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2019年7月

2019年7月31日 (水)

PBLの世界(8)PBLは、リーマンショック以上のクラッシュを乗り越えるために最小で最大の成長力を生み出す学びのメカニズム

★たとえば、文春オンライン2019年7月25日では、「“欧州最強”ドイツ銀行、苦肉のリストラ 破綻すれば「リーマン・ショック」以上の衝撃」という記事が掲載されている。

★世界の投資家ジム・ロジャーズは、日本への投資を引き上げると警鐘を鳴らす本を出版している。

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★1998年・1999年のバブル崩壊後の波が山一證券破産、拓殖銀行破綻をもたらし、86年以来右肩上がりだった中学受験業界は急激に停滞した。しかし、それを乗り越えるためにOld Powerの持続可能なイノベーションとしての反ゆとり政策によって、不思議なことに中学受験業界は変わらず右肩上がりになったが、そのときに、同時にNew Powerの創造的破壊としてのイノベーションを先導する学校も現れた。かえつ有明や広尾学園、宝仙理数インター、聖学院のように新しい教育を独自に展開する学校が出現したわけである。かえつ有明や聖学院は2011年3・11をきっかけに、21世紀型教育を宣言したぐらいだ。

★2011年前夜の2008年リーマンショックがあり、復活の兆しのあった中学受験業界は再び右肩下がりになる。しかし、このあたりから2011年っかにかけては、21世紀型教育宣言校が出現する準備期間ともなった。従来の学歴ブランド校の競争だけではなく、そのグループとは次元の違う21世紀型教育が現れ、今では学歴ブランド校とNew Power校が共存するようにまでになった。

★そして、現在、中学受験業界は新型入試とグローバル教育の盛り上がりと共に三度右肩上がりになった。

★しかし、日本においては2020年の東京パラリンピック・オリンピック閉幕後から、急速に経済は低迷すると言われているし、その前にイギリスがEU離脱を果たす可能性が高く、それに連動してドイツ銀行も破綻する恐れがある。

★中国・ロシアは、ヨーロッパとの貿易は重要なために、そうなることをなんとか抑えたいが、米国のトランプ大統領は自由貿易の立場からは嫌われているが、よいかわるいかともかく、万が一に備えて、まずは自国のみで生きて行けるように模索を始めている。とはいえ、米国の経済好調を支えているのか、好調だから生まれたのかは判断が難しいが、サブプライムローンと同じ構造の債権が販売されていて、リーマンショックの前触れかと言われてもいる。

★日本はといえば、借金大国で、食料自給率も先進諸国で相当低く、世界の大混乱に日本はどれくらい耐えられるかわからない。だからといって、何ができるわけではないが、来たるべきインパクトのために備えるために、最小限の学びで最大の生徒の成長を生みだすメカニズムを作っておく必要がある。

★おそらくリサーチは、Webコミュニティが主流になるだろうから、英語とICT技術は必須。しかし、これはWebの中でできてしまうので、必要最低限のコストでしのいでいける。もちろん、このコミュニティが壊滅になると、もはや「野生の思考」のみでサバイブするしかないのだが、英語、ICT、野生の思考で授業のメカニズムをつくるということは、結局PBL授業を各教科の授業でコンパクトに創り出すしかないことになる。

★もしかしたら、HTHのように学際的なPBLのみになるかもしれない。

★第二次世界大戦中だって、授業は行われていた。どんなときも教育は必要最小限でも残る。世界経済の最悪のシナリオを考えたとき。備えるべきはPBL授業である。

★そして、この最悪のシナリオが、最高の新しい政治経済社会を生み出す大きな契機になるが、そのときこそPBLは最大の効果を発揮する。結局改革前夜は、最悪のシナリオが勃発する。最悪のシナリオがおこらずに、ゆっくりと改革へのシフトが行われるのがもちろん望ましい。そうだとしても、PBL以外の授業はほかにないだろう。

★ジム・ロジャーズではないが、今起きている小さな変化に世界を変える大きな変化の要因がある。まだまだ少数派のPBLであるが、1998年から2008年の間に学歴ブランド校以外の新しい教育が生まれ、そのNew PowerのコアシステムはPBL授業である。

★しかしながら、PBL授業はその当時から少数派であったから、学歴社会を支えるOld Powerの学校や受験産業は、自分たちが主流だと認識し、そのような少数派の動きの意味を一蹴してきた。

★ところが、そのOld Powerの教育が支えてきた社会システムが本当に危なくなってきた。それを象徴するのが、facebookの仮想通貨リブラ叩きである。先進諸国が大同団結して規制をしかけている。リブラが動けるかどうかはわからない。しかし、リブラの創造的破壊イノベーション派あまりにもすさまじい。中央銀行をスルーして万人がお金のやりとりをできるようになる。まさに究極のグローバリゼーション。

★国家と中央銀行は一蓮托生だから、貨幣のコントロール権力が低下して、国家機能も衰退する。官僚政府を維持できなくなる。ドイツ銀行破綻の警鐘、それゆえイギリスはEU離脱を考え、米国も自国主義になっている。米中貿易戦争は、国家の覇権争いの象徴であるが、この背景には、経済的な破綻を防ぐために、金利を下げ、危ない債券を生みだし、借金をしという綱渡りをしている。

★今に始まったことではないが、バブルがはじけても、今までは、国家と中央銀行のコントロールによって回復できた。しかし、もしリブラのような仮想通貨が世界を席巻したら、その回復は仮想通貨に移行してしまう。仮想通貨は、「知」の象徴である。

★帝国から国家へ移行した時、軍事力から経済力に基盤は移行した。今、国家の支えである通貨コントロールがゆらぎ、新しい世界秩序に移行しようとしている。それは知の力によって起こる。

★この「知」の力は、従来の教育システムでは生まれてこない。PBL型の学びのシステムによって生まれてくる。Old Powerの防衛機制イノベーションとNew Powerの創造的破壊イノベーションの相克が本格的に始まるのかもしれない。その源泉がPBLという世界なのである。

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PBLの世界(7)創造的思考と批判的思考は、暗黙知とか直観とか無意識とかの復権

★Wedge2019年8月号にこんな特集がある。≪ムダを取り戻す経営~データ偏重が摘んだ「創造の芽」≫がそれで、暗黙知と形式知の循環を経営に生かす論を展開した野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)らが執筆している。平成の企業は、3つの過剰に創造性の芽を摘まれたのだと。その3つの過剰とは、「オーバープランニング」「オーバーアナリシス」「オーバーコンプライアンス」だという。

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★3つの過剰が奪ったムダは、≪緊張感ある対話を通じて「われわれの主観」をつくりあげる「知のコンバット」≫の機会なのだと。つまり、これでは、コミュニティやチームの暗黙知から形式知を組みあげ、間主観的な知識創造を行い、再びそれを内面化し、暗黙知を豊かにしていく知のプロセスが生まれない。

★実は、見える化や可視化は大事だが、それを内面化して暗黙知に戻すことをしなければ、形式知は形骸知になってしまう。もともと、この野中氏の発想は、物理学者マイケル・ポランニーの「暗黙知」にヒントを得ている。

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★ポランニーと生きた時代は重なるが、大先輩に2人の思想家がいる。ジークムント・フロイト(1856年5月6日 – 1939年9月23日)、アンリ=ルイ・ベルクソン(1859年10月18日 - 1941年1月4日)がそうであるが、フロイトは無意識の発見、ベルクソンは直観を発見した。おそらくポランニーは人文科学的な無意識や直観の概念を、自然科学的なアプローチで「暗黙知」としてとらえ返したのだと思う。

★そして、この暗黙知と形式知の循環の肝である≪対話≫こそ、デビッド・ボームのいう≪対話の一貫性≫に通じるのだと思う。

★この無意識や直観、そして暗黙知などの創造性の泉をムダとして排除したのがデータ偏重主義の3つの過剰だというのが野中氏の論旨だろう。

★そういう意味では、PBLというのは、≪対話≫によって、暗黙知と形式知の循環を生み出す場である。思考と知識の循環と置き換えてもよい。ビジネス的に、日本の経済的低迷を救うのは、この知のコンバットとしての≪対話≫だというのなら、教育においてはそれはPBL授業ということになるだろう。

★もっとも、学校現場は、3つの過小である「ショートプランニング」「ショートアナリシス」「ショートコンプライアンス」で現場の方は逆説的に多重過剰な仕事で混乱している。多様はデータを活用したマネジメントも必要である。それがないとPBLは学校全体で回らないだろう。

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PBLの世界(6)聖パウロ学園の大久保先生との対話。グローバル教育の原点クリティカルシンキングに立ち還る。

★森の学校聖パウロ学園は、夏期講習に合宿に学びの森になっている。OB・OGも駆けつけ、生徒たちはサポートされながら自らを見つめながら、生徒同士協働しながら互いを高め合っている。1時間の授業も90分で、チャレンジとモチベーションの精神が膨らんでいる。いわば知の沸騰学園になっている。

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★英語の講習が終わった後、少し大久保先生(研修部部長)と≪対話≫ができた。何せ忙しい先生なので、クイックダイアローグを小まめにする。これまでのテーマはPBLと思考コードの関係をいかに授業に盛り込むかというものだったり、知識と思考の関係を聖パウロ学園の英語科はどう考え、それは教科共通になり得るのかなどの≪対話≫だった。

★大久保先生は、この≪対話≫のあとすぐに自身のPBL授業で実践していくから、PBL授業はますます洗練されていく。ここ最近は、聖パウロ学園のPBL授業は大学入試にどれだけ効果を発揮できるかというプラグマティックなテーマで≪対話≫している。

★今回は、UCL(ロンドン大学)のクリティカルシンキングのサンプルテスト(オール記述・論述)を素材に、グローバル教育の原点であるクリティカルシンキングを聖パウロ学園はPBL授業の中に取り入れることは可能か?ということについて≪対話≫した。

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★聖パウロ学園には高2の秋2週間のオーストラリア研修旅行がある。オーストラリアの教育の基盤は、もちろん世界標準であるが、大学入学前にファウンデーションがあるなど、イギリスの教育システムと重なるところがある。とくにクリティカルシンキングは重要で、ロジカルに考えるも、クリエイティブになるも、クリティカルシンキングを介して思考は展開していく。

★グローバル教育と言ったとき、英語の能力が高いだけでは、世界で本格的な≪対話≫はできない。クリティカルシンキングという思考実験がグローバル教育という基礎に当たり前のこととして位置付けられている必要がある。

★そのことは、オーストラリアに留学していた大久保先生にとっては百も承知の話だった。そこで、具体的にクリティカルシンキングのPBL授業における思考実験のメカニズムをいかに作るかの話のきかっけとしてUCLのクリティカルシンキングのサンプルテストを活用した。

★問いの分析をしながら、やはりUnderstanding Qusetionは10問のうち1つしかないですねと。どういうことですかと尋ねると、日本のテストは、この与えられた文章をきっちり理解しているかを試す細かい問いだけで構成されているのですが、UCLのテストは、最初に課題文のサマリーをパラフレーズして書きなさいという問いだけです。

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★しかも、日本の問題のように、課題文の言葉をつぎはぎしてモザイク的に答案をつくるのではなく、自分の言葉に言い換えよと変形をもとめてきます。それがパラフレーズしなさいということですから、要約もすでにクリティカルシンキングが働くようになっている。このトレーニングは、生徒といっしょにしておかないと、世界の人びとと議論した時、長々説明しているとおいて行かれますよね。要するにキーワードや動詞でいうとこうだというパラフレーズをしながら≪対話≫していくということです。

★もちろん傍線箇所について説明を求めもしていますが、その説明を文章の他の文を抜き出すような日本のテストとはかなり違います。これは画期的で、ぜひ私も取り入れようと思います。

★何が画期的なのですかと尋ねると、それは傍線箇所について君のアイデアは何かと問うたうえで、その君のアイデアをサポートする事例を文章の中から2つほど挙げなさいというシステムですね。文章を読むのですから、自分のアイデアを結びつけないと読むことにはならないのに、日本だとそこをカットする。しかし、UCLのテストでは、自分のアイデアを結び付け、そのきっかけになった箇所をエビデンスとせよと。クリティカルシンキングってこういうことですよね。

★この手の問題が多いですね。これは文章を読むというより、作者と≪対話≫している感じですよ。互いに話し合っているのだから、相手のことばをよく聞き尊重しながら、それに対し自分はこう考えるこう感じるけれど、君はどうなのという深い≪対話≫をしていると置き換えたほうがよいかもしれません。

★そのあとで、もちろん、君はどう考え何をするのか、と創造的な思考を要求してきますね。徹底的にロジカルでクリティカルシンキングを経た後にクリエイティビティを生みだしてくださいと。もっとも、要所にクリエイティビティを発揮する仕掛けになていて、クリエイティブとクリティカルなシンキングを明快に分けることはあまり意味がないでしょうけど。

★2学期以降の放課後のヴェリタスという講座が比較的自由に柔軟に授業デザインができるので、実際にやってみます。アクティビティはピアシンキングを多分使うと思いますよ。期待していてください。

★あっという間のスピードダイアローグだった。グローバル教育では、英語でこのような思考実験=クリティカルシンキングをトレーニングする授業が展開する必要があるが、実は国語でも、聖パウロ学園は小論文の講座を開催している。そこでも思考実験は行われる。そして、何よりふだんのPBL授業でそのような骨太の問いについてディスカッションする授業が展開している。もちろん20%ルールで、四六時中でディスカッションを行っているのではない。講義と多様なアクティビティの組み合わせで成り立っている。

★欧米では、森の学校と馬術はエスタブリッシュスクールの称号だ。パウロの森で、人知れず、未来を創るグローバルリーダーが育っている。

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2019年7月30日 (火)

PBLの世界(5)聖パウロ学園の松本先生との対話。教科特有の直観を忘却しないために。

★聖パウロ学園は、夏期講習中。寮を使った合宿も始まっている。その講習の合間で、教務部長の松本先生(数学科教諭)と対話をした。松本先生は文系クラスも理系クラスもPBL授業で行っている。アクティビティはディスカッションやコラボレーションが中心だが、両クラスでは学びの過程が違うという。

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★どう違うのかは、なかなか難しい。そこで、たとえば、今年の慶應義塾大学の理工の入試問題を素材に話を聞くことにした。慶應義塾大学の理工の数学の問題は標準的で特別難しいというわけではないので、私も話についていくことができるということだった。

★微分と極限の問題だったが、この問題を生徒がどう考えていくか松本先生は説明してくれた。重要なのは解き方というよりアプローチの仕方だ。理系進学を考えている生徒は、高3の今ぐらいの時期になると、このような問題をグラフに置き換えて解くのか関数式で解くのか、いくつかのアプローチの中から取捨選択してから解いていくという。

★いくつかのアプローチとは生徒自身は意識するのかと尋ねると、おそらくそこが理系と文系の違いになるかもしれないという。どういうことかというと、解析、代数、幾何、位相の4つのアプローチという視点が、理系を選択している生徒は高1、高2の間に出来上がっていて、闇雲に問題を解く必要がないのだという。

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★文系の場合は、問題それ自体が、意識しなくても代数の問題は代数的にアプローチすればよいし、幾何の問題は幾何のアプローチをすればよいから、アプローチを考える必要がない問題が多いいのだと。

★だから、文系クラスの数学のディスカッションでは、解答の教え合いを行っているように見えるけれど、どのアプローチで行くか協力して探すことを主眼としてできる問題を選んでいて、考えるアプローチの必要性に気づけるようにしているのだと。

★しかし、自分ひとりですべてのアプローチを取捨選択できるようになるまでにはいきつかない。それはやはり数Ⅲまでカバーしないとなかなか難しいと。しかし、文系であれ理系であれ、数学的に考える多角的アプローチがあるということを意識することは共通して大切なのだと。文系でも、ものの見方を数学的にアプローチすることは将来あるだろうから、そこは重要なのだと。

★なるほど、理系のクラスの生徒が数学ができるということはそういうことなのですねと尋ねると、いや実は、そのアプローチの選択のときに、高2後半までは、試行錯誤でやりながら最適なアプローチを見出していくのだが、高3の夏期講習あたりになると、そこは数学的直観のような力がつているから、試行錯誤しないで、決定できるようになっているというのだ。

★≪直観≫という境地に達するのが理系クラスの行き着く先かとちょと感動したが、松本先生は、大学に行けば、アプローチそのものを新たに自分で作るような局面にぶち当たるので、むしろそこに結びつけるために、ここまで行っていなくてはならないと。

★これが、IBや米国の教育学で話題になる≪Subject Specific Intuition≫というものなのかと驚いた。松本先生は、どの教科でもその教科特有の直観みたいなものに達するようになっていて、そこまでいくから教科の得意不得意が自分の中で生まれてしまうと。

★決して、偏差値が高い低いが得意不得意を決めているわけではないと。教科というけれど、実際には数学的直観と言語的直観の組み合わせで教科の特有の直観は決まってくると。数学の場合は、純粋に数学的直観ということなのだろう。

★論理的に考えることは重要であるが、直感的なものが働くことによって、思考過程の最適化をつくっていくことができるのだと。なかなか難しい≪対話≫になっていき驚いたが、たしかに聖パウロ学園の数学好きのクラスの生徒の数学観とはそんな雰囲気だ。

★どうりで、理系クラスのディスカッションは、どのアプローチを選択すると最適あるいは美しい解き方になるかが議論されているわけだ。新学習指導要領のいろいろな改革は、ともすると教科のこの特有の直観育成の話がどこかにいきがち。論理的に組み合わせるパッチワークで終始しがちだ。結論ではなくてプロセスが大事だと。しかし、直感はプロセスをショートカットできる変換を行える。それゆえ、その変換の仕方に美を感じるのだ。そこまでいかないとプロセスが大事だと本来はいえないのかもしれない。

★STEAMのAは、この数学的美学を必要とするはずだ。教育改革が成功するか否かは、結局松本先生のように、思考の創意工夫について生徒といっしょに取り組んでいける教師の存在にかかっている。

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PBLの世界(4)アサンプション国際小の今泉先生との対話。クリエイティビティのジレンマの発見。

★アサンプション国際小学校の先生方との研修終了後、今泉先生が、5年生の自然教室体験の事後学習で新聞づくりをしていることについて話かけてきてくれた。生徒1人ひとりが、体験した事実やその事実から関連する背景について調べたことを記事にしている。そして、自分なら何ができるのかコラムを書くところまでチャレンジしている。1人ひとり個性的な新聞が出来上がっていた。

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★そして、今泉先生は、≪思考コード≫を基調にして自然体験の新聞づくりの「ルーブリック」をこんなふうに作ったとみせてくれた。すると、そのルーブリックと生徒1人ひとりの新聞を照合すると、生徒の新聞の編集の力点がどこにあるのかがみえてくる。

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★事実もきちんとまとめ、事実の背景にある事柄も調べ、自分ならどうするのかコラムも完璧に編集している新聞が幾つかあった。客観的な記事からクリエイティビティまで、ワクワクしながら編集している様子が目に浮かぶようだった。TOL(Tornade of Learning)が生徒の内面からあふれ出ている制作物だった。

★一方で、事実をこれでもかというほど詳しく書いて終わってしまっている新聞もあった。また、コラムの字数が圧倒している新聞もあった。

★それはそれで、情熱がこもっていてよいのだ。そこで今泉先生は、もしC軸まできちんと書き込むことがゴールだとすれば、生徒たちはきっとチャンレンジしたでしょう。しかし、今回は思考コードは予めシェアすることはしなかったということだった。

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★しかし、そのことによってかえって、どの軸がその生徒にとってワクワクするのか個性やもしかしたら才能が見えたように思えますと。

★すなわち、今泉先生はトルネードは、C軸だけで生まれるわけではなく、A軸で生まれる生徒もいるし、B軸で生まれる生徒もいると。C軸までいくことをゴールにすると、もしかしたら、生徒1人ひとりの才能を摘んでしまうかもしれないというのだ。

★PBL授業の≪クリエイティビティのジレンマ≫を今泉先生との≪対話≫で発見した。小学校のPBL授業では、A軸もB軸もC軸も多様なアプローチで授業の展開を仕掛けるも、C軸が不得意だからダメなのだというような評価をしては危険だということ。このような視点は、今泉先生をはじめ、アサンプション国際小学校の先生方が生徒1人ひとりの学びの構え思考過程をじっくり観察したり、ふだんから対話をしているからわかることである。

★知識と思考の相互作用によるダイナミズムこそが学びであって、知識より思考が大切とか、知識がなければ思考はできないとか、理解より創造がレベルが高いとかいう発想から学びの革命へのシフトが、アサンプション国際小学校のPBL授業だと改めて気づいた。そしてこの発想は、おそらく世界標準の動きとシンクロするだろう。

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PBLの世界(3)アサンプション国際のアクティビティとPBL

★昨日29日、アサンプション国際小学校で有志の先生方とPBLの存在理由と作り方について≪対話≫と≪ワークショップ≫を行った。午前の2時間強を使った。多忙な先生方にとって、この時間は貴重で、有意義でなければと思うと、動かない足も動き出し、熱も急に引いた。不思議な体験だった。自分にとって小さな奇跡だったのである。

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★ともあれ、PBLというのが、実は世界が大きく変わりつつある中で、翻弄されることなく、仲間と共に新世界を創るための学びだということを≪対話≫で共有した。カナダのトロント出身の先生も参加されていて、世界を変えるというトーンはシリコンバレー的だけれど、トロントだとみんなでいっしょに世界を作ろうという感覚かなというフィードバックもあり、アサンプション国際小学校は、グローバルチームの≪対話≫ができている。

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★2020年の大学入試改革に伴う学習指導要領の改訂があるから、PBLを行うというだけではなくて、世界の変化を捉えるとPBLを行わなければならない必然的理由があることを、アクセンチュアの「人間+マシン」の動画とHTHの情報がどんなところで結びついているか≪対話≫していった。

★アサンプション国際小学校の先生方は、1人1台タブレットを持っているから、web検索しながら≪対話≫ができる。プロジェクターに私のパソコンからの映像を写しはするが、1人ひとりタブレットで動画を見たり、情報をリサーチしながらできるので、≪対話≫がプロジェクターに規定されることがない。

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★PBL授業も実は同じである。小学校なので、すべての授業でタブレットを活用しているわけではないが、授業によって、生徒も1人1台活用しながらPBL授業が進んでいく。

★ICTはともかく、PBLとは≪対話≫が形成される学びである。アクセンチュアの動画もHTHのカリキュラムも、2つに共通しているのは、実はこの≪対話≫を形成するPBLのシーンなのだ。

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★世の中、≪対話≫が必要であることは了解されている。しかしながら、いざ≪対話≫するとなると、面談とか哲学カフェ風とか共感的コミュニケーションという場など構えをつくるチェンジが必要となる。

 

★それでは、授業の中で立ち上げるのは面倒である。ところが、PBLとは、その≪対話≫の多様な活動をそれぞれに対応する≪アクティビティ化≫しているから、気軽にアクティビティを選択して、組み合わせれば、≪対話≫が自然と生まれる仕掛けになっているのだ。

 

★私たちは幼児期から大人まで、基本、まずやってみようという経験をする。そして経験から学ぶものである。ところが、いわゆる20世紀型の授業は講義というアクティビティだけで、多様性がなかった。

★ところが、いろいろなアクティビティを組み合わせることによって、多様な経験が授業の中で生まれ、その経験から生徒は気づきを得るのである。その気づきはアクティビティによって違うし、どのアクティビティが刺激的かは生徒によって違う。だからこそ、多様なアクティビティがポイントなのだ。

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★ワークショップでは、詩の素材文と規則性の隠れている装置を使って、PBL授業の作り方を確認した。一学期に先生方は、PBL授業を実践し、そのリサーチも一緒にしてきた。

