで一つのケースであり、表現と文化と経験と言葉の関係辺りを一般化あるいは統合ができます。こうなると、思考コードはC3の次元に突入します。思考スキルは「置換・転換」を活用します。

★こういう事例の分析から一般化へジャンプするアイデアを語り合うのは、一度土曜日の教養総合で麻布の生徒とワークショップをやったことがありますが、麻布生は、こういう創造的思考の瞬発力は本当にあるなと感じ入りました。

★中学入試で、麻布の問題はこういうトレーニングを要するものを多数出題しているので、当然そうなるのでしょうが、毎回統一合判で出題される問題にもこの手の問題があるので、解法を理解するというより、推理とそのサポート文章を見つけるトレーニングをするという感覚で取り組んでみてはいかがでしょうか。

★そうそう、この問いは、記述式問題であるだけではなく「思考型問題」でもあります。「新入試」にもつながる発想がここにはあります。ただ、「新入試」は、先述したように「C3」にジャンプするのですが。

 

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2020年からの中学入試(14)八雲学園 学内で、RS(Round Square)を通して、世界から学ぶダイナミズムが生まれているわけ

★前回、八雲学園の学内で中学からRS(Round Square)の意義を受け入れている大きな流れができあがっていることを紹介しました。その浸透力には、同学園理事長・学校長の近藤彰郎先生の英断が強く影響しているわけですが、それだけでは、こんなに速く浸透しません。

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★IB(国際バカロレア)もそうですが、このように外部機関と連携するには、大胆な外交官であり、優れたコーディネーターであり、繊細なファシリテーターといったマルチロールプレイヤーであるキーパーソンが学内側に存在していることが必須です。

★八雲学園は、英語科主任の近藤隆平先生が、まさにその役割を果たしています。米国の大学を卒業していて、活動拠点はサンタバーバラ―といっても過言ではないほど、米国と日本をいったりきたりしています。

★9カ月留学も、学園の外国人教師とUCサンタバーバラの外国人教師とをつなぎ、協働しながらプログラムをデザインし運営しています。このプログラムを土台にRSの活動が始まっていますから、RSのコーディネートも近藤隆平先生が世界を飛び回りながら行っています。

2019年6月23日(日) 順天学園で、第1回「未来を創る学校フォーラム」(主催 21世紀型教育機構)が開催されました。そのときのキーノートスピカ―として近藤隆平先生は登壇され、「Round Squareと共に未来を創る」と題して講演されました。手続き的な話や技術的な話もされましたが、何よりRSの理念を共有浸透するための「Baraza」の話は圧巻でした。

★これは、スワヒリ語で"集会・会議"を意味します。八雲学園が加盟するラウンドスクエアの国際会議で必ず行われるBarazaのプログラムでは、世界情勢や文化の違いなど、幅広い話題についての意見交換をするわけです。そして、この「Baraza」という<対話>を八雲学園に生徒自身が広める委員会を作ったというのですから驚きです。それは学内で広まるはずです。

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★そして、感動したのは、近藤隆平先生は、最後にもう一度RS創設者クルト・ハーンの次の言葉を共有して講演を締めくくったことです。

I regard it as the foremost task of education to insure the survival of these qualities: an enterprising curiosity, an undefeatable spirit, tenacity in pursuit, readiness for sensible self denial, and above all, compassion.

私は、次のような能力の資がいつまでも続く保証をすることを教育の最重要な仕事だと考えています。進取の気性、打ち負かされないスプリット、追究への粘り強さ、賢明な自己否定の準備、そして何よりも思いやり。

★この精神性は、八雲学園の建学の精神そのものです。世界の優れた私立学校が加盟しているという意義は、このような豊かで賢く高邁な勇気ある精神を共有しているということだったのです。

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2020年からの中学入試(13)八雲学園 教育の総合力さらなる発展

★昨日16日(月)、八雲学園は学校説明会を開催しました。説明会の内容は、根本は変わらないものの昨年までとは大きく違っていました。根本が変わらないというのは、「グローバル教育」「チュータ制度」「文化体験」「進路指導」が充実していて、それらを「ウェルカムの精神やマインドフルネスな世界を深堀する精神性」でつながっている教育の総合力がしっかりと生徒の学びの基盤になっているということです。

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★そして違ったところは、特に「グローバル教育」がついに行くところまで行ったという発展ぶりが中心に説明されていたところです。IB(国際バカロレア)の創設の中心メンバーの1人クルト・ハーンが、IBを創る前に、世界の私立学校のコミュニティをつくりました。今では、世界50カ国180校の私立学校が加盟しています。それがRS(Round Square)です。イートンカレッジのようなパブリックスクール(エスタブリッシュなプライベートスクール)どうしの相乗効果を生みだし、世界がより善き社会に向かうように、自らの世界を広げていくリーダーを輩出することを目指しています。

★このRSについて、今までは、一握りの教師と生徒が語ってきたのですが、今回の説明会では、イングリッシュパフォーマンスで、中1~中3までの生徒が英語で説明していました。これは画期的なことです。RSは、9カ月留学で、CEFR基準でB2(英検準1級相当)やC1(英検1級相当)に到達した生徒が中心になって進めてきたのですが、今では学校全体がかかわれるようになったのです。それに、B2までは、全員が歩を進めるというのもすごいパワーですね。

★もちろん、あこがれのRSの国際会議に参加できるのは、英語力とエッセイ力と議論できる力とプレゼン力と自らが世界のために何ができるかというマインド全体の総合力が身についている先輩が選ばれるわけです。

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★しかしながら、それは今や学内では憧れになり、自分も行けるようにがんばろうとする後輩も多数出てきました。切磋琢磨が生まれています。今回も10月にインドで開かれる国際会議に参加する高2の生徒がなぜ自分はそうなったのかを英語でスピーチしていました。

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★そうはいっても、その参加メンバーに選ばれるかどうかだけだと、やはりモチベーションは持続できません。そこがRSの理念の1つ民主主義的なところです。RSの加盟校同士は、無条件で交換留学ができるのです。2週間から1カ月、人によっては違いますが、毎月のように世界から留学生がやってきます。

★今回も中1の男子の家族のところにホームステイしながら、八雲学園にやってきた加盟校の男子生徒が、八雲生といっしょに、日本文化を学んでいるスピーチをしました。八雲生は通訳兼ホスト役を演じていました。交換留学ですから、今度は、その中1生が行きたいと意志を示せば、その生徒の学校に留学できるのです。昨年も多くの生徒がこの制度を活用したということです。

★とにかく留学生が頻繁にやってくるので、ホストファミリーの生徒のみならず、学内全体でもてなします。したがって、八雲では「文化体験」が充実しているわけですね。日本文化について知らなければ、ウェルカムの精神は表面的になってしまいます。そして、RSの加盟国はそのたいていが共学校です。八雲学園が共学校になる必然性は、実はRSとの出遭いにあったのかもしれません。

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★八雲学園の理事長・校長の近藤先生も、RSとの交流で、どんなリーダーシップを発揮っしてもらいたいかというリーダー像にも触れていました。男子はナイト(Knight)のようになってほしい。そして女子はナイトを支えるので終わるのではなく、自らも女性のナイト、デイム(Dame)になってもらいたいと語りました。

★近藤先生ご自身空手7段の武道家で、2020東京オリンピック種目に空手を採用されるように働きかけたほどです。武士道というのがありますが、新渡戸稲造もさすがに当時は男子をイメージして世に著わしました。

★グローバルな時代にあって、その倫理の道は、男子も女子もということなのでしょう。

★もう一つ重要なサインがあったのですが、それは未来の八雲の学内組織の話なので、受験生のみなさんには直接関係ないのでここでは控えておきましょう。

★とにかく普段の授業を見学してください。英語が飛び交い、豊かなプレゼンテーションをベースにするPBL授業が展開し、1人1台ICTが活用されている光景は、実に新鮮です。しかし、説明会では、それについてはあまり広報がありませんでした。もはやそのような学びの環境は八雲学園にとっては、格別なことではないからです。RSの加盟校なら、どこでもふだんから行っていることです。

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2019年9月15日 (日)

2020年からの中学入試(12)なぜ三田国際は人気の出る完璧な先進校になれたのか?鬼才田中潤先生の存在の重さ。

★先日14日(土)、三田国際は説明会とオープンスクールを開催しました。すでにご紹介した通り、大入り満員で、体験授業は大盛り上がり。その様子は同校サイトではやくも公開されています

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★このような先進的でかつ明らかに有効な教育を体験すれば、受験生は、ここで学びたいと思うのは必然だし、保護者は、ここで学ばせたいと未来で活躍しているわが子の姿に期待するでしょう。

★そして、何より昨年から新しい学校ができていますが、三田国際に学べといろいろなアプローチをして、その教育内容や広報戦略を研究しています。そんな学校が今までもたくさんありましたし、これからもたくさん出てくるでしょう。それは、アスリートがゴールドメダルを獲った瞬間から、いっせいに一流アスリートから研究されるのと同じで、当然の流れですね。

★しかし、どんなに研究し尽くしても、なかなか巧く行かない決定的な理由があります。それは本当のカリキュラムマネージャーがいないということです。本当のカリキュラムマネージャーとは、自分の教科以外の内容について造詣が深く、教科横断型を深い思考領域のレベルで話せる教師の事をいいます。

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(中1の生徒と、メッシュマップというデータマップで、日本の地形を推理する学びを行ってしまう田中潤先生。今年の東大の地理でも出題された手法です。)

★たいていのカリキュラムマネージャーは、自分の教科については深く話せますが、他の教科については、調整して教科の代表に話を振ります。したがって、テーマを共有する程度の教科横断型授業を展開はできますが、思考領域での展開はできません。よって、表面的な教科横断型のアイデアはでますが、それはたんに教師も生徒も忙しくなるだけで、力をためることができません。上滑りしてやらないほうがましという結果になりがちです。

★ですから、そのようなカリキュラムマネージャーのリーダーシップは人間関係調整型で、学際的なリーダーシップを発揮することができません。そもそも学際的なリーダーシップとは創発型リーダーシップですから、創造力と戦略的実効性があります。そういうリーダーを鬼才と私は呼んでいます。

★その意味で、三田国際の教頭田中潤先生は鬼才のモデルですね。ほとんどの学校に存在しないし、三田国際にも田中潤先生をおいて他にいないでしょう。よって、どんなに三田国際を研究しても、同じように人気のでる先進的な学校はなかなか生まれてきません。

★では、どうするか?学習する組織を人工的に戦略的に創るアルケミスト(錬金術師)型リーダーが必要ですね。自身は鬼才ではないけれど、化学反応が起きるような学びの組織化を巧むリーダーです。これは単純に人間関係を調整し、事が起こらⅡように単純再生産型組織を維持する調整型リーダーとはまったく性格を異にします。

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(源氏物語が世界最古のベストセラーである理由は、あはれをルールブレイクと置き換えるとわかるとミメーシスやミミクリー的な発想で切り込む視点を田中潤先生は持っています。そして、これこそ「まだ見ぬ教育」のエッセンスであると見抜いてしまっているところが鬼才たるゆえんです。)

★これはなかなか難しいですが、工学院に教務主任の田中歩先生とカリキュラムマネージャーの岡部先生という2人が協力した時、それが起こります。心理学とエスノメソドロジー的社会学のアプローチの融合です。これは、田中潤先生の野生の思考である文化人類的アプローチと同じくらいパワフルです。

★ただし、二人が単純に協力するだけではダメなのです。二人で一人のアルケミストが生まれるメタリーダーシップを発揮する時、その力は絶大です。

★そのとき鬼才田中潤先生が、ミミクリーに登場します。Z世代の進化ぶりの勢いが止まらない工学院が、ブレイクするのは、この両先生がアルケミスト型リーダーシップを生み出せるかですね。

★田中潤先生は、リアルに鬼才ですが、このような先生が他に何人もいるはずはないのです。ミミクリー鬼才が生まれるアルケミスト型リーダーシップをどう構成主義的に生み出すかということがポイントです。工学院はたまたまその例ですが、静岡聖光学院のように、教職員一丸となって鬼才を生みだそうというマインドセットをしている星野校長のようなリーダーシップもあります。

★田中潤先生の鬼才性に気づいた学校は、これから伸びるでしょう。

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聖パウロ学園の英語教育 英語が苦手の生徒も卒業時には豊かな英語力を身につけられる理由。

★昨日14日(土)、聖パウロ学園は学校説明会を開催しました。8月3日に大々的にオープンスクールを開催したことはすでにお知らせしました。基本線については、次の記事の通りなので、「聖パウロ学園のオープンスクール 多くの生徒が集まり、青春を謳歌し、未来も発見できると期待を高める。」という記事をご覧ください。

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★中学入試の学校説明会とは違い、高校生は何度も足を運びません。一度参加すれば、あとは受験勉強に専心します。というのも、高校受験はエリア限定的なので、選択肢が中学入試のように300弱というのとは違います。

★ですから、今回の学校説明会はオープンスクールの時に説明会に来られなかった受験生が中心ですが、PBL体験授業が3つ講座があり、基本同じですから、全部でてみたいという受験生は、リピーターとなって説明会のたびに訪れます。今回もそのような受験生はいました。

★さて、説明会の方ですが、前回は同校の主幹の小島綾子先生が話された教務的内容のところを、今回は英語科主任で研修部長の大久保圭佑先生が話されました。そこが前回と違うところでした。小島先生は主幹ということもあって、教科全体の話をしたうえで、国語科主任としての立場から国語の話を中心に話されました。読解力と小論トレーニングによって、編集思考力が豊かになり、AO入試など志望理由書や口頭試問で力を発揮するという話でした。

★今回は英語科主任で研修部部長として大久保先生は、聖パウロ学園の英語の教育のシステムとPBL授業の効能についてスピーチしました。小島先生もそうでしたが、大久保先生もスピーチが実に巧いのです。広報部長の望月先生や副校長の紀伊先生も実に巧いのです。お二人は歴史の先生ですからストーリーテラーとしての巧みさですね。小島先生は、生徒のみなさんの話によるとファッショナブルな言葉の豊かさと心を動かす表現力があでやかだという話ですが、生徒のみなさんは、よく見ていますね。私もそう思います。

★大久保先生のスピーチは、海外の大学院で研究してきただけのことはあって、欧米仕込みの巧みさがあります。さすがですね。ユーモアで聴衆の心を和ませたところで、聴衆の(ここでは受験生)不安にいきなりダイレクトに手を突っ込むスピーチをします。英語が苦手で得意でないと思っている生徒の方はどれくらいいますかと質問し、ほぼ100%ですね。なんとかできないものかと思っている生徒はどれくらいですか?ほとんどいないですねと。一瞬会場は凍てつきます。

★いったい何を聞きたいのだと。でもだいじょうぶ。昨年も同じ質問をし、同じような感じでした。それが入学すると、なんとかしようと思うようになるし、かなり英語力が伸びますよというオチが、共感を広げます。

★そのうえで、実際に英語教育の内容を話すのです。まず、使用する教科書の話をします。いわゆる検定教科書を見せて、どうですか?と。うわあ英語ばかりだと反応します。その反応を確認したら、すかさず、聖パウロ学園のテキストを映し出します。写真が多いとすぐに反応します。

