プロジェクト型学習PBLの根本原理に立ち戻る 思考コードの本来的な意味<世界生成>
★PBL(Project Based Learning)は、今当たり前のように語られ、ICTと結びついて注目を浴びている。このルーツをたどると、3人の思想家に出遭う。ジョン・デューイ(John Dewey、1859年10月20日 - 1952年6月1日)、ジャン・ピアジェ(Jean Piaget, 1896年8月9日 - 1980年9月16日)、クロード・レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss、1908年11月28日 - 2009年10月30日)がそれだ。
★デューイが少し先輩で、レヴィ=ストロースが少し若いが、3人とも日本も巻き込む近代の世界システムが大きなウネリを生みだした時に立ち会い、当時から今日にかけて世界に影響を与えてきた思想家である。
★デューイは、民主主義社会を学校と市民社会の弁証法で創り上げようとした。そしてその弁証法の媒介項として重要なものが≪対話≫であった。この≪対話≫による思考の環境をすでにPBL的に考案し、実践もしたプラグマティスとである。本人は脱カント、脱ヘーゲルで、道具主義という機能を重視する立場でプラグマティストではないと言っていたらしいが、機能主義とはファンクションという関数を重視するから、今の社会構成主義的な流れを生み出すきっかけになったことは確かだろう。
★ピアジェは、認知の発達理論を構築し、これが今日の認知科学や発達理論に影響を与えていることは多くの見識者が語っているし、パパートとレズニックに引き継がれ、MITメディアラボでICTやレゴと結びつけられたPBLにつながっていることはあまりに有名であり、これもまた構成主義(訳語で構築主義という場合もある)にダイレクトに影響を与えた。
★それに大事なことは、『〈子供〉の誕生』(1960年)を著したフィリップ・アリエスと共に、近代形成期における≪子供≫の発見をしたということでも重要人物である。今でこそ、学校は当たり前であるが、≪学校≫という制度ができるはじまりの時代であり、それゆえ、デューイもピアジェも、≪子供≫は、当時思われていたようなたんに小さな大人とは違い、その存在意義を発見したともいえる。弱者への想い。近代の光と影の内、光の部分に≪子供≫をマインドセットしたのである。
★そして、強烈なのは、レヴィ=ストロースである。構造主義と言われ、これもまた社会的構成主義に合流するが、なんといっても≪未開人≫の新たな発見である。≪未開人≫の≪野生の思考≫は、≪近代の人間≫の≪論理的思考≫と構造上同等だし、むしろそれ以上の≪創造的思考≫を有していたことを世に著した。認知革命として、MI理論を説いているハワード・ガードナー教授が、レヴィ=ストロースを研究していたのは、≪近代の人間≫の捉え方をIQ主義からの解放したいという動機があったからだろう。考えてみればMI理論は、≪野生の思考≫に置き換えられる。
★この強烈な3人の思想家のものの見方感じ方、そして現代の教育にPBLという形でダイレクトに影響を与えている精神を汲み取り、それを学校のPBL授業の場でシェアしたものが≪思考コード≫である。つまり、これは≪メタルーブリック≫として、PBLにおけるエンパワーメント評価の基準にもなり得るのだが、本来的には≪思考コード≫でなければならない。
★デューイも、ピアジェも、レヴィ=ストロースも、≪想い≫と≪考える≫の両方を兼ね備えた≪思考≫を大切にした。その≪思考≫が生み出すもう一つの近代世界、それは未来につながるのだが、その世界を生み出す3人の発想をわかりやすくシンプルに整理したのが≪思考コード≫である。
★端的に言うならば、≪思考コード≫は≪世界≫を生み出す≪媒介項≫なのである。もちろん、世界というのは、近代世界というような大きな世界もあるが、日常の授業という世界、学校という世界、政治経済という世界、大学入試という世界、心の世界など多様である。
★≪思考コード≫の9つのキーが全部そろったとき、そこからは最適最良最善のそれぞれの世界が生み出される。キーが中途半端な場合、そこから生み出される世界は、リスクを回避できないネガティブな要素を抱え込む。PBLという場が必要なのは、ここにおいてはじめて思考コードの9つのキーが全部満たされる学びが行われる可能性が高いからだ。
★現代の学校制度は、デューイが思い描いていた学校ではないし、ピアジェの認知科学が貫徹している学校でもない。まして、レヴィ=ストロースが発見した≪野生の思考≫が生まれる学校でもない。
★だから、今起こっていることは、学校の心ある教師及び生徒と外部の心あるファシリテータやジェネレーターが連携して、PBLの場を創り、≪思考コード≫の9つのキーを満たす取り組みである。随所で、この動きが起こり、9つのキーを満たすコミュニティがたくさんできたなら、そこから未来世界が現れ出でるだろう。
★新タイプの中学入試や大学入試におけるAO入試、中高生の起業活動、HTH(ハイテックハイ)運動、IBのユニバーサル化、21世紀型教育機構の教育研究センターの動き、共感的コミュニケーションの運動などなどは、それぞれ、そのコミュニティの1つであるが、やがて、大きなベクトルとして合流するだろう。それらの中には、レヴィ=ストロースがアランダ族プロジェクトで発見した、それぞれの≪チューリンガ≫としての≪思考コード≫が確かにあるのだから。
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