★そのまとめというか、一般化というかそんなワークショップとなった。

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★素材や装置を理解していくために、生徒はどんな問いのアプローチをしていくのか、問いをどんどん出し合い、カテゴライズした。これはコンセプトマップ風にポストイットを使うので、先生方は手慣れたものだ。

 

★その後、各カテゴライズの問いをどのようなアクティビティで授業するのか≪対話≫。アクティビティはハーバードのアクティブラーニングプロジェクトのサイトを活用した。タブレットがあるので、すぐに検索できるし、英語ができる外国人教師と日本人の教師が参加しているので、英語のサイトも怖くない。

★もし、アクティビティを挿入しなければ、テスト問題になる。だから、実は授業は最初に問いをたくさんつくって、それにアクティビティで息吹を与えるやりかただと創りやすいのである。

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★そして、アクティビティの選択によって、生徒の脳神経身体全体がワクワクして心のトルネードを起こすかどうかが決まる。それを確認するために≪思考コード≫を使った。

★実は詩の素材や規則性装置は、筑駒をはじめとする中学入試問題の素材部分。問いを外して、そこは先生方と作ったのだが、入試問題以上に深くk面白い問いが生まれた。これによって、アサンプション国際小学校の先生方の問いを生み出す力は筑駒以上ということが共有できた(微笑み)。


★また≪思考コード≫によって、トルネード・オブ・ラーニングになっていることも確認できた。先生方は、自分たちのPBLというのは、どのくらいのレベルなのか?これでよいのだろうか?グローバル教育を標榜しているのに世界に通じるのだろうか?と不安に思っている。

★しかし、この≪不安≫は、最適な学びを子供と共にしたいからという意志があるから生まれてくる。それで、ハーバードの≪アクティビティタイプ≫や筑駒の入試問題や≪思考コード≫という鏡を活用するのである。

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★そして、最後は対話のパターンランゲージのカードを使って振り返りをした。井庭先生のデザインしているいろいろなPLのカードは、振り返りの時にとても役に立つ。

★それとなんといっても、Webというグローバルブレインは良き仲間である。

 

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2019年7月29日 (月)

PBLの世界(2)2040年からPBLを考える。教育力が世界を牽引する時代。

★2040年とか2050年がどうなるかは、経産省やそのステークホルダーである政財官学が構想を描いている。しかし、これは決定論ではない。もっと違う構想であってもよい。

★しかし、大学入試改革やそれに伴う新学習指導要領はこの経産省の構想に従っているからあたかも決定論であるかのように動いている。

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★とはいう私も、この構想では、シリコンバレーのGAFAの米国教育改革を基礎としているから、逆手に取ればよいと思っている。どういうことかというと、米国は、教育費の調達方法がエリアの階層が富裕層かそうでないかで全く違ったり、教育慈善家がファウンドをつくったりと日本とは違うから、GAFAが主導するHTHのようなチャータースクールをそのまま行えないし、バウチャーを配布することもできない。まして米国のように私立学校の勢力を拡大することを政府が考えることもしない。

★基本、米国は学校選択万歳の国である。それゆえ、階層構造は堅固だし、格差は国内にあるのだ。

★日本の教育改革が、米国のトップ階層の教育を国内全体に広げるなどということは今のところ無理であろう。

★しかしながら、GAFAはその教育改革にはICTを媒介とするPBL(Project Based Learning)がマストである。

★なぜだろう?ここに大きな重要な意味が隠れている。現状は、米国も国内外で、この重要な意味を必死に顕在化しないように、規制の攻撃を加えている。これに対しGAFAは今のところ苦しい顔をしながら、嵐のすぎさるのを待っている。軽くいなしている。

★つまり、PBLはこのような規制も含め、Old PowerをNew Powerに転換させる潜在的な創造的破壊力を蓄積しているのである。

★米国の組織開発や人事開発などの研究をしている立教大学の中原教授や桐蔭大学の理事長溝上教授もPBLを中高の教育のみならず、大学、企業、起業、NGOなどでも一気通貫する世界を描いている。これについていけないのは、実は政府と官僚である。

★もちろん、経産省も未来教育をPBLなどに期待しているが、それは授業の手法として扱っているだけだ。New Powerが3つの開発、すなわち「組織開発」、「人材開発」、「ものづくり・金・情報の開発」、すべてにおいてイノベーションを生み出すことに気づいていない。

★しかしながら、全体が有機的につながって動いているわけではないが、3つの開発はそれぞれ動いている。法整備も不十分ではあるが、この3つを応援する形になっている。もちろん、法はヤヌスの顔であるから、3つの開発を国家のコントロール下におきたいというのが本音である。

★しかし、法律は、法の精神をコントロールすることはできない。いくらでも法解釈でコントロールを乗り越えることができる。もちろん、それは権利の闘争ということにもなって時間がかかってしまう。

★ところが、PBLは静かにそして確実にNew Powerの生成を準備する。軍事力→経済力→教育力へというパワーシフトが、教科の授業がPBLになることによって、革新のダイナミクスを生み出すのである。

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2019年7月28日 (日)

週刊東洋経済の特集「中高一貫校」(3)算数一科入試の意味

★週刊東洋経済7月27日号では、算数一科入試相次ぐという話題も取り上げている。2021年の早稲田の政経が大学入学共通テストで、数I ・Aが必須であるということもあり、算数の学力のある生徒に門戸を開こうちう入試のようだ。

★これからは理系が重視されるから、算数の学力の高い生徒が欲しいという理由もあるという。

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(大妻中野の算数一科入試は、実社会に数学がどのように活用されるのか、数学的思考力をみる良質の問題)

★しかし、いずれも、あまり納得のいく理由づけではない。生徒募集のためというのが本当のところではないか。

★思考力入試や英語入試のように2科4科以外の才能をという話とは基調はかなり違う。

★というのも、日本の学習指導要領は、数学的思考力などという話題はほとんどなく、大学入試問題ができるための微積を頂点とした体系ができあがっていて、これ以外に、数学的思考などを養おうという数学の講師はそれほど多くない。

★もちろん、本格的に数学的思考力を養うプログラムを作ろうという数学教師もいるだろうが、基本は大学入試問題が解ければよいわけだ。

★もし、算数一科入試の目的が、数学的思考力という理系文系に共通する大切な思考力を有している生徒が欲しいということにあるのなら、素晴らしいと思う。大学入試も乗り越え、理系という枠組みも突破する数学的思考力ベースの算数一科入試という学校であれば、そこは選択する価値が高いはいずだ。

★算数一科入試は、目的によって素晴らしい価値も有するし、あるいは逆に時代錯誤の権威を振り回し生徒の未来を台無しにするリスクもある。

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週刊東洋経済の特集「中高一貫校」(2)和洋九段女子のPBL入試紹介される

★週刊東洋経済7月27日号の記事「中高一貫校の入試スタイルが激変し始めた事情/理数教育注目で創造力や思考力試す問題続々」で和洋九段女子のPBL入試も紹介されている。

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★和洋九段女子の中学校2までの授業は、PBL型(Problem based Learning)。同じPBLでもProject based Learningとはだいぶ授業の様子が違う。ペプシとコーラーのちがいくらいしかないともいえるし、全く違うものともいえる。それは聖学院のPBL型の思考力入試と比較すれば一目瞭然である。

★女子校と男子校という違いもあり、和洋九段女子のPBLは、課題設定が明瞭である。聖学院も課題設定は明瞭だが、どちらかというと生徒自身が思考の過程で気づいた課題にシフトしていく自由度がある。一方和洋九段女子のPBLは、目標に向かって多様な思考過程を楽しんでいくというもの。女子校の場合は、どうしても安心安全が大前提だということもある。

★しかし、共通点は、どちらも過程を大切にするということなのである。ただし、聖学院は発想の質も最終的には問うということになる。

★公立中高一貫校対策の適性検査型入試と比較的似ているのは和洋九段女子の方だろう。

★同記事でも、次のように紹介されている。

≪PBL型入試では数人のグループを組み、与えられたテーマについて個々に考えたのち、議論を重ね発表する。例えば「桃太郎になったつもりで、鬼ヶ島に連れて行く3種類の動物を考えよ」というテーマが与えられる。試験ではタブレットが貸与され、足りない知識は検索することができることから思考力に重きを置いた試験であることが分かる。
アイデアの質よりも、発表に至るまでのプロセスを評価することに重点を置いている。議論の進行を担ったり、発表役を買って出たりする子どもが有利になるのではと考えがちだが、「ほかの子どもの話を聞いてうなずいたら加点をするなど、相手を尊重したり協力したりできるかを重視している」(中込真校長)という。≫

★和洋九段女子のPBL入試は、入学後のPBL授業に見事につながっている。聖学院のように生徒が教師を乗り越えていくことが要求されているのに対し、和洋九段女子では、教師と生徒がいっしょに学びながら、生徒の自己実現を可能にしていくというカリキュラムになっている。

★同じPBLでも、問題解決型と創造的思考型という違いがあり、問題解決型は女子校に好まれ、創造的思考型は男子校に好まれるかもしれない。女子校と男子校のそれぞれの良さが、学びの方法の違いに現れるということだろうか。

★もしそうだとしたら、女子校の価値と男子校の価値は、授業の価値観によって規定される時代がやってきたといえるかもしれない。実におもしろい時代の到来だ。

 

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PBLの世界(1)聖学院のレゴによるPBLの意義

★今月、週刊東洋経済(7月27日号)で、聖学院のレゴを活用した新型入試「思考力入試」が紹介された。そのことについてホンマノオト21でコメントしていると、児浦先生から今日はレゴキングを開催しますと連絡が入った。先に別件の約束があって、参加できず残念だったが、聖学院のサイトで即日その模様が発信されていた。さすがSNSを活用した広報戦略。児浦先生は、21教育企画部長であると同時に広報部長でもある。マルチプレイヤーの意味は、こういうところで功を奏する。まさにNew Powerの持ち主である。

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(写真は同校ホームページやfacebookから)

★そういえば、児浦先生は国際部長でもある。したがって、聖学院の広報―入試―授業―グローバル教育―キャリア教育には、PBL(プロジェクト型学習)の一貫性がある。学内で、この一貫性とは何か?について対話があふれている。そして、実は、その一貫性の「X」なるものは、入試問題でもなく、教科の授業でもなく、キャリア目的でもなく、あらゆる目的的な学びから解放されたレゴキングという遊び=学びのイベントにヒントがある。

★このレゴキング大会は、もう8年続いているそうだ。もはや聖学院の教育活動の中の重要な位置を占めているとみなせるだろう。

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★どういうことかというと、20世紀型の授業というのは、この「遊び=学び」というアクティビティを排除して、「勉強」だけの世界に偏ってきた。この「勉強」だけの世界の中でのランキングは「偏差値」によって決まってきた。この偏った基準で子供たちの才能を規定してきたために、「勉強」では見えなかった多様な才能の芽を摘んできた。

★その結果、未知なる出来事に対し、対応できない今日が訪れた。そこで、多様な才能が生まれる環境を取り戻すために、聖学院は、「遊び=学び」というアクティビティを取り入れたPBL授業を久しい間開発してきた。

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★アクティビティとは体験することである。レゴキングによる体験は、レゴを使いながら問いに対応する事柄を制作物に置換する。そしてそのレゴによって表現された制作物を物語によってさらに置き換えていく。この物語―置換―レゴによる制作の循環が、創造性を生み出す仕掛けになっている。

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★このレゴキングが、実に好奇心を膨らまし、レゴで自分の新たな思いが触発されては驚き、レゴキングというコミュニティをつくることに貢献する活動の中で、自分の新たな才能を他者によって評価されていく心地よさを生んだいく。遊びが面白いのは、これであり、この遊びのエッセンスを学びに取り入れて行っているのが聖学院のPBL授業であろう。

★入学後、生徒1人ひとりがそれぞれ才能を発見し発展させていく。学力だけではなく、知性や感性も飛躍的に伸長する。レゴキングという才能を顕在化する遊び=学びが聖学院のあらゆる教育活動に一貫して流れる「X」なるものだったのではあるまいか。

★今後、SGDs的なアプローチもあり、メディアは、教育の質について語ることになる。この切り口からロールモデルになる学校として、今度もまた聖学院は注目されることなるだろう。

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2019年7月27日 (土)

週刊東洋経済の特集「中高一貫校」(1)聖学院の3つの思考力入試紹介される

★週刊東洋経済(2019年7月27日号)の特集は「中高一貫校」。編集の基調は「偏差値にこだわらない学校選択」。偏差値や大学合格実績の指標意外に、STEAM教育、思考力を伸ばす教育、グローバル教育の切り口で取材がされている。多くの学校が掲載されている中、聖学院の記事は500字も記述され、写真も掲載されているぐらい力が注がれていた。

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★特集の中の記事に、次のタイトルの記事がある。「中高一貫校の入試スタイルが激変し始めた事情/理数教育注目で創造力や思考力試す問題続々」

★その中で、聖学院は、「ユニークな新型入試」を出題している学校として紹介されている。2013年度から思考力入試を始めたということも言及され、時代を牽引していることが示唆されている。

★3つの思考力入試のうち、レゴブロックを使った「ものづくり思考力入試」の魅力が多く語られている。

「これは、社会問題に関する解決策をレゴブロックと文章で表現するもの。4人1組のグループをつくり、どのような意図で作品をつくったのかを説明し、それに対して他のメンバーが、気づいたことや、改善点などを書き込む。レゴづくりから創造力を、ディスカッションによって他人の話を聞く力などを評価する。」

★レゴを学びのツールや動機付けとして使い、試験のスタイルはPBL(プロジェクトベース型学習)で行われているから、たしかにユニークさの密度が違う。

★同校広報部長の児浦良裕先生の言葉も次のように引用されている。≪「男子は言葉で表現するのが苦手な子どもも多い」と言い、ものづくり思考力入試では自らの考えをレゴで表現させることによって、表現力を評価しているという。≫

★ある意味、主体性、思考力、判断力、表現力を重視する新学習指導要領を先取りする新型入試であるから、メディアが注目するわけだ。

★≪資料や写真から気づいたことを作文させる「M型思考力入試」や、資料をみてその解決策をレゴで表現し、文章で解説する「難関思考力入試」≫も紹介されている。3種類を合わせた入学者が2割シェアで、その割合をさらに高めていくビジョンについても記述されていた。

★というのも、思考力入試で入学してきた生徒の学内で活躍も著しく、2科、4科で入学してきた生徒とはまた異なる才能の持ち主で、両方のタイプの試験を乗り越えてくる生徒が集まることによって、知の多様性が生まれてくるからだという。

★聖学院の思考力入試は、最もはやくから行われていたわけだから、多様な選択視点で中学入試が行われるようになった一つの象徴的な存在であろう。

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2019年7月26日 (金)

本日「第57回東北地区私学教育研修会」の部会で福原氏とコラボ。

★本日、「第57回東北地区私学教育研修会」の「21世紀型教育部会」で、株式会社FlipSilverlining代表取締役の福原将之氏とワークショップ型講演のコラボレーションをする。昨日は全体会と懇親会だったが、二人のワークショップの流れを調整しながら資料を作り直したので、懇親会も途中で失礼して作業に取り組んだ。

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★今回に限らず、ワークショップ型の資料は、ぎりぎりになるまで安定しない。そのため、資料を配布できない場合もあるが、この東北地区の研修では、著作権の問題で、配布できないものもあるが、配布できる資料や動画はUSBにコピーして、配布することににしている。

★特に私のはPP(一部カット)Tそのままなので、学校の報告会では、そのまま発信していただけるという。

★福原氏には、ムチャブリで、PILアプリを作ってもらっているので、昨晩徹夜になっているかもしれない。感謝と陳謝です。

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★懇親会で、安田教育研究所代表安田理先生、関西学院大学学長特命尾木義久先生とお会いした。お二人は、それぞれ「学校経営部会」で講演される。

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★リクルートの「キャリアガイダンス」編集長の山下真司先生にもお会いした。「進路指導部会」で講演される。

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★山下先生には、懇親会で、少しお話をお聞きした。学校の「人材開発」の難しさと希望について見識をうかがうことができた。AIシフト時代、人材のイノベーションは私も関心がある。キャリアデザインからのイノベーションアプローチ、教科のPBL授業のイノベーションアプローチと違いはあるが、どこかで交差する「X」なるものが見つかるかもしれない。

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2019年7月25日 (木)

北一成氏の視点(1)ミッションスクール再び注目浴びるか?

読売新聞オンライン(2019年7月25日)に、北一成氏(首都圏模試センター取締役・教育情報部長)の論考「動き出したミッション・スクール<5>」が掲載されている。

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★明治においては日本の近代教育形成に影響を与え、戦後には戦災孤児救済をはじめとする日本の教育復興に尽力したミッションスクールの系譜から書き起こしている中学受験教育情報記事として教養ある逸品。

★同時にミッションスクールが、多くの私立中高一貫校や公立中高一貫校が教育の質を高め、新機軸を次々と出していく中学受験のムーブメントの中で、相対的に目立たなくなった事態も的確に指摘。

★その上で、AIシフト時代に人間の本来性の喪失の危機に、再びミッションスクールの使命を発揮しようと新しい動きに転じている流れを見出している。明治、戦後、AIシフトという大きな時代の転換期にともすれば人間の本来性を見失いがちになる危機を感じたとき、ミッションスクールは動き出すというセオリーを、北氏は見通している。

★同記事で、北氏が取り上げているミッションスクールを順に列挙してみる。女子学院、フェリス女学院、香蘭女学校、晃華学園、普連土学園、湘南白百合学園、啓明学園、青山学院、恵泉女学園、暁星、清泉女学院、聖学院、カリタス女子、聖ドミニコ学園、聖ヨゼフ学園。

★こうして眺めてみると、偏差値に関係なくミッションスクールは動き始めていると改めて実感できる。

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≪情報を獲得する≫ために根性で読め!ではなく、≪思考スキル≫でしなやかに読み取る。

首都圏模試センターのサイトに「偏差値5アップのこの1問」というページがる。毎回「統一合判」が終わったあと、同センター教務陣が各教科の問題から1問ずつ選択し、この1問が解けたらはもちろんであるが、この1問を通して≪思考スキルベースのものの見方・考え方≫ができるようになると偏差値5アップするよということを解説している。

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★今回で2回目の掲載であるが、両方とも読んでおもしろいのは、平均正答率30%くらいの問題が選択されていることが多い。そして、平均であるから、偏差値50の受験生の集団がだいたい正答率30%くらいになる。ところが、偏差値70の集団をみると、この手の問題はだいたい80%くらいできてしまう。

★なるほど、この手の問題を解けるようになると、偏差値5どころかもっとアップする。そこで、平均正答率30%の各教科の問題を横断的に見ていくと、ある共通点がある。平均正答率30%の問題は手がつかないということはない。だから無答率は少ない。

★手を付けているけれど正解に行き着かないその理由は何か?国語だと課題文の読み取りが不十分だというのが明快に了解できる問いが選択されている。算数だと問題文の読み取り、社会だと資料の読み取り、理科だとデータの読み取りがそれぞれ不十分なのだ。

★したがって、課題文にしろ、問題文にしろ、資料にしろ、データにしろ、「情報の獲得の仕方」を身に着けているかどうかは極めて重要だ。

★なんだあたり前の事ではないか?と言われるかもしれない。だから受験生に問題文を焦らずきちんと読めばそれでいいんだよとか、問題文をきちんと読んでいないからだとか、諭したり怒ったりしている家庭での様子がすぐに思い浮かぶ。

★しかしながら、受験生にとって、情報の獲得の仕方は、実は明快にトレーニングされているわけではないのだ。試行錯誤して経験値をあげる訓練をしているに過ぎない。それでは、出来る子と出来ない子の差が開くばかりなのだ。

★それゆえ、≪情報の獲得の仕方≫を≪思考スキル≫ベースで学ぶ習慣をつけることは大切だ。国語の場合、要約にしろ、心情の記述にしろ、具体化(理由の時もあるし、対照的な内容の時もある)と抽象化のセットで書くわけだ。具体的な部分と抽象的な部分は、たいがいは課題文で書かれている。

★心情の記述の抽象的な言葉は、物語の中では直接表現されていないから≪置き換える≫スキルを発動する場合いもあるが。

★ともあれ、具体と抽象の関係を知るパスワードは何か?それは「このような」「つまり」「すなわち」「要するに」などの言葉に気づくことである。「思考スキル」とは結局≪関係語≫が示していることを知ることなのである。つまり、≪関数関係≫。がしかし、中学入試ではここまですぐには飛べないので、思考スキルとして幾つか分類整理しているのだ。

★算数の問題文は、条件の整理であるから、図やグラフや表に≪置き換えて≫情報を獲得ないし再現していくことが必要だ。

★社会の資料は、それがなぜ必要なのか重要なのか、隠れた情報を明らかにしていく必要がある。つまり資料が表現している社会現象の諸関係を思いめぐらことがポイントだ。

★理科のデータの読み取りは、そのデータが、加減法の世界を表現しているのか、比の世界を表現しているのか比較して分類分けする必要がある。

★なお、今回の理科の1問は、データをどのような式で計算するのか類推する問題で、その平均正答率は、7%。偏差値70の集団も50%しかできていない。この問題の発想法を学ぶことは、この問題に限らず、あらゆる問いを考える際に、偏差値にかかわりなく、極めて重要である。

 

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2019年7月24日 (水)

グローバル教育とSTEAM教育の基礎となる授業を3つのPBLデザインツールで組み立てる。

★昨日、GLICC代表の鈴木裕之氏と株式会社FlipSilverlining代表取締役の福原将之氏とミーティングを行った。1つは、26日に盛岡で開催される「第57回東北地区私学教育研修会」の「21世紀の私学教育」の部会のファシリテーターを福原氏と私とでコラボするので、その打ち合わせ。もう一つは、9月1日の「第3回静岡国際シンポジウム」で鈴木氏と仕掛けるプログラムの打ち合わせ。

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★東北地区の研修会でのテーマは「2040年を見据えた21世紀型授業~グローバル教育とSTEAM教育の基礎としての授業」。大学入試改革もいろいろ紆余曲折しているけれど、2040年を見据えながら描かれているわけだから、未来の根っこから今の教科の授業をどうデザインするのかワークショップで先生方と創っていく。

★現在、グローバル教育とSTEAM教育というのは、どこの学校でもうたわれているけれど、どちらかというと、授業以外の教育活動とか探究の時間とか、留学や高大連携というパッケージで行われるのが主流で、教科の授業に埋め込んでいるところは少ない。

★というよりも、実際には行っているのだが、そういう意識がないまま行われているから、教科の授業と教育活動やキャリア教育、探究の時間が有機的につながりにくい。

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★そこで、大学入試問題を素材に、有る仕掛けを埋め込んだPBL型授業にすると、グローバル教育やSTEAM教育のエッセンスを教科の授業の中で実施できることをシェアしていく。

★それは、ハーバード大学のマズール教授の授業からヒントを得たPILとハーバードのアクティブラーニングプロジェクトチームが実施しているアクティブラーニングタイプ、そして21世紀型教育機構の標準「思考コード」を結合するワークショップによって行う。

★PILは、福原氏が(私も思考過程デザインのところで少し協働した)作成したPILアプリを活用することで、一見知識の問題が、広く深い思考のプロセスを生みだしていることを可視化し、その過程で、生徒が成長する手ごたえを感じるアクティビティになる。

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★知識問題を、まず解いて、解き終わったら、解説するという従来の授業では、知識を憶えるということが前面にでてきて、その背景で思考が働いていることが見えない。そのため、多くの生徒が短絡的に暗記してしまうというのが今までの授業だった。