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★ケンブリッジ出版のテキストで、メディアミックスを取り入れた臨場感あるテキストです。高3までにCEFR基準でB2、英検でいえば準1級レベルにまでになります。もちろん、全員がそいうはいけいませんが、2級くらいまでは伸びるのです。準1級レベルの生徒もでてきます。しかし、少しレベルが高いけれども、写真あり、動画あり、社会や理科でも扱う教科横断的なテーマが満載で、難関ですが楽しく学べます。

★グループワークやコミュニケーションをベースにした授業も功を奏します。この学習経験は、<Hard Fun>と言われています。難関に楽しんで挑戦するわけです。

★それには、やはり多様な仲間がいることがモチベーションをあげます。そういう意味では、いろいろな海外研修やブリティッシュヒルズのようなハリポタ風の完全英語村を利用することもあります。母親と女子生徒は、その話に目を輝かせていました。

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★そして、何より、昨年Web上で交流していたアメリカの高校生が、今年実際に聖パウロにやってきた話をしたときには、会場は盛り上がりました。行事というより、これは生徒たちのプロジェクトです。学校と学校の交流ではなく、クラスとクラスの交流プロジェクトという他校にはない画期的なプロジェクト型の活動です。普段の授業がPBLで展開している影響がこういうところにも表れています。

★さらに、だからといって、国内大学の進学準備をおろそかにしているわけではないという進路準備教育についても説明がありました。受験生もうすうす感じていると思いますが、合格への道に英語の力はかなり有利に働くのです。

★同校からは上智に3名くらい毎年入ります。1学年80名の学校としては、これは凄いことでしょう。しかしながら、これからは理工も英語は重視されます。AO入試の時には、おもいきりその力は役立つことは、やがて明らかになっていくでしょう。学問の世界ばかりではなく、理工系人材を重視する企業には、海外からの高度人材がたくさん入ってきます。英語が社内公用語になっていきます。すでにそういうところは増えていますね。

★多様性が重要なのは、価値観とか考え方というレベルだけではなく、リアルに多様性に遭遇する日がすぐそこまでやってきているのです。これに対応できる高校は、実は意外にも少ないのです。聖パウロ学園はそういう意味でも先進的なのです。佐々木校長先生が英語の教師でもあるということから、そこがきちんと柱となってここ数年大きく展開してきました。先見の明ありというわけです。

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2020年からの中学入試(11)生徒1人ひとりのための破格の思考型問題のモデル~聖学院 偏差値主義の悪の帝国に挑む

★これまで、2つの記事「2020年からの中学入試(08)4科入試の思考型問題のモデル~海城の社会 」と「2020年からの中学入試(09)4科入試の思考型問題のモデル~麻布の場合」で、4科入試で出題される骨太の思考型問題のモデルを考えてきました。「2科4科入試」で思考型問題が増えることは、とても良いことですが、海城や麻布のような思考型問題を「2科4科入試」で出題しているかどうかは、実はまだまだ疑問だということを提示しました。

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(聖学院のレゴキング大会のシーン。聖学院は、イベントのみならず、学内の授業でも活用されています。写真は同校サイトから。)

★考えることと書くこと話すことは、連動していますが、大学生くらいまでは、考えることと書くことと話すことは一体化されていないのが現状です。どんな生徒も考えることはできます。しかし、それを書いたり、話したりできるかというとまだまだ別のようです。しかも、今ままでの教育では、これらは、別々に行われてきましたし、特に話すことのトレーニングはなされてきませんでした。

★だから、偏差値エリートは文書主義的な論理的思考を発揮するのは得意でしたが、プレゼンテーションとなると意外やだめな人も多いですね。しかも論理的思考に特化してトレーニングを受けていますから、前提の視座を自分で構築する思考という最も重要な倫理的思考が抜け落ちています。だから、悪法も法なりという恐ろしい事件が毎日のように報道されています。

★「2科4科入試」でそこまできちんとすべての生徒の将来を見据えて「思考型問題」を開発しているところは、麻布や海城を除いて、ほとんどないというのが本当のところなのです。だから、「2科4科入試」で思考型問題が増えてきたから、偏差値で測れない「謎の入試」である「新入試」はやる必要がないというのは、子供の学習権から見てもおかしいのです。そんなことを言い続けていたら、チコ ちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られますね。

★その点、聖学院の「思考力入試」は、「思考力」と「書く力」と「表現する力」を、思考力入試に取り組んでいるうちに生徒が一体化できるようにプログラムされています。もちろん、入試なので時間制限があり、3つがバラバラで終わる生徒もいます。しかし、「書く力」が圧倒的だとか「表現力」が圧倒的だとかいう生徒がいます。その場合は、採点する先生方は悩みながら話し合います。ルーブリックでつけるので、どの項目もバランスがよいのか、限定的に際立っているのかは、合否を判断するときに大いに悩むでしょう。それが「謎の入試」と言われるゆえんでしょうが、生徒1人ひとりの可能性を見極める作業を徹底するのが、本来の私立学校の試験ではないでしょうか。

★それでは、あの海城の社会の問題(ココをクリックするとその問題を見られます)をどうやって出題すると、偏差値に関係なく、思考力があるのかどうかわかるというのでしょう。

★社会における問いは、本来「社会のダイナミズムやメカニズム」を考えることに目的があります。もちろん、イギリスをはじめ欧米のように地理学は世界戦略のためにその知恵を活用するというのが隠れた大きな目的ですが。

★海城の問題は、時の権力者の社会的心理構造を実は問う問題です。麻布だったら、それが平安後期の特殊な問題ではなく、歴史を通じて、似たようなことが起こることに気づかせる問題を矢継ぎ早に出題していくでしょう。この手の権力的な問題を好んで出すことはしない武蔵でも、問いのラインナップは、麻布に似ています。

★しかしながら、「末法思想」と「浄土教」についての知識を少し深く記憶していると海城の問題はできてしまいます。得点はとれるでしょうが、「社会のダイナミズムやメカニズム」を知ろうとしなくてもできてしまうというパラドクスがここにはあります。

★だから、麻布は、その垢おとしをするために、似たような構造の歴史的事件を分析させていくのです。しかしながら、結局はどれも知識限定的な力が働き、「社会のダイナミズムやメカニズム」が前面にでにくいのは否めません。それゆえ、最後の問題は、身近な自分の出来事に引き付けて考えさせるのでしょうが、それがなければ、やはり「知識」で解けてしまうという誤解を招きます。

★しかし、いずれにしても「思考力」と「書く力」をみることはできぞうです。話す力や制作能力が一体化しているかはみることができません。もっとも、麻布の問題が得意な生徒は、入試でそこを直接問わなくても、一体化している確率が高いのは経験上そうでしょう。そこは、麻布の建学の精神に憧れてチャレンジするわけですから。

★しかし、すべての受験生が、思考力があれば、書けるのかとか表現力があるのかといえば、そうとは限らないとみなさんお思いでしょう。しかしながら、それはトレーニングされていないからというのが実情です。なぜなら、知識を暗記することと与えられた素材を理解するトレーニングにのみ特化されているのが偏差値60未満の生徒です。偏差値階層構造の根源的な問題は、塾と学校が、偏差値を間違って使ってきたことによる学びの偏差値階層別固定化問題なのです。

★それをぶち壊したのが聖学院です。海城のような問題を聖学院なら、フィクションの物語に転換してまずは出題するでしょう。権力者たちが絶対的な精神的力をもった僧院に足しげく通うようになった物語を語り、その僧院はお金持ちにしか門を開かなかったこや、当時の天変地異のデータ、民衆の暮らしぶりの資料、民衆を襲う竜の話などするでしょう。

★そのうえで、実はこれは22世紀の話なのだ、すべてはメタファーだから、自由に物語を自分で変えて、レゴでその世界を創ってみてごらんと。そして、自分で創った世界をプレゼンする時間も設けます。そんなトレーニングをしたわけではないのに、鼻を膨らませて話します。まるでスターウォーズのような世界をとうとうと語ります。

★そして、話した後に、文章にも転換するのです。レゴで表現し、スピーチという表現をして、文章で表現するのです。この3者の中には、さんざん思考した痕跡があるのです。「思考力」と「書く力」と「表現力」が一体化される<新しい学びの経験>を思考力入試でするのです。

★もちろん、問いはこれだけでは終わりません。麻布同様で、自分ならどうやってその世界を救うのかという問いを投げかけるでしょう。レゴでそれを表現し、プレゼンし、書くのです。

★どんな生徒も、自分事として取り組めば、思考力は動き出すし、表現力も書く力も発揮できます。その環境を設定していないのに、偏差値60未満は思考力より、知識と理解力だと固定化されてきたのです。

★聖学院は思考力入試ばかりではなく、今までの2科4科入試も行っています。突然考えよと言われてもその用意ができていない生徒も、自分がやってきた力で入学してもらい、思考力入試と同じようなオリエンテーション、LHR、授業がありますから、そこで才能を開花する場があるわけです。

★「2科4科入試」で、海城や麻布のような骨太の思考型問題を出題していない学校は、残念ながら学校のカリキュラムは、その入試の延長上にあります。その延長上にさらに大学入試における「一般入試」があります。そして、その延長上に今までだったら大学卒業後の世界があるはずですが、2030年からはそこの門は閉じてしまいます。倫理的思考力・批判的思考力・創造的思考力がない人材は、ホワイトな企業はもはや採用しなくなります。研究者の道も当然閉ざされます。アーティストもありえませんね。

★世界はもうとっくにそうなっています。それが新しい経済格差の問題です。倫理的思考力・批判的思考力・創造的思考力がサーキュレーション・エコノミーを生みだします。この世界を共に創っていこうとするクリエイティブなグローバル市民になるかならないか。それは自己責任もありますが、子供たちの未来を見据える大人の責任でもあります。

★「謎の入試」とレッテル貼りをし、子供たちの未来のゲートをつぶす悪の帝国との闘いが、2020年の大学入試改革から始まります。海城や麻布のような学校が、偏差値にかかわりなく、存在する私立中高一貫校の世界の新しい展開が生まれるのです。

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2019年9月13日 (金)

第1回 国際バカロレアの10の学習者像からIBの意味を考える

■2019年9月13日(金)3時限目

0)Speed Dating:事前リサーチを情報共有

1)10の学習者像を確認する
・「文部科学省IB教育推進コンソーシアム」から調べる

・「国際バカロレア(IB)の教育とは?」から調べる。

このアクティビティは?
どんな思考を活用したか?

2-1)10の学習者像の関係を議論する。
・ポストイット
・ホワイトボード
・ニュースを参考にする

このアクティビティは?
どんな思考を活用したか?

2-2)「視座を設定する問いを立てる」とは?

3)チームごとプレゼン
・プレゼン評価を考えてから
・自己評価の結果提出

4)事後リサーチ
「国際バカロレアの意義について400字で要約」→メールで提出
・パラグラフライティングに従って書く。

5)事前リサーチ
「2025年について教科書AI第1部全部と209~214ページを読む。」→イメージをつかむ。

6)評価について

 

【参考】15回の授業の構成 すべてWS形式で

第1回から第3回 国際バカロレアの意義について

第4回から第5回 国際バカロレアのエッセンス

第6回から第9回 TOKについて

第10回から第12回 評価について

第13回から第15回 授業のプロトタイプ


 

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2019年9月12日 (木)

PBLの世界(26)アサンプション国際中高 改革高校1期生はやくも大学実績が飛躍する予測たつ。そしてPBL3.0へ準備始まる。

★アサンプション国際中学校高等学校は、3年前に校名変更、共学化、21世紀型教育導入を断行しました。3年前、中1と高1がそれぞれ改革学年だったのですが、そのときの高1が今年高3です。21世紀型教育の3要素で、他の要素の共通基盤であるPBLに関しては、1年目はアクティブラーニングとPBLはコーラーとペプシの違いぐらいで試行錯誤していました。PBL1.0だったわけです。

★2年目は、PBLという言葉で統一して使うようになり、プロジェクトもたちあがり、全体に浸透する動きを開始しました。思考スキルやアクティビティを活用しながら、共通認識を進めました。その中で「探究科」のプログラムが全学年で立ち上がり、SDGsとも相まって、PBLのベースができました。PBL2.0に到達したのです。

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★3年目は、いよいよ各教科にPBLを浸透させる段になりました。教科横断的であり、かつ教科として探究への根っこも掘り下げるリサーチが始まったのです。

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★それには、各教科の授業の中で、創造的思考力や批判的思考力を養う必要があります。坂本先生の高3の英語の授業を拝見しましたが、オールイングリッシュでラテラルシンキングのコミュニケーションをとる授業を行っていました。イマージョン教育を実施しているイングリッシュコースの生徒ではありませんが、ここまで英語で話し、複眼思考をするようになったのかと感動しました。

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★坂本先生は、クラスによって、単元によって、学年に応じて、変幻自在なPBL授業を展開できます。しかしながら、高1のときから知っている高3生の成長ぶりをみて、PBLは生徒が大きく変容する場になっているという実感を抱くことができました。丹澤校長も同行してくださっていたので、改革学年1期生の大学進学実績はどうなる予想が立っているのですかと尋ねると、すでに学校説明会でも語っていますが、かなり期待ができますよと即答だった。

★中学入学の改革学年は3年後に卒業するのですが、そのときにはもっと凄いことになっているというのです。なんといっても次のPBLとしてアップデートをいかにするのか学内で話し合い始めましたからねということでした。なんと2020年は、PBL3.0へジャンプするというのです。

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★そういえば、山根先生の中3の国語の授業を拝見したのですが、非常にレベルが高いのに驚いたのですが、その背景にはこのような未来への野望があったわけですね。山根先生は、完全にファシリテーターで、教えることをしないのです。評論文の形式段落を8つもいきなり要約してねと提示したと思うと、今度は形式段落の関係全体を捉える作業に進み、全体把握のプロセスをチームで共有していくのです。

★中3で評論を読むのもたいへんなのに、いきなり要約はかなりハードルが高いのですが、さらにその上で、削除するという編集作業をしていくわけです。山根先生の国語のPBLは、まずは編集の目を経験するところから始まっているということでした。これが高2になると、小論文や小説の編集・創作にまで発展していくわけです。そりゃあ大学合格実績がでるはずだと合点がいきました。

★授業の見学の合間で、英語科の廣田先生が、久しぶりですと顔を見せくださいました。廣田先生のPBLも「思考実験」を英語で行う画期的なPBL授業を行う先生です。ああなるほど、「思考実験」と英語。そして坂本先生のオールイングリッシュでの「ラテラルシンキング」のペアワーク。なるほどなるほど、PBL3.0の準備がすでに着々と進んでいるのだと感じました。

★そう応接室で感じ入っていた時、となりの応接室から若々しい流ちょうな英語で、対話をしている声が聞こえてきました。アサンプション国際は外国からの来客が多いので、そのおもてなしをされていたのでしょう。いったいどなただろうと思っていたら、英語科の松平先生でした。

★イマージョン教育を行うネイティブスピーカーの教師は10人くらいいるのですが、日本人の先生もまったく負けていないのがアサンプション国際の英語科の教師の特色です。職員室でも英語が飛び交っています。

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★さて、今年の中1はどんな様子なのだろうと覗いてみると、数学科の中井先生がPBL授業を展開していました。中1でもなんとか考えてできる数学の大学入試問題を提示していました。中井先生の信念は、すでにしっている解放パターンを条件反射的に適応して解くなんて数学ではない。未知なる問題を、いままで経験してきたいろいろな考え方を使って、つまり多角的にアプローチして、自分で突破口を見つける数学的思考体験から数学の醍醐味は始まるんだというのです。

★中1の段階で、いつの間にかこんなハイレベルな数学をまるでゲームで遊ぶようにワクワクしながら取り組んでいる姿をみて、アサンプション国際の進化を期待せずにはいられませんでした。

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2020年からの中学入試(10)三田国際が今年も人気のわけ

★9月14日(土)、三田国際学園はオープンスクールを開催します。いつにも増して申し込みはいっぱいになり、午後の説明会を増設しました。残念ながら午後の部では、体験授業は実施されないということです。

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★体験授業のプログラムの紹介を眺めると、あまりにもおもしろいものばかりが並んでいます。たとえば、英語で社会を学ぶプログラムの内容はこう紹介されています。

You must form a new civilization on an island, but your resources are limited. How will you use your limited resources? What do you gain (or lose) from using resources in a particular way? Students will examine the economic concepts of opportunity cost and utility.

