PBLの世界(12)小熊氏の「日本の社会のしくみ」を思考力革命からみた感想
★小熊英二氏の新刊本「日本社会のしくみ」(講談社現代新書2019年8月)を例によって斜め読みした。ビブリオを含め601ページのボリューム満点の本で、とても精読の時間がない。しかし、日本の社会のしくみが改革を起こせない歴史的、社会構造的、心理学的、比較研究的な多様なアプローチを小熊氏の独自の切り口に融合しているため、学問的価値以上にグローバル市民が携帯すべきリソースであろう。
★私は、グローバル市民というより1地球人にすぎないから、地球人としてこの本を楽しみたいなあと。地球人は、自然と社会と人間の精神の循環を大切にしている。この循環は、時代によって違うし、その時代の終末時には、循環は崩れがちになる。しかし、そのたびに、その循環を新しい制度とイノベーションが、新しい循環として蘇生する。
★小熊氏自身は、601ページのそのほとんどを、1980年代までに形作られた、強いそれゆえに改革しがたい企業メンバーを大切にすることが中核となった社会制度の形成過程を紐解くページに割いている。
★これを読むと、雇用者側も組合側も、各家族のための自己防衛運動はしたが、社会運動につながらなかった、つまり改革を拒むシステムが共謀共同的に出来上がったことが検証されていることに気づく。だから、読んだら、ムカつくかもしれない。
★しかし、1980年代から、この堅固な企業村社会システムにグローバルな波が押し寄せ、一部の企業を除き、破壊されつつあると小熊氏は指摘している。
★この辺は、現代社会論者とあまり変わらない視点である。それもそのはずだ。小熊氏は、この堅固なシステムが壊れつつ、しかし、限定的に強固な企業村社会システムが継続する動きについて書いているページは、601ページのうちの3%しか割いていない。未来を論じるのは、学者としてのは自分の使命ではないのだと。ただ一つ言えることは、「透明性」を貫徹することなのだと。
★これは、ようやく3%ではあるが、知識・論理的思考力どまりであった企業村社会システムベースの日本社会に、創造的思考力という思考コードでいうC軸思考が生まれてきたことを示唆してもいる。つまり、いよいよAB軸思考(知識・論理思考)からBC軸思考(論理・創造的思考)へ移行する思考力革命が生まれ始めている。
★それにしても、最終章で披露されている非正規雇用の賃金政策についての小熊氏の3つの政策カテゴリーは、コンサバ、リバタリアン、コミュニタリアンの正義でつくられている。つまり、サンデル座標のうちリバタリアンを除いた正義観。
★小熊氏自身は、AB軸思考をベースに学問していることを結果的に表明しているわけだ。地球人としてBC軸思考を使う目的は、たとえば、サンデル座標をどう乗り越えるかなのである。というのは、サンデル座標は、普遍的座標ではなく、あくまで強欲近代社会やその修正主義である再帰的近代社会を考える際の正義論なのである。ところが、小熊氏が3%割いているこれからの社会は、循環型近代社会にようやくシフトしようとしている。
★その循環型近代社会において、サンデル座標は成立しない。AIシフトの時代にあって、産業革命以来変わらなかった化石燃料の覇権をめぐる奪取競争がなくなるからだ。正義とは、希少資源の配分政策であり、格差の正当化理論である。
★循環型近代社会は、AI科学による化石燃料からの解放である。格差なき社会である。そこで正義は作動しない。自然法というシンプルな循環型近代社会ルールが残るだけである。そのルールは人が決めるものではない。循環型社会が成立する自然法則なのであるから。これが透明性の貫徹の行き着く姿である。
★いすれにしても、この循環型近代社会形成のための知=BC軸思考は、PBLで生まれることは間違いない。PBLが行われるのは、もちろん、学校に限らない。あらゆる領域でPBLが広がる。このPBLの拡大こそ思考力革命の運動態なのである。
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