★ところが、知識問題の中には、その背景の思考過程こそがポイントになっている入試問題が今ままでも出題されている。ただ、そのような問題も知識問題のカテゴリーに入れられ、その思考過程を生徒がシェアすることがなかなかできなかった。

★それがPILによって、その思考過程が知識を憶えるというより、知識を動員するダイナミクスを生み出すメカニズムであることを実感できるようになる。この知識と思考の関係をICTを介することによって明らかにすることこそSTEAM教育の基礎の基礎である。

★また、小論文で、中にはIBのTOK型の問題が出題される場合がある。その問題をPBLデザインで考えていくことによって、実はグローバル教育の基礎に行き着くことをやはりワークショップでシェアしていく。

★大学入試問題の中には、意識しているのかしていないのかわからないが、PIL型問題や哲学的な問題がたくさん出題されている。それを解くことが目的ではなく、その素材を通して、グローバル教育やSTEAM教育の思考のメカニズムを生徒自らがデイザインできるようになっていくことが本来の目的である。

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★これによって、留学や高大連携のSTEAMプログラムを行う際の土台ができる。また、今もこれからの大学入試問題を突破する力もパワフルにできる。PBLが大学入試を突破する知識と思考のシステムをつくり、同時に未来を創る知のメカニズムも創ってしまうということを先生方と共に創ってきた実践を、今回の研修でシェアしていきたい。

★とにかく、PILアプリとアクティブラーニングタイプのロゴと思考コードというPBL授業デザインツールによって、21世紀型の授業が割と簡単んに組み立てられるようになったのである。

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2019年7月23日 (火)

工学院大学附属の校長平方邦行先生との対話

★学校が夏休みに入るこの時期、先生方は猛烈に忙しい。夏期講習や外部の研修会に参加したり、ファシリテーターの役割を演じたり、講演をしたりしているからだ。そんな中でも工学院の校長平方邦行先生は、文科省の教育改革関連のワーキンググループのメンバーだし、日本私立中高連合会の理事でもあるし、東京私立中高協会の副会長でもあるから、会議や講演が目白押しだ。そして、日本全国各地を飛び回る。

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(4月の21世紀型教育機構の定例会で)

★そんなわけだから、互いのスケジュールを照らし合わすと、昨日の夕刻しかミーティングができきないということになり、急遽情報交換・共有することになった。平方先生の話の次元は、国家レベルの話、私立学校の教育の質向上の話、工学院の詳細な教育メカニズム創出の話と多岐に渡る。ついていくのがたいへんだ。

★国家レベルの話で、今現在、喫緊の課題は、各種英語民間試験団体(現在6団体)がそれぞれ「検定大学入試英語成績提供システム」をどのように利用するのかその実施方法の詰めの議論のようだ。

★話に耳を傾けていると、平方先生をはじめとする私学側からのメンバーの発想は、常に原点に立ち還りながら、一貫した実施方法を求めるのに対し、多くの見識者は、法実証主義者だから、法律に定まっていないことは、検討過程の中で変わるのは、当然だという立場のようだ。

★だから、新聞発表で、大学入試改革がなし崩しになっているように映るわけだ。もっとも、そう映るのは、どちらかというと、自然法論的立場で、法実証主義的な立場では、現状に合わせて変更があっただけだとみなす。

★現状の法治国家としての日本の立場は、法実証主義だから、私立学校の魂は、普遍主義で尊重はするが、自然法論の立場を採用することはない。それは、東大初綜理に就任した加藤弘之が、自然法論的立場を捨て、法実証主義的立場に転向した時から変わっていない。加藤弘之のグループメンバーは、法典論争で、フランス的な自然法論的立場を退け、法律進化論を採用していたから、富国強兵・殖産興業を推し進める理念とそれをがっちり守る法律論は、そのとき完成し、基本今も変わっていない。

★しかし、第二次世界大戦後、憲法や戦後教育基本法には、理念上自然法論的な立場が盛り込まれたが、それは、すぐに改正しようという動きになっていった。2006年12月に、教育基本法は改正されたわけだが、実質改正された理念が現実的だったわけで、それが条文として成就しただけだ。

★国家レベルの話と私立学校の今後の行方の話は、複雑に交差する。そのため、整理しながら聞いていくキャパがないのでこちらは苦労する。しかし、それだけ、重大問題が歴史を貫いていて、そこで平方先生は闘っている。

★同時に、学校の経営に対するビジョンと実践も行い、学内の先生方と議論しながら進めてもいる。昨日も新宿キャンパスと八王子子キャンパスとを往復して説明会を実施していた。

★その経営を考える時、平方先生は、教育内容の中核部分である授業のイノベーションを実現している。田中歩教務主任をはじめとする校務メンバーとブレストしながら進めているが、たとえば、終業式の時には、瞬間的ではあるが、平方流儀の授業を味付けする。

★先日は、「おーいお茶俳句大賞」を受賞した生徒を讃え、その受賞できる言語のメカニズムについて、生徒に問いかけたという。ある川柳を一句提示し、これをどう読み取るのか?を問いかけたという。

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★その話を整理すると、その句の解釈のタイプは上記のような4タイプにわけられていた。結局は解釈という言語理解は、置き換えたときの情報の量と質。一般には、ただ事実をそのまま再現する置換だけではなく、その背景にある情報を結びつけて語ると深みを感じるわけであるが、それだけでは、受賞できない。何か思いもよらない異質のものに結びつける変形次元の置換が必要だと平方先生は語る。やはりサプライズは重要だ。

★そして、人間的魅力は、この変形置換という、何か常識的な殻や自分自身の殻を打ち砕くアイデア力にあるというのだ。教科の授業の中で、これは可能であり、ダイレクトに単元の知識を学ぶだけではなく、その単元の知識の関連情報をどう扱うかで、インダイレクトではあるが、殻を破るエネルギーを生み出すコンピテンシーを育むことはできると。それがPBLなのだと。

★今、チーム田中のメンバー先生方とときどき対話して、何か迫力を感じるわけだが、その理由は、こういうことだったのかと気づいた。対話は、最終的には、チーム田中のメンバー先生方の授業リサーチのシートを見ながら、工学院の授業論になっていった。

★彫刻家でもある平方先生にとって、工学院の授業はトルソーである。その全貌を補っていくと、私立学校の教育のカタチ、そして国家レベル、世界レベルの教育のカタチが見えてくるということのようだ。デビッド・ボームではないが、≪対話≫の一貫性とはまさにこのことではないかと感動したのであった。

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2019年7月22日 (月)

どうして日本の教育は変わらないのか。希望はあるのか?

★日本の教育がなかなか変わらないのは、文科省も学校現場も、何より教育ジャーナリストも、保護者も、わかりやすさという名のもとで、難しいことを説明することを無視しているからだ。難しいこととは、授業の中で、生徒が感性や知性を生成し、成長していく過程のメカニズムだ。

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★そこをわかりやすく説明してとばかり言って、自分たちは省略という編集をしてしまう。

★いつまでたっても、本質に行き着かない。

★本質とは、何か魂や本物のイデアみたいなものだと思って、熱くそのことを語る。それが教育を変えることだと思っている。

★しかし、それは本質ではなく、本質の入れ物だったり、名づけだったりする。

★問題は、その魂の容器の中にある世界生成の過程のメカニズムだ。授業の手順ではない。その手順の中に埋め込まれているメカニズムの解明なのだ。

★そして、日本の教育が変わるには、これをアップデートする教育イノベーションが必要なのだ。

★ほとんどのわかりやすさは、気やすめだったり、重要な事柄に対する無関心だったり、その場限りの安心安全欲求だったりする。

★しかし、その知性と感性が生成される授業のメカニズムについて対話できる先生や実は経営者が出現してきてもいる。このことに気づいている教育ジャーナリストも中にはちゃんといる。

★日本の教育が変われば、社会も変わる、世界も変わる。希望はこれからだ。

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富士見丘(了)思考力と英語力とディーべート力を牽引する模擬国連部の存在

★中学説明会と同時開催で部活体験もあった。その中で世界につながる模擬国連部に立ち寄った。開設されて4年目だが、部員の数も充実し、英語のレベルも相当なものになっていた。1期生から、ロンドン・キングズ・カレッジなど多くの海外大学に飛び立っている。

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★この部活の顧問は、ネイティブスピーカーの教師2名と日本人教師2名。オールイングリッシュで展開していく部活。顧問の1人英語科教諭の田中先生は、メンバーの活躍が半端ではないことをぜひ見て欲しいと笑顔で語りかけてくれる。いつもは、控えめで自ら何かをアピールすることはないのに、これほど模擬国連部のメンバーの活躍を誇りに思ているというのだから、相当なものなのだ。そのことは、8月4日のプレゼンテーションを取材に行ったときにわかるだろうから、またご報告したい。

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★富士見丘の英語教育が破格なのは、そもそも理事長・校長吉田晋先生が海外大学に留学体験をしていて、自ら英語を流ちょうに話しながら、国際交流のコーディネートを長年してきたことによる。つまり、世界からみた英語教育なのだ。

★そして、さらにすごいのが、理事長補佐・校長補佐の吉田成利先生は、ロンドン・キングズ・カレッジやシカゴ大学で法律を学び、Ph.D.を取得している。つまり、日本では珍しい法学博士として若き新鋭の学者である。

★明海大学で准教授に就任していて、文科省の国際教育プログラム関連のワーキンググループのメンバーでもある。

★その吉田成利先生が、富士見丘の若手教師と頻繁に対話し勇気づけGrowth Mindsetをしているわけだが、同じように模擬国連部のメンバーも田中先生をはじめとする顧問の先生方と協力して思い切りサポートしている。

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★そもそも模擬国連部は、ユースプログラムとして世界各国の学校で展開されている。やがては、世界の模擬国連部のメンバーが集結して国際サミットを開く可能性もある。

★というのは、このような活動は、生徒自身が想いを高めることと、結局は教師がコーディネートする意欲と英語のスキルがあるかにかかっているからだ。富士見丘の模擬国連部は、それらの条件がすべて揃っている。

★それにしても、吉田成利先生が、今日は日本の国政にとって大事な日だが、何の日かわかると質問したとき、参議院選挙の話ですねと英語で対話していたシーンはさすがだった。そこは憲法学者でもあるから、成利先生は、今回の選挙の意義と実態の問題を考えることは模擬国連部にとっても大切な事柄であることを、もちろん英語で語っていた。

★理事長・校長、理事長補佐・校長補佐が、英語を流ちょうに話し、世界問題についてまで英語で対話したりディベートしたりしている学校は日本ではそうないだろう。しかも、そこに生徒も参加し、英語で議論している様子が、すっかり当たり前になっているのだ。

★常にSurfase Tabletを持って、調べ、整理し、構想を書き込み、グーグルドライブで共有しながら協働編集していく模擬国連部の21世紀型スキルを駆使している学びの姿は、今や富士見丘のスーパーロールモデル。

★しかも、このスーパーロールモデルは、世界標準なのだ。富士見丘の口コミ評判が広がるはずである。

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富士見丘(4) 富士見丘の感動の帰国生事情

★富士見丘は中学説明会と同時開催で帰国生対象説明会も実施。昨年に比べ、ここでも参加者は増えた。説明会場の容積は昨年までの倍だった。同時開催だったので、分身の術が使えなかったのが残念であったが、こちらに立ち寄ったとき、ちょうど富士見丘生のプレゼンが終わるところだった。

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★話の内容はわからなかったが、参加した帰国生と母親父親が目を交わしながら「いいね」と語っている雰囲気が広がっていた。やはり、富士見丘生のプレゼン力は、世界に導く力を持っているのは、ここでも明らかだった。

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★富士見丘生のスピーチの直後、すっーと、理事長・校長の吉田晋先生が、中学説明会会場から移動してきて現れた。富士見丘を選択する帰国生は多いので、吉田先生は、彼女たちの悩みも熟知している。帰国生の中には英語は得意だが、極端に国語ができない生徒もいる。日本に帰ってきて他の学校にいたけれど、帰国生の海外での生活環境を尊重してもらえず、郷に入れば郷に従えとばかり、抑圧されて傷ついて、富士見丘の存在を知って、高校から入学してくる帰国生もいる。

★少人数制教育の強みで、1人ひとりの悩みに寄り添うサポートがなされている実態を語った。ここでも、不安とそれを解決する希望をシェアする共感的コミュニケーションが参加者の心に響いた。

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★そして、おもむろに一通の手紙を広げて読み始めた。その内容は、感動的だった。昨年ブリティッシュコロンビア大学に進学したOGからの手紙だった。日本の大学とは進学時期がズレているので、連絡が遅くなったことを詫び、どんなに富士見丘での高校生活がハッピーだったか綴られていた。

★実は、中学で傷ついていて、救いを求めるように高校から富士見丘に入学した。すると、そんな自分を全力でサポートしてくれた。そのことに対し、深く感謝しているという気持ちが綴られていた。

★いったい何があったのか?それはアメリカから帰国してある中学に編入したら、英語ができることがコンプレックスになってしまうほど、奇異な目で見られ、ひどいことも言われたらしい。それで、人前で英語を使わないようにし、英語もわざわざ下手に話さざるを得ないところまで追い込まれたという。

★富士見丘が帰国生の海外での経験を尊重しているという評判を聞いて、高校入試でチャンレンジしたが、入学したら、英語を流ちょうに活用する仲間がたくさんいたし、英語のレベルを上げようと努力することがあたり前の文化ができていて、驚いたと。先生方も一対一で頻繁に対話に応じてくれたと。

★ここなら、自分はやっていけるかもしれないとかつての自分をとり戻すことができたが、それだけではなく、模擬国連部の活動、短期留学、SGH甲子園、シンガポールでの国際大会など、自分の力をもっと高める学びの環境があったし、狭い視野の自分を乗り越えて、もっともっと大きくなりたいという意欲を燃やすことができたという。

★参加した帰国生と保護者に共鳴共振共感が響き渡ったのは言うまでもない。

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富士見丘(3)生徒の情熱的なプレゼンのスキルが凄い!参加者を世界に巻き込む勢いが止まらない。

★中学説明会で、先生方のプレゼン力にも驚いたが、2人の中3の生徒のプレゼンは、情熱的でスキルも高度。参加者は、彼女たちの世界にどんどん巻き込まれていった。

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★中学3年間の富士見丘での体験をコンパクトにまとめながら、カンペもみないで自由に話している情熱と賢さは、それだけで感動するが、伝統的にSGH甲子園のプレゼンテーションで先輩たちが優勝している姿は、2人の生徒にも重なった。

★ここに、一握りの生徒がたまたま優秀なのではなく、生徒全員がアクティブラーニングを通して小論文とプレゼンは当たり前になっていることがすぐに了解できた。

★教師と生徒の距離が近い関係や、大切な友情を育む多様なコラボレーション体験、真剣に取り組む部活の話など、同校の教育力を誇りに思っていることが伝わるプレゼン。そういえば、今回は部活体験も同時開催しているが、テニス部は40人強参加していた。グローバルアスリートが育つ同校のカンバン部活が故に、この集まり方は面目躍如だろう。

★さらに、驚いたのは、富士見丘の学習のメカニズムについても丁寧に説明したことだ。ここは一般的に教師が語るところだろうと先入観をもっていただけに、アクティブラーニングや主体的な探究活動である「5×2」について語ったときには、学び方を学べるアクティブラーニングを実施している成果がでていると感じた。

★中3のオーストラリア修学旅行の話では、海外で気づいたことを参加者と共有しようとクイズも出した。一見簡単そうだが、実は先入観をもちやすい問題で、会場からはあ~とかお~とかどよめきがおきていた。

★参加した受験生も保護者も、すっかり2人の世界に巻き込まれ、手を挙げたり拍手をしたりため息をついたりだった。NHK紅白の若き名アナウンサーノリと言ったらイメージしやすかもしれない。

★そして、やはり気になるのは英語力でしょう。私たちは、準2級を取得していますよと。ただ、中学になるまで、英語はほとんど力を入れていなかったけれど、富士見丘で勉強すれば私たちのようになれると共感的コミュニケーションスキルを活用していた。帰国生も多い富士見丘で、英語については不安もあるだろう。私もそうだったと、共感的な雰囲気を出して、でも大丈夫準2級に飛べるのだよと。

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★保護者は、2人の前にプレゼンした英語科主任の町田先生の話を思い出した。そして、こういうことだったのかと納得したという雰囲気が広がった。町田先生は、CEFR基準で、A2、B1、B2、C1(つまり、英検準2級から英検1級)を取得している生徒は中3の段階で75%。これは、文科省が定めている高校卒業までに、50%の生徒が準2級を取得することを目的にしているレベルを中学段階ではるかに超えていることを示していると語った。そして2018年度の実態調査では、50%どころか、20.5%までしか到達していないということも付け加えた。

★さらにGTECのライティングは、高校生の平均をすでに富士見丘の中学生の平均は超えていることも示した。これは凄いことだ!

★そういう町田先生をはじめとする教育力に対する自信が、2人の中3生の自信と誇りをサポートしているということが伝わったすばらしいプレゼンテーションだった。IB(国際バカロレア)の10の学習者像は有名だが、2人の生徒はその学習者像のロールモデルと言っても過言ではないだろう。

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2019年7月21日 (日)

富士見丘(2)教師の驚きのプレゼンテーションパワー

★富士見丘のキャンパスの雰囲気は、実に明るい。教師も生徒も笑顔が絶えないし、言語能力の高さが光っている。今回の説明会でも、英語科主任の町田先生の柔らかい対話型のプレゼンは、場を本当に一つにした。

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★完全に生徒に話しかける柔らかいフラットな雰囲気の話し方は、共感的なコミュニケーションの雰囲気をパッと広げた。生徒に、英語がペラペラになりたいと思っている人と語りかけると、ハーイといっせいに生徒たちが手をあげた。参加していた保護者からは、こんなに意識の高い生徒が参加していたのかと驚きの声があがった。

★矢継ぎ早に、洋画を字幕なしで見たいと思っている人は?自由自在に英語で文章を書きたいですか?海外留学に行きたいですか?と問いかけた。その都度、生徒たちは手を挙げて反応した。

★もちろん、富士見丘では、すべてが可能なのである。すでに生徒はそれを知っている。良く調べているし、実は口コミで評判を聞いてやってきているのだ。

★町田先生は、そのあと、1つ1つなぜできるようになるのか、詳しく具体的に説明していった。知ってはいたものの、こんなに英語の教育が充実しているのかと改めて嘆息が漏れた。

★しかし、IB(国際バカロレア)の情報を知っている保護者もいて、IBと変わらない程、エッセイライティングが充実していて、その論理的思考力や創造的思考力が、英語という言語領域を超えて、他教科にも転移することは、その保護者にとって予想するのは難くなかった。そして、その発見は、実にお得であることも了解し、一瞬その保護者のいる周辺がざわついた。

★いよいよ富士見丘の教育がいかにすばらしいか理解できる保護者が増えてきたのである。ちなみに、町田先生は学校を超えて教育関連企業から助言を求められるほど魅力的な英語教師なのだと吉田校長は、他流試合でも通用する教師力を誇りに思っていると語った。

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富士見丘(1) 中学説明会 参加者昨年対比160%! 口コミ評判広がる。

★本日21日(日)、富士見丘は中学説明会を開催。参加者は、前年対比160%と激増。中学入試における学校選択が、いよいよ偏差値で選ぶ時代から教育の総合力及び教育の質の高さで選ぶ時代にシフトしたことを示す象徴的な出来事となった。しかも、募集低迷の女子校時代にあって、再び女子校の新しい役割に注目が浴びていることも示唆している。

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★富士見丘理事長・校長の吉田晋先生は、演台は使わず、保護者と同じ高さのフロアーに立って、実にフラットに受験生と保護者に語りかけるように話した。考えてみれば吉田先生は慶応義塾大学出身であるから、このようなスタイルは福沢諭吉に由来するのだろう。

★今の小学生は、アクティブラーニングという言葉を知っているどころか、既に経験している生徒も多い。だから、富士見丘学園がSGHプログラムのみならず、教科の授業でもアクティブラーニングを行っていることの重要性は良く分かっている様子だった。

★富士見丘のアクティブラーニングが浸透しているということは、対話や議論、プレゼンテーションを大事にしているということはわかるよねという吉田先生の問いかけにも、受験生はうなづきながら耳を傾けていた。そして、これによって、深く考える力がつくわけだが、グローバルな時代に、そのことがとても大切だという話にも生徒は反応していた。

★何より受験生が驚いたのは、中学に入ってから本格的に英語を学んだとしても、6年間のうちに帰国生に負けないくらいの英語力を身に着けることができるという話だった。

★ほとんどの受験生が、同校のサイトを見ているから、富士見丘がSGH指定校だということやSDGsの活動が盛んなことや、SGH甲子園で富士見丘生が毎年活躍していることを知っているから、思考力と英語力が、帰国生のみならずそうではない自分も十分チャンレンジ出来るのだと改めて知って母親父親と目を交わしながら、希望を抱いていた。

★保護者も、自分たちが学んできた知識偏重の学びではなく、富士見丘で実施している対話型で発信型の学びが今後重要なことは十分に理解している様子だった。そして、このような学びで、大学合格実績もどんどん伸びている富士見丘はやはり魅力的だと感じているようだった。

★吉田先生も、世界標準の英語力と思考力を身に着けた結果、世界大学ランキング100位内に進学することは可能だし、実際に多くの生徒が海外大学に進学している話を自信をもって話した時、教育の質と結果の相乗効果に納得したという雰囲気が流れた。

★富士見丘のこの破格の世界標準の教育について、受験情報誌がトピックを大々的に立てることは今まではそうなかったが、この大学合格実績の結果は、もはや無視できない状況になってきている。少人数制がゆえに、大量に生徒が受けるわけではないから、偏差値が高くでてくるわけではない。

★それゆえ、今までは高偏差値の学校情報しか受験情報誌は扱うことはなかったが、偏差値の有効性や信頼性、妥当性が、うまくでない偏差値計算の際の母集団の数というのをちょっと考えれば、富士見丘の偏差値は不公平であることがすぐにわかる。

★保護者の中には、世界的視野をもって仕事をしている層も増えてきたし、時代の変化に敏感な賢い保護者も増えてきた。偏差値はある一定の学校群では参考になるが、参考にならない学校もあるのだという判断力がある保護者がいよいよ登場してきたのである。

★もちろん、偏差値至上主義の保護者もまだまだいる。しかし、一方で脱偏差値主義の保護者も多くなってきた。富士見丘は、教育の質をピュアに考える賢い保護者が選ぶ学校なのである。そのことがいよいよ証明される時がやってきたのだ。

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工学院のPBL アクティビティというメタ経験の意味 経験が生成する「X」なるもののヒント

★工学院のPBL授業は、かなり高密度。50分という限られた時間にコンパクトに知識と思考と感情というつながりを知のシステムとして展開しているからだ。

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★しかも、この知識と思考と感情のつながりをアクティビティというメタ経験に包み込むから、授業としてはしなやかで人間的だ。最近のICTやいつも同じ道具を活用したPBLは、かなり合理的で画一的で、教師主導の機械モデルの授業が目立つ。それは、主体が生徒の対話ではなく、ICTや道具の活用が前面に出ているからだ。

★デカルト的合理的精神が、21世紀型教育という名の下で、忍び寄っているわけだ。こういうのをフェイク21世紀型教育というわけだが、工学院の真正21世紀型教育は、合理的な部分と野生の思考という側面の両方がマインドセットされていて、レヴィ=ストロースのいう「野生の思考」の精神がベースになっている。

★たとえば、ベッキー先生のサイエンスの授業は、人間は太陽からどのくらいの量のエネルギーを注がれているのかを証明するのがテーマだったが、PBL授業の中に≪Learning by making≫というアクティビティが展開されていた。