★日本語のガイドはないので、そのつもりで申し込んでくださいというなかなかのクラスです。私の方は、グーグル翻訳で、上記の英語を理解しました。こう翻訳されました。「島で新しい文明を形成する必要がありますが、リソースは限られています。 限られたリソースをどのように使用しますか? 特定の方法でリソースを使用することで得られる(または失う)ものは何ですか? 学生は機会費用と効用の経済的概念を調べます。 」

★まさしく、大学で学ぶ「ロビンソンクルソーの経済学」ですね。三田国際の人気は、教科書を超えて、中学生から学問を学べる学びを形成しています。

★デューイ、ブルーナーの流れを汲む進歩主義教育が先鋭化したものです。学問の最前線を生徒も学べるような授業にするのが、進歩主義的教育の面目躍如なのですが、この教育は、日本の教育では、1971年から1979年まで行われそうになったのですが、その後徐々にゆとり養育にとってかわられます。

★三田国際は、日本の国力を増大させたあの幻の現代化カリキュラムを麻布以上に徹底して実施しています。この三田国際の新しい学びの経験こそ、AI社会にシフトする2040年に、すばらしい人材を輩出するシステムなのです。そのことに気づいている進取の気性に富んだ保護者が、そのような学びの経験をといっせいに申し込んだのです。

★2020年中学入試も三田国際は難化するでしょう。そして御三家クラスの学校との併願もますます増えることになるでしょう。

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2020年からの中学入試(09)4科入試の思考型問題のモデル~麻布の場合

★4科入試で思考型問題が増えてきたという傾向がでてきたと言われています。これは時代の要請から考えればよい傾向です。しかしながら、その質を問わなければ、記述でも記憶の問題だったりすというのは、前回述べました。という意味では、海城学園のような骨太の思考型問題を出題するところは実はまだまだ限定的かもしれません。

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★一方で、麻布の問題は、海城学園以上に深い思考型問題を投げかけてきます。もしも、海城学園と同じ末法思想と浄土教の関係を扱うとしたら、麻布の場合は、海城学園と同じような問題も出題はしますが、さらに平安後期の末法思想の時代に限らず、病や天変地異が同じように発生したり、時代としては行き詰まっている他の時代をいくつか素材文章の中に記述して、時代の変化と不安や恐れが生まれるメカニズムを考える問いを投げかけてくるでしょう。

★末法思想や終末思想、デストピア思想は、長大な歴史の中で何度となく出現します。そして、おそらくその変わり目のときには、それぞれの時代の都市生活がピークを過ぎている共通点がありますから、都市を多角的に考える問いを幾つか出して、社会の変化が生まれるメカニズムを広い視野で考えていく問いが配置されると思います。

★そのうえで、毎年必ず、現代の問題に到達します。たとえば、いろいろな国で起こっているデモや抗議運動など、共通のメカニズムや時代の違いを考える問いを出題したうえで、今日本で不安や恐れが原因で発生しそうな動きを予想させ、その不安を払しょくするために人々はどう動くのかまで推理させるでしょう。そして、君ならそのような情況をどのように解決しようとするのか最終問題で問うてくるでしょう。

★システム思考と言えばそうなのでしょうが、とにかく歴史や社会の変化のメカニズムやその構造を考える視座を広げる問いを設定し、現代の問題をどのように生徒が引き受けていくのか問いかけるのです。知識の問題ももちろん、出題されますが、そのような流れを大きく捉えるための問題ですから、教科書にある程度の基本的な知識です。

★このような問題は、適性検査では出題されません。適性検査型問題は、一つのテーマで作問することはないからです。

★すべての学校が、麻布のような問題を出題することはできないでしょう。何せ、麻布の問題は、2月1日1回だけで、問題を練りにい練って作成できますし、合格発表も2月3日と採点に十分時間をかけられます。

★ですから、即日合格発表を出す学校が多い中、2科4科入試で骨太の思考型問題を出題するというのは、実は無理なのです。記述の形式の問題は出題することはできます。しかし、それはキーワードがあるかないかで、減点していく採点しやすい問いです。

★それでは、この状況は麻布や海城のような学校に限られた話なのでしょうか。いいえ、それでは、受験生の才能を見出す機会が設定できません。そこで、出題したいでも時間的に難しいというジレンマを乗り越えるために創意工夫して開発されたのが、聖学院、かえつ有明、工学院のような思考力入試だったのです。

★これによって、偏差値にかかわらず、思考力を発揮するチャンスが生まれたのです。これは、偏差値階層は不動だという幻想を崩すきっかけになりました。中学入試の<新しい学びの経験>が加わることによって、このマーケットにも新しい息吹が広まりました。

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2019年9月11日 (水)

2020年からの中学入試(08)4科入試の思考型問題のモデル~海城の社会

★適性検査型入試、思考力入試、自己アピール入試、算数一科入試、得意選択入試という<新入試>の根底には、知識優先ではなく思考優先の問題を出題し、従来型の優秀生とはまた違う才能をもった生徒を見出したいという考えがあります。

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★そういう流れの中、いやそんな「謎の入試」をやるまでもなく、4科入試の中で「思考型問題」を出題できるという考え方もあります。いずれにしても、既存の知識の定着だけではなく、考える過程を重視する問題が出題されることは、未知なる事象や現象が多くなる時代にあって大切です。2024年以降の本格的な大学入試改革にも有効でしょう。

★しかし、それなのに、「2科4科」でいいんんだというこだわりはなんでしょう。そのこだわりには、「2科4科」は偏差値で測れるからよいというものです。ところが、そういう論者は<新入試>は偏差値で測れないから「謎の入試」だと否定的ですね。

★4科入試であっても、「思考型問題」は記述式になりますから、実は選択肢問題に比べて採点許容があり、そう簡単ではありません。

★たとえば、今年の海城の社会の入試問題の120字の論述問題などは、4科入試の思考型問題のモデルといえますが、やはり、採点はそう簡単ではなさそうです。この大変さは<新入試>でも同じ程度です。

★採点許容というのは、実はルーブリックと同じ考え方のものですから、偏差値で測れる測れないというのは、形式だけ見て判断されている可能性があります。海城の思考型問題も、適性検査型入試や思考力入試などの<新入試>の思考型の問題も、思考過程をみていくわけですから、採点許容とかルーブリックという内的な評価がされています。

★思考過程をみるというより、思考の構成要素をみるといった方がよいかもしれません。その構成要素の組み立て方が論理的構造になっているかもみるでしょう。

★さて、ここまできて、もう一度上記の海城の問題をみてください。この問題は、平安後期の上皇らの言動を情緒的側面からと社会現象の変化からの両側面から考えることと、情緒的側面と社会現象の変化の関係について考える問題です。さらに、記憶をひもとくというよりは、資料を読み解くリサーチ力も活用できているかどうかもみる問題です。リサーチというアクティビティと関係を考えるコンセプトマップなどを活用するアクティビティがふだん授業などで体験されてきたかもみることができます。つまり新しい学びの構えができているかどうかも見ることができます。上質の問いというほかありません。

★とはいえ、この問題は社会の問題ですから、記述の文章の中に、「末法思想」とか「浄土教」というキーワードが書き込まれなければ、そこは減点でしょう。しかし、この時代を表す知識を一般化することで、社会変化と人々の生活の変化と時代心理の関係の歴史的構造を見抜いた生徒がいたとしたら、どう採点するのでしょう。ここは、海城の場合どう判断するのかわかりません。少なくともこの問題に限れば、知識も必鶯ということははっきりしています。

★実は、この時代を超えた構造に着目して出題するのが麻布や聖学院の思考力入試です。これについてはまた考えるとして、ここで一つ注意をしておくことを述べておきます。

★4科入試でも思考型問題を出題するようになってきたと言われたとき、ただ記述式問題であっては、必ずしも思考型問題でない場合があります。たとえば、上記の海城学園の問題と同じ場所から問題を出している学校があるとします。

★そして、その学校が「末法思想」について50字以内で書きなさいとか、「浄土教」について50字以内で説明しなさいなどという記述式問題を出したとします。これは果たして「思考型問題」でしょうか?

★論理的に書かなければなりませんから、そういう意味では思考していますが、許容はそう難しくありません。なぜでしょう。これは知識問題で、憶えたことを記述という形式に転記するだけの問題です。思考コードで言ったら、A2ぐらの問題です。

★海城の場合は、「末法思想」とは何かや「浄土教」とは何かを記憶しておかなくても、資料から推理できますから、明快に思考型問題です。

★実は、記述形式でも簡単に採点できるようにするには、このA2レベルで、形式を記述式にするという操作ができるわけです。このように思考コード分析をしていくと海城の場合はB2ですから、同じ記述式でも思考の深さの差異がわかるのです。

★この観点から言えば、4科入試で思考型問題を出題しているところは、まだまだ限定的なのです。

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2019年9月10日 (火)

対話の世界(2)聖パウロ 松本先生の数学<対話>の挑戦

★聖パウロ学園の松本先生(数学教諭・教務部長)の授業は<対話>が中心のPBL授業。同校の生徒は,3年間じっくりと協力して互いに切磋琢磨していく学びの構えを形成していく。高1の段階では、数学における<対話>は教え合うということが中心。それがどの段階で学び合いにシフトし、最終的には多角的にアプローチする論理を互いに議論し合えるかという成長過程を松本先生はデザインしている。

★教科によっては、言葉や概念についてすぐに多角的にアプローチしながら議論ができるわけでが、やはり<対話>の成長過程は教科特性みたいなものがあるのかもしれない。日本の教育学は、制度的な研究やその社会学的批判は優れているし、教育心理学も盛んだ。しかし、生徒の直接的環境である授業における成長過程の研究はまだまだだ。まして、教科特性の成長過程はほとんど目にしない。

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★おそらく研究の素材や情報を収集するが困難ということもあろう。やはり、そういう分野は現場で教師が主体的にアイデアを出して、実践して検証していくことと教師の情報共有のコミュニティが必要だ。21世紀型教育研究センターのセミナーで、いずれ松本先生は実践の報告をするだろう。

★さて、夏期講習中、松本先生は、大学入試問題を1題90分かけて高2の生徒と<対話>した。問題を見るや、生徒はシンプルだけど重い問題ですねと目を輝かしていた。

★最初は個人で考える。中にはぶつぶつ独り言を言っている生徒もいる。図形的アプローチで行くかズバット数式で計算していくかどっちでいくかなあと。

★円の方程式と反比例の方程式と条件が提示されているシンプルな問いだから、すんなり解法パターンをあてはめて解いていくのかと思っていたらそうではなかった。

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★そのうち、仲間で議論が始まっていった。そっちのアプローチでいくのかあ、いけるだろうけど、計算がめんどうではないかとか、その発想はなかったなあとか、互いのアプローチの情報交換をしていく。やがて、そっちのほうがシンプルに飛べるなあとなっていく。

★アプローチと計算処理の微妙な相克が入試問題らしいが、松本先生はもちろん、この段階では多角的なアプローチをまず大事にしている。

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★議論の後、松本先生がレクチャーをする。それは生徒が活用したアプローチをまず解説した。生徒は、図形によるアプローチ、計算によるアプローチ、相加乗法を活用したアプローチ、線形計画法によるアプローチを活用していたので、それらを全貌した。

★そして、松本先生はこれ以外にほかのアプローチはないかと問いかける。生徒は限界に挑戦することになる。

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★なかなかでてこないところで、実は全部で11通りはあるのだというレクチャーを再度して授業は終わるのだが、90分という時間は生徒にとっては実に短かった。

★松本先生は、解き方にばかりこだわると、数学的な直観が養えないという。問題というのは数学的世界の氷山の一角、水面下の数学的世界全体を分析したり統合したりして、直観できる状況にすることで、ようやく発想というものが生まれるというのが松本先生の持論である。

★松本先生は、この直観力がすでにある生徒もいるけれど、それはいわゆる天才で、みんながそうではない。それにみんなが数学者になるわけではない。しかし、数学的直観は創造力を生み出す一つではある。数学以外の分野に将来かかわるときにも役立つでしょうと確かな信念を静かに語った。

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2019年9月 9日 (月)

2020年からの中学入試(07)公立中高一貫校の全国約200校の意義。

★2022年までに、茨城県が公立中高一貫校を10校新設しますから、全国の公立中高一貫校はそれまでに200校以上になります。この数は何を意味しているのでしょうか?片方で、IB(国際バカロレア)認定校200校計画が推進されて久しいですが、こちらもすでに130校を超えています。おそらくいずれ200校に到達するでしょう。

★IB校は必ずしも公立学校ばかりではないですが、ここも増えていくことは必至です。一体これらの動きは何を意味するのでしょうか?それは結論先取り的に言ってしまえば、私立中高一貫校の教育システムを変容させるという大きな意味があるということです。

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(首都圏模試センターのサイトには、茨城県で、2022年度までに中高一貫校を10校開設する情報や東京都立の公立中高一貫校10校のうち、併設型の高等学校・附属中学校として設置されていた5校(武蔵・富士・両国・大泉・白鷗)が、2022年までに高校募集を停止し、中学募集の規模を拡大する情報について詳細に記述されています。)

★リーマンショック以降から2013年ぐらいまでの私立中高一貫校の生徒募集の減少は、経済の低迷と少子高齢化の影響が大きいわけですが、実は公立中高一貫校の増加が関係していないわけはありません。中学入試において、家庭層が年収1000万円以上とは限りません。しかも世帯年収でなんとかやりくりしているという実態もあります。そこに無料の公立中高一貫校ができたのですから、そこへ流れるのは当然です。

★しかしながら単純にお金でだけではなく、カリキュラムの質がよいからその流れが大きくならないわけがないのです。エッ!どうやってそんな中身までわかるの?それはすでに人気のある成城と東洋大京北のカリキュラムを見ればわかります。両方とも、公立中高一貫校や日比谷の校長だった先生が校長に就任して、カリキュラムを改善しました。その質の高さはすぐに評価され、成城はもともと人気だったのに、もっと人気がでました。東洋大京北は、東洋大学の附属化になったということもありますが、実はカリキュラムそのものが変わり、人気がうなぎ上りになったのです。

★このようなことが、うすうす私立中高一貫校側もわかってきました。そして開成や麻布のように大学合格実績を出そうと、右へ倣えをするのをやめる私立中高一貫校が登場したのが2011年前後です。適性検査型入試を開始し、はじめは公立中高一貫校の受け皿になろうとしましたが、思考力入試という論理的・批判的・創造的思考に注力した<新入試>を開発しはじめたのです。

