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2019年8月24日 (土)

令和元年度福島県私学教育研修会(3)長塚篤夫先生の根源的視点 大学入試改革の本当の理由

★今回の福島県私学研修会の基調講演の登壇者は、日本私立中学高等学校連合会常任理事・東京私立中学高等学校協会副会長の長塚篤夫先生(順天校長)だった。「変わりゆく社会・入試・教育~資質・能力を育む諸改革の動向」というテーマで、広い視野深い洞察による講演だった。

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★1983年に原文が出版され、1988年に邦訳本が出版されたトーマス・ローレンス教授の「日本の高校」という衝撃的な本から始まった。教授はスタンフォード大学の教授で、文化人類学者。日本に滞在し、フィールドワークを通して論文を書いているが、それらの成果の一冊が本書である。

★1980年代は、すでにホストコンピュータの時代であり、今でいうICTのイノベーションが世界的に起こり、日本ではバブルへの道を歩んでいた。モダニズムの影を払拭するかのようなイルミネーションさながらのポストモダンの誘蛾灯が輝いていた。

★トーマス・ローレンスは、こう語っていると長塚先生は紹介された。「中学から高校にかけて、次第に学習の楽しみや方法が軽視され、教科の内容そのものに関心が限定されるようになっていく。そして、高校の卒業が近づくにつれて、創造的な思考や表現の機会がますます減少し、生徒1人ひとりの異常性が目立つようになる」と。

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★これは、ローレンスによると、技術革新にともなう大量消費・大量生産・大量移動という国際競争が教育にも影響を及ぼし、人間の心や魂を豊かにする伝統が失われて行っているのではないかといのである。

★ローレンスは、文化人類学者としての視角で、中高の教育のシステムや習慣に、その国の時代精神や文化の特色が凝縮されていると切り取る。たしかに、中等教育以降の大学や社会にある組織の特色、人材の資質は、中等教育にそのひな形が出来ている可能性があるし、大学や社会が求める人間像や組織の在り方を、思春期に鋳型として投じていると考えることもできる。

★自らひな形をつくるのは、もしかしたら私立学校が挑戦し、鋳型を受け入れるのは公立学校といえるかもしれない。もちろん、私立学校だって鋳型を受け入れざるを得ないところもあろう。そことの葛藤はあるだろうし、その葛藤があるからこそ、社会が変わる契機がある。

★長塚先生は、都市社会学者リチャード・フロリダの「クリエイティブ・クラス論」も紹介した。フロリダは今トロント大学の教授であるが、1990年代に、すでに産業構造の大きな変化、つまり第4次産業としてクリエイティブクラスが誕生していることを論じていた。

★2007年に、邦訳「クリエイティブ・クラスの世紀」が出版されたが、まだSNSはメジャーになっていない時代である。にもかかわらず、現在経産省や文科省が提唱しているSociety5.0のビジョンを生みだしていた。

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★一方、1980年代に、ローレンスは、中等教育や高等教育の改革の根源的必要性をすでに見抜いていた。

★だから、長塚先生は、もう何をすべきかに進む時代であり、だから大学入試改革や中等教育の改革は必然なんだという歴史的ウネリあるいは時代の精神のシナリオを講演のベースに描いたわけである。

★そして、何をすべきかは、学力観の変容である。ローレンスが、人間の豊かさを奪う危険性の警鐘をならしていた。そこに対応するのが非認知的能力や資質能力である。中高生の「異常性」という言葉で表現していたのは、当時、初等中等教育は、校内暴力そして学校崩壊がおこる異常な事態が生まれていたことを示しているのであろう。

★中学入試が、1980年代以降今のように、教育の表舞台にでてきたのは、この事態を懸念した保護者が、私立学校に流れ込んだということがあろう。

★いずれにしても、資質・能力、つまりコンピテンシーの育成を、教科の学習以上に行っていく方向に、世界が時代が舵を切ったということを90分の講演の中で一貫性をもって語られた。

★アクティブラーニング、ルーブリック、eポートフォリオ、大学入試改革、カリキュラムの改革などは、そのコンピテンシー育成の新教育システムで、すべてが有機的につながっていなくてはならない。2020年度から始まる改革は、当然それがすぐには結びつかない。しばらく時間がかかるが、1980年代に明快になった危機とそれを乗り越える技術及び人材イノベーションの革新の誕生に立ち還ると、あのときの危機の状況に後戻りすることはできないのである。長塚先生の明快な未来ビジョンと何をすべきかという実現力へのアイデアは、福島県の先生方にしっかり共有された。

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