PBLの世界(6)聖パウロ学園の大久保先生との対話。グローバル教育の原点クリティカルシンキングに立ち還る。
★森の学校聖パウロ学園は、夏期講習に合宿に学びの森になっている。OB・OGも駆けつけ、生徒たちはサポートされながら自らを見つめながら、生徒同士協働しながら互いを高め合っている。1時間の授業も90分で、チャレンジとモチベーションの精神が膨らんでいる。いわば知の沸騰学園になっている。
★英語の講習が終わった後、少し大久保先生(研修部部長)と≪対話≫ができた。何せ忙しい先生なので、クイックダイアローグを小まめにする。これまでのテーマはPBLと思考コードの関係をいかに授業に盛り込むかというものだったり、知識と思考の関係を聖パウロ学園の英語科はどう考え、それは教科共通になり得るのかなどの≪対話≫だった。
★大久保先生は、この≪対話≫のあとすぐに自身のPBL授業で実践していくから、PBL授業はますます洗練されていく。ここ最近は、聖パウロ学園のPBL授業は大学入試にどれだけ効果を発揮できるかというプラグマティックなテーマで≪対話≫している。
★今回は、UCL(ロンドン大学)のクリティカルシンキングのサンプルテスト(オール記述・論述)を素材に、グローバル教育の原点であるクリティカルシンキングを聖パウロ学園はPBL授業の中に取り入れることは可能か?ということについて≪対話≫した。
★聖パウロ学園には高2の秋2週間のオーストラリア研修旅行がある。オーストラリアの教育の基盤は、もちろん世界標準であるが、大学入学前にファウンデーションがあるなど、イギリスの教育システムと重なるところがある。とくにクリティカルシンキングは重要で、ロジカルに考えるも、クリエイティブになるも、クリティカルシンキングを介して思考は展開していく。
★グローバル教育と言ったとき、英語の能力が高いだけでは、世界で本格的な≪対話≫はできない。クリティカルシンキングという思考実験がグローバル教育という基礎に当たり前のこととして位置付けられている必要がある。
★そのことは、オーストラリアに留学していた大久保先生にとっては百も承知の話だった。そこで、具体的にクリティカルシンキングのPBL授業における思考実験のメカニズムをいかに作るかの話のきかっけとしてUCLのクリティカルシンキングのサンプルテストを活用した。
★問いの分析をしながら、やはりUnderstanding Qusetionは10問のうち1つしかないですねと。どういうことですかと尋ねると、日本のテストは、この与えられた文章をきっちり理解しているかを試す細かい問いだけで構成されているのですが、UCLのテストは、最初に課題文のサマリーをパラフレーズして書きなさいという問いだけです。
★しかも、日本の問題のように、課題文の言葉をつぎはぎしてモザイク的に答案をつくるのではなく、自分の言葉に言い換えよと変形をもとめてきます。それがパラフレーズしなさいということですから、要約もすでにクリティカルシンキングが働くようになっている。このトレーニングは、生徒といっしょにしておかないと、世界の人びとと議論した時、長々説明しているとおいて行かれますよね。要するにキーワードや動詞でいうとこうだというパラフレーズをしながら≪対話≫していくということです。
★もちろん傍線箇所について説明を求めもしていますが、その説明を文章の他の文を抜き出すような日本のテストとはかなり違います。これは画期的で、ぜひ私も取り入れようと思います。
★何が画期的なのですかと尋ねると、それは傍線箇所について君のアイデアは何かと問うたうえで、その君のアイデアをサポートする事例を文章の中から2つほど挙げなさいというシステムですね。文章を読むのですから、自分のアイデアを結びつけないと読むことにはならないのに、日本だとそこをカットする。しかし、UCLのテストでは、自分のアイデアを結び付け、そのきっかけになった箇所をエビデンスとせよと。クリティカルシンキングってこういうことですよね。
★この手の問題が多いですね。これは文章を読むというより、作者と≪対話≫している感じですよ。互いに話し合っているのだから、相手のことばをよく聞き尊重しながら、それに対し自分はこう考えるこう感じるけれど、君はどうなのという深い≪対話≫をしていると置き換えたほうがよいかもしれません。
★そのあとで、もちろん、君はどう考え何をするのか、と創造的な思考を要求してきますね。徹底的にロジカルでクリティカルシンキングを経た後にクリエイティビティを生みだしてくださいと。もっとも、要所にクリエイティビティを発揮する仕掛けになていて、クリエイティブとクリティカルなシンキングを明快に分けることはあまり意味がないでしょうけど。
★2学期以降の放課後のヴェリタスという講座が比較的自由に柔軟に授業デザインができるので、実際にやってみます。アクティビティはピアシンキングを多分使うと思いますよ。期待していてください。
★あっという間のスピードダイアローグだった。グローバル教育では、英語でこのような思考実験=クリティカルシンキングをトレーニングする授業が展開する必要があるが、実は国語でも、聖パウロ学園は小論文の講座を開催している。そこでも思考実験は行われる。そして、何よりふだんのPBL授業でそのような骨太の問いについてディスカッションする授業が展開している。もちろん20%ルールで、四六時中でディスカッションを行っているのではない。講義と多様なアクティビティの組み合わせで成り立っている。
★欧米では、森の学校と馬術はエスタブリッシュスクールの称号だ。パウロの森で、人知れず、未来を創るグローバルリーダーが育っている。
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