★なぜかというと、ミニ開成はもうたくさんあって、今更そこに参入しても、そう簡単に打ち勝つことはできません。そうしているうちに生徒は来なくなるでしょう。別次元の方法を考えなくてはならなかったのです。しかし、アイデアはそう簡単には生まれません。一般に学校の教師は、塾の教師と違い他校の入試問題を研究することはありません。

★しかし、人気の本質的なものは何かから調べなければ、持続可能なアイデアは生まれないということもあり、麻布や開成、栄光、東大、Aレベル、IB、特に東大の帰国生対象入試問題を研究する学校が現れました。

★そして、先生方は、そこには、自分たちがあえて触れてこなかった批判的思考力や創造的思考力を問う骨太の学力観があることに改めて気づいたのです。そして、ため息をつきながら、今間のままのうちの学校では、このような問題をいきなり入試に出せないし、まして授業で行っても、生徒もついてこないだろうと。

★そんなとき、適性検査をもう一度分析してみると、知識の問題が全くないことに気づきました。知識は調べながら考えていけばよいというスタイルの入試問題なら出題できるし、知識を憶えるところから始まるのではなく、調べるところから始める授業なら骨太の問いをあるタイミングで出せるかもしれないと気づいたのです。

★そこから、思考力入試とPBL(Project based Learning)の研究開発が生まれました。折しも大学入試改革や学び方を変える必要性の話が、経産省から提言されていたころです。文科省が公にするのは2013年ころからですが、それ以前に、私立中高一貫校の<新入試>やPBLは生まれていたのです。

★それは、世界同時的な動きでもありました。中国やインド、シンガポールなどの経済的な台頭は目覚ましく、IT革命は、どんどん階層構造をぶち破っていく動きがグローバルな動きでもありました。先進諸国は少子高齢化という共通の問題がありました。もちろん課題先進国は日本ですから、改革の話題は、一気に広まりました。

★2020年大学入試改革が大山鳴動してなんとかになりそうで、残念ですが、だからといって、この改革がなくなったわかけではありません。

★教育イノベーションによって人口減でも人口が多かった時以上に経済を活性化させようとする方向性は堅実に進んでいます。その表れが、公立中高一貫校の増加であり、IB認定校の増加です。<新しい学びの経験>を生み出すことがポイントです。

★そして、公立中高一貫校とIB認定校の合わせた数は、400校にもうすぐ手が届きます。これは、全国の高校の数に占める割合が約7%ということを意味します。

★現状、私立中高一貫校はどうかといえば、シェア7%です。私立中高一貫校の教育が<従来型の学びの経験>で終わったら、どうなるかは火を見るより明らかです。

★それゆえ、公立中高一貫校やIB認定校の増加は、私立中高一貫校がサバイブするためにさらなる教育イノベーションとして<新しい学びの経験>を開発実施する必然性が生まれているのです。それが<新入試>の実施であり、グローバル教育であり、STEAM教育であり、ICTを活用したPBL授業の展開です。そして、首都圏模試センターの北氏の分析にあるように、この<新しい学びの経験>の出現が、2013年以降、中学入試人口を右方上がりにしたのです。

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2020年からの中学入試(06)ますます増える新入試の意義 時代の精神から見る必要がある

★首都圏模試センターは、受験業界の中で、いち早く「適性検査型入試」「思考力入試」「自己アピール入試」「STEM入試」「算数一科入試」「得意教科選択入試」「英語入試」などの動きを<新入試>の大きなウネリととらえました。そして、毎年<新入試>体験を各学校と協力して行っています。今年も実施します。最初は1箇所で行っていましたが、昨年は2箇所で行い、今年はついに3箇所で行うほどになりました。

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★しかし、この<新入試>については、評価はいろいろあります。首都圏模試センターは、2020年の大学入試改革や本格的に実施される2024年、さらにはソサイエティ5.0などが行き渡る2040年からバックキャストの発想で考え、論理的思考力や創造的思考力を高偏差値の学校のみならず、多くの学校を選択する受験生が取り組む<新しい学びの経験>という意味があると認識しています。

★一方、首都圏模試センター以外のシンクタンクは、フォーキャストの発想から、偏差値で測れない<新入試>を謎の入試として、一時の流行だととらえています。むしろ、それよりも、<算数1科入試>や<得意科目入試>が増え、受験生の負担軽減や得意教科で受験できる機会をつくるマーケティング的な視点で捉えなおしています。

★これは教科以外の<新入試>は、以前のように負担軽減としてとらえず、何か謎の能力を見る問題だとしてているわけで、ある意味、その存在を認めてしまってもいます。ただ、その有効性を否定しているのです。

★さらに、未来の大学入試改革からみて、<新入試>の在り方が現れるのは時代だとみなしながらも、<4教科>入試の学びもまだまだ重要であるし、むしろ普遍的な学びだとして、そのバランスをとりながら中学入試を切っているシンクタンクもあります。

★どれが正しいかは、わかりません。それを証明する根拠は実はないのです。あくまで、どのシナリオプランニングが、マーケットで受け入れられるかにかかっています。

★しかしながら、一つはっきりしていることは、<新入試>は、たとえば麻布の骨太の論述問題で活用する思考力を、偏差値にかかわりなく出題しようというところに出発点があるということで、<新入試>と麻布のような<教科入試>は重なる部分が多いのです。たしかに教科の特性は<新入試>ではあまり取り扱っていませんが、麻布のような<教科入試>で活用する論理的思考力と創造的思考力については共通しているのです。

★多くの私立中高一貫校の<教科入試>は、麻布のような論理的思考力や創造的思考力を活用しなくても合格できてしまうので、<教科の特色である知識問題をベースとする2科4科入試>と<論理的思考と創造的思考が前面にでる新入試>は全く別のものに見えてしまっているのです。

★これについては、具体的な問題で今後考察してみたいと思いますが、過去の偏差値だけでデータ診断をするフォーキャスト発想では、創造的思考力は評価ができないからとネガティブにとらえられます。これだと創造的思考力を重視するAI社会シフトの2024年から2040年に新たに生まれる仕事や研究に対応できないでしょう。

★思考コードのようなエンパワーメント評価によって、生徒の才能を見出しそこを伸ばす評価こそが、つまりこのようなバックキャスト的発想が、創造的思考力を重視するのです。

★保護者の皆さんは、どちらを重視しますか?従来のように偏差値階層に従い、偏差値が低ければ麻布生のような論理的思考や創造的思考は養う必要はないとみなしますか。自分のお子さんをそんな状況に閉じ込めることになるのですが、いかがでしょうか。

★それとも、創造的思考力を偏差値にかかわりなく、我が家の子どもにも身につけさせたいと思いますか?知識理解だけでの問題が得意な高偏差値の生徒が東大はいけても、海外大学はいけないということもあるし、知識理解の問題は<わかる>けれど、トレーニングが足りなくて<できる>にまで今のところいたらないけれど、創造的思考力を発揮するのは大好きだという生徒の多くが東大は合格できないけれど、海外の大学に進学したという例はもはや少なくありません。

★シナリオプランニングをバックキャスト発想で描くのか、フォーキャスト発想で描くのか、バランス感覚で描くのか、それは≪私事の自己決定≫です。学校説明会に足を運び、学校選択フィールドワークをしながら、多面的に考え色々感じながら意思決定して欲しいと思います。

 

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2019年9月 8日 (日)

2020年からの中学入試(05)ますます多様な入試形態へ

★「2020年から中学入試(03)と(04)」で、仏教系学校とキリスト教系学校の入試形態の変更について紹介しました。このようなミッションスクール以外でも大きな変化が現れています。

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★それについては、本日の首都圏模試の「統一合判」で配布される「小6ブレイク」という冊子の中にまとめられています。いずれPDFが首都圏模試サイトで公開されるでしょうから、参考にしてください。ここでは、気になる変更について列挙しておきます。

本郷 2021年度から高校募集を停止、完全中高一貫校化。
豊島岡女子学園 2022年度から高校募集を停止。中学校の定員は240人のままで、少しスモールサイズになる。

田園調布学園 2月1日午後に算数1科入試を新設、入試時の面接を廃止。
山脇学園 2月2日午後に、「探究サイエンス入試」新設。1日午後入試は国語または算数の1科入試など多様な入試を設定。

国本女子中学校 2020年度からカナダ・アルバータ州教育省と提携し、BC州と提携している文化学園大学杉並のような「ダブルディプロマコース」を新設。
神田女学園 2020年度からアイルランドのRockwell collegeに18か月以上留学するダブルディプロマプログラム実施。国本や文杉と違い、生徒が現地校に留学することで2つの高校卒業資格を取得。

かえつ有明 授業は男女別学を廃し、2020年度から完全男女共学の授業にシフト。
小野学園女子が「品川翔英」と校名変更、共学化。 

★公立中高一貫校も東京ではいずれすべてが高校入試を廃し、完全中高一貫校化します。茨城県も公立中高一貫校が急速に増えます。中学入試はますます注目を浴びますが、一方で少子高齢化です。各学校はいかにダウンサイジングを図りながら、教育の質をさらに上げていくか模索が続くでしょう。

★豊島岡女子のように完全中高一貫校化して、女子学院と同じサイズになれば、カリキュラムのさらなる充実化が行われるはずです。もともと学費は安かったですから、もしかしたら私立中学の平均ぐらいにはなるかもしれません。

★たとえ小さな変更も、学内では2021~2040年にかけてどのような変容を遂げるのか模索されているはずです。もしその動きがないとしたなら、それは未知なる事態に対応できない学校になるでしょう。内部のこの対応への息吹は、実際に学校説明会に足を運んで感じることが一番です。

★2020年からの中学入試は、「学校選択フィールドワーク」は重要です。

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2020年からの中学入試(04)晃華学園も湘南白百合も香蘭も動く。

★首都圏模試センター取締役・教育情報部長北一成氏は、読売新聞で連載しています。ここ最近は、キリスト教系学校と仏教系学校の新たな動きについて論考していて、興味深いので後を追ってみましょう。前回は、仏教系学校の論考を追跡しました。今回はキリスト教系学校の論考「動き出したミッション・スクール…北一成<5> 2019/07/25 09:30」を見てみましょう。

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(聖ドミニコ学園は、今春からインターナショナルコースを新設。中学1年から改革に乗り出した。C1英語、PBL、ICT、STEAM教育×宗教によるリベラルアーツの現代化など<新しい学びの経験>を生みだしています。)

★北氏は、ミッションスクールの動きについて次のように述べています。

<宗教系の学校は、変わらぬ理念や校風、行動規範を大切にしている伝統校が多く、入試変更が当たり前になっているこの三十数年で見ると、中学入試の世界では、どちらかというと保守的で、あまり入試も「動かさない」学校が多かったように思います。しかし、この1、2年はそうした従来の印象を変えるかのように、キリスト教系の私立中と仏教系の私立中が一斉に、多様な入試改革に踏み切っているのです。>

★すなわち、IT革命以降、受験生・保護者から宗教系は少し距離を開けられるようになります。宗教系は個人の信仰と共同体の愛を大切にしていますが、IT革命とグローバリゼーションの流れが、個人化を推進し、共同体も多様性と越境が重視され、一つの理念の中の共同体というのは、特に1989年ベルリン壁崩壊後、冷戦終焉してからイデオロギーという大きな物語は消滅し、個人化という流れが大きくなりました。

★世界同時的に宗教離れは止められない状況です。

★ところが、宗教系学校は、もともと共同体のみならず個人の自己陶冶も得意なのです。共同体か個人かという選択肢ではなく、共同体/個人か個人/共同体かという話なのです。結局はどちらも両方を大事にしているのですが、前面に出すのを共同体にするのか個人にするのか、背景に置くのを個人にするのか共同体にするのかということなのです。

★仏教系はいち早く個人を前面に、共同体を背景にという「個人/共同体」を表現しました。新タイプ入試も<算数一科入試>を実施するのは、仏教系のが多いのは、<数学>というのは個人の才能を大いに引き出し発揮する科目のイメージがあるからですね。

★キリスト教系は、ここの戦略はまだはっきりしていませんが、個人がタラントを豊かにすることを大切にするという発想や熱いか冷たいかどちらかにしなさい、生ぬるいと吐き出しますよという1人ひとりの学びの姿勢を大切にする聖書の文言に勇気づけられ、個人の才能を豊かにするプログラムに力を注ぐ<新しい学びの経験>を新たに生み出す流れが生まれました。

★世界で通用するハイレベルな英語力、多様性を大切にし、その中で自らを鍛えるPBL、ICTの活用、STEAMと宗教を統合して新しいリベラルアーツをアップデートするなど新展開を繰り広げています。このカリキュラムの新展開が、入試問題は学校の顔と言われるわけですから、中学入試の新タイプ入試の開発実施に連動しているわけです。

★同論考で、北氏が取り上げているキリスト教系学校の新しい動きをワンポイントで列挙します。

フェリス女学院は、2018年度から外部相談会などに参加するなど、積極的に広報活動を行う。今春の入試では志願者数が著しく増加。
香蘭女学校 2月2日の午後入試を新設
晃華学園も、午後入試を新設
普連土学園は、「算数1科目」の午後入試開設
湘南白百合学園 2月1日に「算数1科目」の午後入試と英語入試を新設。
啓明学園 「算数1科入試」新設予定

2020年は、2月2日が日曜日にあたる“プチ・サンデーショック”の影響もあり、次の3校が象徴的。
青山学院は入試日を2月2日から2月3日に移行
恵泉女学園は3回の入試すべてを午後に実施。
暁星は、従来の4科目入試を2月2日に移行させ、2月3日には午後の2科目入試を新設。

清泉女学院、「アカデミック・ポテンシャル入試」新タイプ入試を新設。
聖学院は、3種類の「思考力入試」をさらにブラッシュアップ。
カリタス女子と聖ドミニコ学園は、来春入試で募集要項の変更実施。
聖ヨゼフ学園、来春2020年から共学化及び「IB(国際バカロレア)」プログラムの導入準備
桜美林 コース制を導入。

★今回北氏が挙げていない首都圏以外の私立中高一貫校で、昨年50周年を迎えた静岡聖光学院は、思考力入試や英語入試も行い、破格のグローバル教育を今春から実施しています。北氏も、同校のシンポジウムで講演し、注目している学校です。

★21世紀は教育の世紀です。先進諸侯では、少子高齢化は程度差こそあれ進行し、今までと同じ教育をしていたのでは、生産労働人口の減少によって、経済の衰退を招くことは火を見るより明らかです。こうなると、世界は分断が起こり、平和は危うくなります。個人主義は横行し、たいへんなことになります。ですから、<新しい学びの経験>を生み出す教育イノベーションを生み出すにほかに道はないと言われています。

★経産省も「未来の教室」提言で、その方向に大きく舵を切っています。ただし、そこにあるコラボレーションは、まだ経済優先です。経済優先になると格差はなかなか縮めることはできません。そうなると、階層構造が新たにでき、元の木阿弥です。

★それを回避するために、仏教系学校やキリスト教系学校というミッションスクールの新しい意義と価値が今生まれてきているのかもしれません。

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2019年9月 7日 (土)

2020年からの中学入試(03)世田谷学園 関西でもその人気を聞く。

★もともと世田谷学園の評判はいろいろなところで聞いています。しかし、最近、男子校の中で特に目立っていると聞き及びます。前回ご紹介した北一成氏の論考も、最初に登場してくるのが世田谷学園です。統一合判でも小学校5年生の人気が上昇してきています。これは未来志向の進取の気性に富んだ保護者が注目しはじめたのかもしれません。