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★太陽光ロウトを作るのだが、それは、画用紙とアルミホイルで作っていく。キッチンにあるあり合せの材料と道具でつくるブリコラージュという野生の思考の方法である。

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★これをグループワークで行うことによって、短時間ではあるが、創意工夫の編集会議や順序付け、重みづけが対話される。そして、素材を分解し、太陽光ロートという制作物に統合していく。出来上がったら、実際に太陽光を集めてデータをとる。水温の変化データを収集するのだ。収集後、データを分析し、最終的にはエネルギー量を関数式で求める。その過程で大事なことは、実測データだから、怪しいデータは削除したり、不足分は実験をやり直したりして挿入したりするという過程だ。もっとも時間が足りないから、そこは他のクラスのデータで補っていた。

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★しかし、こんなことは予め細かく手順が示されているわけではない。≪Learning by making≫というアクティビティというメタ経験を実行しながら、生徒たちが気づいていくことなのである。まして、英語で行われているから、どうしても言語的にもメタ認知を発動せざるを得ないという仕掛けも複合されている。

★工学院のPBLをアクティビティというアプローチで分析をし、思考コードで全体を俯瞰するスクライビング研修をプロジェクトチームのメンバーがしているわけであるが、二学期以降は、アクティビティというメタ経験の重要性がより鮮明に浮き出てくるだろう。

★ベッキー先生の今回のアクティビティを通して、生徒は何を学んでいるかというと、もちろんダイレクトには太陽と人間の間で享受されるエネルギー計算であるが、インダイレクトには、①分解と統合 ②削除と挿入 ③順序付け ④重みづけ ➄変形という5つのメタ経験である。

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★太陽光をエネルギー量に置き換えるつまり変形する過程が、今回のアクティビティというメタ経験の再重要ポイントだったわけであるが、この5つのメタ経験こそネルソン・グッドマンの世界制作のポイントである。

★工学院の先生方が使う30種類以上のアクティビティが、すべてこの5つの世界制作スキルをメタ経験できるわけではない。むしろ、それぞれのアクティビティが得意としている世界制作スキルのメタ経験がある。だから組み合わせるわけである。

★ただ、こうして先生方の授業をリフレクションしていくと、≪Learning by making≫というアクティビティは、世界制作スキルすべてをメタ経験できるということなのである。それを改めて感じた。

★工学院の中学のPBLの授業はすべて最終的には≪Learning by making≫になっているのはそういう理由があったわけだ。どうりで、生徒1人ひとりが他流試合で大活躍をしているはずである。

★それにしても、一時間という授業で、ネルソン・グッドマンの世界を制覇するとは!グッドマンは科学者・数学者・芸術哲学者である。STEAM教育や新学習指導要領ででてくる「探究」というアクティビティの行き着くビジョンの1つである。

★これからのSTEAM教育や探究は、言うまでもなく、教師は文系と理系を統合した視野を有していなければならないが、それは難しい。しかし、ファシリテータとして、アクティビティのマインドセットをすることは可能だ。

★もちろん、グッドマンがすべてではない。たとえば、5つめの変形という世界制作スキルは、ポアンカレ予測というトポロジーの法則と密接な関係を有している。そして、このトポロジカル(とノーベル財団は表現するのだが)な変形という世界制作スキルこそ、ノーベル物理学賞やノーベル化学賞を受賞するサイエンティストの重要な世界制作スキルなのである。

★PBLの中に織り込まれているアクティビティというメタ経験が生徒の学びの「X」なるものを生成するのだが、その一つがこの世界制作スキルの可視化と暗黙知化の往復だったのである。IB(国際バカロレア)の優れているところは、教科学習とTOKのようなコア学習が有機的につながっていることなのだが、それは≪世界制作スキル≫が共有されているからだ。

★ところが、今の日本の教育では、教科は教科、探究は探究というのが本当のところだろう。もっと単純な置換をすると、教科は知識、探究は作業。せめて、探究にでも≪世界制作スキル≫をメタ経験するアクティビティが入っていればよいのであるが、たいていは、作業という合目的なパッケージが入っているだけである。

★ところが、工学院は教科学習でも探究学習でも、≪世界制作スキル≫をメタ経験するアクティビティが織り込まれている。しかも、IBより優れているところは、そのアクティビティが多様であるから、生徒1人ひとりの可能性を開く機会が多いということだ。

★IBでは、≪世界制作スキル≫をメタ経験するアクティビティは、エッセイライティングにすべて集約されてしまう。これについては、IB候補校水都国際の太田教頭は見抜いていて、そこを工学院的21世紀型教育で補強しようとしている。何せ太田教頭は、2年前まで工学院の中学部教務主任で、高等部教務主任の田中歩先生とスクライビング研修を実践していたわけであるから。

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★日本の教育の未来において、IBも超えて新しい教育を生み出す可能性の1つは、工学院にあるのかもしれない。それゆえ、昨年末News Picksは鋭くそれを見抜いて取材記事にしたのであろう。

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2019年7月20日 (土)

工学院のPBL アクティビティと思考コードの知のシステムの共有

★これまで、工学院は、PBLを思考コードと思考スキルの組み合わせで構築してきたし、問いの種類を思考コードに合わせて授業のシークエンスにどう配置するかを追究してきた。これは、今も変わらないのだが、そのシークエンスの流れで様々なアクティビティが使われているので、むしろアクティビティと思考コードでPBLのデザインを作成してはどうかというアプローチにシフトした。

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(ディスカッションというアクティビティ)

★PBLと言えば、ディスカッションというアクティビティが展開されるし、これは極めて重要な生徒の言語と思考と感性の知のシステムがトレーニングされる行為である。

★しかし、四六時中ディスカッションを行っているわけではない。知識の背景を広げるときには、ペアワークによる相互通行的な情報交換が最適である。

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(ペアワークというアクティビティ)

★ブレストしたり、多面的なアプローチをしたりするときは、ディスカッションが有効だが、知識のデフォルトネットワークを掘り起こすのは、ペアワークというアクティビティが最適だ。

★また、ゲームというアクティビティは、創意工夫によっては≪Hard Fun≫になる。

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(クイズレットというゲームも人気のアクティビティ)

★授業の最後に、クイックライトというエッセイライティングのアクティビティも効果的だ。これはDo Nowというルーチンアクティビティになっている場合、相当効果がある。授業の最後は、エッセイを限られた時間で創作するというマインドセットが常にできているというのは、思考する姿勢を習慣づける。

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(田中歩先生の英語のPBL授業のフィナーレは、クイックライトというエッセイライティングのアクティビティ)

★このように、工学院では、一時間のPBL授業の中に幾つかアクティビティを織り込んでいく。ルーチンとしてのアクティビティとサプライズとしてのアクティビティ。アクティビティはもともと遊びの要素も含めているから、非真面目と真面目のバランスでできている。さらにシークエンスがルーチンとサプライズのアクティビティを組み合わせるから、ワクワクドキドキ好奇心や興味関心がその都度新しく湧いてくる仕掛けになっている。

★そして、そのアクティビティが、思考コードの9つのキーをできるだけ多く使おうとするから、アクティビティ自体に思考の広がりや深さが付加価値としてくっついている。

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(プレゼンテーションというアクティビティ)

★アクティビティという行為は、実は問いの深さをはじめから含んでいる。そして、問いは思考スキルによって生まれるから、思考スキルの分析を研修で必ずしもする必要がない。

★スクライビングで、どんなアクティビティを活用しているのか分析していくと、おもしろいのは、レゴや思考スキルマップなどを活用するのとは違って、思いもよらない目的が広がる。道具というのは目的がはっきりしているから、使い方によっては硬いPBLになる。

★ところが、アクティビティは、非真面目と真面目の合力だから、真面目としての当初の目的を超えて、生徒にとって、自分なりの目的が見えてくる。それこそが、生徒にとって未来や世界に立ち臨む自分のプロジェクトとなる。

★工学院のように、多くの授業で、このようなアクティビティ(工学院の先生方は30種類くらいの中から取捨選択している)を意識(しかもルーチンとサプライズのコンビネーション)したPBLをデザインすると、感性や思考の広がりと深さがでてくる。生徒も楽しく思考に取り組むことができる。1時間があっという間に過ぎてしまう。

★もちろん、思考スキルは最終的には必要だ。特に大学入試のような試験においては、アクティビティができないわけだから、思考スキルを自在に使えるようになっていることは大切なのであるが、中学から高1までの授業は、アクティビティ重視でよい。

★実はアクティビティとは、ミニ経験と置き換えることができる。経験とは、自問自答とかセルフリフレクションを伴い、そこに思考スキルが自然と浮き出てくる。この経験の積み重ねの後に、思考スキルを可視化してシェアすることの方が戦略的には効果的である。

★そんなことを工学院の先生方とのスクライビングで気づいたのは、研修時のファシリテーターをはやくも新海先生が挑戦してくれたからだ。その姿をメタ的に観察することによって、気づけたのである。思い切ってそういうことを挑戦するように仕掛ける田中歩先生の組織開発の手法はなかなかおもしろい。

 

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いまここで 世界を変える教師の存在×未来を創るジェネレーター との対話

★ここ1週間、足を心臓より上に置いて、寝ては起きて、車と電車で移動し、学校の先生方とプロジェクトチームのワークショップを行いつつ、あとはメールと電話でやりとりしながら、なんとかやっている。高尾の山も京都の山も良く行けたなあと自分なりに驚いているのだが、持病との合併症で、複雑な様相になってきた。

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★自分の娘より若い先生方と対話しながら、普段の授業におけるミニPBLの知識×思考の知のシステム作りをしているのが私のミッション。娘のプロジェクトは世界を変えるリサーチアートプロジェクトで、立ち上がり当初は、よく対話をしてよと言われたが、今はもう彼女は彼女のネットワークを広げて、世界を飛び回りながら、日本に帰ってきたときに、対話というより、いろいろ世界の動きを教えてくれる。

★そのような動きは、先生方も同じだ。いろいろなおもしろい創意工夫を教えてくれる。≪世界の変え方≫をオリジナリティの高い方法論に昇華しているし、結果世界標準になっている。私からのフィードバックは、世界標準の事例と<置き換え>て、そのすてきなレベルであることを共有するぐらいだ。

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★こうして、どんどん大きくなって自己変容を起こしている40代前後の先生方と対話するのは、実に楽しいが、そのプロジェクトがいつのまにか続き、今度は若い先生方がそのプロジェクトメンバーになっている。40代前後の先生方はスーパーバイザーになり、いっしょにやるのだが、学校という就業規則や授業の数というのがあって、パラレルワークがなかなかできない。そして授業リサーチも、いっしょにできるほど、自由がない。

★そこで、スーパーバイザーと仲間との媒介役と授業リサーチを、本間さんそこはまだやってねと頼まれる。もちろん、喜んでなのだが、どうせやるのなら、私の方も道具だては、新しくしようとか、従来の道具でも組み合わせを変えようとかしたくなるし、本来性に立ち還りながら現代化するから、時一刻と変わる情報を統合もするので、プロジェクトチームのワークショップは、アップデートしてしまう。

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★そうすると、スーパーバイザーーの先生方はもっともっとこうしようと対話が創造的になる。

★今、ミニPBLの中に、哲学としてのSTEAM教育とICTを活用したPILをどう埋め込むかにチャレンジしている。この夏、GLICC代表鈴木社長とFlipSilverliningの福原社長の協力を得て、なんとか出来上がりそうだ。福原氏とは、実際にワークショップをコラボし先生方と共有する機会が、この夏ちょうどある。9月1日の「第3回静岡国際シンポジウム」でも少しお披露目できるかどうかチャレンジしてみたい。鈴木氏とのコラボの成果は、すでに本になっていて、同シンポジウムで紹介もあるだろう。

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★自分の身体の自由がきかない状態になると、ふとこの先生方とのワールド・プロジェクトをきちんと形にして、広げなければならないと緊迫感が増してくる。そこで、今自分がどのくらいの先生方と<対話>しているのか整理してみた。

★今、23校(学校と団体合わせて)のプロジェクトチームと月1,2回創発会議やワークショップ、授業リサーチを行いながら≪対話≫している。三カ月に一度とか年に一度毎年という学校は、5校くらいだが、それでも、全体として、この数はハードかもしれない。年間≪対話≫させていただく先生方の延べ人数は1935人。

★会って打ち合わせしようという数は含まれていない。1対1とかグループできちんと創発的≪対話≫を行う先生方の数である。

★これは、結構多い。なんとかしなくてはとますます緊迫してきた。

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★ただ、人口論的経済成長に基づいたマーケティングは一切しないので、ビジネスとしてはたぶんだれも興味をもたない。私も内省的経済成長論という近代資本主義が最初の段階で考案していたもうひとつの経済システムを理想としているから、共感共鳴できるビジネスパートナーは少なすぎる。

★なんとか先生方がパラレルワークができるよういになれないのか、そうすれば、ここは世界を変える突破口になる。何せ、この活動はブリコラージュ的手法だから、パッケージやマニュアルがない。先生方1人ひとりの暗黙知を形式知化し、さらに世界標準の鏡に照らしながら、独自のソフトパワーを生み出すのがミッションである。

★このようなミッションは、私立学校の教師には実に適したものだが、国公立の場合は、パラレルワーク(講演料程度はありなのだろうが)は結びつけることは難しい。

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★その模索はもちろん、2つの種類で始まっている。1つは心ある世界を変える教師のチーム。もう一つは心ある未来を創るジェネレーターチーム。幸い、Z世代の中高生との出会いもあったし、そのような情報を知っている日本とイギリスを拠点に活動しているライターとの出会いも、氏が大学時代から≪対話≫していて、それが今も続いている。まだまだ、老兵と言えども、情報収集に衰えはない。とはいえ、私のキャパの問題もあるが。

★自分の身体があと3年もってくれれば、何とか入口までは先生方や仲間とたどりつけると思う。その後は、もうみんな飛んでいって欲しい。私は、そのときには、山にこもり、また別の人生を歩んでいるだろう。十牛図の十番目に到達出来たら幸いだと思っている。

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【未来を創る学校24】富士見丘 注目度あがる PBL=グローバル教育

明日21日(日)、富士見丘学園では、中学説明会、帰国生入試の説明会、英語と思考力入試体験、中学・高校の部活体験などの教育体験会が開催される。理事長補佐・校長補佐の吉田成利先生によると、参加者申し込みが昨年より増える見込みだという。

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★少人数制の質の高い授業。また少人数制だからSGH(スーパーグローバルハイスクール認定校)のプログラムを全員が取り組むことができる。多くの生徒がCEFR基準でB2(英検準1級)に到達するほどのグローバル教育が、このSGHプログラムとシナジー効果を生みだしている。

★CEFR基準でC1に到達する生徒も出てきて、模擬国連部に集結してもいる。そこから世界大学ランキング100位以内の大学にも進学するし、上智や立教などにもたくさん進学する。

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(写真は、すべて同校サイトから)

★SGH甲子園のプレゼンテーション部門で毎年のように優勝している。SGHプログラムでは、最終的には、シンガポールやマレーシア、台湾でフィールドワークやインタビューをして、現地の高校生と世界の問題を発見し、創造的課題解決する。

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(シンガポールでインタビュー)

★SGH認定校の条件として、英語はB2到達、授業はPBLということになっている。しかし、このg体験をして、学びの方法に目覚めた生徒たちは、普段音授業でもPBLを希望し、学校全体がプロジェクトベースの学びが拡充している。

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(君の名はの場所で。日本の文化を探究するフィールドワークで)

★先生方は、生徒との距離が極めて近く、生徒のニーズにきちんと対応している。

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★対話や議論のない授業は、信じられないと生徒も語る。そんな教師の質が、SNSで世界に広がっている。口コミ評判作りは、富士見丘の生徒自身が広めている可能性がある。そういう意味でも、生徒にとっては、自分の学びの環境を教師と一緒に作っていけるモチベーションが高まる環境なのである。

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2019年7月19日 (金)

【未来を創る学校23】ノートルダム女学院 世界標準の教師チーム

★ノートルダム女学院の常任理事高橋博先生は、理事会、法人事務局、学校法人を巻き込んで、京都に全く新しい教育を創出しようとしている。すでに大阪で2校のカトリック校の改革の成功を収め、いよいよ京都に広げようとしている。

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★高橋先生は、経営組織改革をすると同時に、教育、特に授業の質のアップデートをするべく、ノートルダム女学院中学高等学校のプロジェクトの先生方と学習する組織を推進している。

★同校は、総合の探究の時間のような機会をPBLで展開しているが、普段の授業をすべてミニPBLで行うことはあまりしてこなかった。しかし、そこをミニPBLで展開していったらどうなるのか。

★そこで、プロジェクトメンバーで、ミニPBLの可能性をブレストしていった。一見グラフの知識問題なのだが、そのグラフは、ふだんあまり見ないようなデータがもとになっている場合、暗記した知識が役だたない。

★そういう場合どのようにアプローチするのか。デフォルト・モード・ネットワークにある知識を総動員して、何を調べればわかるのか?何と比較すればわかるのか?グラフの背景にある他のデータは何かがるのか?さらにどんな大きな問題が横たわっているのか?未知の情報を推理する時の問いと、その問いを考察するアクティビティを組み合わせていった。

★知識から始まり、深い洞察が行われ、創造的思考にまで広がっていった。この授業デザインのツールは、ハーバード流儀のアクティビティの20以上の類型と21世紀型教育機構の基本的な「思考コード」を活用していた。高橋博先生は、21世紀型教育機構の副理事長でもあるからだろう。

★ともあれ、見事に知識と思考のシステム思考が可視化されていった。

★≪問い―アクティビティ―思考コード≫という循環が生み出すPBL授業。このメソッドを一気呵成に体得していくノートルダム女学院のプロジェクトチーム。天才教育改革者高橋先生と、視野の広い、それでいて深い<対話>ができる学校。何かが生まれる予感がする。大いに期待したい。

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プロジェクト型学習PBLの根本原理に立ち戻る 思考コードの本来的な意味<世界生成>

★PBL(Project Based Learning)は、今当たり前のように語られ、ICTと結びついて注目を浴びている。このルーツをたどると、3人の思想家に出遭う。ジョン・デューイ(John Dewey、1859年10月20日 - 1952年6月1日)、ジャン・ピアジェ(Jean Piaget, 1896年8月9日 - 1980年9月16日)、クロード・レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss、1908年11月28日 - 2009年10月30日)がそれだ。

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★デューイが少し先輩で、レヴィ=ストロースが少し若いが、3人とも日本も巻き込む近代の世界システムが大きなウネリを生みだした時に立ち会い、当時から今日にかけて世界に影響を与えてきた思想家である。

★デューイは、民主主義社会を学校と市民社会の弁証法で創り上げようとした。そしてその弁証法の媒介項として重要なものが≪対話≫であった。この≪対話≫による思考の環境をすでにPBL的に考案し、実践もしたプラグマティスとである。本人は脱カント、脱ヘーゲルで、道具主義という機能を重視する立場でプラグマティストではないと言っていたらしいが、機能主義とはファンクションという関数を重視するから、今の社会構成主義的な流れを生み出すきっかけになったことは確かだろう。

★ピアジェは、認知の発達理論を構築し、これが今日の認知科学や発達理論に影響を与えていることは多くの見識者が語っているし、パパートとレズニックに引き継がれ、MITメディアラボでICTやレゴと結びつけられたPBLにつながっていることはあまりに有名であり、これもまた構成主義(訳語で構築主義という場合もある)にダイレクトに影響を与えた。

★それに大事なことは、『〈子供〉の誕生』(1960年)を著したフィリップ・アリエスと共に、近代形成期における≪子供≫の発見をしたということでも重要人物である。今でこそ、学校は当たり前であるが、≪学校≫という制度ができるはじまりの時代であり、それゆえ、デューイもピアジェも、≪子供≫は、当時思われていたようなたんに小さな大人とは違い、その存在意義を発見したともいえる。弱者への想い。近代の光と影の内、光の部分に≪子供≫をマインドセットしたのである。

★そして、強烈なのは、レヴィ=ストロースである。構造主義と言われ、これもまた社会的構成主義に合流するが、なんといっても≪未開人≫の新たな発見である。≪未開人≫の≪野生の思考≫は、≪近代の人間≫の≪論理的思考≫と構造上同等だし、むしろそれ以上の≪創造的思考≫を有していたことを世に著した。認知革命として、MI理論を説いているハワード・ガードナー教授が、レヴィ=ストロースを研究していたのは、≪近代の人間≫の捉え方をIQ主義からの解放したいという動機があったからだろう。考えてみればMI理論は、≪野生の思考≫に置き換えられる。

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★この強烈な3人の思想家のものの見方感じ方、そして現代の教育にPBLという形でダイレクトに影響を与えている精神を汲み取り、それを学校のPBL授業の場でシェアしたものが≪思考コード≫である。つまり、これは≪メタルーブリック≫として、PBLにおけるエンパワーメント評価の基準にもなり得るのだが、本来的には≪思考コード≫でなければならない。

★デューイも、ピアジェも、レヴィ=ストロースも、≪想い≫と≪考える≫の両方を兼ね備えた≪思考≫を大切にした。その≪思考≫が生み出すもう一つの近代世界、それは未来につながるのだが、その世界を生み出す3人の発想をわかりやすくシンプルに整理したのが≪思考コード≫である。

★端的に言うならば、≪思考コード≫は≪世界≫を生み出す≪媒介項≫なのである。もちろん、世界というのは、近代世界というような大きな世界もあるが、日常の授業という世界、学校という世界、政治経済という世界、大学入試という世界、心の世界など多様である。

★≪思考コード≫の9つのキーが全部そろったとき、そこからは最適最良最善のそれぞれの世界が生み出される。キーが中途半端な場合、そこから生み出される世界は、リスクを回避できないネガティブな要素を抱え込む。PBLという場が必要なのは、ここにおいてはじめて思考コードの9つのキーが全部満たされる学びが行われる可能性が高いからだ。

★現代の学校制度は、デューイが思い描いていた学校ではないし、ピアジェの認知科学が貫徹している学校でもない。まして、レヴィ=ストロースが発見した≪野生の思考≫が生まれる学校でもない。

★だから、今起こっていることは、学校の心ある教師及び生徒と外部の心あるファシリテータやジェネレーターが連携して、PBLの場を創り、≪思考コード≫の9つのキーを満たす取り組みである。随所で、この動きが起こり、9つのキーを満たすコミュニティがたくさんできたなら、そこから未来世界が現れ出でるだろう。

★新タイプの中学入試や大学入試におけるAO入試、中高生の起業活動、HTH(ハイテックハイ)運動、IBのユニバーサル化、21世紀型教育機構の教育研究センターの動き、共感的コミュニケーションの運動などなどは、それぞれ、そのコミュニティの1つであるが、やがて、大きなベクトルとして合流するだろう。それらの中には、レヴィ=ストロースがアランダ族プロジェクトで発見した、それぞれの≪チューリンガ≫としての≪思考コード≫が確かにあるのだから。

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2019年7月18日 (木)

アサンプション国際小学校 ふだんのPBL授業が「5年生自然教室」と有機的に結びついている。

アサンプション国際小学校の「5年生自然教室」の様子がコンパクトに同校サイトに掲載されている。子供の元気な様子、酪農体験に没入している(フロー状態)様子が伝わってくる。

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(写真は同校サイトから)

★そして、自然教室のフローがきちんと掲載されている。実に興味深いのは、事前学習というふだんのPBL授業で、まずは谷川俊太郎さんの「一本の鉛筆のむこうに」という一本の鉛筆から、広がる世界の人とのかかわりを探る本を使い、身近な物が、どれだけ多くの人がかかわっているか、それぞれどんな役割の仕事をしているのかを見出す「視点を変える」学びの構えをつくって自然教室に臨んでいることだ。

