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2019年7月21日 (日)

工学院のPBL アクティビティというメタ経験の意味 経験が生成する「X」なるもののヒント

★工学院のPBL授業は、かなり高密度。50分という限られた時間にコンパクトに知識と思考と感情というつながりを知のシステムとして展開しているからだ。

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★しかも、この知識と思考と感情のつながりをアクティビティというメタ経験に包み込むから、授業としてはしなやかで人間的だ。最近のICTやいつも同じ道具を活用したPBLは、かなり合理的で画一的で、教師主導の機械モデルの授業が目立つ。それは、主体が生徒の対話ではなく、ICTや道具の活用が前面に出ているからだ。

★デカルト的合理的精神が、21世紀型教育という名の下で、忍び寄っているわけだ。こういうのをフェイク21世紀型教育というわけだが、工学院の真正21世紀型教育は、合理的な部分と野生の思考という側面の両方がマインドセットされていて、レヴィ=ストロースのいう「野生の思考」の精神がベースになっている。

★たとえば、ベッキー先生のサイエンスの授業は、人間は太陽からどのくらいの量のエネルギーを注がれているのかを証明するのがテーマだったが、PBL授業の中に≪Learning by making≫というアクティビティが展開されていた。

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★太陽光ロウトを作るのだが、それは、画用紙とアルミホイルで作っていく。キッチンにあるあり合せの材料と道具でつくるブリコラージュという野生の思考の方法である。

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★これをグループワークで行うことによって、短時間ではあるが、創意工夫の編集会議や順序付け、重みづけが対話される。そして、素材を分解し、太陽光ロートという制作物に統合していく。出来上がったら、実際に太陽光を集めてデータをとる。水温の変化データを収集するのだ。収集後、データを分析し、最終的にはエネルギー量を関数式で求める。その過程で大事なことは、実測データだから、怪しいデータは削除したり、不足分は実験をやり直したりして挿入したりするという過程だ。もっとも時間が足りないから、そこは他のクラスのデータで補っていた。

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★しかし、こんなことは予め細かく手順が示されているわけではない。≪Learning by making≫というアクティビティというメタ経験を実行しながら、生徒たちが気づいていくことなのである。まして、英語で行われているから、どうしても言語的にもメタ認知を発動せざるを得ないという仕掛けも複合されている。

★工学院のPBLをアクティビティというアプローチで分析をし、思考コードで全体を俯瞰するスクライビング研修をプロジェクトチームのメンバーがしているわけであるが、二学期以降は、アクティビティというメタ経験の重要性がより鮮明に浮き出てくるだろう。

★ベッキー先生の今回のアクティビティを通して、生徒は何を学んでいるかというと、もちろんダイレクトには太陽と人間の間で享受されるエネルギー計算であるが、インダイレクトには、①分解と統合 ②削除と挿入 ③順序付け ④重みづけ ➄変形という5つのメタ経験である。

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★太陽光をエネルギー量に置き換えるつまり変形する過程が、今回のアクティビティというメタ経験の再重要ポイントだったわけであるが、この5つのメタ経験こそネルソン・グッドマンの世界制作のポイントである。

★工学院の先生方が使う30種類以上のアクティビティが、すべてこの5つの世界制作スキルをメタ経験できるわけではない。むしろ、それぞれのアクティビティが得意としている世界制作スキルのメタ経験がある。だから組み合わせるわけである。

★ただ、こうして先生方の授業をリフレクションしていくと、≪Learning by making≫というアクティビティは、世界制作スキルすべてをメタ経験できるということなのである。それを改めて感じた。

★工学院の中学のPBLの授業はすべて最終的には≪Learning by making≫になっているのはそういう理由があったわけだ。どうりで、生徒1人ひとりが他流試合で大活躍をしているはずである。

★それにしても、一時間という授業で、ネルソン・グッドマンの世界を制覇するとは!グッドマンは科学者・数学者・芸術哲学者である。STEAM教育や新学習指導要領ででてくる「探究」というアクティビティの行き着くビジョンの1つである。

★これからのSTEAM教育や探究は、言うまでもなく、教師は文系と理系を統合した視野を有していなければならないが、それは難しい。しかし、ファシリテータとして、アクティビティのマインドセットをすることは可能だ。

★もちろん、グッドマンがすべてではない。たとえば、5つめの変形という世界制作スキルは、ポアンカレ予測というトポロジーの法則と密接な関係を有している。そして、このトポロジカル(とノーベル財団は表現するのだが)な変形という世界制作スキルこそ、ノーベル物理学賞やノーベル化学賞を受賞するサイエンティストの重要な世界制作スキルなのである。

★PBLの中に織り込まれているアクティビティというメタ経験が生徒の学びの「X」なるものを生成するのだが、その一つがこの世界制作スキルの可視化と暗黙知化の往復だったのである。IB(国際バカロレア)の優れているところは、教科学習とTOKのようなコア学習が有機的につながっていることなのだが、それは≪世界制作スキル≫が共有されているからだ。

★ところが、今の日本の教育では、教科は教科、探究は探究というのが本当のところだろう。もっと単純な置換をすると、教科は知識、探究は作業。せめて、探究にでも≪世界制作スキル≫をメタ経験するアクティビティが入っていればよいのであるが、たいていは、作業という合目的なパッケージが入っているだけである。

★ところが、工学院は教科学習でも探究学習でも、≪世界制作スキル≫をメタ経験するアクティビティが織り込まれている。しかも、IBより優れているところは、そのアクティビティが多様であるから、生徒1人ひとりの可能性を開く機会が多いということだ。

★IBでは、≪世界制作スキル≫をメタ経験するアクティビティは、エッセイライティングにすべて集約されてしまう。これについては、IB候補校水都国際の太田教頭は見抜いていて、そこを工学院的21世紀型教育で補強しようとしている。何せ太田教頭は、2年前まで工学院の中学部教務主任で、高等部教務主任の田中歩先生とスクライビング研修を実践していたわけであるから。

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★日本の教育の未来において、IBも超えて新しい教育を生み出す可能性の1つは、工学院にあるのかもしれない。それゆえ、昨年末News Picksは鋭くそれを見抜いて取材記事にしたのであろう。

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