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(2019年の同校の<算数一科入試>の問題。同校サイトから)

★最近驚いたのは、関西のある大学の企画室で中高のサイトのリサーチをしているメンバーの話を聞いたときのことです。彼は、学校のサイトのクオリティと有効性の相関を独自に調べていて、コストがどれくらいかかるかまでフェルミ推計よろしく推定しています。

★私も学校をみるときどういう視点でみるのか聞かれるので、自分なりの考えを述べます。ですから、情報交換が自ずと生まれてくるのですが、そんな中で、世田谷学園のサイトのクオリティが実によいのだと。とりあえず首都圏と関西圏合わせて、50校くらい抽出してデータ整理して分析しているのだがと細かい分析を見せてくれたのです。

★まだたたき台だからということですが、なかなか説得力がありました。やはりシンプルでコストがリーズナブルなサイトがよいということらしいですね。彼の場合は、カリキュラムの内容についてはまったく分析せず、サイトの機能性とコストだけに集中しています。

★ですから、私の見方とは違い新鮮でした。サイトの構成は、作り手の頭の構造や発想が反映しているというのが彼の持論でした。もちろん、その学校の教師が1人で作っているわけではなく、外部の専門家と編集ミーティングをしながら協働していくわけですが、外部に丸投げの場合ときちんとというか明晰にビジョンと仕組みの意味を伝えられる教師集団かどうかは同じコストをかけても出来は大きく違ってくるというのです。

★そういえば、今春の「算数一科入試」の問題がサイトに公開されていますが、すべて論理的思考を要するものばかりですが、何より解き方が多様で、数学的にはどの解き方でいくかある程度見通しを立てる直観力とか想像力とかを必要とする問題ばかりです。

★上記の立体の問題は、3次元を2次元にしていますから、頭の中で再現しなくてはなりません。そのときに、絵というイメージを表現しようとするのか、規則性とまではいかないけれど、数式で進めるのか子供たちは思考するでしょう。

★2科4科の算数の問題は、どこかで見たことがある問題で、解き方を当てはめれば解ける問題が70%はでるわけです。ところが、世田谷学園の<算数一科入試>では、見通しを立てる数学特有の直観を大切にする問題がずらりと出題されています。

★受験生の平均と合格者の平均が10%以上ついているし、満点の受験生もいたようです。数学とは、解答が決まるから正解のない問題を考える体験がしにくいといわれがちですが、それは解き方を当てはめたら合格できる問題ばかりを解いてきたからでしょう。

★イギリスのAレベルテストでは、最終的な解が正しくても、解く過程によって、スコアが変わります。かりに計算間違いで解が間違っていても、解き方の過程がシンプルで合理的で美しければ満点スコアがつくときもあります。

★世田谷学園のこのような問題は、解説自体は論理的です。ですから思考コードではB2くらいなのですが、どのような論理を展開するかという最初の一撃は、思考コードではC2くらいの力を使います。

★実は算数が得意な生徒は、目に見える論理的思考力だけではなく、目に見えない発想力や直観力がその前に働いているのです。ですから、解説は目に見える論理的展開から始まるので、解けなかった生徒が解説を読むと、理解はできます。わかるのです。でも、どうしてそういう展開をすることにしたのかは書いてありませんね。ですからちょっと見たことがない問題が出されると、説明されるとわかるけれど、自力ではできないのです。<わかる>と<できる>。<できる>と<うかる>。<うかる>と<ひかる>。この最後の<ひかる>という発想や直観が必要とされる問題がたくさん出されるのが本来的な<算数一科入試>の面目躍如ということでしょう。

★この目に見える思考と目に見えない思考。つまりB軸思とC軸思考は、仮にB軸思考の問題でも養っておく必要があります。しかし、たいていは、そこはスルーされ、このような未知の問題がでてきたときに、出来る生徒は地頭が強いとかいわれるわけです。でもその地頭、すなわち<ひかる>能力はトレーニングできます。

★それはともかく、リサーチャーの話に戻りますが、サイトの構成も、細かい構築よりも、イメージをシンプルに製作者に伝えられるかどうかだということです。石川一郎先生だったら、想像力とデザイン力と自分軸がそろったC軸思考力を有した教師集団がいるということになるでしょう。

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2020年からの中学入試(02)北一成氏の仏教系の私立中高一貫校の見方。

★昨日6日の読売新聞に、首都圏模試センター取締役・教育情報部部長の北一成氏の論考が掲載されています。「仏教系の私立中高にも改革の動き…北一成<6>」がそれです。

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★単純に、私立中高一貫校の分類分けとして仏教系の学校を紹介しているわけではありません。仏教系の私立中高一貫校の改革のベクトルの方向性の共通性と仏教精神を重ねて情報の付加価値を生み出しています。こういうものの見方は新しい価値創造の視点です。

★受験生の保護者は、このような新しい価値から学校選択を考えることができるようになるからです。

★詳しくは、北氏の論考を読んでいただくここととして、まず、論考の中ででてくる仏教系の私立中高一貫校と北氏が注目している各学校の改革のトピクを簡単に列挙します。

世田谷学園中高「算数1科特選入試」
芝中高「共生」
宝仙学園共学部理数インター「日本一入試の種類が多い学校」
攻玉社「算数1科」(仏教系というより儒学系ですが、算数一科入試をいちはやく行った例として紹介)
高輪中高「算数1科」
淑徳巣鴨中高 「思考の基礎力・展開力を問う形式か、<算数1科>を選択できる<未来力入試>」
淑徳中高 「スーパー特進東大選抜」
武蔵野大学中高「今春から中学を共学化し、校名変更を実行。新たに<グローバル&サイエンス>をコンセプトに掲げ、<体験&モチベーション重視>の教育にシフト」
駒込中高「STEM入試」
東京立正中高「今年4月から、元中村中高の校長・学園長を務めた梅沢辰也先生が校長に就任。<生徒を必ず幸せにしてみせます>というフレーズを掲げ、新たなスタートを切る。」
鎌倉学園中高 「15年入試から<算数1科入試>を導入」
藤嶺学園藤沢中高「得意科目選択型入試」
鶴見大学附属中高(横浜市)「適性検査型入試」

★こうしてみていくと、仏教系の私立中高一貫校は「サイエンスや数学」にベクトルを合わせて改革に情熱を注いでいることが見えてきます。そして、北氏は、このような改革の方向性は、仏教精神に重なっていると語っているのです。その精神とは次のような文章で記述されています。2箇所引用します。

 <今、世界中の教育の課題となっている「多様性」を最も早くから認め、それを大事にしてきた学校群であり、これからのグローバルなボーダーレス社会で、多様な価値観を持つ人々と生きていくために必要な共感、協調、協働の力を、人間教育の柱にしてきたと言えるでしょう。>

<高輪中高はもともと1885年に京都の西本願寺によって設立された学校です。創立から約20年後に仏教との関係を離れていますが、「見えるものの奥にある、見えないものを見つめよう」という教育モットーからは、仏教精神に通じるものが感じられます。>

★つまり、「多様性と共生精神」「見えるものとその奥にある見えないもの」という一見相反するものの協調が仏教的精神の特色であり、この精神はまさに数学的思考です。それゆえ、上記のように改革のベクトルがほぼ重なるということなのでしょう。

★これは、たいへんおもしろい視点なので、少しググってみました。すると仏教と数学に関する情報がたくさん出てくるのです。驚きました。仏教的精神というと、「慈愛」が真っ先に思い浮かび、それゆえの「共生」なのだろうと思ってきました。

★ところが仏陀は、アートマンとブラフマンに関する当時の所説あり状態を修行の旅の中で、今でいうフィールドワークをしながらその実態をリサーチしていたというのです。何を意味しているのか、ググる程度ではわかりませんが、なんでも目に見える3次元の存在と目に見えない4次元の存在、すなわち実在する存在と実在しない存在、正の数負の数と0の関係を証明するために修行の旅に出たというではないですか。インドで0が発見されるずっと前の話です。

★この理解が正しいかどうかわかりません。ただ、仏教精神が存在論的認識論としての哲学的な素養がベースになっていて、3次元と4次元の往来する過程を受け入れるところに「慈愛」が存在するということなのでしょう。

★アートマンやブラフマンの存在を肯定も否定もしない。むしろ存在するか否かにこだわるところから解脱し、見えるものと見えないものの行き交う流れを静かに感じる境地こそ数学的思考なのかもしれません。それで、「算数一科入試」を取り入れているということなのでしょうか。今年の世田谷学園の「算数一科入試」の問題を見ると、何かそんな気がしてきます。

★北氏の論考に導かれて、今まで考えてみたこともない世界に開かれました。中学入試は奥が深いということでしょう。

 

 

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大学入試改革と大学入学共通テストとは違う。テストの方は中止したほうがよい。

★本日7日の朝日新聞に<「共通テスト中止を」 高校生や教員、文科省の前で抗議>という記事が掲載。

<大学入試センター試験に代わり、2020年度から実施される大学入学共通テストの中止を求める抗議行動が6日夜、東京・霞が関の文部科学省前であった。ネットの呼びかけで高校生や高校、大学の教員ら約200人が集まり、「実施間近なのに色々と変わり、分からない部分も多い。混乱は必至。中止すべきだ」などと訴えた。 >

★とある。その通りだと思う。それに、本来の大学入試の改革の意味と大学入学共通テストの趣旨ははじめから矛盾していた。高校生の学習歴を見ようとか、創造的思考力を養ってきて欲しいとか、ルーブリックでコンピテンシーを教師も生徒も共有できるようにしようとかいう基本的流れの1つも大学共通テストでは実現されないのだ。

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(順天堂大学医学部小論文2015年「キングス・クロス駅の写真です。あなたの感じるところを800字以内で述べなさい。」こういう問いが入試の新しいウネリになることを期待する。)

★記述式問題といったところで、サンプル問題は、どこの自治体の公立高校入試でも出題している記述問題と比べても易しい。まったくナンセンスである。

★GTECとeポートフォリオと共通テストの採点はすべてベネッセである。ベネッセはすばらしい一大総合教育産業であるし、ほとんどの高校がお世話になっている。ベネッセ自体に何の問題もないが、一つの企業に委託する文科省の構えが民主主義的な教育をマネジメントする官僚制度としてこれでよいのかという認識がないのが問題である。

★独禁法に違反しないのかどうかわからないが、権力の集中はそもそも民主主義の原理に反するのである。

★大学入試改革の本意は、各大学の個別独自入試で十分にできる。学力革命や思考力革命が世界同時的に起きているのに、日本の教育だけがそれを阻害する政策を文科省自らが行っている。

★テストのない教育をとは私は思わない。テストは子供たちが自分の才能をどう伸ばしていったらよいのかリフレクションするときの鏡になるからだ。アスリートがモニタリングするためにデータをとるのと同じである。

★ただ、その鏡がゆがんでいたり、モニター装置に欠陥がある場合は、即刻リコールだ。とり除いた方がよい。

★それに、センター試験や大学入学共通テストは、生徒の才能を委縮させる役割を果たしてきたし、テストがなければ勉強しないという外発的モチベーションを発動させる抑圧的・受動的な学びの構えを作ってきたことも否めないのであるから。

★それに、中止によってあり余る大幅な予算は、Z世代のICT教育環境に投資したほうが有効だろう。

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2020年からの中学入試(01)石川一郎先生の新刊本。中学入試の受験生をもつ保護者は必読です。もちろんZ世代中高生も。

石川一郎先生の「2020年三部作」の3冊目が出版されました。「2020年からの新しい学力」(SB新書)が、それです。

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★本書は、2020年から始まる大学入試改革に伴う、学力革命について書かれていますが、柔らかくしなやかにユーモアも交えて書かれていて、すぐに共感できるデザインになっています。もちろん、石川一郎先生のユーモアは、背景にちょっぴり毒があって、ドキドキしながら読めるようになてっています。

★もちろん、毒という言い方は、メタファーです。クリティカルシンキングを石川一郎先生は、常に発動させているので、スリリングでもあるということです。

★本書は、Z世代の中高生が読むと、ちょっと恐ろしいことになりそうです。共感共鳴し、いまここでの抑圧的一方通行的授業や問答講義などは<対話>がない!ワークショップ型で<対話>や<議論>、<創造>を授業でも実施して欲しいとなるかもしれないからです(笑)。

★当然、急いでZ世代中高生に先回りして、保護者も教師も読んだならば、Z世代のニーズがわかり、ともに内発的モチベーションを燃やしながら、予期せぬ難関が訪れたときに、乗り越えることができるでしょう。

★特に中学入試の受験生の保護者は必読です。というのも、本書は首都圏模試センターの「思考コード」に始まり、「思考コード」に終わるからです。

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★首都圏模試センターの統一合判の成績は、思考コード分析された結果も出され、それを活用してリフレクションすることで、受験もポジティブシンキングで乗り切れるでしょう。今ままでの成績票だけだと、偏差値をあとどのくらい上げなければダメだ。そのためには、正答率30%の問題をこんなに間違っていてはダメだ。この間違った問題の類題をたくさんやらなければ・・・となっていましたね。

★「ダメだ」「やらなければ」というネガティブシンキングの扉を開くことばを塾でも家庭でもみんなで吐いていたと思います。

★でも、「思考コード」で分析すると、偏差値は低かったけれど、自分はこんなところまで考える力があるんだ。この得意な思考力を生かせばなんとかなるな。この得意な力を評価してもらえ、もっと伸ばせる環境のある学校を選ぼう。などとポジティブシンキングが生まれます。

★要するに今までは、でてきたデータを「診断的分析」をしていて、過去の自分を描いていたわけです。それが意外と等身大ではなく、委縮した自分だったりしているところが問題ですね。これからは、それに「予想的分析」とか「処方的分析」をして未来の自分を想像し、デザインし、そこに向かってい歩む自分軸を胸に歩んでいけばよいのです。

★もちろん、万能感や誇大妄想はチェックする必要がありですが、石川一郎先生が本書で大切にしている「C軸思考力=創造的思考力」は、ベースにクリティカルシンキングがあるので、そこは大丈夫です。

★エっ!いわれてみればそうだけれど、なぜ今までそういう成績の分析がなかったの?とお思いでしょう。それは、石川一郎先生がちゃんと解明しています。そもそも今までの入試問題には、C軸問題が出題されてこなかったのです。過去の記憶をひもといて、それを結びつけるA軸思考とB軸思考に限定されていたのです。そこは、既存の中でのお話なので、予想する必要がなかったわけです。

★石川一郎先生の今回の本は、「想像力」「デザイン力」「自分軸」というC軸思考=創造的思考の3要素を中心に展開されています。これまでの2020年の大学入試改革の話やそれに伴う学習指導要領の改訂の話は、学力の3要素の話で止まっていました。

★しかし、石川一郎先生は、その3要素の1つ「思考力・判断力・表現力」を思考コードでさらに3つの思考力で問い直し、そしてまたさらにその3つの思考力の深層に潜む「想像力」「デザイン力」「自分軸」という3要素に踏み込んでいます。エッ!深堀りしているというのでは難しいのでは?ところが、そうではないのです。

★論より証拠と言います。まずは読んでみましょう。2020年から始まる「新しい学力」をゲットできます。それは希望の力となるでしょう。

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2019年9月 6日 (金)