★アサンプション国際は、ふだんからPBL授業を行っている。キャンパス内の植物を観察しにいき、それぞれの植物の名称や特性などを調べていき、教室では、植物の分類をするなど理科的なものの見方を身に着けるまでに発展する。

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★その植物に対する生徒たちの気持ちは、自然環境に対する視点にもなるし、物語の情景描写の読み取りのときの想像力を広げるきっかけにもなっている。

★今回、そのようなPBLを一本の鉛筆に応用し、目の前のモノの背景の広がりを探る学びの構えを生徒みんなでシェアした。

★そして、その学びの構えをキャンパスでは見たことのない自然に「適用」したり、酪農体験で「適用」したりした。その体験を通して、新たな気づきや新しい驚きがあっただろう。それをコンセプトマップなどでグループワークしていくことで、体験で気づいたことを概念化するところまで行き着いたということだろう。

★その概念は、SDGsの幾つかのゴールを解決する際に役に立つことを、事後学習でまたPBL授業でまたまた展開していくのだ。

★1本の鉛筆という本の世界から飛び出して、「自然」と「酪農という自然とかかわる社会システム」と「そこにかかわる人間の気持ち」を実際に結びつけて、生徒1人ひとりが、それぞれの興味と関心を新たに抱き、新しいステージで学んでいく成長がみられた体験学習だっただろう。

★アサンプション国際小学校の教育では、授業のPBLと自然や社会におけるPBLがぶどうの木の樹液のように循環している。その循環の意味することが生徒の知性と感性を豊かにしていくことを示唆していることを了解することはもはや難しいことではない。

 

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聖パウロ学園 大久保先生との対話 知識と思考のシステム

★パウロの森の中で、ウグイスの鳴き声を聴きながら、大久保先生と対話した。先生は聖パウロ学園の英語科主任であり同時に研修部部長であるから、教科横断型の視点も有している。同学園は、同じ地域の他の高校と比べると大学への進学率が高いし、少人数のために、対話型のPBL授業が展開して自己肯定感を持てるようになるため、人気がある。

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★しかし、聖パウロ学園の先生方はそれで満足することなく、生徒の隠れた才能をいっしょに開花できるような学びのシステムを追究している。大久保先生も英語のアプローチと教科横断型のアプローチをいかに統合するか、授業実践を通して日々研究している。

★少人数教育というのは、生徒との対話に満ちているために、実に多忙である。そんな中、時間を見つけて、聖パウロ学園の先生方と対話をしているのだが、今回は大久保先生と対話ができた。

★大久保先生は海外の大学院でTESOLの資格を有する研究もしてきたから、暗黙知として世界標準の学びを授業の中で実践している。したがって、今回はその暗黙知を形式知化して可視化することを目的に対話した。

★最初は、未知なる物体Xを「知る」行為をポストイットで整理(オーガナイズ)していった。そして、そのオーガナイズはどのような発展性があるか対話していった。ポストイットは、最初はバラバラだったが、対話の過程でフローチャートになっていった。

★そこで、今度は英単語を生徒と学ぶ行為を、そのフローチャートに沿って対話した。実は、この物体Xを知る行為のフローチャートは、英語科教諭として、生徒と英語を学ぶときの大久保先生の流儀だったし、それは海外で身に着けてきた世界標準の流儀でもあった。その暗黙知を可視化で来た。対話というのは実におもしろい。

★そして、東大の地理の国別のあるグラフの問題を、そのフローチャートに沿って解いていけるのかどうか検証した。できた。

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★これによって、英語でのたとえば、英単語のような知識を格納し、それが想像力や洞察力、創造力に結びつくように、組織化(オーガナイズ)する知識と思考のシステムは、教科を横断して知識を格納して活用したり洞察したり創造したりする行為に置き換えることができる。

★この置き換えは、単純なreplaceというより、metarhesis(メタセシス)という思考スキルを発動することになる。もちろん、そのまま置き換えることができない場合もある。その都度、変容させていけばよい。

★大久保先生は、今後、この知識と思考のシステムを授業の中で試行錯誤しながらサンプルを数多く蓄積していくということだ。いずれどこかで発表することになろう。楽しみにしている。

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学校の授業の空洞化というリスクを回避できるか?

★日本の高校の実態を直視してみると、ちょっと恐ろしい。というのは、学校は、法律で守られているからカタチはあるけれど、もはや教育は自前ではできない状況にある可能性がある。

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★今日の大学入試は複雑で、膨大な入試情報を整理し、抽出し、生徒1人ひとりの学びの状況とマッチングさせることは、もはや学校独自でやることは不可能な状況である。

★学校の先生方も、大手予備校の研修にでて、大学入試問題の解き方を学ぶ。そして、学校に帰ってきて、その解き方を授業で実演していくという20世紀型授業が、今までの20世紀型教育。海外大学も、予備校に頼れば、20世紀型教育で十分に成果は出る。

★だから、国内外の大学合格実績を出すのに、実際には学校独自の授業などないと言ったら叱られるかもしれないが、そういう事態になってしまっているのは否めないだろう。

★外部との連携は大事であるが、外部に丸投げか、外部のプログラムの下請けを結局はやっているのが、20世紀型教育である。

★これだと、偏差値偏重型だし、知識偏重型になるから、生徒1人ひとりが自分の未来を創り上げる力などつかないのは、今の日本の国力の減速を見れば明らかである。

★そこで、21世紀型教育によって、新しい学力や成長の基準を生みだし、それに基づいて論理的思考や創造的思考を生成し、生徒1人ひとりが自分の未来を創ることができる力をトレーニングしようという動きが生まれてきた。もちろん、その自分の未来は、自分というエゴな世界を広げることではない。新しい人間観への価値の転換を伴う。

★ところが、それには、すべての授業がPBL型で行われていなければならない。PBLで行われていけば、それが高2から戦略的PBLに変容するだけで、国内外の大学進学準備教育になる。外部の力と連携するも、下請けにはならない。

★つまり、これはかなり理想的な状態で、ほとんどの21世紀型教育標榜校は、授業はときどきPBLであればよく、国内と海外両方の大学を射程に入れたグローバル大学準備教育を外部に丸投げか、授業が下請けであれば、結局結果は出てしまう。ときどきPBLをやるから、なんとなく新しいこともやるという雰囲気があり、20世紀型教育よりも相対的に知識偏重という雰囲気は回避できる。

★かくして、フェイク21世紀型教育を行っている学校で、実際には、学校の授業は空洞化してしまっていても、外部の力によって大学合格実績を国内外両方で出すことができるのである。

★もし、法律の学校という枠組みが解けてしまったら、自前でできる学校は、真正21世紀型教育推進校しかなく、そのほかの学校は、みな外部団体に飲み込まれてしまう。そうなっていないのは、単純に「規制」があるからだ。

★「規制」がなければ、学校として機能しない状態の中で、多くの生徒が縛られているのである。これでは、日本の国力を回復する才能児が羽ばたけるわけがない。

★「規制」を外して、予備校型学校、海外大学附属型学校、真正21世紀型教育校とはっきりしたほうが、生徒も教育力そのもので学校を選択できるし、才能も開花できるだろう。

★まあ、荒唐無稽な話だが、もしも「規制」を外したら、自分が行きたいと思っている学校がどのタイプに属している学校なのか見えてくるだろうから、論理的仮説として考えてみるのも許されるだろう。

★そうはいっても、いずれにしても、「規制」が成立しなくなる時代はすぐそこまできている。Facebookの≪リブラ≫の話は、今は各国から包囲網を仕掛けられているが、それは一過性で、やがては中央銀行の機能を突破し、そこを中心に積み上げてきたあらゆる規制を崩していくだろう。制度の再構築が起こるのは、多くの見識者が見通していることである。

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2019年7月17日 (水)

【未来を創る学校22】八雲学園 米国からTESOLの資格取得を学ぶ先生方を指導するスーパー教師を招く。

★八雲学園の破格のグローバル教育はもはや説明するまでもないだろう。しかし、近藤理事長・校長は手を緩めることはない。近藤先生は、才能をさらに伸ばすことを大切にしているが、これは生徒に対してだけではない。

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★それは、先生方に対しても要求するのである。もっと自分の得意な分野を深め教師としての世界を広めるのだと。そして、ただ説いているだけではなく、これまた破格の環境を設定する。

★Round Squareに加盟するや、近藤先生は、先生方にも、海外のエスタブリッシュスクールの教師と対等に議論できる力を学んで欲しい考えてきた。RSの国際会議に生徒が参加する時、八雲学園の先生方も当然同伴する。すると、国際会議先で、ただ見守っているだけではなく、やってきた海外の教師もチームに分かれて議論したり、食事時に対話したりする。

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(写真は同校のサイト。現在UCSBで学んでいる3か月留学の最新のシーン)

★教師もまたCEFRレベルでC1以上の英語力が必要だというのである。そのために、どうしたらよいのか?近藤先生は、あるアイデアをだいぶ前から温めていた。3か月留学で生徒が学んでいる間に、同伴した先生方に現地のネットワークを駆使してあるリサーチを依頼していた。

★それは、英語以外の母国語の教師が英語を教える資格を取得するコースで、その先生方を教える教師と会い、3か月ぐらい八雲学園で、英語の教師に英語の教授法を伝授し、英語以外の教科の先生方にもある程度の英語が使えるように指導してもらえないか打診するリサーチだった。

★今年それが実現し、教師の教師が米国からやってきたのである。

★広報部長で中学部長の横山先生の家にホームステイして八雲学園に通い、先生方のトレーニングを行っている。横山先生は、幸運にも横山邸は、すっかりグローバルな環境になっているというのだ。横山先生自身も英語を使うチャレンジをしているということだ。

★私立中学入試の広報部長で、最もグローバル教育の重要性を身に染みて理解しているのは、横山先生ではないかと思えるほど、目を輝かしてホストファミリーとしての役割やステイしている生徒や先生とのやりとりについて語る。

★かくして、八雲学園は、教師も生徒も共に破格のグローバル教育のシステムを創出している。そのシステムは、他校でそう簡単に真似することはできないだろう。

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【未来を創る学校21】文杉、国本、神田女学園、それぞれのダブルディプロマを設定。

★首都圏模試センターのコラムに2校のダブルディプロマコースについての記事が掲載されている。1つは、文化学園大学杉並(以降「文杉」)の「居ながらにして2つの国の教育が受けられる、ダブルディプロマコース」で、もう1つは、「国本女子が来春2020年からダブルディプロマ・プログラムを導入へ!」。(国本女子は以降「国本」と表記)

★文杉はカナダのブリティッシュコロンビア州、国本はカナダのアルバータ州と提携している。すでに文杉の方は提携して5年経っていて、世界大学ランキング100位以内の海外大学や、ICUや上智大学など、著しい合格実績の成果を出している。

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(写真は、首都圏模試サイトから。文杉のDDコースの授業風景。)

★いずれ、首都圏模試センターに取材されると思うが、実は神田女学園でもダブルディプロマプログラムを発表した。こちらは、アイルランドの学校との連携で、アイルランドの高校に約2年間留学すると、神田女学園もアイルランドの高校も両方卒業したことになる。

★文杉がそうであるように、国本も神田女学園も。DDコースやDDプログラムを活用した生徒は、国内外の大学を留学生として受験できる。その結果が凄まじいことは、すでに文杉が証明済みだ。

★特に海外の有名大学への受験準備は、日本国内のように、知識偏重型の学びと違い、リベラルアーツ型で、論理的かつ創造的思考力まで養うことになる。したがって、欧米では、大学準備教育の位置づけは非常にアカデミックな雰囲気で、日本の受験勉強の雰囲気とは全く違う。

★2020年の大学入試改革も、前者の幅広く深い思考力を養う準備と接続することを目的としているが、まだまだ国内の高校の現場の意識が追いついていない。

★文杉や国本、神田女学園のように気づいたところが、先行して進むしか、日本の教育改革は先に進まないというのが現状だ。そういう意味で、このような海外と連携している学校に大いに期待がかかるのである。

 

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【未来の自分を創る中学入試問題01】首都圏模試センターの分析を生かそう!

★「中学入試」と「中学受験」という言葉は、類義語であるが、「中学入試」は「入試を通してキャリアを考える場の機会」という側面が強く、「中学受験」は、「受験生が志望校に合格するために競争に勝ち抜く場の機会」という意味が強いような気がする。「中学入試頑張ろう!」「中学受験頑張ろう!」とはたしかに使う。しかし、「中学受験生がんばれ!」とはよく言うが、「中学入試者がんばれ!」とはあまり使わない。やはり違いはあるようだ。主語が違うということなのではあるが。

★「中学受験」という言葉は、勝ち抜くヒーロー物語として、感動物語がよく語られてきたが、それは涙をのんだ多くの生徒の上に成り立っている。そこをカウンセリングとして、合格した学校が第一志望校なんだよと発想の転換を塾の先生方は熱意と愛をこめて行ってきた。ここにもう一つの大きな感動物語があった。しかしながら、この感動物語に乗れない受験生もいて、メディアを騒然とさせるような悲惨な事件のきかっけになることもある。メディアに載らなくても、ギリギリくるしんでいる中学受験生もいることは否めない。

★だから、そのような受験生の救いの場の大きな役割を果たしているのが、おおたとしまささんや中曽根陽子さんの著作であり講演であろう。

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★そして、実は、「中学受験」という意味に「中学入試」という意味を付加することによって、中学受験の2つの感動物語以外の路線もあるのだということを示す動きを「首都圏模試センター」は追加している。

★それは、一つは、新タイプの中学入試の情報をきちんと集め、この新タイプ入試によって、中学入試の3つめの感動物語があることを取材していることだ。首都圏模試センターが情報を収集整理して発信することで、2020年の大学入試改革とシナジー効果を生みだして、新しい中学入試のウネリを創ったことは確かである。

★それからもう一つは、同センターの教務陣の問題作成の方法と実施結果の分析の方法の大きな転換である。その作成方法や結果分析の方法の基準に「思考コード」と「思考スキル」を開発導入し、それを生徒と共有までしているのである。

★そして、今年になって。「偏差値5を上げる!この1問」という分析を、「統一合判」終了後に掲載している。これもまた知のイノベーションだ。

★今回の国語の「この1問」などは、「誤答率」より「無答率」が多いことがデータで示されている。記述式だからともしかしたら単純に回避してしまった生徒もいるだろう。たしかに「思考コード」は「B2」だから、論理的にタフな問題である。しかし、解答は課題文章の中にきっちり書いてあるから、それを見つけるとよいのだということを丁寧に示している。

★これは、合格するためには、この問題を捨ててもよいが、そういう「中学受験」的な側面よりも、このような論理的にタフな問題も諦めなければ大丈夫だよ、自分の未来を創るには、この「諦めない」気持ちがあるから、タフな論理を複数の思考スキルを組み合わせて考えていけるのだというエールを生徒に贈っている。

★算数もまた実に興味深い。正答率が「32.2%」、誤答率が「56.7%」、無答率が「11.1%」の問題を取り上げている。この問題が出来るようになれば、たしかに他の問題にも応用が利く大事な「思考スキル」を身に着けることができるから、「誤答率」や「無答率」が下がり、「正答率」が上がるがる可能性がある。

★この問題は「思考コード」は、B1だから実はそれほど論理は複雑ではない。それゆえ、「無答率」は低くなっている。要するに「誤答率」が高くなっている。その理由は、問題文の情報整理がきちんと行われていないからだという指摘が、首都圏模試センターの教務陣からなされている。実は、算数や将来の数学の問題文は、いったん情報整理して、箇条書き(フローチャート化ということ)とか図とか表とか、グラフとかに「置き換える」必要がある。もちろん、試験最中は頭の中で行っていかないと時間が足りなくなるから、そこはトレーニングが必要。同サイトの中で、その情報整理の仕方が丁寧に示されている。大いに参考になるだろう。

★理科も算数同様、問題文の情報整理を、足し算引き算で考えるのか、比という関係でとらえるのか、立ち止まって考えてみようとフィードだバックされている。この問題は、すべてトンボの数を数えきれないから、だいたいの推定をするのであるが、この感覚はフェルミ推定と呼ばれるタイプのもので、大学や社会にでたときに、非常に役立つ論理的思考というより創造的思考の一種なのである。このような問題に挑戦すること、そしてたとえ間違ったとしても振り返ることは、もちろん合格への道につながるが、それ以上の大きな収穫があると考えてよいのではないか。

★社会もまた実に興味深い、今回も資料を読むことによって根拠を見出すという思考のプロセスを必要とする問題が取り上げられていた。「無答率」が59.8%であるから、明らかに暗記型の問題以外は回避するという姿勢が社会の勉強では多いようだ。しかし、今回日清戦争と日露戦争の「比較」をして違いが分かれば、その違いについて重なるルールが資料の中にあるから、それを根拠として記述できる問題であることがわかる。

★日清戦争と日露先生に関しては、それぞれ関連情報が知識として整理されて格納されていなければならないが、あとは、目の前の資料とどう結びつけるかということ。この「結びつける」という推論は、記憶に依存するとなかなか飛べない。勇気が必要んである。だから、思い切って間違ってもよいからまずはチャレンジしてみようというエールが贈られているのである。「無答率」より「誤答率」が多くなることの方が、まずは望まれるということなのだ。

★今新しいトレンドとして勢いを増している「新タイプ入試」は、以上のような問題を考える時に使われた「思考スキル」を丁寧に、試験最中にトレーニングしながら思考して解いていく問題が出題される。いきなり上記のような問題を解く前に、情報整理やフェルミ推定の試行錯誤をやてから、本格的思考にチャンレンジするというタイプ。したがって、以上のような思考力を身に着けるには、各学校で実施される新タイプ入試の対策講座に参加してみるのも一つの作戦である。仮に新タイプ入試を受けなくても一度はチャンレジしてみてはどうだろう。新しい気づきがあるかもしれない。

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2019年7月16日 (火)

聖パウロ学園 3つのプロジェクトベースの授業

★聖パウロ学園は、濃密濃厚な高校3年間の教育が実践されている。濃密濃厚な質が生まれているのは、教師と生徒の≪対話≫が多角的に展開しているからである。

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★同学園の主幹小島綾子先生(国語科教諭)によると、学内全体でPBL(Project Based Learning)の授業を展開する動きがでてきて、教師と生徒のみならず、生徒同士が≪対話≫を深めていく機会が増えているということだ。また≪思考コード≫も意識されてきたという。

★ただ、私立中高一貫校と違い、高校3年間で、生徒がそれぞれの道を見出し未来を拓いていくには、6年分の質を、いかに3年間で仕掛けるかということだと。

★自然体験学習や馬術体験など、学園のキャンパス内でできるので、遠出する必要がないために、時間的な短縮は可能だ。しかし、何より、森の中での共同生活や馬との≪対話≫という、なかなか体験できない機会は、他校にない気づきを生み出す可能性がある。

★他にも、ボランティア体験やキャンパス訪問、多様な英語研修体験、サイバー×リアルスペースでの国際交流も盛んだ。野球部、馬術部をはじめ部活も盛んだ。夏期講習などは、同学園に設置されている寮に滞在して、合宿形式で行われている。学びはなかなか厳しいが、協働生活は互いに励まし、厳しさを乗り越えられる。

★小島先生は、多くの経験は、興味や関心への気づきが生まれるが、体験すればだれもが気づきを得るというわけではない。常日頃の生活体験の中で、気づきが生まれる視点を持てる準備をしておくことが必要であると。そして、その多角的な視点は、高1から高2前期までの各教科の授業で行われるPBLによって得られるという。

★しかし、一方で高2の後半からは、興味と関心を広げるだけではなく、それをモチベーションにして進学への道を生徒が自ら開いていけるように、戦略的なPBLを各教科で展開しているという。

★ただし、この戦略的PBLは、今までは担当の教師の暗黙知として行われてきたが、今後は、可視化して、教師同士、教師と生徒で共有できるようにしていきたいと語られた。

★もともと、生徒1人ひとりとの≪対話≫を基調としたキャリア教育としてのPBLは3年間通して大きな流れとしてあり、そこに興味と関心を生み出すPBLと戦略的PBLの流れが合流して大きな勢いを生み出す仕掛けが毎年アップデートしていくという。常に変化を生みだしていくこの行動力は、聖パウロ学園の先生方の気概の真骨頂である。

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2019年7月15日 (月)

公立中高一貫校の衝撃 日本の教育をどこに連れて行くのか。

★公立中高一貫校の意味は、どんどん大きくなっている。2020年大学入試改革の年の卒業生、つまり2021年春の大学合格実績の様相が随分変わる。しかも、その合格実績は、Old Power Schoolの進学準備で出るだけでなく、New Power Schoolの教育によってもでてしまう。

(表1)

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★今までは、入学時で高偏差値の学校は、合格実績も高かったのだが、2021年春以降は、New Power Schoolという偏差値よりも教育のイノベーションで選択される学校の合格実績も高くなっている。もっとも、今ではNew Power Schoolの学校の中から高偏差値校も出てきてしまっているが。

★どんな学校も2030年や2040年の時代の変化に対応するから、完全にOld Power Schoolという学校はない。ただ、傾向としてOld Power Schoolという分類にはいるか、New Power Schoolの分類にはいるかどうかである。いずれにしても、従来の学歴ブランド校が頂点に集中するピラミッド構造は崩れている。

【表2)

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★東京都の中高一貫校のうち、公立中高一貫校の数のシェアは5%で、公立中高一貫校の私立中高一貫校に対する教育力の影響は、東京私学にとってはまだ危機的な意識の段階にはないかもしれない。ところが、京都府では19%シェアで、公立中高一貫校の教育の質が私立中高一貫校に大きな影響を与えているのは、京都府の受験業界も、私立学校当局も実感している。

★この影響を脱するためには、New Power Schoolへの体質改善が必要であることも理解されている。しかし、だからといって、New Power Schoolの動きが京都で広がっているかというと、まだまだ意識の段階で、実行段階はこれからだ。

★そういう意味では、東京はすでにその動きは始まっている。21世紀型教育を推進するNew Power Schoolの中でも、特に三田国際のようにすでにイノベーティブブランド校として、学歴ブランド校の併願校になり、綱引きを始めている学校もでてきているぐらいだ。

★こうしたNew Power Schoolの学校はどんどんふえ、その特徴的な動きは、公立中高一貫校の適性検査型入試を新タイプ入試として実施する勢いになっている。

★この動きは、同時にさらに公立中高一貫校の存在意義を高め、私立の学歴ブランド校の幾つかは、すでにその教育の質でも、大学合格実績でも溝をあけられるようになった。

★この動きは、2021年の中高一貫校のポジショニングを (表1)のように変えてしまう。御三家というような超学歴ブランド校を頂点とするピラミッド階層構造はなくなり、(表1)のような長方形の階層構造になるだろう。だからといって、フラット構造になるとはいえない。

★一般の公立中学が、置いていかれる。教育の階層構造の在り方が変わるだけで、この格差をどうするかはますます重大な問題として浮上してくる。

★しかし、公立中高一貫校が、私立の学歴ブランド校と競り合うことができる存在になることによって、フラット構造への希望は開かれたと認識してもよいかもしれない。

★その未来予想は、大阪市立水都国際中学校・高等学校の生徒の教育活動の様子を見れば明らかである。ここの生徒は、たとえば、開成、麻布、武蔵、桜蔭、雙葉と比べても、グローバル市民のリーダーとして資質や思考力、英語力は引けを取らない。

★学校自体を生徒自らが教師といっしょになって「しなやかでタフな学校」にしていこうと動いている。

★桜蔭や麻布、武蔵が学校の特徴的な教育として骨太の論文制作をしているが、これとても水都国際のTOKベースの授業が、もっと好奇心旺盛で、オープンな精神で、おもしろい探究活動を学校全体に広げている。

★このような学校が、歯が立たない(もっとも競争する必要はまったくないのだが)学歴ブランド校はおそらくJGだけだろう。ただ、水都国際の生徒は、JGのような斜めから見る精神の構えはない。それがよいかどうかわからないが、それが公立学校の所以でもある。たいへん素直な生徒が多い。

★時代が変われば、学校のポジショニングも変わるのは当然だ。それをどう読みとるのか?それは各教育情報シンクタンクの見識によるだろう。いずれにしても、その読みのアプローチに、公立中高一貫校の適性検査と教育の質のアップデートは欠かせない存在になっているのである。

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2019年7月14日 (日)

経験主義の罠を超える。「経験」が生成する「X」なるものを通して、たとえ未経験なことでも、シミュレーションできる。

Newsweek2019年07月12日(金)17時15分の記事「女性、独身、子なしを責められた台湾総統、FBで反撃」は、経験主義の罠を物語っている。まず、記事の一部を引用する。

≪台湾は、総統が女性だったり、アジアで初めて同性婚が法的に認められたりするなど、性別における多様性がアジアの中でもかなり先端を行っているような印象を受ける。しかし総統の蔡英文は、政治の世界に足を踏み入れて以来、女性であることや独身であること、子どもがいないことなどを理由にした個人攻撃を受け続けていることを明らかにした。≫

★蔡氏が、来年1月の再選に向けて総統選へ出馬するのが決まっているが、総統選に新党から出馬する対立候補である楊世光氏が蔡氏に向け「口撃」しているというのだ。

★記事によると、楊氏は蔡氏について、≪「自分の子どもがいない彼女は、次世代について語る資格がない」と話し、「女性」で「独身」であるため、蔡氏が総統であることを自分は認めない、とも発言した≫というのである。

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★おそらく、選挙戦術として、経験しているしないを根拠に、楊氏は蔡氏を追い落とそうとしたのだろうが、経験していないから、経験していないことに対して語る資格がないという言い方は、言論の自由からいっても人権を軽んじた言い方で問題だが、そもそも経験していないから理解ができないという理屈は間違いである。逆に経験したとしても理解できない場合も多い。

★しかし、経験したほうがわかりやすいことも一方で確かだから、ルビンの壺の壺の部分だけデフォルメして攻めているのだろう。

★「経験」はたしかに重要である。しかし、すべての「経験」を人間はする必要がないし、できない経験もある。それゆえ、経験者にインタビューしたり、意見を聞いたり、連携しながら未経験な事柄も補っていけばよいのだが、それとても、経験しなければわからなければ、どんなに未経験のことにつて説明を聞いても理解はできないはずだ。しかし、理解ができてしまうのはなぜか?