PBLの世界(25)ジャク・マー氏のアドバイスを受け入れて学校選択をする。

★ビジネスインサイダージャパン 2019年8月30日 17:00は、<アリババのジャック・マー会長「日本を尊敬。だが惜しいことが2つある」。退任直前の助言>という記事を公開した。ジャック・マー氏は、1999年にアリババを操業して、あっというまに5000万人をこえる会員を獲得した。電子商取引サイト、検索サイト、電子マネーサイトなど右肩の勢いは、200以上の国で利用され、止まらない。

★FIFAのスポンサーになったり、eスポーツを主催したり、IT産業の成長セオリー通り快進撃を続けた。しかし、ジャック・マー氏は、今月10日中国の教師を祝う日に、退任するという。もともと教師を目指していたから、教育事業に携わるとささやかれている。どうなるのか楽しみである。

★そんなジャック・マー氏が、記事の中で、日本にアドバイスをしている。日本でよく会議をするけれど、メンバーはいつも銀髪の男性ばかりだと。これだと今後の日本は危ういのではないかと。そこで、<マー氏は、「私は女性、特にアジアの女性のリーダーシップを完全に信じている。中国、日本ともにだ」と述べつつ、日本に変わってほしいこととして、「女性」と「若者」の2つのキーワードを挙げた>ということだ。

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(今年6月、順天に21世紀型教育機構各加盟校のZ世代中高生が集結して、未来を創るフォーラムを実施。準備段階の打ち合わせ。21世紀型教育研究センターリーダーの聖学院児浦先生とZ世代のブレストミーティングのシーン)

★このジャック・マー氏のアドバイスは、私たちは受け入れたほうがよい。というのは、マー氏の本意は、これから「若者」と「女性」が活躍する新しい教育をやるよ、君たち今のままでいいの?ということだろう。果たして、マー氏がそういう教育をやるのかどうかわからないが、21世紀はもはや教育の世紀であることを認識しているということだろう。

★だから、今のままの抑圧的で一方的に説明しまくる考えない授業を行っている学校を選ぶことは、2040年あたりに30代になる今のZ世代中高生の未来を悲惨なものにするというのは火を見るより明らかなのだ。予測不能な時代ではなく、このままいけばデストピアになることを確実に予測できる時代が2040年である。あと21年。

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(未来を創るセミナーでは、Z世代中高生と教師がディスカッションして想いを共有し未来において自分たちは何をしているかデザインした)

★AIが人間の仕事を奪うのではなく、奪われるようになるのは、今のままの教育のことの顛末ということだろう。「若者」と「女性」が羽ばたける<新しい学習経験>ができる学校とは、最低次の5つの条件を満たしている。

1)学習する組織になっている。

2)英語と思考力とICTを融合したPBL(Project Based Learning)にチャレンジしている。

3)STEAM教育と哲学を統合してリベラルアーツを現代化している。

4)思考コードなどのルーブリックで、過去の得点診断ではなく、未来に向けて成長する学び方を評価できるエンパワーメント評価に挑戦している。

5)国内の大学だけではなく海外大学も選択肢であることが当たり前のグローバルイマージョン環境を形成している。

★このような学校は、今たくさん誕生している。もちろん、偏差値は高いとは限らない。しかし、日本の偏差値は海外の世界大学ランキング100位の大学をめざすとき、まったくあてにならない。ルールが違うからだ。

★このグローバルな時代に、国内ルールだけで椅子取りゲームをしていても無意味であることは誰しも知っている。しかし、それを真剣に考える教師がいない学校も多いことは確かだ。進取の気性に富んだ保護者の皆さん、麻布や女子学院のような私立学校で、偏差値がそれほどでもない学校はいっぱいある。

★男子の場合は、麻布と<新しい学習経験>ができる学校を併願してはいかがだろうか?女子の場合は、女子学院と<新しい学習経験>ができる学校を併願してはいかがだろうか?ジョンレノンのイマジンではないが、想像してみよう、2040年。あなたの子供たちが30代になったときの社会を。そのときのあなたの子どもの未来の姿を。自ずと、どんな学びの環境が有効か答えはでるはずである。

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2019年9月 5日 (木)

対話の世界(1)聖パウロの養護教諭嶋津先生の<対話>

★高尾の裾野にといっても山の中だが、そこに聖パウロ学園がある。そのキャンパスは別名「パウロの森」。馬を育てる場所があり、そこには乗馬のフィールドもある。乗馬クラブがあるだけではなく、体育の時間にも乗馬の学びがある。

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★森と馬と学校と。なんとも特別な学びの空間だ。このキャンパスは各学園80名定員で少人数教育だが、実に人気がある。高橋博理事長が、偏差値というスコアで思春期を抑圧する日本の近代産業支援の教育に猛省を迫り、生徒の自己肯定感が内側から高まる教育を推進してきた。

★その教育とは、カトリック精神にもとづく<対話>ベースの教育だ。まるで、今回の大学入試改革や学習指導要領の方向転換は、まるで聖パウロの本物教育をモデルにしたようである。「主体的・対話的で深い学び」というキーワードで表現されている、その主体性や対話とはいったいいかなるものだろう?また深い学びとは、どのような授業で行うというのだろう?

★実はその仕掛けあるいはシステムについて、生徒の内発的な学びにまで迫る具体的なものは提示されていない。それは、現場で創意工夫してほしいということのようだ。それがゆえに、今まで、一方通行的あるいは、一部の生徒を相手に問答型授業を行ってきた現場ではどうしてよいかわからないという不安が噴出しているわけである。そもそもその一方通行型とか一部の生徒を対象にした問答型の授業における対話は<対話>ではなく、一方通行型コミュニケーションであったたために、それを生徒どうしの<対話>も含めて授業を展開するのはイメージがつかない。

★ところが、聖パウロは少人数だったということもあり、理事長のビジョンがPBL型授業で思考型学びを推進し、森と馬と学校とという自然と人間精神の循環を隣人愛で結びつけることをベースにしたキャンパスづくりをしてきたおかげで、伝統的に本来的な<対話>が根付いているのである。いわば、伝統的だが革新的というアクロバティックな学習経験を生徒はできるのだ。

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★そんな贅沢なパウロの森は、<対話>の森でもあるが、だからといって、生徒は悩みがないということではない。むしろ自分の内面をみつめる<対話>は悩みも多くなる。思春期というのはそういうものである。そこを通過して大きく成長し飛翔する。

★ともあれ、その悩みは担任の先生が解決のために<対話>するし、教科の先生が<対話>して解消していく。そして、もう一つ、聖パウロの<心の対話のサロン>には、保健室がある。他校の保健室とはだいぶ雰囲気が違い。クラスと同じフロアーにあって、多くの生徒が休み時間に気軽にやってくる。

★もちろん、守秘義務のある相談や体調がよくないというどの学校にもある保健室の共通の仕事を嶋津先生は丁寧に行っている。それ以外に、相談しにやって来る生徒と<対話>するということがある。

★その内容そのものはここでは話せないが、70%は、勉強の悩みと人間関係の悩みから<対話>はスタートする。しかし、実際にはルビンの壺で、本当の悩みは、その背景にある。自分自身の問題であることが多いという。そこに気づけば、生徒は前に進めるという。嶋津先生は、そんな生徒の話をよく聞いている。しかし、何をしたらよいのかアドバイスをすることはめったにない。かといっていなしているわけでもない。ほとんどが、自分自身に気づくことによって解消されるから、生徒の何気ない言葉を聞きのがさず、そこは聞こえなかったからごめんもう一度聞かせてなどと生徒が自分をリフレクションする<間>をつくったりしている。

★生徒との数あるやりとりをお聞きしながら、一つ一つ、井庭崇氏と 長井雅史氏共著の「対話のことば オープンダイアローグに学ぶ問題解消のための対話の心得」をパターンランゲージ化したカードと嶋津先生の<対話>を先生と一緒に照らし合わせていった。

★このカードは30枚ある。オープンダイアローグの心得が記載されているが、嶋津先生の生徒と接する時の心得は、たとえばカードでは「ひとりの人として」生徒と対話するとか「じっくり聴く」とか「言葉にする時間」を待つとかパターンランゲージ化されているが、すべてあてはまるのだ。

★生徒の日常の体験にいつもいっしょに浸っている嶋津先生。生徒1人ひとりの多様な声に耳を傾ける嶋津先生。その先生と<対話>する生徒は、自らの日常の体験を話し、悩みを話し、解決策はないか尋ねながら、自分がどう変わればよいのか新たな理解にいくつく。生徒1人ひとりが心の奥底で本当に関心を持っているものをみえなくしている霧や壁やマスクが嶋津先生と<対話>することで、自己解消されていく。

★もちろん、その<対話>の時間は学園生活中続くのである。自分自身への気づきや自己理解は全貌がすぐに見えるわけではない。見えたと思ったらまた向こうに未知の自分がいるのだから、その探究は続く。聖パウロ学園の<対話>は、未来の自分を自分の内面に自分で新しく描く3年間という長い<対話>である。

★そんな長大な<対話>を私たちは、今できるだろうか?そもそもしてきただろうか?聖パウロ学園は、近代の歴史の中で人間が忘却してきた大切なものを再起動できる学び舎なのかもしれない。嶋津先生にそう問うと、本間さんがそう思うのでしたら、そうなのでしょうとほほ笑んだ。そんな大げさなとか、そうですよねとかいう反応ではないのだ。こんな主観性を大切にする<対話>は、やはり科学主義の時代に経験することはなかなかできない。改めてそう感じた。

 

 

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2019年9月 4日 (水)

PBLの世界(24)ダニエル・ゴールマンとピーター・センゲと思考コードと。

★「個人の内面の世界」と「社会的な関係の世界」について、ダニエル・ゴールマンは20世紀末に、IQで測れないEQという形で新しいマインドに対する考え方を世に出した。同時期に、同様の発想で、ハワード・ガードナーも多重知能としてMIを発表していたが、当時はIQ vs EQというのがわかりやすかったし、ダニエル・ゴールマンは、学校や企業にEQを取り入れるビジネス展開をしたから、その普及の速度と拡大はすさまじかった。

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★一方で、組織開発の新しい発想として、学習する組織の概念を生みだし、その中にシステム思考をわかりやすく図式化も加えて紹介したのがピーター・センゲだった。この学習する組織やその柱であるシステム思考も、20世紀末の激変の時代に生まれた環境破壊、格差問題など全体を捉えながら経済社会を創らざるを得なくなった時代の精神にマッチし、広く伝わった。

★20世紀末から私学の先生方とHondaと研究・開発し始めたPBL(Project based Learning)には、EQの発想やMIの発想を導入していたから、PBLが単なる認知的問題解決だけではなく、社会的な人間関係も含む(今でいう非認知的能力とかコンピテンシーと置き換えることも可能だ)トータルな問題解決プログラムとして開発実践していた。しかし、この段階ではまだ「総合的な学習の時間」で実施するPBLが想定されていた。

★ところが、2011年からは、21世紀型教育機構の通常の授業そのものをPBLに変容するミッションが時代の要請にしたがって湧き出てきた。知識集約型の授業経験で育つ人材では、地球全体の問題が身近な問題と重なってしまうグローバルな社会にあっては、役に立たないということが身に染みてわかる事件が世界で頻繁に起こるようになったからだ。

★化石燃料による自然環境破壊の反動としての自然の猛威、化石燃料奪取の絶え間ぬ競争が生み出す社会格差とその格差の反作用として勃発するテロの脅威、化石燃料奪取競争によって社会経済生活の土台に抑圧的な組織構造が慣習化し、それによって人間精神が崩壊していく凄惨さが三つ巴になって毎日のようにニュースになった。

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★身近なところに地球全体の循環が不具合を起こしていることが露になってきたわけだから、それを理解し、課題を発見し、解決するには、自然と社会と精神の全体のシステムを探究できるシステム思考が必要だった。自分事としてのシステム思考というわけだ。

★そして、PBLがすべての教科授業で行えるには、学習する組織をベースにすることが必要であり、そこでシステム思考を展開しようとした。それがPBLという授業のアップデートだった。

★この学習する組織形成とシステム思考創出のために、授業で教師も生徒もどの段階にまで進化したのかリフレクションするコンパスを作成した。それが思考コードである。学校によって違うが、標準形としていつも紹介している21世紀型教育機構の思考コードは図のようなものである。

★もともとグレゴリー・ベイトソンの「精神の生態系」に影響を受けていたから、「個人の内面の世界」「社会関係の世界」「自然と社会と精神の関係総体」はつながっているとは想定していた。しかし、システム思考は「自然と社会と精神の関係総体」を考えるのには使いやすいが、「個人の内面の世界」「社会関係の世界」を洞察するにはモノサシが大きすぎた。

★ベイトソンのこの3つの世界がつながる思想は魅力的だが、文化人類学者で精神分析学者で、教育実践家ではないから、そのメタメッセージを日々の授業にどう具体化するかは自分たちで解決するしかない。

★そんなときに、EQは活用しやすいと思っていた。聖学院のマインドフルネスリーダー内田真哉先生がEQコーディネーターの資格をもっていて、共にPBLの研修を行う機会もあり、やはりEQを盛り込んでおくことは間違いがないと確信しながら思考コードを使っていった。

★とはいえ、ベイトソン、ゴールマン、ガードナー、センゲという発想を、パッチワーク的に組み立てて思考コードを創ってみたものの、彼らの発想に耐えられるかどうかは証明のしようがなかった。

★そんなときに、ゴールマンとセンゲが、三つの世界のシナジー効果を考える小冊子を共に書いていることを知った。三つの世界は、二人が出会う前は、それぞれ独立して展開されていたが、それらは繋がっているはずだという実践例があふれでていて、その3つの世界をつなぐステージに積極的に進まなければ、その3つは繋がっているはずなのにというフラストレーションは解消されないだろうということで、共著となったという。私のつながるはずだが証明が今イチだというストレスは世界標準の違和感だったということに気づいて驚いた。

★結果的に、時代の精神を読み解く行為は、地球上のどこにいても、呼吸を一つにするというか同期するというか、実に興味深いシナジー効果を生みだしているものである。

★かくして、2021年以降のPBLは、ベイトソン、ゴールマン、ガードナー、センゲ、そして、ガードナーが研究したピアジェやレビ・ストロースの系譜であるMITメディアラボやハーバード大学、スタンフォード大学などの世界標準の見識をますますPBLの中に統合していくことの重要性に内発的モチベーションは燃えるのである。中でもベイトソンの再起動は最重要だろう。

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2019年9月 3日 (火)

PBLの世界(23)Z世代の希望とリスク  解決のカギは麻布流儀 北氏が証明

★2020年大学入試改革の理想はなかなかよいとは思う。しかし、今のところ現実とのギャップはものすごい。それゆえ、このギャップが社会的にクリエイティブインパクトを生みだして、イノベーションが起こり、社会は進歩するというセオリーを信じているのは経産省だ。その方向でPBLという<新しい学習経験>をベースに多様なテクノロジーを学校や学校外の学びの世界で広げていこうとしている。経産省が推進している<未来の教室>は地球が子どもたちの教室なんだということだろう。

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★それに鼓舞されて、どんどん学校を越境して社会に足場をつくり、社会を世界を変えようとするZ世代中高生やそれをサポートしようというNew Power教師が増えているのも確かだ。

★一方で、そのギャップがありすぎて、対応できずにパニックになっているあるいはその逆で諦めている生徒や教師もいる。そして、このギャップに対応できない側がOld Powerとなり、New Powerと葛藤を起こしている。Old Powerからすれば、PBLなんてやると基礎学力の勉強から降りてしまって、学力が落ちてしまう生徒が増えてしまうと提唱し、データ診断分析までして反論する。

★それに対して、New Powerは、基礎学力といっても、それは知識を憶えることで、そんなことは未来に役に立たない、データ診断分析という過去にこだわるのではなく、未来を予測し、そこからバックキャストする考え方を優先すべきだという論理が展開される。

★歴史的流れでは、おそらく18世紀にはじまった近代化路線のまだ延長だから、進歩主義が勝利するのは間違いない。しかしながら、Old Powerはたしかに進歩主義ではないが、ここで紹介したNew Powerは革新的ではあるが、実は進歩主義ではない。そうデューイなら語ったであろう。

★というのは、思考コードで視覚化するとわかりやすいので、それを活用するが、ここでいうOld Powerは、思考コードのA1A2B1B2の領域が大事であり、教師は生徒がそこの領域を十全に活用できるように成長すればよい。大学に入ってからも社会に出てからも、この基礎学力がなければ仕事も研究もできないという<現実主義>なのだ。だから、たとえば、上記図のブラック曲線(A1A2B1B2の中では成長曲線は人それぞれ)のように小中高時代に育っていく授業を展開するのだと。

★この<現実主義>の立場で、AI社会にシフトしたとしても、生きていけないだろうか?この領域を十全に活用できる人材は、論理的だし、応用力も利く。自分でイノベーションを起こすことはないかもしれないが、新しい技術をむしろ十全に使いこなすことができるだろう。

★また、ここでいうNew Powerは、誰かが創った路線に便乗するのか、自分で新しい道を切り拓いていくのか、それはやはり自らイノベーションを起こして突き進んいくのが夢だろうと、創造性を中心に授業を展開していく。そうするとそもそも授業の枠に収まり切れないから、学校システムそのものをぶち壊していくということになる。しかし、これが全体的な動きになるのは、難しい。

★というのもイノベーションのパラドクスがちらつくからだ。本来フラットでフリーでフェアのはずだったヒッピー系の人材が創り上げたシリコンバレー集団も、創る人とそれを実現する人、資金調達できる人とできない人、情報の非対称性を生みだし、貧富の格差をどんどん拡大していく。

★このような<理想主義>は、行き過ぎると20世紀の2つの世界大戦を引き起こした引き金と同じようなことになる。まさにイノベーション至上主義はヤヌスという二つの顔をもつローマ神なのだ。ヤヌスはギリシャ神話にはでてこないというからパックスロマーナを生み出す構造のある意味象徴であろう。

★いずれにしても、この<理想主義>は、特に起業家に多いから、C1C2C3領域で、飛躍的に子供たちが成長してくれればよいと考える。上記思考コードの図でいえば、たとえばレッド曲線(C領域の中では人それぞれの曲線。図の曲線はあくまで例)を描くように<学習経験>をマインドセットする。

★よく<理想主義>のモデルケースとして、シリコンバレーにあるチャータースクールHTHが話題になるが、このプランは、決してレッド曲線を想定しているわけではない。その証拠として、ベンチャーキャピタルの知恵者がしっかりバックヤードで運営サポートをしているのだ。

★というわけで、<進歩主義>とは、実はA領域、B領域、C領域すべてを経めぐる<眩暈>がするほどの成長曲線、上記の図の例でいえば、グリーン曲線を描く成長を生み出す<学習経験>を開発する組織である。実はこうなると、企業や起業や官僚ではできないのである。NPOもそうであろう。というのも、NPOも基本どこかにひもづいていなければできないし、目的をなるべく絞るから、その点は利益がでる部署優先の組織と変わらない部分がある。

★学校以外は、基本的に分業システムであることを忘れてはいけない。それが産業革命以降、近代化路線が成功してきたセオリーだし、それを巧みに利用した経済システムが資本主義だからだ。人間存在全体を配慮するシステムは、自己責任というのがこれまでの社会システムである。ここを意識して、<being>ベースの教育を展開しているかえつ有明が人気があることは希望がある。

★ともあれ、そこを見抜いて、人間存在の在り方を引き受けて子供たちの成長を持続可能にする装置が学校システムである。学校システムは古くて、社会システムの進化を阻害する装置だという社会学的な見方は、哲学を軽視した社会学、つまり客観主義を大事にしたマックス・ウェバー主義のもたらしたもしかしたらリスクだったのかもしれない。

★それゆえ、フッサールの間主観性を取り入れた社会学も一方ででてきたわけである。

★たしかに、学校の監獄論的な見方もフーコーやブルデューのようにないわけではない。しかし、それは学校を官僚近代が利用しただけであり、学校システムそのものは、経済的な相対的な価値であるバリューよりも、本質的なかけがえのない価値ある人間存在そのものを大切にできるシステムである。同じ価値でもValueとWalthはどうやら差異がある。近代化路線の光と影のうち、学校は実は光のシステムとして近代に誕生したのかもしれない。

★相対的な経済価値よりも、人間の存在価値という全体を大切にする立場は、結局理想現実合一論という<進歩主義>となる。この意味の<進歩主義>を自覚的に保守している筆頭は麻布である。<進歩主義>という<保守主義>。これを<普遍主義>という。その意味では女子学院もそうかもしれない。開成、武蔵、桜蔭、雙葉が、偏差値的には御三家と言われているが、麻布とJGとの差異はこのあたりにあるのかもしれない。

★いずれにしても、首都圏模試センターの北一成氏が、この麻布の<普遍主義>的<進歩主義>の思想を、平校長のインタビューを通して8ページにわたって紐解いている。9月8日(日)の統一合判で配布される雑誌「ブレイク」に掲載されている。公開されたら、また麻布流儀の考え方や教育実践の奥行きを紹介したい。

★なお、このブッラク曲線、レッド曲線、グリーン曲線を描く生徒たちは、各学校によって割合が違う。ブラック曲線一色でよいという学校もあるし、レッド曲線一色でよいという学校もでてきたが、基本は3つの曲線を描く多様性が学校には存在している。

★ただし、その割合をきちんと入試問題の多様化によって、意識しようとしている学校がでてきたのある。それが新タイプ入試を開発している学校の登場である。ここらへんは、中学入試動向のカテゴリーで語っていきたいが、ようやく麻布やJGの<進歩主義>をシステム思考的に構築しようという≪私学の系譜≫の復権がここに現れてきたのではあるまいか。

★近代化路線が生み出した光のシステムとしての学校は、残念ながら官僚主導の≪官学の系譜≫にではなく、≪私学の系譜≫にあるという人間存在の復権が、AI社会シフト時代だからこそ起こっていると考えているのである。

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2019年9月 2日 (月)

衝撃!次のビジョンを実現する力みなぎる教育との遭遇 21世紀型教育機構「第3回静岡国際シンポジウム」(了)限界を超える児浦先生

★シンポジウムの最終スピーチは児浦良裕先生だった。児浦先生は、聖学院で3つの顔を持つ。1つめの顔は21教育企画部長、2つめは国際部長、3つめは広報部長である。それゆえ、リサーチャーであり、アナリストであり、プロデューサ―であり、カリキュラムデザイナーであり、ファシリテーターであり、マーケッターであり、・・・要するに教育界のチェンジメーカーである。

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★今回のテーマは、「生徒が限界を超えて成長する教育」である。すでに第1部で、予測不能なこの時代の変化が語られているので、あえて、そこのパートは、多くを語らなかったが、極めて重要なことは、ブロックチェーンの進化とともにある仮想通貨による大量生産・大量消費・大量移動型経済社会の限界が超えられる事態が起きていることを確認したことだ。

★社会自らがいよいよ自らの限界を超える変容をしようというとき、実は技術的にそれに対応するだけでは、人は限界を超えられない。むしろ置いていかれる。このような今までにない社会変化のときに大切なことは自己の内生的な変態なのだと。そこを起点に、その内生的変態を生み出す<新しい学習経験>は何か?

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★外部団体と連携し、Z世代の中高生と協働して、プログラムを矢継ぎ早に開発実施していったこの夏休みだったという。そして、その<新しい学習経験>は非日常であることがポイントなのだと。これは非真面目と真面目、あるいは遊びと学びを循環させる三田国際の田中潤教頭と同じ発想でもある。

★この非日常の世界での<新しい学習経験>をこの夏カンボジアで実践し、金沢で実施し、静岡聖光学院で実施していたために、この夏、児浦先生は東京にほとんどいなかったという。しかし、科学技術館で行われた東京私立学校展では、広報活動をするべくきちんと立っていた。児浦先生自身が常に自分の限界を超える自己変態超人なのだとしか言いようがない。

★その後ろ姿を見ている≪Z世代≫中高生が、同じく限界を超えて成長しないわけがない。

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★多くの取り組みが報告され、そのたびに子供が限界をいかに超えたかすばらしい話を聴衆は聞けた。たとえば、カンボジアでは、MoGを実施した。MoG (Mission on the Ground)はvery50というNPOが実施している海外実践型・問題解決型プログラムで、経済産業省主催「第9回キャリア教育アワード(中小企業の部)」において、「優秀賞」を受賞している。

★そこでは、現地の起業家と組みながら、地域の政治・経済・マーケット・都市の現状などをリサーチしながら、生徒自身も起業家活動をするというプログラム。リサーチ、議論、企画編集、実施、振り返り、リフォームなどを繰り返していく。当然そのプロセスで多くの現地の方々とコミュニケーションをとりながら行っていくから、葛藤と愛情の眩暈の眩暈の中で、自分を見つめ、チームの中での自分の役割をみつめ、行動を起こしていく。

★生徒はまさか自分にこんな俊敏力あるいはフォロワーシップ、あるいはリーダーシップあるいは実現力があったなんてと自分で自分のコンピテンシーに驚きつつ、自分で知らない間に設定していた限界を超えて自己変態していくという<新しい学習経験>をしていく。PBLといえばPBLベースの学びである。

★この生徒が限界を超えて成長する教育環境のマインドセットが毎年充実していくことに児浦先生はワクワクし、もっともっとというベクトルを強化していくわけであるが、同時に、この<新しい学習経験>をした≪Z世代≫は、今度は講義型授業より経験に価値を見出し、生徒自身の内部で、教科学習とこの非日常的学習の間に限界を設定するようになる可能性もあるし、何より教師がその境界線を描いてしまう可能性がある。

★限界は超えたと思えば、新たな限界が見えてくるものである。そこを回避するか挑戦するかで、その人のバリューは決まるといってよいかもしれない。

★いわば、非日常と日常の限界をどう乗り越えるか、児浦先生はそこを明快に意識し、その限界を超えることで、教科学習と非教科学習の統合を果たすまたまた異次元の<新たな学習経験>を創ると高らかに宣言したのであった。

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衝撃!次のビジョンを実現する力みなぎる教育との遭遇 21世紀型教育機構「第3回静岡国際シンポジウム」(6)限界を共有

★第3部は、田代先生(静岡聖光学院副教頭)、伊藤先生(聖学院教頭)、石川先生(21世紀型教育機構理事)、鈴木氏(GLICC代表)によるパネルディスカッションから始まった。テーマは「グローバル教育の本質を見据えて」。第1部、第2部で語られた理想、新しいウネリ、まだ見ぬ教育、リアルな学びの経験の話を振り返って、本質は何か議論していくセッションだった。

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★田代先生も伊藤先生も、タイやカンボジアというグローバル教育を実施している国が共通しているということもあり、生徒たちが目からウロコという体験を通して、問題を自分事にし、真剣に立ち臨む姿勢に変わり、自分たちが何もできないのだという根源的存在の弱さにたどりつくとき、そこから自分の殻を破って大きく成長してくる変容する姿に感動するという点で一致した。

★たしかに、この話は第2部の生徒たちの話に重ねるとわかりやすいし、海外の語学研修では、なかなか体験できない存在の本質を呼び覚ます<新しい経験>に違いない。国際バカロレアのCASにあるボランティア活動も、かなり切迫したリアリティに直面するプログラムの場合であることが多い。

★しかし、石川先生は、柔らかい口調の中にも、ちょっと毒を流すような発言をした。そのような体験はたしかに、すばらしいけれど、そうなるのは予定調和で、何か見落としていないだろうかと。SDGsへの取り組みも多くの学校で行われているが、その解決案は新しいものは本当はあまりない。そのプロジェクト的なプロセスが大事なのだというのはわかるが、それで社会は変わるのか。

★少し会場も緊張したけれど、本質への接近は、心震わさないで行うのは難しい。また、ここを回避したくなるのが、日本の教育の限界であり、それはもしかしたら21世紀型教育機構の悩みの種でもあるかもしれない。

★コーディネーターの鈴木氏は、外国の大学進学準備教育や帰国生の大学進学準備教育に詳しいので、海外では、そこを回避しないで、自分なりに考えを深め、プレゼンできる思考力をトレーニングする問いがあるという情報を提供し、そのような問いの一例を持ち出した。

★そのような体験をした生徒は、目の前の凄まじい情況に対応するだけではなく、こういった哲学的な存在者の深層を問うような問題にどう対応できるのかと。

★そこは、伊藤先生も田代先生も、なかなか難しいという話だった。

★まさに、そこにまた一つ乗り越えるべき境界線が見えた。<新しい学習経験>は、根源的な問いを日常の授業の中で思考するトレーニングも射程に入れておく必要があるはずだ。しかしながら、現在の風潮は、探究や特別教育活動やグローバル教育は非教科型活動で、教科の授業とは分離しているという限界線がそこにある。

★経産省が推奨するシリコンバレーのHTH(ハイテックハイ)は、まさに教科型活動はしないし、未来の教室の事業に参加しているN学園も実質非教科型活動の方が活発だ。そして15,000人以上の生徒が集まる注目の通信制高校である。

★さて、果たして非教科型活動と教科型活動の隙間を越境する必要はありやいなや?限界線が明らかになったスペシャルディスカッションだったし、先生方が真剣に深淵にまで迫る<新しい学習経験>のプログラムに挑んでいることが明らかになった瞬間だったといえよう。

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衝撃!次のビジョンを実現する力みなぎる教育との遭遇 21世紀型教育機構「第3回静岡国際シンポジウム」(5)若手教師とZ世代の爽快さ!の隠れた意味。

★シンポジウム第2部は、いよいよ世界のZ世代が登場。今回のシンポジウムは、8月28日から9月5日まで同校で行われている「国際未来共生サミット」の最中に行われた。それゆえ、<新しい学習経験>をまさにしている世界からやってきた高校生、つまりデジタルネイティブでグローバルネイティブなZ世代のリアルな考え方や感じ方を共有することができた。

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(世界7カ国から参加しているZ世代の高校生はワークショップに没頭しかつ楽しんでいた)

★まず、今回の国際未来共生サミットの運営サポートをしている先生方の1人中村先生が登壇。国際未来共生サミットの概要を語ってくれた。

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★スピーチが始まるや衝撃を受けた。まったく、今回登壇した先生方と声の響きやしぐさそしてPPTのデザインが違うのだ。なんという爽やかさ!そしてよく学んでいる。東京で行われている21世紀型教育機構のカウンシルやフォーラムにも仲間の先生方と参加してるし、田中潤先生の開催する勉強会にも参加して、取り入れるところは取り入れている。吸収力・柔軟性・創造力が違う。そして軽やかな実行力。