★それは、人間の理解は学びによって可能になるからだ。この考え方を全面に押し出し、教育の大きな流れを創ったのが、ピアジェだ。この学びというのは経験による同化(assimilation)と適用(accommodation)の繰り返しのことを示唆する。

★ピアジェとアプローチは違うが、教育的において合流したのが、デューイ。同化と適用の対話的統一というヘーゲリアンウェイを脱構築しながら教育学を構築した。この二人の流れが、パパート→レズニックという流れをくむMITメディアラボにつながっていて、現在世界に大きな影響を与えている学習理論となっている。

★しかし、ここで同化と適用ができるのはなぜかということが、スルーされ続けてきた。対話的統一ってなんだ?というのがスルーされてきた。

★それで、それを「X」なるものとした。この「X」なるものを関数とかコアモデルとか置き換えてみてもよい。それがあるから、未知の体験や経験にも適用できるのだ。そして適用できないときは、別の経験の「y」なるものを融合して、適用していく。

★対話的な統一というのは、一つ一つの経験によって生成された「x」「y」「z」・・・・を「X」なるものに統合していくわけだ。経験が豊かであれば、その「X」なるものがより質料が高くなる。

★そうはいっても、なぜ経験=「X」なるものというのができるのか?この「=」という「置換」こそ「reflection」というモニタリングなのである。この「経験」・「refrection」・「X」という置換連鎖が弁証法=対話である。

★かくして「X」なるものであるコアモデルや関数は、この対話が繰り返されるたびに成長するのである。そして、この「X」なるものこそ「世界」である。「世界」はしたがって変形され続ける。世界を変えるとは、この「X」なるものの「置換」→「変換」→「転換」という物語。世界のアップデートとともいう。

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神崎史彦先生の大学入試 志望理由書のルールブックの意味

★神崎史彦先生が新刊を出す。「ゼロから1カ月で受かる 大学入試 志望理由書のルールブック」( KADOKAWA 2019/7/20)がそれだ。Amazonより先に昨日先生から郵送して頂いた。心から感謝いたします。

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★本書は、もちろん大学入試におけるAO入試や推薦入試にダイレクトに役に立つ良書である。大学入試とはそもそも何かと迷っている受験生、志望理由の捉え方というものの見方・考え方を知りたいという受験生、自分はどう生きるかと悩みながら大学入試に臨んでいる受験生、自分のやりたいことを見つけたいと思っている受験生、大学に進む意味をどうつかんだらよいのか足踏みしている自分を変えたいと思っている受験生、ただ大学入試を受けるのに志望理由書が必要だからと実用的に考えている受験生、合格答案を知りたいという受験生・・・などどんな角度からでもよいから接近して読んでみることをおススメする。

★というのも、きっかけが目先の利益のためであっても、情熱がないけどとりあえず合格するためでも、自分のやりたい学問を追究するためでも、志望理由書に取り組む意識の低い高いにかかわりなく、視野が狭い広いにかかわりなく、とにかくまず読んでみて欲しい。

★すると、目先の利益を超えて自分にとって意義あることが向こうに見えてくるし、情熱がなかったはずが、内側からウゴメく響きを感じるようになるし、学問に対する自分の考えがまだまだ浅薄だったことに気づくだろう。

★人生は、自分が思っている自分以上の自分を感じるターニングポイントが幾つも訪れる。しかし、その転換点は自ら気づこうとしなければ手にすることはできない。

★そんな気づきを得るにはどうしたらよいのか。常に自分とは違う考え方や価値観や感じ方を有する人々や事象と関係を結び付けてみることだ。そういう意味で、本書は、受験生にとって、自らを自らだと思う自分に対する常識を揺さぶり、未知なる自分を新しい世界に連れて行ってくれるルールブックであり、ついには、そのルールの枠を破る境地に立ち、ようやく人生の新たな道が開かれるだろう。

★そして、また大学を卒業する直前に読んでみるとよい。新しい世界で行動しているはずの自分が再び常識の徒と化していることに気づき、再び自ら創ったルールの枠を壊す必要性を感じるだろう。そして、様々な組織の中で、自分のプロジェクトを広げようとしたときに、三度本書に立ち還ってみよう。またも常識化した自分と対峙する挑戦をする人であることの必要性を感じるだろう。

★そして、そのとき、学問とは象牙の塔で研究することではなく、世界を問う学びを生涯続けることであることに気づくだろう。学問とは大学教授という資格が必要なのではなく、世界を問う学びの構えこそが必要なのである。しかし、そのことを知るには、知るための成長物語としての条件が必要である。

★その成長物語の主題は、いつも自ら常識化してしまった自分を創造的に破壊することであり、その苦しみが訪れる時熟によって、ようやく真理がちらりと向こうにみえるのである。そして、また見えなくなる。それゆえ、再び成長物語が始まる。成長物語とは自己変容の無限の螺旋階段である。

★本書は、ゼロから1カ月で受かる導きの書であるが、同時に生涯をアップデートするたびに反復して読まれる書なのである。

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2019年7月13日 (土)

大学入学共通テスト 数学の文章解答見送りの意味

★日本経済新聞の記事「数学の文章解答見送り 大学共通テスト 採点の負担軽減」(2019/7/13)を読んで、不思議な感じがした。メディアにおいて、事実とは何だろうと。ともあれ、こうある。

≪2020年度に始まる大学入学共通テストで、大学入試センターは12日までに、数学で検討していた短い文章で解答する記述式問題を初年度は見送る方針を決めた。3問全てで数式だけを書かせる方式にする。記述式問題は共通テストの目玉だが、18年の試行調査で正答率が低迷。採点の負担軽減のためにも、より簡素な方式にする。

共通テストは現行の大学入試センター試験と同じマークシート方式が基本だが、思考力や表現力を問うために国語と数学で記述式を導入することが決まっている。

数学では「数学1」「数学1・数学A」で小問3問を出す。18年11月の2回目の試行調査では、数式を書かせた2問の正答率が5.8%、10.9%。短文を書かせた残り1問の正答率は3.4%と低迷した。≫

★ここでいう、事実とは、「大学入試センターがこういっているということ」であって、大学入試センターがいっていることが指している「事象」の事実性ではない。

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★「記述式問題は共通テストの目玉だが、18年の試行調査で正答率が低迷。採点の負担軽減のためにも、より簡素な方式にする。」と大学入試センターは言ったという事実は、たしかだろう。しかし、正答率が低迷というのは、他の問題は低迷でなかったけれど、記述式問題は低迷していたということだろうか?

★上記のプレテストで、記述式でない(ⅱ)の問題の正答率は3.0%だ。(ⅰⅰⅰ)の正答率は3.9%である。実は、記述式問題でなくても正答率が低迷している問題はたくさんある。たしかに、正答率が低迷しているから、文章解答を見送るとは言っていない。しかし、わざわざ「低迷」と書いているというコトは根拠として挙げているとも読める。

★他の問題の正答率が低迷していないのなら、その根拠もありかもしれないが、そうではないから、ことさらここで「低迷」を挙げる必要はない。

★それに、採点の負担軽減とはどういうことか?記述は「条件+結果」という極めてシンプルな文章。問題文にも「時刻とともにどう変化するのか」と「時の変化」という条件を書けと条件を明言している。

★それに、3.4%という正答率というのは、500,000人受けたとしたら、1,7000人が正解するというを示している。おそらく誤答は、結果ができていないから、迷うことはない。それに無答率が相当高いから、採点負担というのは、ほとんどないだろう。

★数式だけ書かせる方式であっても、採点者は確保しているのだから、彼らにとってこのような記述問題の採点負担というのは考えられない。それとも、数式は機械が読み取って自動採点できるというのであるのなら、採点負担というのは、採点者を確保することが難しいというコトを意味するのか?

★「文章解答見送る」の事実性は、一体何なのかこの記事では本当のところはわからない。

★それにしても、記述式の問題ができないということそのもののリフレクションは誰がするのだろうか?現場?ではないだろう。明快に学習指導要領で数学の授業について記述していないからだと文科省や教育委員会がリフレクションすべきなのだろう。

★数学的思考とは何であるか、学習指導要領で「概念」とかいう言葉を使っているが、それを明快にはしていない。「概念」と「数式」と「グラフ」と「図形」と「アルゴリズム」と「文章説明」を、授業の中で「置き換える」作業をシステマチックに行うのが数学的思考を養う授業であると指摘していないから、「数式化」して計算することしかトレーニングされていないのが、日本の学校における「数学」の授業なのだ。

★数学の先生の中には、多面的にアプローチするが、たいていはそうではない。学習指導要領に従えと言われているのだから、そうしないのが当たり前なのだ。

★授業でトレーニングされていないのに、その多面的なアプローチを問われてもできないのが普通ではないか?正答率3.4%というのは、むしろそのような多面的な授業を行っている比率の少なさを示していると考えたほうがよい。

★もし授業でトレーニングされていたら、どうだろうか?このへんの事実性は上記の記事ではきちんと分析されていない。

★今できないという結果事実だけを判断材料として、大学入試改革の是非を問うている世の中は、自らを省みることなく騒いでいるとしかいいようがない。そのような結果しか出せない今を改めようよというのが改革の趣旨だったはずだ。本末転倒とはこのことだ。

 

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2019年7月12日 (金)

適性検査で養われる「X」なるもの

★適性検査型入試、思考力入試、自己ピーアル入試などの新タイプ入試の価値は、従来の日本の教育で無視されてきた多様な領域を結び付ける「X」なるものを回復するところにある。この「X」なるものは、イギリスのAレベルやIBのテスト、フランスのバカロレア、ドイツのアビツーアなどには、もともとあるし、今も健在だ。

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★米国のSATは、かつてはなかったが21世紀になって着々とそこは改革してきた。TOEFLやIELTSには英語の試験というのを超えてそれがある。しかし、他の英語民間試験はない。

★ここらへんの整理が全くないままテキトウ極まりない教育改革論議がなされているのが日本という国だ。だから、わるいというわけではない。それが文化なのだ。だから、論文指導している学校であるはずなのに、ビブリオが適当で、蓋をあけてみればTTP(徹底的にパクる)でオリジナリティがない。配列こそ思想だということだろう。まあ、それもいい。

★ だから、まともにやってられない。では、どうするのか?このような脇が甘いから、権力や権威が忍び寄る。自由を封鎖されることに気づかずに。しかし、まてよ。わきが甘いのであるから、正義もまた忍び寄ることができる。

★適性検査は、OECD/PISAから生まれている。TTPだから、参考にしましたなんて公言しない。全国学力調査テストもPISAからの流れだ。TTPだから、参考にしましたなんて公言しない。

★そこで、私は友人のPISA分析をして本にして世に流す作業を支援した。それはある意味きっかけになった。大手教育関連産業の心ある人材数名とそれを契機にその流れの学びをつくる作業にも取り組めた。その流れは今やあちらこちらに拡散している。もちろん、心なき人材によってコモディティ化されて拡散されている局面もあるが、そんなのはかまわない。

★世の中に「X」なるものの回復が拡散されれれば、それでよいのだ。しかし、まだ経験値としての「X」なるものしか拡散していない。そこで首都圏模試センターと21世紀型教育機構と協力して、「思考コード」とか「メタルーブリック」などというものを作成した。

★これは着実に浸透している。

★しかし、その本来の意味は、もう少し未来にある。とにかく、教科書という存在や大学受験という存在が「教育的配慮」という怪物を生みだし、パブリックなルールを使えなくしているのだ。だから、麻布はその怪物を撃退したのだ。ともあれ、忍び寄る権力。そしてこの権力にぶら下がる企業であふれている日本の教育ステークホルダー。受験界の悪の三種の神器という象徴的な言われ方もしている。

★中高でしか使えない論理やアプリ、その最たるものがデバイスを学校で活用する場合、一般社会では不要なセキュリティがガチガチにかかる。

★そんな「教育的配慮」が闊歩しているような世界で生徒が暮らしていたら、社会では役に立たない。何せ、自由はいつも幻想なのだ。そのわけのわからないくだらない担当者レベルの「私」の一存で決まる村社会で、どんなにグローバルなことをやろうとしても、それは無理だろう。

★だから、そっと武器を準備しておくのだ。そこには、できるだけ、普遍的なルールを織り込めるコンパクトでシンプルなシステムが重要だ。グレゴリー・ベートソンやネルソン・グッドマンのようなデューイやピアジェを超えたところにある日本では未だだれも到達したことのない「X」なるものの埋め込み。もちろん。欧米では当たり前だ。

★しかし、日本の「教育的配慮」によって、それが見えなくされている。だから、世界から日本を見ることができる状況になっている学校の生徒や、Z世代の帰国生や留学生などは、その「X」なるものを使って、「教育的配慮」のバリアを崩しているのだ。それが今の動きだ。

★年寄りの私が40歳代にそのようなことに気づいたのは、その友人が留学生だったからだろう。友人と言っても一回り違うから、いっしょに研究所をやろうと意気投合した時に、おじさん(と私は呼ばれていた)、まずはすぐにロサンゼルスに飛ぼうと、1998年1月にいっしょに渡米した。それ以来、世界中をともに回ったが、目からうろこの連続だった。

★その旅で体得した素材で、PBLプログラムや思考コードをつくってきた。さんざんそんなんで大学合格実績がでるのかと言われたりした。でも、そのときはまだ「X」なるものを明快には説明できなかった。いまなら、すでに大学合格実績を出している同士校があるから、検証的な説明もできる。

★いずれにしても、世界から見た教育になっているかどうかだ。Z世代の中高生団体に期待をしているのは、そういう意味である。

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今、Z世代が熱い!未来への欲求はここにある!

「Z世代のためのプレゼンコンテスト」。7月15日・海の日に、日本電子専門学校9号館メディアセンターでZ世代が企画し実施する。中高生団体SustainableGame代表の中学3年山口由人さんや学生団体「MOMO高校生企業と高校生をつなぐ」代表高校3年生の村上貴文さんがプロジェクトをつくって行動を起こしている。中村伊知哉氏が率いるi専門職大学が協力していることも重要な意味がある。

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★Z世代は、一つ前のミレニアル世代がデジタルフロンティアだったのに対し、デジタルネイティブ。今の中高大学生の世代のことを指しているようだ。1995年という年は、地鉄サリン事件や関西淡路大震災があり、社会の影をいかにすべきか、自然への畏怖を忘れてはいけないことなど日本のみならず、世界に問題を共有する年だった。「ソフィーの世界」という哲学書が世界でベストセラーになったのも、そういう時代だったからだろう。

★同時に、Windows95が世に出て、ホストコンピュータの時代からパーソナルコンピュータにシフトする時代だ。しかもインターネットにつながるデバイスが登場したのもこの年だった。

★影と光が大学の学問の世界ではなく、日常生活の目の前で交錯した。そのときに生まれたのがZ世代だ。

★今の社会は、ミレニアル世代より前の世代が社会を牛耳っている。Z世代が何を欲求しているか、その声に耳を傾けてこなかった。その一つの現われが、中高生によると、座学中心の授業だという。

★inputoからoutoputへシフトする時代がデジタルネイティブにとって当然なのに、自分たちの生活の大部分をinputの時間に押しやられている。これでいいはずがない。

★山口由人さんや村上貴文さんがつくっているそれぞれの団体は、クリティカルシンキングとクリエイティブシンキングを得意とし、さらにというか当然、アクションに移す活動を行っている。その活動の1つが毎日新聞で取り上げられているぐらいだ

★私も山口由人さんが代表を務めている「中高生団体SustainableGame」に21世紀型教育機構のシンポジウムのポスターを依頼した。中高生クリエーターのメンバーがオリジナルで作ってくれた。

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★AIを活用したり、フリーのソフトを活用したり、イラレを活用したり。デジタルネイティブのITスキルは、すでに私たちプレミレニアル世代をはるかに超えている。それなのに、Inputのみの授業を行っていたのでは、Z世代の自己実現への欲求に全くこたえられない。

★しかも、Z世代は、デジタルのリスクも十分に熟知している。それゆえ、今回の「Z世代のためのプレゼンコンテスト」の企画が立ち上がったのであろう。サイバースペースのみならずリアルスペースでのOutputの重要性。身体脳神経系全体が共振共鳴共感する空間で情熱が広がることの重要性を、今回実践して証明するのだ。

★Z世代へ私たちは、もっともっと耳を傾ける必要がある。そこから本当の未来への欲求を感じることができるだろう。

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2019年7月11日 (木)

水都国際の教頭太田先生の広く深い見識

★大阪市立水都国際中学校・高等学校(以降「水都国際」と表記)の高等学校の教頭太田晃介先生を訪ねた。南港ポートタウン線に乗って、ポートタウン西で降りて、そこから800メートルくらい歩いた。

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★なんだか、豊洲のかえつ有明に臨海線でいくときと同じような感じだった。私立と公立の違いはあるが、豊洲は2020年東京パラリンピック・オリンピックの良好な影響を受け、水都国際は2025年予定の大阪万博の良い影響を受けるだろう。両校とも、グローバル教育や哲学教育とかTOKとか共通する本質的な教育もある。

★水都国際の役割は、今まで私立学校で自由闊達に行ってきた良質教育を、公立学校でもできることを証明したということだろう。日本の教育の良質さが、一部の学校に集中するのではなく、日本全体に広がる可能性がでてきたのは、たいへんよいことである。もちろん、教育行政は政治経済の影響を受けるから、そう単純ではないが。

★今回、太田先生は理科だけではなく、IB全体の教育の概要からその根底にあるIBの教育の本質についてまで、わかりやすく説明してくれた。

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★特に、教科とコアの学びであるTOK、CAS、EEとの関係について、実質的な対話ができた。おそらく、長年いっしょにPBLの学びの構造を思考コードと思考スキルと世界コード(これは未完で終わったが)でアプローチして創ってきたため、私が理解できる言葉に置き換えて説明してくれたから、ありがたいことに共感できたと思う。

★今学校現場は、教科と特別教育活動と探究とキャリア教育をつなぐ「X」なるものを形式知化できていないが、IBにおいて、太田先生はその「X」なるものの奥義を理解し、学内でマトリックス化して共有しているということだ。

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★IBは、認定校以外にはそのような根源的な情報は公開していないので、そこからは、今まで太田先生と協働してきた学びの方法論で洞察するしかないのだが、かなり直観的に理解できたような気分になった。

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★9月から大学生とIBの具体的なシステムを共有することは15回の講義では無理なので、何をトピックにするかまだ詰め切れていなかった(シラバスは作ったが、魂はまだ書いていない)が、IBから接近する「教育学」を講義できるなと直観した。太田先生、本当にありがとうございました。

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【未来を創る学校20】三田国際 従来の学歴ブランド市場を転換するエスタブリッシュなNew Power School

★昨夜、三田国際学園の学園長大橋清貫先生と電話でミーティングをした。詳細は話せないが、そのミーティングを通して感じたことは、2010年度の中学入試市場の動向は、いよいよ学歴ブランド校と三田国際学園との綱引きが激しくなるのかもしれない。

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★昨年までは、21世紀型教育を牽引する三田国際だった。それは今も変わらないし、確実に、中学入試市場に、従来型の学歴ブランド主義とは違うNew Power Schoolの市場領域を開いたことは確かだ。単純に生徒募集で大いに成功したというだけではなく、21世紀型教育を推進する同士校も出現し、2020年の大学入試改革やそれに伴う学習指導要領改訂が目指す教育改革以上の教育を着実に根付かせている。

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(三田国際学園キャンパスは、大自然のオーラがいつも包んでいる)

★そういう意味では、文科省がどう思うかわからないが、日本の教育の未来のプロトタイプ創出を牽引した大きな貢献を三田国際学園はした。

★そして、今や、それは中学入試市場がはっきり評価している。それが2020年の中学入試の大きなウネリとなる。

★どういうことかというと、今までと違い学歴ブランド校志向者が、三田国際学園との併願をするようになってきたのである。その勢いが止まらない。

★学歴ブランド校は、生徒の質がとにかく高い。だから、学校当局としては、彼らが自由に刺激し合う環境を整えるだけで、彼らの才能をさらに高い段階に押し上げるプログランは不要としてきた。

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★そのことに学歴ブランド校志向者はようやく気づいた。学歴ブランド校を卒業しても、イートン・カレッジやチャドウィック・スクール、チョートー校、ケイトスクールのような世界のエスタブリッシュスクールの出身者と議論や世界問題を共に解決する力を発揮できない。なかには一握りの生徒はいるだろうが、たいていは帰国生だったりする。

★せいぜい東大の一般入試に合格する力が限界だ。エッ!限界?そう東大も、一般入試と帰国生入試の目標値に差をつけている。一般入試で合格する生徒の知では、帰国生入試を突破することができないのである。

★ところが、三田国際は、それを突破することができるように、発想の自由人になれる環境を整えるだけではなく、さらに才能を豊かにし高度な思考力を有することができるプログラムを、プラグマティックに構築しているのだ。

★学歴ブランド校は、すでに出来る生徒だから放っておけばよいという考え方が根底にはある。しかし、海外のエスタブリッシュな学校は、優秀な生徒はさらに優秀になれる限界を超えるためのプログラムを形成するのが得意だ。