★完全に生徒中心主義で、生徒と共に新しい価値の創造を楽しんでいる様子があふれでていた。はっきりいって、21世紀型教育機構の今回の登壇者は、かなり柔らかくおもてなし能力抜群だと思っていたが、中村先生と実はその中村先生の仲間の先生方は、今回のシンポジウムのバックヤードを完璧に回してくれていたのだが、その若手先生方に比べると、相対的にだが、やはり偉そうだし、自分の考え方や感情を押し付けて悦に入っている様子が、なんともコントラストがはっきりしてしまった。

★もちろん、かくいう私もそのつもりはないのに日ごろ偉そうに映っているのだろうなあと冷や汗がでた。あまりの衝撃に脱帽状態だった。ここにこそ21世紀型教育機構の次の地平があるじゃないかと感動さえした。ただし、名誉のためにおことわりしておくが、今回の登壇者を始め21世紀型教育機構の先生方はおもてなし力抜群だし、偉そうではない。ただ、中村先生とその仲間の先生方と比べると世代間ギャップがあるのだ。

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★そんなことを感じている間に、本橋先生の流ちょうな英語の司会で導かれた世界からやってきた高校生が4人と通訳を担当する静岡聖光学院の高校生2人が登壇した。

★日本と自分の国の違いと共通点について大いに語り、帰国後自分の学んだことを生かして、国のために役立てたいというミッションを聴いて会場は驚きのため息をついていた。

★礼儀正しく、今回この機会をつくってくれた静岡聖光学院の教師や生徒、自治体、企業、そしてホストファミリーの方々をおもんぱかって、クリティカルシンキングを発動しなかったが、そもそもSDGsの問題を生んだのは何が原因だったのかという話になると、許すけれど忘れないという歴史認識がどっと現れたのかもしれない。

★しかし、それを超えてバックスキャンよろしく未来から自分たちを地球人としてとらえかえし、何が出来るのかともに考えようとしていたのかもしれない。

★ここにもなかなか一線を超えられない暗黙の壁が横たわっていて、それは一朝一夕では超えられないものであることを思い知った。しかし、そこを突破するには、中村先生やZ世代の高校生が今回PBLベースの対話にヒントがあると感じた。この活動を、久しく続けていくことによって、希望を見出せるのかもしれない。そして、今回のような学校の教育活動のしんどさの背景も見えた気がした。

★そのしんどさ、深刻さゆえに爽やかに立ち臨むしかないという気概の分厚さに私自身謙虚にならざるを得ないと学んだのだった。

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衝撃!次のビジョンを実現する力みなぎる教育との遭遇 21世紀型教育機構「第3回静岡国際シンポジウム」(4)鬼才田中潤先生登壇!

★三田国際の田中潤教頭のスピーチは圧巻だった。テーマは「まだ見ぬ教育」。すでに三田国際で、経産省の「未来の教室」はとっくに実現し、今はシンガポールやシリコンバレーの世界最先端の教育をさらに超えてようとしている。その超えるという地平をいったいどこに田中潤先生は見ているのだろうか?

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★とにかく、文献リサーチが半パンじゃない田中潤先生。それを巧みに物語構造を活用してエスプリの利いたトークをしていく。壮大な理論の数々を自身の日常生活でハッと気づいたという一瞬私小説にするその大きなギャップに会場を笑いの渦に巻き起こむ。

★21世紀型教育機構の若手の先生方もその魅力にひかれ、田中潤先生の世界を巻き込むプレゼン手法を真似ぶ=学ぶという動きがでている。まさに、TEDよろしくやってのける。

★しかし、そのミミクリーとめまいの物語に魅せられているだけではなく、田中潤先生の「まだ見ぬ教育」の地平はどこにあるのか感想を書くと、もはやテクノロジーがまだ見ぬ教育を覆っているのでも、マシーンと人間がアクセンチュアーの予測する共生するでおわるのでもない。

★その両方は当然で、それを活用して世界や社会や平和になることを教育するわけでもないというのが本意だろう。

★これは痛烈な21世紀型教育機構に対するエスプリなのである。ユーモアなのであるが、最も先進的でハイレベルなテクノロジーと言語能力を学ぶ環境を創り上げた田中潤先生だから語れるレトリックである。

★社会貢献や平和を目的にする教育はどこか似非である。アダプティブラーニングの真の意味は、1人ひとりがハッピーであることであり、自らを犠牲にしてまでも押しつけがましい社会貢献や平和はどこかムリがあるのではないかと。

★未来は、AIなどのハイテクと深い人間理解はあたりまえの日常生活であり、社会貢献や平和は、非日常生活ではないのだと。そうならなければ、未来ではないのだと。その日常にあって、自分自身がいかに非日常的な存在として、日常生活のすべてを内面に包摂できるのか。個人の時代は、それゆえ自身が宇宙になることで、宇宙の一部になることではない。それにはハイテクの力は必要だし、互いに喜びを認め合う人間理解力が必要なのだと。

★それゆえ、「まだ見ぬ教育」のお題の本当のタイトルは<Find your spark joy>なのである。置き換えると、君の宇宙を見つけようということだ。世界を変える程度ではダメなのだと。自分の内部にある宇宙の響きを解放せよと。すさまじき内生的変容時代を予言したのである。さすがは、鬼才<田中潤先生>である。

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衝撃!次のビジョンを実現する力みなぎる教育との遭遇 21世紀型教育機構「第3回静岡国際シンポジウム」(3)

★星野明宏校長の「新グローバル教育宣言」は、未来を見据えたキーノートスピーチだった。いつの世の中も激動のなかで、人は不安を感じながらもそれを払拭しようと対応して生き抜いているのだが、今回蠢いている変化は、単なる外部変化というより、私たち一人一人が身に着けて血肉になっている物の見方・考え方・感じ方そのものが変容しなければならないという異次元の激動に直面している。すなわち内生的変容を迫られている。

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★この変容は、新しい<学習経験>を受け入れる他に術がないところまで来ている。だから、星野校長は2030年までに到達するSDGsを生徒1人ひとりが自分ごとにできる国際サミットを自分の学校で実現した。

★ソサイエティ5.0や第4次産業革命で現れるいや既に現れているが、多彩なイノベーション、日々進化するテクノロージー、新しく多様なタレント、そしてトレランスという寛容な倫理観すべてに対応できる新しいSTEAM教育をBIGIRION-Gというガレージというスペースでやってのけようという理想を掲げている。

★もちろん、現場と理想のギャップはつきもので、葛藤も生まれる。しかし、それを理由に前に進まないのではなく、クリエイティブテンションとして、前に進む推進力に転換するグロウスマインドセットを学内に浸透させせている。その組織開発の手腕、人材育成の手腕、ビジョン構築の手腕は見事である。

★元電通マンとして、社会科教師として、そして筑波大大学院で研究したスポーツ科学者として、ラグビーのユースの監督を経て、日本のラグビー促進者として、世に必要とされている存在になっているがゆえになせる業であるともいえる。

★それにしても、元電通マンの魂とその言葉の選択は群を抜いている。たとえば、理想を構築するときのことばに「ムーンショット」という表現を選ぶ。地球の外に出るくらい難関の目標を立てるわけだが、それがムーンショットという美し響きと地球を回り続ける眩暈が同居していて、月への旅の誘(いざな)いについ乗っかってしまうではないか。

★そして、新グローバル教育宣言のもう一つのキーワードは、ジャパンオリジナル。なんでもかんでも海外の模倣をするのではなく、日本のコンパクトで密度の高い知性を活用しようという話。ジョブスもフランクロイドライトも、多くの外国人が見せられる茶の道やマインドフルネス。そして、そこにある倫理観。国際サミットなどで多様性の中で共有していこうということだろう。

★しかし、このジャパンオリジナルには「月」が似合うのは言うまでもない。ムーンショットといいジャパンオリジナルといい、そこには「月」からみた「地球」。つまり「宇宙の運動」がある。もちろん、星野校長がそこまで意識したかどうかはわからないがおそらく相当計算して、そのうえで、崩している。この計画と無計画という反復が生み出すクリエイティブテンション。静岡聖光学院は、MITやシリコンバレーのリーダーシップ研修も受けているから、土台にあの学習する組織がある。

★この組織が土台としてあるから、PBLをコアとする<新しい学習経験>を創ることができる。その中で、生徒は自分の本質的なかけがえのない価値を見出し、それを社会で豊かなバリューに変換することができるようになる。

★ところで、今回の国際サミットはいかにして資金調達は可能だったのだろうか?結局、学校もベンチャーキャピタルさながら資金調達力がなければ、何もできないのである。学校経営者の腕の見せ所とは実は目には見えないそういうバックヤードのソフトパワーにかかっている。その裏付けあってこそのムーンショットなのである。

 

 

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衝撃!次のビジョンを実現する力みなぎる教育との遭遇 21世紀型教育機構「第3回静岡国際シンポジウム」(2)

★新たな<経験>は、新たな知識や才能、技術、ケアをプロダクトする。ところが、新たな<経験>は、想定されたゴールが一応あるから、その<経験>を充実させ膨らませそのゴールを生み出すことに意識が集中する。

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★だから、<経験>とは無意識のうちにその新たな知識や才能、技術、ケアの精神を生みだしているのだ。昨日のようなシンポジウムは、登壇者が新たな<経験>の実践報告を熱く語るから、新鮮で感動的で驚愕する内容ばかり。だから、たいていは、登壇者も聴衆も共感し共鳴し共振する。

★それゆえ、登壇者が語ること以上に新たな知識や才能、技能、ケアの精神が生まれていることに気づかないことが多い。実に有益だが同時にもったいない隙間ができる。そこで、登壇者達は懇親会などやってリフレクションする。そこで互いにシンポジウムで耳を傾けた結果、ものものの見方や考え方の違いをすり合わせ、新たな発見をして、次に再び飛びたとうとする。

★そういう意味では、シンポジウムのような<経験>は登壇者にとって価値増幅の環境システムである。21世紀型教育機構のシンポジウムやフォーラム、カウンシルは参加者と共有しつつ、登壇者はさらに未来を描く可能性があるのだ。

★今回私は、次世代に21世紀型教育機構をエンパワーするために、少しずつ現場から抜けている。そうして、2021年に21世紀型教育機構のグローバル教育3.0が完成するや始まる次のステージを探す側に回っている。その無意識のうちに生まれ出ずる未来を見たいというわけだ。

★それにしても、総合司会の本橋先生(聖学院教諭)と神崎氏(カンザキメソッド株式会社代表)の名司会には感動した。今回のシンポジウムのシナリオの輪郭を明快に描くと同時に、21世紀型教育機構の存在意義を伝えた。

★どちらも思考力入試や探究という新しい<学習経験>の実践者だから、2021年までの21世紀型教育機構の歴史的役割を前のめりで表現していた。しかしまた、それが2021年以降に超えなければならない限界であることも明らかにした。

★この両義性という<遊び>はなかなかスリリング。わかる人にはわかるが、わからない人にはわからないという公然の隠れた表現遊びなのである。エッシャーやヴィトゲンシュタインのトリックアート的なおもしろさでもある。

★ストレートに語り得るものとして表現はしているが、その表現を反転するとストレートに語り得ぬものが見えてくる。まさに眩暈。

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衝撃!次のビジョンを実現する力みなぎる教育との遭遇 21世紀型教育機構「第3回静岡国際シンポジウム」(1)

★9月1日(日)、静岡聖光学院のTED用のピエール・ロバート・ホールで、静岡聖光学院と21世紀型教育機構主催の「第3回静岡国際シンポジウム」が開催された。静岡聖光学院の星野校長をはじめ、21世紀型教育機構の仲間の先生方が駆け付け、いまここで取り組んでいる教育活動とその教育活動の中にはやくも育まれはじめている新しいビジョンについてスーパープレゼンテーションがあった。

★このいまここで取り組んでいる教育活動は、日本の教育の中では最先端のもので、経産省が提唱する「未来の教室」における活動はすでに実現してしまっている。そして、衝撃的だったのは、その各学校の最先端の取り組みの中に「次のビジョンが生まれ、それを実現する力がみなぎっていた」のである。グローバル教育。それは21世紀型教育機構加盟校にとっては、<地球そのものが教室>になってしまったのである。

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★とするならば、当然次なるビジョンは、<宇宙>である。もちろん、この<宇宙>とは、銀河系などのコスモスという意味ももちろんあるが、私たちの身の回りにいる鳥をみて、恐竜がそこにいたと気づくような身の回りにあるナノレベルの<宇宙>から気づく<宇宙視点>のことである。私たちの視野はマクロとミクロの統合から、コスモスとナノの統合へとシフトしたのである。

★このシフトを2014年から予言しているのが首都圏模試センターの取締役・教育情報部長北一成氏だ。1986年以降に中学入試は活況を帯びる。それは、しかしながら景気の動向というか、ミドルアッパー層以上の懐事情の上下運動に相関している。

★1986年からバブル崩壊後数年間は、まだその層の懐事情は右肩上がりだった。学歴階層構造と経済階層は一致するという幻想が通用する時代だったから、右肩上がりのエンジンは国内大学進学志向だった。

★ところが、1998年ころからそこが揺らぎ始め、国内の階層の中に入り込むだけはダメで、揺らぎの原因であるグローバリゼーションという広がりの中の世界標準の階層の中にはいるために、個人の学力を高めることの必要性を感じた保護者が中学入試に立ち戻ってきた。

★しかし、グローバリゼーションの光と影の交差は激しく、リーマンショック以降、ミドルアッパー層以上の懐事情もさすがにダメージを受けた。再び中学入試は下降するが、2013年から2020年の大学入試改革の話がでてから、再び右肩上がりに転じる。この大学入試改革は、明治維新始まって以来の教育改革であると鳴り物入りで登場してきた。

★したがって、北氏は、2014年以降の中学入試受験生の増加傾向は、大学入試改革を先取りする私立中高一貫校の「学び方」の変化による成長なのだと指摘してきたのだ。

★入試問題は学校の顔であるし、アドミッションポリシーとしてカリキュラムポリシーを反映しているから、その「学び方」の変化は、中学入試の中に「新タイプ入試」が増えたことに象徴されているというのが北氏の視点・論点なのである。

★これは、少子高齢化によって、従来の学びでは、平均年収は430万円くらいであるから、このままいけば2040年の日本のGDPは半減する。今の中1が30歳台になるとき、そんな状態でよいのか。平均年収を倍増しなければ国力は衰退するのである。

★実はこれは先進諸国の共通の悩みで、それゆえ、<新しい学習経験>を生みだし、一握りの才能者による、つまり富裕層による社会づくりではなく、1人ひとりの才能を開花し、1人ひとりのかけがえのない本質的価値と経済的なバリューを一致させる新しい社会づくりをしようという新しい流れと同期している。

★北氏は、首都圏で開発されている各学校の新タイプ入試をこれでもかというほど積み上げて、この「学び方」の変化によって中学受験の構造が変化したことを論じ切った。

★そして、各学校の登壇者は、この<新しい学習経験>の環境やシステムをなぜどのように創出し、生徒が自分の限界や従来の社会づくりの限界を超えて成長するのか熱く語った。そして、同時に、そのいまここでの取り組みの中に次のビジョンが育まれていたことを発見しているのである。

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