★それは三田国際にも同様である。東大の一般入試が限界の学歴ブランド校(開成や麻布、JGはそこは多少違うが)か、海外のエスタブリッシュスクールと対等に渡り合える力を身につけられる三田国際か?学歴ブランド校志向者はいよいよ選択判断をし始めるようになったのである。

★これが2020年の中学入試の大きなウネリになる。三田国際に続く21世紀型教育の同士校も同様の流れをつくりつつある。すでに大学合格実績も出始めている。本格的には2021年度の卒業生の時に明らかになる。

★New Power Schoolか学歴ブランド校かという選択判断が新たに加わり、大学附属にさっさとはいって、国内で成功する人材に育ってもらえれば十分だと選択判断するグループも片方で勢いを増すだろう。

★単純に言えば、New Power Schoolか学歴ブランド校のどちらを選択するかというチャンレンジ精神と学歴ブランド校や大学付属校で十分であるという安全志向主義の両極が拮抗することになる。

★今まで、中学入試市場では、筑駒には、開成や麻布はかなわないという根底には暗黙の了解があった。しかし、筑駒も学歴ブランド校の1つであるから、やがて三田国際と併願されるようになる。そのとき、三田国際は筑駒に甘んじる気はさらさらない。

★大橋清貫学園長の野望は、中学入試市場を突き抜けることによって、中学受験生の価値観を転換し、生徒の未来に希望を生みだそうということだ。日本型の学歴社会こそ生徒の特にZ世代の未来を暗く覆うものはないのは今やだれでも感じていることだろう。学歴社会というOld Powerの権威主義からNew Powerというソフトパワー主義への価値の転換こそが、三田国際学園の信念であり、“Soul”である。

★そうそう、8月3日(土)の中学説明会の午前の部は、申し込みを開始して即日満席。午後の申し込みを開始したそうである。三田国際学園の市場に評価される勢いは、かくして、論より証拠なのである。

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【未来を創る学校19】八雲学園 真似のできない理想的英語教育

★八雲学園は、生徒の情熱と興味と関心を大切にしている。したがって、英語教育も2種類ある。1つは全員が身につけなければならない英語のレベルに達する授業と学内で行われる多様な英語のイベント(イエール大学との国際交流、英語劇やイングリッシュファンフェア、毎月のように八雲にやってくる交換留学生との交流、模擬国連など)。いわば、英語の基礎教育。これは生徒が英語に興味と関心を持っているから取り組むというより、グローバル社会にあって、自分たちが活躍するための武器として必要最小限の英語の力を身につけようという目的があるから英語を学ぶというものだろう。

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★これは、英語教育というよりグローバル教育で必要なアイテムの1つという意味のほうが強い。もう一つは、八雲学園の英語教育の環境によって興味と関心が湧き、海外大学で通用するハイレベルの英語を体得したいという情熱に対応するグローバルプログラムの存在である。英語そのものに興味と関心と情熱がある場合、本当に高度で豊かな英語の力が身に着く。その情熱がグリー部というミュージカルの部活までつくったのだから八雲の教育の総合力は奥が深い。

★さて、そのグローバルプログラムの極みがRS(ROUND SQUARE)の加盟で、選ばれた生徒が、1週間の国際会議でパーフェクトに英語で議論し、ボランティア活動に参加し、パフォーマンスを披露する。そのときの英語力は、4技能のスキルはもちろんであるが、英語で高次思考ができなければならない。

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★国際会議に集まってくる生徒は、世界各国のエスタブリッシュスクール出身で、ハイレベルの教育を受けている。欧米の学校ばかりではなく、ヨーロッパ、アフリカ、インドなどの英語圏でない国からもやってくる。

★つまり、八雲学園の生徒と同様、英語を学んでやってくる。ところがその英語力はネイティブスピーカー並なのだ。日本語とインド―ヨーロッパ言語などの違いがあるとはいえ、それでも、英語を学ぶことは当たり前で、英語で世界の問題を議論し、共有し、リーダーシップを発揮し、高次思考を展開できる彼らに、参加し始めの頃、八雲学園の生徒は、英語の4技能のスキル以上のパワーが必要だと気づいたという。

★英語に興味と関心と情熱を持っている八雲生が、そんな局面にぶつかったら、当然もっともっととなる。八雲学園の教師は、世の中の変化の情報をきちんとキャッチしているが、それで右往左往することはない。ただし、生徒が欲求するものに関しては、すぐに動くというのが一大特色である。

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★したがって、それに応じるために、英語圏ではない外国の生徒が高度な英語教育を受けるのと同じ環境をサンタバーバラに設定したのだ。それが9カ月かけて行う特別英語トレーニングプログラムである。最初の3カ月は事前準備、最終の3カ月は徹底した議論とエッセイライティングのトレーニング、そして真ん中の3カ月が、サンタバーバラのUCSBという大学で、特別英語プログラムを特注して行うのである。

★この3か月留学プログラムの参加者は、すでに中3の時2週間サンタバーバラの八雲レジデンスを拠点に米国の文化体験(中3全員が中学の英語教育の集大成として行う)をしていて、たんに海外の文化に憧れるという段階は過ぎ去り、本格的英語の学びとは何か、その必要性を実感している段階にある。

★TOEFLのスコアもCEFR基準でB2には全員到達し、中にはC1まで到達してしまう生徒もいるという。

★八雲生は、このような欧米のエスタブリッシュスクールで学ぶ言語教育と同レベルの教育の恩恵に浴しているが、RS加盟校として、そのエスタブリッシュスクールから毎月のように交換留学生がやってくる。彼らとの交流は刺激的だし、やってきたら、こちらからも留学ができるという特典があるから、毎月のように行われている英語のイベント以外に、つねにグローバルイマージョンの環境に溢れているのだ。

★この八雲学園の破格のグローバル教育のメカニズムが、すばらしい成果をあげることに気づいているメディアはまだまだ少ない。

★それにしても、さらに信じられない革命的ともいえる英語教育にチャレンジを開始したという。今度、菅原先生と横山先生にお会いして、教えてもらうことにしている。また報告したい。

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2019年7月10日 (水)

【未来を創る学校18】アサンプション国際 改革4年目 着実にアップデート。

★アサンプション国際中学校・高等学校は、共学化及び21世紀型教育にシフトして4年目を迎える。第2ステージは丹澤校長が引き継ぎ、4月から6月の3カ月の間に、見事にシンプルかつ生徒の未来への希望の教育を確実に整えた。

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(写真は、同校の今年の学校案内から)

★副教頭瓶割先生(数学科教諭)と広報担当の中井先生(数学科教諭)に話を伺った。まずは、授業の基本はPBL(Project Based Learning)と言えるようになってきたという。もちろん、レクチャーも必要で、1時間まるまるディスカッションだけをしているのではない。ただ、以前のように、一つの単元を、レクチャーだけで授業を終わらせることはなくなったと。

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★PBLの授業は、「レクチャー」「ピア(Peer)ワーク」「ディスカッション」「クィックライティング」「プレゼンテーション」「フロー」などの幾つかのアクティビティの組み合わせで行われるようになったようだ。というのも、学校案内にもあるが、PBLは生徒の思考の発展、精神的成長に応じて、PBLサイクルは変化するからだと瓶割先生と中井先生は語る。

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★このPBL授業は、アカデミックコースもイングリッシュコースも共通していて、そこをプラットフォームにイングリッシュコースでは、イマージョン教育が数学や理科で行われている。外国人教師も8人という充実ぶりで、オリジナルテキストも発刊して授業を展開している。本気度が違う。

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★留学も充実、今年の中3(中学改革1期生)から3か月留学が、ニュージーランドなので行われることになった。東京でも各校3か月留学は、6人くらい毎年行くようになったが、アサンプションは20人くらいく。中学改革1期生が3年後大学に行く時に、現在受験業界がイメージしている結果をはるかに上回るだろう。

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★しかも、海外大学進学協定校推薦入試制度も導入し、海外大学への道も学校として取り組む体制が整った。瓶割先生は、大学合格実績もきちんと出せる実用的なPBL授業を高校では展開していこうと構想しているということだ。実際、中井先生は、今年の関西学院の数学の一番の複素数の問題をPBL授業で展開するとどうなるか披露してくれた。凄い!

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★そして、アサンプション国際の部活の考え方がいい。

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★もちろん、各大会で優勝を狙うのだが、大事なことは部活を通して「道」を自己探求・自己陶冶していくということだという。その「道」を追究する過程は、まさにPBLなのだということだ。

★新しいプログラムも取捨選択して洗練しつつ、伝統的な教育活動も考え方をさらにブラッシュアップしていく。改革とは、伝統と革新を統合することだが、それは、一つひとつの教育活動を洗練したり再構築したりする地道な試行錯誤とそのための学内対話があってこそである。アサンプション国際のチャレンジは、新奇をてらった改革ではなく、地に足の着いた改革なのである。

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2019年7月 9日 (火)

聖学院の難関思考力入試と麻布の社会の中学入試と東大帰国生入試 「X」なるものが必要

★多様な学びをつなぐ「X」なるものが育つと、好奇心はさらに旺盛になり、開放的精神とどこまでも追究しようという意欲が湧き出てくる。このような科学者や詩人などの創造的才能者が有している精神を生み出す「X」なるものとはいかなるものだろうか。

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(写真提供:聖学院21教育企画部長児浦先生。同校の難関思考力入試では、いきなり論述を書くのではなく、様々なデータを読み取ったうえで湧き出てくる発想をいったんレゴで可視化する。指を動かしながら自分の考えを編集していく。)

★それは、明快にこれだというものを示すことはなかなか難しい。ただ、この「X」なるものがなければ、次のような東大の帰国生入試は問題解決できないだろう。

≪2020 年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催される予定であり、2025 年には大 阪で万博(万国博覧会・国際博覧会・World Exposition)が開催されることが決定した。こ うした国際的で大規模なイベントを現在の東京や大阪に誘致し開催することの是非を、過去 に開催された東京オリンピック(1964 年開催)および大阪万博(1970 年開催)と比較しな がら多面的に論じなさい。 平成31年度外国学校卒業学生特別選考小論文問題 文Ⅱ≫

★この問題は、たんなんる小論文のような書き方ではうまくいかない。歴史的知識や歴史的変化による価値観や政治経済の変化、世界の情勢の変化、イノベーションの進化など多方面から考察し、メリットとデメリットを考えるだけではなく、むしろメリットの背景にあるリスクを論じ、その是非を問うところまで詰めていく必要があるだろう。

★多大な知識が必要とされているように見えるが、それを並べただけではだめである。むしろその知識は大雑把であっても、ある歴史的見通し、経済的価値観の捉え方などを展開し、メリットとデメリットの整理で終わらずに、メリットの背景にあるリスクというパラドクスにまで至る必要があるだろう。

★これが「X」なるものの正体である。パラドクスの発見という高次思考(=クリティカル&クリエイティブシンキング)が必要であり、ロジカルシンキングできれいに整理しただけでは、世界の問題を見抜けないのだ。さらにいうと、「X」なるものは、この高次思考という複合的システム思考という関数になっている。システム思考はループ関数がどんどんつながって拡大していくが、「X」がなければ、何も生まれない。

★東大の一般入試は、ロジカルシンキグで十分なのに、帰国生入試はそれを超えているのである。これは東大推薦入試も同様である。東大は、合格者の数が少ないから目立たないようにふるまっているが、東大推薦入試と東大帰国生入試で随分以前から大学入試改革を実行していたのである。

★その人数があまりに少ないがゆえに、一般入試を受ける生徒にとっては、無関係とばかり、顧みてこなかったのが受験業界なのである。

★しかしながら、麻布の中学入試問題は、すでにこの領域にもっと昔からあったのである。だから麻布の生徒は、中学入試の準備段階で、すでに「X」なるものを身につけてきた可能性が大なのである。自覚的であるかどうかはわからないが。

★そして、このところメディアが取り上げている聖学院の思考力入試、特に難関思考力入試は、入試対策講座の中で、受験生は準備をしながら「X」なるものを身につけるのである。もちろん、6年間の学びの中でそれはさらに豊かになる。特にレゴなどに転換する過程で、「X」なるものをメタ認識するのである。だから、中学当初はいわゆる偏差値はそう高くないが、高校卒業時に大いに化けるのである。

★ともあれ、論より証拠、今年の上記の東大帰国生入試と同じテーマの問題が麻布の社会の中学入試で出題されたし、実は聖学院の難関思考力入試でも出題されたのである。ただ、聖学院の場合は、レゴなどを使い、考える過程を可視化しながら考えていく入試になっているから、意欲のある才能者すべての受験生(もちろん男子校なので男子に限られるが)に開かれた試験なのである。

★IBの高スコアや高偏差値という壁がある東大や麻布の入試とは、そこが大いに違う。この違いが聖学院という学校が有している社会的使命である。すべての生徒が才能者になれるのだと!

 

 

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中学入試における多様な学び方の化学反応を引き起こす「X」なるものの作り方。

★2013年以降の中学入試は、「2科・4科の学び」「新タイプ入試の学び」「おけいこと習い事の学び」「学校選択としてのキャリア教育の学び」など多様な学びを体験しながら受験に挑戦できる。そして、その傾向は年々強くなっている。

★1986年~2012年くらいまでは、中学受験と言うと「2科・4科の受験勉強」のみで、学校選択も、偏差値か大学合格実績を基準に選ぶから、学校選択というより、併願戦略によって必ずどこかは合格するということが目的。

★中学受験によって将来自分がやりたいことを決めて学校選択するという話はほとんどなかった。キャリア教育は、その学校に入学してから考えればよいという時代だった。

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★ところが、多様な学びが必要になってからというもの、多様な学びに応じた才能が重視されるから、自分の才能と適合する学校はどこか、その自分の才能を生かしたキャリア実現の確率が高い学校はどこかという学校選択とキャリア教育が重なり合うようになったわけだ。

★しかしながら、中学入試段階でのキャリア教育は、進路先教育ではなく、自分の才能を開花する学び方を学ぶということがメインになる。

★したがって、その自分の才能を開花する学び方という「X」なるものを明快にしつつ、暗黙知として自動化する学びが重要になる。

★しかし、意外と、それは難しく、現状ではその「X」なるものは、学の中で意識されているわけではないから、家庭教育や就学前の幼稚園での教育などで暗黙知として身につけていれば、多様な学びの中で自分独自の才能を開花できるが、そうでない場合(これが意外に多い)は、多様な学びを体験しても、自分の才能を見出すことができない。

★そこで、「X」を急遽生み出すために「X´」なるものを学び直すことになる。しかし、その「X」や「X´」なるものが何であるのか、実はよくわからない。

★ただ言えることは、麻布の中学入試問題や聖学院、かえつ有明、工学院の思考力入試は「X」なるものが身についていないと思考が回転しないので、これらの問題にチャレンジすることで、「X」や「X´」なるものを生成するきっかけになる。

★そうはいても、その「X」なるものや「X´」なるものが形式知化しているわけではないので、これらの入試問題を体験すれば、体験者は全員「X」なるものや「X´」なるものを身につけられるかどうかは、これまたわからない。ただ、言えることは、これらの問題に挑戦することがおもしろいと感じることができる生徒は、「X」なるものや「X´」なるものと共振共感しているからおもしろいと感じるのであって、今まで自分の中にあった「X」なるものに気づかなったのが、発掘されるという事態にはなる。

★麻布や聖学院、かえつ有明、工学院などを受けるか受けないかにかかわらず、麻布の入試問題、聖学院、かえつ有明、工学院の思考力入試を解いてみるのもよい。

★思考力入試は対策講座を、上記3校は行っているが、いつも定員がすぐに満席になる。「X」や「X´」なるものの響きを感じて学びがおもしろいと興奮する受験生は案外大勢いるということだろう。

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2019年7月 8日 (月)

中学入試を巡る学びの使い方によって、未来への才能を開発するコンピテンシーを生成することができる。

★制度改革は必要であるが、それには時間がかかる。今目の前の状況を変えるには、制度改革以外の方法も活用する必要がある。それはいまここで、自分の意識を変えることと価値の転換をすることで、まずは何とかなる。

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★もちろん、制度改革がなければ、どうしようもないことがある。制度改革の必要性は、たいていの場合、悪法が正義の衣服をまとっていることに気づいたとき起こるから、そのような気づきが起こるクリティカルシンキングとどう変えていくべきかというクリエイティブシンキングが必要になる。

★悪法も論理的に考えるだけでは、悪法を論理的に正当化してしまうから、制度は変わらない。それどころか抑圧は極度に達する。従来の最高学府でも論理的思考までしか学ぶ教育しかなかったから、悪法も法として存在し続けてきたし、今もそうなっている。

★ところが、私立学校というのは、すべてではないが、クリティカル&クリエイティブシンキングを育成するカリキュラムがデザインされているところもあるから、ときどき悪法も法でいいのかと風穴を開けようとする人材がでてくる。

★しかし、それは今までは一握りだった。それが、今、私立中高一貫校の入試に大きな変化が起き、知識と論理的思考のみならず、クリティカル&クリエイティブシンキングもトレーニングする必要性のある新タイプ入試や認知能力のみならず非認知能力も受け入れるようになってきた。それゆえ、おけいこや習い事を通じての「体験」も重視されるようになった。

★多様性も受け入れる英語入試という新タイプ入試も生まれ、複眼思考を受け入れる環境が整ってきた。

★そうはいっても、すべての私立中高一貫校が、上記図のようにすべてを行っているわけではない。したがって、従来は学校選択は偏差値と大学合格実績で選んでいればよかったのが、多様な選択肢が現れたのである。

★これは、学校選択を考えることによって、これからの新しいキャリアの在り方を考える機会が、中学入試において生まれたことを示唆している。

★さて、そのとき大切なことは、多様な学びの機会をバラバラに取り扱うのではなく、それをつなぐ「X」なるものは何なのか?考えることが重要になる。もし、つなげる「X」に思いつかなければ、急遽いまここで形成して「X´」を身につける必要がある。中学入試を経験しないと、この機会をスルーしてしまうから、大学入試直前に「X´」がないことに気づき、大いに苦労する。

★苦労するのであればまだよいのだが、ここでもスルーしてしまう可能性がある。そのとき未来は閉じられる。これが今新しい学びが論られている部分のまだ気づかれていないリスクである。

★新しい学びはたしかに未来を拓くが、もし新しい学びを体験しないと未来は閉じられるのである。新しい学びを否定する学校や教師は、いまここで自分たちの生活を守るだけで、生徒の未来を閉じているのだということに気づいていない。教育もSDGsの1つのゴール項目に入っているが、SDGsにある世界の問題は、近代の時にその原因は生まれたが、それだけを追究していると見逃すことも多い。

★近代の構図が再帰的近代に変化したことの重要性をまだきちんととらえていない教育現場の枠内で、解決しようとしても罠にはまっていくだけだという恐ろしい現実を。

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2019年7月 7日 (日)

キャリアガイダンス2019年Vol.428 学びとコンピテンシーの結びつきを明らかにした。

★RECRUITの<Career Guidance 2019年Vol.428>の特集は、授業、探究、キャリ教育と「特別活動」を結び付け、それが多様なコンピテンシーを生み出すという構造で、記事や事例を編集している。

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★学校での多様な学びや活動が、確かな学力だけではなく、それ以上の資質・能力=コンピテンシーを生み出すメカニズムになっていることを明快に示している。

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★これは、画期的なことだ。2020年の大学入試改革やそれに伴う学習指導要領の改訂の方針をきちんと捉えているし、そのような事例がたくさんあることを示しているので、この改革が混迷しているところや現場の混乱を取り上げる新聞などのメディアとは違う、もう一つの現場の現状を紹介している。

★いかに一般メディアが偏った情報しか流せていないかが、改めてわかる。

★しかしながら、つながりのメカニズムの「X」なるものについては、難しいし、わかりにくいので、あえて編集していないなのだろう。そして、実際には、この「X」なるものは、幼児教育、小学校教育、中高教育と連綿として作られ、暗黙知として共有されているはずが、それが意識されてカリキュラムが作成され、実施されていないために、すっかり空洞化していることにまだ世の中は気づいていない。

★それで、高2や高3になって、突貫工事的に造りあげる。それゆえ、これを受験テクニックなどと呼ぶ習わしがある。しかしながら、これは本来は暗黙知として形成されているはずの大切なシステム思考の一端なのである。

★一端であるがゆえに、受験テクニックと称されている。したがって、学校では、受験テクニックを回避する傾向がでてくる。それゆえ、そこは学内予備校や学外予備校に任せてしまうという場合がほとんどである。それゆえ、いつまでたっても、学校で「X」なるものを開発する気配がない。もちろん、しているところも少数だがある。が、自覚的ではまだない。

★しかしながら、この受験テクニックと称されるシステム思考の一端は、「X´」であり、もともと暗黙知として育つはずのモノだった「X」に通じるものである。最近は、この「X」なるものが育ってないがゆえに、シミュレーションとしての「X´」が必要となる。学校もなんとか「X」もしくは「X´」を自覚するとよいと思う。

★ところが、これをやるとあたかもコンピテンシーを阻害するかのような錯誤が存在しているから、知識と思考が対立構造になるのだ。知識も思考もシステム思考の中でつながっているのであり、どちらも欠かせないはずなのだが。

★また、少し考えると、この体験をすると、このコンピテンシーが生まれるというのは、一握りの生徒にのみいえることで、多くの生徒はそうはならない。そうなるためには「X」が備わっているか、「X´」をトレーニングする必要がある。

★だが、このことに気づき、実践している偉業を果たし続けているのは、私の知る限り、神崎先生のみである。

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★「X」なるものが形成されてこなかったとしても、なんとか「X´」を突貫工事で、あるいはブリコラージュ的発想で一気呵成に形成するのだ。幼児教育から中高教育までに、本来学校教育で形成されているはずなのだが、そこが空洞化している生徒もいるのだ。いやとても多い。誰に責任をぶつければよいのか、生徒もわからない。そんなとき、神崎先生と出遭えば、シミュレーショントレーニングをしてもらえる。

★「X´」を形成できるのだ。そして、大学に入ってから、そこを豊かに自己陶冶し、失われた時間を取り戻すのだ。

★リクルートのキャリアガイダンスは、神崎先生と連携すると、本質的かつ実用的教育を多くの学校の先生方と共有できるだろう。日本の教育は一気に変わるだろう。

 

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「ナレッジキャラバン in 大阪 2019 夏」新たな自分を見つけられる。

★水都国際の熊谷先生(苦悩のIBコーディネーターを支援するIBコーディネーター)とその仲間たちが、学校も世代も立場も超えて、フラットでしなやかな学びの会を創っている。今回は、2019年8月25日(日)、大阪女学院で、「ナレッジキャラバン in 大阪 2019 夏」を開催する。

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※ナレッジキャラバン in 大阪2019年の詳細は→コチラ

★熊谷先生の呼びかけに応じて、全国からおもしろくて深い学びのプログラムを共有したいという教師が10人以上も集結する。IB教師が中心だが、イエナプラン教育など他の新しい学びを披露する先生もいる。

★新学習指導要領が想定している世界標準の対話型思考型の学びを体験できる。しかもどこの学校を選択しようが、どこの学校で教えようが、学校外で実践しようが、そのような学びに興味と関心があれば体験できる。

★今、このような知の体験が、世代を超えて多様な垣根をとっぱらってボランティア的に開催されるようになってきた。中高生と、生徒が教師に披露する自分たちが受けたい授業モデルをSGDsの一環として提案するアイデアについて議論も始まっている。

★熊谷先生とその仲間たちの動きは、このようなウネリにコレクティブインパクトを与えてエールを贈ることになろう。

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品川翔英のために 柴田哲彦先生副校長に就任

★2020年度から、小野学園女子中学校・高等学校は、共学化し、校名も「品川翔英中学校」・「品川翔英高等学校」(以下「品川翔英」と記す)となる。改革コンセプトは「未知の世界に挑戦する気概を持った未来志向の若者を育む」。

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(上記写真は、同校サイトから)

★そして、今回、この新たに生まれ変わる品川翔英の準備と進化を学内の先生方と共にタッグを組んでいく副校長として柴田哲彦先生が着任した。

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★このような未来志向型の教育改革を牽引する教育者は、今や東京の受験市場では受け入れられているし、もともと柴田先生はこのタイプのリーダーとして認知されている。したがって、東京エリアで仲間も相当多い。20年くらい前からこの方向性で活躍しているから、その当時の仲間は、今ではそれぞれの学校で校長・教頭になり、革新的な教育を生みだしている。

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★創立者・理事長小野安之助先生と初代学校長小野進子先生が創り上げてやがて90周年を迎えようとしている。

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★柴田先生は、改革と言っても、すでに質の高い教育が存在し、教師も生徒も柔らかい人間力を有している学校がゆえに、それに基づいてアップデートするということだと思っていると。なぜアップデートかと言うと、今後テクノロジーの進化が凄まじいわけで、そこで必要な能力資質は、ソフトスキルだと言われているし、私もそうだと思うと。

★つまり、人間関係形成力や想像力、協調性、コミュニケーション能力などのソフトスキルがこれからは重要であるし、さらにサイエンス的な思考力も大切である。実はこれはもともと小野学園が創り上げてきた教育であるから、それをさらに新たなテクノロジーと統合しながら発揮できるようにアップデートすることが重要だと。もっとも、すでにその方向性は先生方が考えていることであるから、自分の役割は、先生方のやろうとしていることをサポートすることだし、こんなに良い教育が行われていることが、まだまだ市場には知られていないから、市場における評判作りをしていくことであると。

★伝統と革新の統合ということだろう。校舎を少し見学させていただいたが、たしかに豊かなキャンパス。訪問したのは土曜の夕刻だったが、高3生が自学自主をしていた。各教室には電子黒板用のプロジェクターが設置されていたので、授業で活用された場合、今までとは違いますかとたずねたら、「先生方は、多様なメディアを映し出して授業を展開してくださるので、幅広い世界がひろがって、おもしろいですよ」と即答。

★品川翔英としてスタートする準備として、wifi環境もかなり充実しているという。確かな学力と豊かなソフトスキルがICTというテクノロジーと相乗効果を生みだす期待が高まった。

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2019年7月 5日 (金)

ノートルダム女学院 ダイナミックに変わる準備始まる。

★哲学の道を横切り坂を歩いて、さらに霊鑑寺を左に登っていくと、ノートルダム女学院中学高等学校がその姿を現す。紅葉の季節が似合いそうな閑静な山荘を思わせる佇まい。

★そんな静かな雰囲気のキャンパスの一室で、熱く語り合うチームがあった。それは21世紀型教育推進委員会の集いだった。数々のカトリック学校の改革を手掛け、今回ノートルダム女学院の常任理事に就任し、再び改革の準備を始めた。

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★高橋先生の改革は、経営的手腕の発揮とそれと同期・共振する革新的教育の質を高めていくビジョンのDNAのような螺旋を描いていくシナリオライティングがベース。

★特に今回のノートルダム女学院は、先生方がそれぞれPBL型授業を研究して実施しているため、そのアップデートをどのように共創造していくかという点と大胆な広報戦略の同時進行で展開できると考えている。

★教育の質のアップデートは、カトリックの精神の核心である、初めにロゴスありきを現代化することである。だから英語と日本語の両方の言語による思考型の学びの追究ということになる。

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★その追究の手初めに授業リサーチを行ったり、委員会の各メンバーの学びのコアモデルを共有していった。今回もハーバード大学の大学教員の授業力をリサーチしているセンターがサポートしている中高の教員のためのアクティブラーニングの方法論を掲載しているサイトを活用して、そのコアモデルをモニタリングしていった。

★すると、教科によっても、教師によっても独自のPBL型授業のシークエンスが表現された。それを共有しながら、シークエンスを織りなす幾つかのアクティビティの理由や目的がみえてくる準備を整えた。

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★次回は、各メンバーが自身のシークエンスを織りなしたそれぞれのアクティビティの理由や目的を整理してプレゼンすることにした。各人のオリジナリティがハーバード大学の方法論によって、世界標準であることが了解できると同時に、その理由や目的がPBL授業そのものの「存在理由」を炙り出すことになるだろうと仮説をたてている。

★高橋先生は、PBLが必要な理由を、最終的には、個々の授業のアクティビティの理由を統合した形として表現できるのではないかと予感している。この質を大胆な広報戦略に結びつけることによって、ノートルダム女学院の京都の生徒にとって極めて重要な「存在意義」が顕在化するはずだと確信している。

★すなわち、目に見えない最も大切な精神を共有する教育メカニズムを可視化することになるだろう。

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★高橋先生がノートルダム女学院の改革にあたって、「女子教育」の革新の重要性についてその想いを本という形にして出版した。意外にも明治以来の日本の女子教育はそのままの状態で温存されてきてしまった。今、ノートルダム女学院が、これからの女性にとって重要な学びの環境を、日本で初めてデザインすることになる。

★そのビジョン共有を同校の先生方と開始したのである。

 

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経営陣の相互研鑽PBL研修 聖母女学院×香里ヌヴェール×アサンプション 

★学校法人聖母女学院の理事長赤野先生が主宰する聖母グループの教育研究センターは、毎月理事長・理事・校長・教頭などが集結してPBL授業の研修をしている。

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(香里ヌヴェール学院校長池田先生のワークショップから始まった)

★3年前に、香里ヌヴェール学院とアサンプション国際が、同時に、共学化して、21世紀型教育を全面展開していく改革を行った。生徒も集まり、改革第1ステージはまずまずだった。そこで第2ステージとして、カリキュラムの充実と新たなキャリアデザインの開発へと向かうことになったが、そのときに両校の校長も新しくなった。そして、香里ヌヴェール学院の経営母体の聖母も小中高の校長が新しくなった。

★学校法人聖母女学院グループとアサンプション国際は協力しながら、日本の教育改革を牽引するミッションを引き受けて、新たにスタートしたのである。

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★そのとき、理事長赤野先生は、学習する組織をベースにするカリキュラムマネジメントをするには、授業の核心部分であるPBL(Project besed Learning)の根源的な精神を理事長・理事・校長・教頭などの経営陣がいつも対話し、共有し続けることによって、良質な教育を生み出す持続可能性のメカニズムを創った。それが聖母グループの教育研究センター(理事長、理事、インターナショナルプリスクール、保育園、幼稚園、小学校、中学校、高等学校の校長などがメンバー)の設置であった。

★経営陣が一堂に会してPBL授業の研修をするというのは、おそらく他校では考えられない。経営陣は経営のことにしか興味と関心がなく、教育は校長に丸投げというところがほとんどだろう。しかし、本来組織は、経営トップチームは、教育と経営の両輪のビジョンを共有し、それがどう実現しているのかをマネジメントするのが当たり前なのだが、学校組織というのは株主総会があるわけではないので、意外と教育と経営の両輪を回すことをしないままになっているケースが多い。

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(香里ヌヴェール学院小学校の西山校長も鋭い視点を披露)

★学校の改革と言われる場合、一般に校長と現場の話のように思われるが、実は理事会自身がリーダーシップを発揮することが、本来は重要である。赤野理事長はそこを真剣に捉えなおし、3年間着実に歩を進めてきて、4年目を第2ステージとしてジャンプしたのである。

★この教育センターの研修を3月からの準備段階も含めると、6回目を迎える。今回は香里ヌヴェール学院の池田校長のSGDs関連のワークショップを行った。本来3時間で行うものであるが、30分で行った。というのもワークショップを共体験して終わりではなく、そのワークショップの根源的な精神のリフレクションをするもう一つのPBLワークショップがあるからである。

★池田校長は、ドネラ・メドウス教授の影響でできあがったあの「世界がもし100人の村だったら」を紹介した。ドネラ・メドウス教授が加わったローマクラブの「成長の限界プロジェクト」でも使われている「データスケープ」を活用して、身近な現象に実は地球規模の問題があることを示すポスターをつくるワークショップを行ったのである。

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★実際に生徒と行う時は、そのポスターが示す問題は、SDGsの17のカテゴリーのどこに入るのかまで考えていく。パトスとロゴスの弁証法が展開するのだが、今回は授業そのもののワークショップではなかったので、そこまでは行わなかった。

★経営陣が、池田校長のワークショップを共体験したうえで、改めてPBLの基本要素である「ファシリテーター」と「自分ごと」について、イメージを共有するメタワークショップに進んだ。

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★おもしろかったのは、それぞれが多様なイメージを持ちながらも、ある共通の志向性が存在していたというコトが確認されたことだ。このような研修の最後は、とかく文言を定義して統一して共有できたつもりになる要素還元主義という関係主義であるPBLとは真逆の罠に陥りがちだが、この研修では、分かち合いというそれぞれの想いが関係しあって目に見えない根源的な魂がそこに広がることを共感する対話が貫徹していた。

★この相互に関係し合いながら目に見えない根源的な魂の存在を共感することこそ、ドネラ・メドウス教授が活用してシステム思考そのものである。このシステム思考はピーター・センゲをはじめMITメディアラボが提唱するPBLのベースでもある。そして、このPBLは、世界のPBLのプロトタイプでもある。レゴで展開している学びは、みなこれである。

★かくして、聖母グループとアサンプション国際のPBLは、先生方1人1人が創意工夫してオリジナリティが高いと同時にそれらが関係し合いシステム思考という土台が大回転しているのである。次回は最初のワークショップで、香里ヌヴェール学院小学校の西山校長が登場する。今から楽しみである。

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2019年7月 4日 (木)

学校雰囲気(05) 学校雰囲気進化論 あなたの選ぶ学校はどの段階?

★学校雰囲気というのは、学校内の教師と教師、教師と生徒、生徒と生徒・・・などのコミュニケーションが生み出す。そのコミュニケーションが創造的であればあるほど清浄の空気を生み出すが、ただの事務的なコミュニケーションだけだと重たい空気が流れる。

★創造的になるならないは、実は理事会の影響力が強い。校長は理事である場合が多いから、校長のビジョンや方針が理事会と同じだと普通は考えてよい。しかし、実際はそうでない悲劇的な場合も多い。

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★しかし、ここでは、校長=理事会としておこう。すると単純ではあるが、理事会と学校内の関係は4つのタイプがある。理事会も学内組織も極めて保守的で、大学合格実績も良好という学校は定番。この組織で成績上位者は明るいが、そうでないと重たい。ここにはピラミッドができるので、重たい雰囲気が支配する。しかし、学校側は、上位層しか見ないから明朗な雰囲気しかみえていない。

★そんな事実に心を痛める教師が何人か協力して、なんとか改革しようと動き出す。しかし、出る杭は打たれるで、そのような変化を抑圧する空気が流れる。大学合格実績がよいうちは、その抑圧は強烈なので、そのような改革派のメンバーは他の学校に出ていく。そして、そこで彼らが活躍する。そのような話は世に広まる。

★すると、その変化抑圧型の学校は、危機感をもつ。真っ先に理事会が、やはり変わらなくてはならないのかと、しかし、世間の事情や情報に精通していない抑圧型学校の教師は、動こうとしない。理事会が変化を叫んでも、学内は全体としては動かない。

★しかし、出ていった改革派を密かに憧れていたメンバーが、理事会と呼応していくつか動き始めるチームがでてくる。そのような理事会に対しても改革派教師に対して、頑迷固陋な教師陣の割合が多い場合は、今度は変化に対して防衛機制を作動させる学校雰囲気が漂うようになる。

★ところが、そのような学内の険悪な雰囲気は生徒募集に響いたり、進路指導に影響を与え、危機が本格的に訪れる。

★そこで、理事会も学内も一気呵成に改革モードにチェンジする。頑迷固陋なメンバーの退職率が上がる。というわけで、創造的破壊型学校雰囲気があふれ出る。生徒の応募も一気に増える。

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★しかし、それは理事会の見せかけで、理事会は学内の活性化をマネジメントしただけで、自分たち自身は変わろうとしない学校もある。そのような場合、改革的な雰囲気が、どことなくフェイクのように感じてしまう部分もでてくるものだ。

★こんなに単純ではないはずなのだが、意外にもこんな感じで学校雰囲気というのは進化するのである。

★保守型学校雰囲気の段階の進学校を選べば、大学合格は安心安全である。創造的破壊型学校雰囲気の段階の学校を選べば、生徒は大学合格どころか未来をみずから開く才能まで獲得できるだろう。問題は過渡的な段階の学校である。

★そのような学校が保守型雰囲気に逆戻りするのか創造的破壊型の学校になるのかは、カケであるが、戻るか戻らないかは、理事会の判断一つなのである。校長と理事会の関係が良好であるかどうかはチェックすべきだろう。

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2019年7月 3日 (水)

静岡聖光学院 <対話>が<対話>を生む。

★静岡聖光学院の先生方は、多忙な日々の中で、<対話>を大切にしている。教務の新しい動きをマネジメントしている副教頭の田代先生は、2日前にマレーシアの国際サミットから帰国したばかりだが、その<対話>を見守るように柔らかく参加していた。

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★つまり、どういうことかというと、今回の<対話>のアイデアは、中村先生(英語科)、佐野先生(数学科)、榊原先生(理科)、伊藤先生(社会)の<対話>から生まれた。いつもなら、田代先生が辣腕を振るうのだが、何せ、日本にいない。

★インドネシアに行っていたと思っていたら、気づいたらマレーシアだ、オーストラリアだ、フィリピンだ、シンガポールだということになっている。先生方は、田代先生の帰国を待っていたら、静岡聖光学院のPBL授業の進化や拡充が緩やかになると思ったし、田代先生もカリキュラムマネジメントは、ボトムアップやGrowth Mindsetを生み出すメンバーにエンパワーメント(委譲)することにしたのだろう。

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★とはいえ、田代先生ばかりか、学内の先生方も忙しい。海外にいなくても、海外とのコラボレーションの準備は想像を絶する忙しさである。とくに8月下旬に行う日本初の「静岡聖光学院中高国際サミット」の準備のそのプロセスは凄まじい。

★その合間を縫って、“Most Likely to Succeed” のDVDを見て、High Tech High (HTH)の教育に驚嘆し、またそこでHTHの教育と静岡聖光学院の教育の比較研究の<対話>が始まったりしている。そして、自分たちが実施しているPBL型授業を思考コード分析とハーバード大学のDerek Bok Center for Teaching and Learningが支援している中高の教師のためのアクティブラーニングデザインの手法も参考にしたりしている。

★なぜ海外の情報を自分たちのPBL授業に参照するのかというと、同校主催の国際サミットに参加する東南アジアの学校は、その国の顔とも呼べるエスタブリッシュな学校で、どの学校でも英語もPBLもICTも当たり前の文化になっている。

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★だから、今後英語科教員以外も英語は学ぶことになるし、いやすでに学んでいるし、授業も世界標準のPBL授業にしていくことの重要性をひしひしと感じているのである。そして、ICTを日常活用するのは、もはや当然。田代先生自身も英語を学んでいるし、PBL授業も実施しているわけだが、「必要に迫られて」行うことの重要性をしみじみと語っていた。

★このような状況の中で、今回の<対話>は、有志の教師が自然と集まってきて行われたものだ。<研修>という構えを取っ払い、先生方が発言した内容から、拡張したり、ある話題に集中したり、急に違う話題に飛んだりと、頭の中がグルグル大きく回転しながら時は過ぎた。ブレスト以上のブレスト。

★HTHの学びが成り立つ条件を意識しなおし、それを外していくと、静岡聖光学院の各教科のPBLと共通するものが見えてくる<対話>になった。HTHの学びはスパンが長いし、定期テストはない。表面的には静岡聖光学院のPBL授業とは違う。

★しかしながら、各教科の特性である知識の在り方を<対話>していくことで、既知としての知識の構造とその構造がわかることによって未知としての知識を創造することもあることに気づく<対話>となった。

★「プリズム」や「チョロQ」という何気ない「モノ」から、創造的な広がりや深まりの関係がパッと広がっていく<対話実験>も行った。

★「プリズム」「チョロQ」を「知識」やHTHの「制作物」と置き換えると、そこにある共通の構造や関係が見えてきたのである。

★先生方にとっては、自分の教科の「知識」は、「興味・関心事」である。

★今回、先生方は、その「知識」を思考のために必要なたんなる道具とするのではなく、「知識」を生徒と共有する時に、論理性や創造性も生み出すことができる質感に転換することの大切さに改めて気づいた。それでなければ、楽しくないし、「興味・関心」は湧いてこないのだと。

★思考とは<対話>であり、記憶もまた<対話>の中にあり、個体の中に閉じ込めれているわけではない開放系なのだという<対話>にも広がっていた。

★多くのケースでは、このような一見すると実用的でない<対話>は好まれないのだが、場所を変えても永遠続いた。5時間弱も。

★しかしながら、静岡聖光学院にとってのPBLの「存在理由」を、多角的に接近してリフレクションしていく<対話>が濃ければ濃いほど、そのPBLを共に営む教師と生徒のソフトパワーはしなやかでかつ強い力を生み出すことになるだろう。

★そして、その強烈なソフトパワーを生み出す静岡聖光学院の学びを国際サミットで海外の生徒と共有することで、今まで見たこともないダイナミクスが生まれるだろう。世界は変わるのである。

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2019年7月 2日 (火)

【2020年首都圏中学入試動向02】豊島岡女子と本郷の良い影響。

★日本経済新聞の記事「中高一貫校、高校の募集停止相次ぐ 豊島岡や本郷など」(2019/6/30 5:00)によると、「東京都内の有力中高一貫校が相次ぎ高校募集を停止する。本郷高校(豊島区)は2020年度入学、豊島岡女子学園(同)は21年度入学を最後に高校入試を取りやめる。都立中高一貫校5校も順次、高校の生徒募集を停止する。高校選びの選択肢が狭まり、中学受験を検討する家庭がさらに増えそうだ」ということだ。

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★両校の高校廃止の理由は、日比谷高校をはじめとする進学指導重点校の勢いがよく、成績優秀者を高校から獲得することができなくなったからとか、都立中高一貫校もすべてが完全中高一貫校になろうとしているため、中学からの成績優秀者の獲得競争にも備える必要がでてきたからとかいうのが、受験業界の常識だろうし、果たしてそうだろう。

★しかしながら、豊島岡女子のここ数年の動きは、桜蔭路線ではなかった。海城や聖光が、麻布のように完全中高一貫体制で、教科のみならず幅広い教養や感性を身につけられるプログラムの開発実施、グローバル教育への視野の拡大を実現していった道を歩み始めているような気がする。

★立教大学河野哲也教授の哲学カフェを行ったり、GAFAレベルの企業と連携してイベントを実施したり、洋書のビブリオバトルを開催したりしている。SSH認定校になったということもある。

★東大・医学部にまずはたくさん合格させ、同時にリベラルアーツの現代化=STEAM×哲学も実施。2つの合力を強烈につくっていく。まさに海城、聖光学院の戦略であり、麻布がモデルになっている可能性が高い。

★本郷と豊島岡女子が高校を廃止することが、中学受験者数を激増させるかと言えば、微増はあるが激増はないだろう。ただし、私立中高一貫校の教育の在り方において、合格実績促進教育と教養拡充教育の合力をつくるダイナミックな質の変化が起こることは確かだろう。

 

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麻布の奥行 首都圏模試センターが取材。

★昨日、麻布の平校長に、首都圏模試センターの北氏(同センター取締役・教育情報部長)と山下氏(同センター取締役社長)がインタビューをした。その内容は9月に公開する予定だという。

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★それにしても、麻布の奥行きは想像以上に深い。大学入試改革や未来予想など、世は喧しいが、そんなことは、1989年のベルリンの壁が崩れたときから予想し、着々と対応を考えてきた節がある。

★しかも、その対応の判断基準は、あくまで江原素六の建学の精神である。だから、英語教育も対話型授業もICTもグローバル教育も全部そのころからブラッシュアップしているし、そもそもリベラルアーツの現代化は、すでに麻布が新教養主義の一環としてつくりあげてきた土曜に行っている教養総合に結実している。

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★探究だとか論文指導も、社会科の論文(あまり世の中に公開されていないかもしれない)や「論集」に象徴されている。

★だから、外部との連携において、相手が新自由主義やポピュリズムの延長上にあるとみなすと、厳しくはねのける。自由で世界に開かれてはいるが、なんでもありありではない。

★麻布学園内の自然状態と一歩外に出た後の契約社会との識別がはっきりしているし、精神の式典に対し、自由と言えども厳かな雰囲気を尊重する自由がある気がする。

★首都圏模試センターの記事が待ち遠しい。

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工学院 チーム田中(了) チーム工学院着々!

★教務主任田中歩先生は、チーム田中だけをマネジメントしているわけではない。重要なことはチーム工学院の良好な質感を、教師と生徒といっしょにつくりあげていくことである。それには<対話>が欠かせない。授業の中に<対話>の機会をつくるのはそういうわけだろう。

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★授業見学に訪れたその日は、中学の学校説明会も開催されていた。分身の術を使えないから、思考力入試の対策講座など見ることはできなかったが、準備段階を覗いて、その学びの空間を見ることはできた。司書の方々に今日はどなたがファシリテーターをやるんですかと尋ねたところ、有山先生であると。

★その瞬間、この空間でデザイン思考の世界が広がるビジョンが見えた。申し込みはすぐに満席になってしまったというから、やはりこのタイプの入試のトレンドは着実にきている。

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★田中歩先生が、体験授業もやっているので、少し見てくださいねとアピールするので、ジョエル先生の英語と平林先生の社会の授業を覗いてみた。両授業も締め切らざるを得ない人気だという。ジョエル先生の英語の授業も平林先生の授業もPBL。

★ジョエル先生の授業は満杯だったし、グループワークだったから、受験生の顔は撮れないので、写真は撮らなかった。ただ、保護者も見学しているので、授業終了後、拍手喝采だった。その興奮した響きから、すばらしい授業だっただろうそのシーンはすぐに思い浮かべることができた。何せ、その日のジョエル先生の高2の文学授業を見学したばかりだったので。

★平林先生の社会の授業は、なんとマイクラ(Minecraft)を使った授業だった。台数に限りがあるので、こちらもすぐに締め切られたそうだ。<Peer>作業で仲間と一緒に創っていく授業体験。受験を超えて学びの衝撃に感動したに違いない。

★今回のテーマは「自分の好きな島をイメージして創ってみよう」というものだった。島の地理的条件、島の生活の様子、島の歴史、島の文化、島の統治体制や経済システム、インフラ、外部との交易や交流との関係など、多角的思考を見える化しながら学ぶことができる。

★「島」を通して、世界をどうのように創るのか、世界の存在理由をどう設定するのかなど、実は小さく始めて大きな問題を解決するシナリオになっている。

★田中歩先生は、チーム田中が創発的な勢いがあるのは、このような先輩教師陣が果敢に挑戦している後ろ姿を見られるからだと情熱の笑みを浮かべながら語った。

 

 

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2019年7月 1日 (月)

工学院 チーム田中③ PBL授業の存在価値を高める

★チーム田中の活動において、田中歩先生は、スーパーファシリテーターというロールを果たしているわけであるが、同時に新しい何かが自然とというか、メンバの主体性によって生まれてくるマインドセットをするスーパージェンレーターの役割も果たしている。

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★というのも、田中歩先生は、世界から工学院の教育を考えているから、国内の教育では制度上、世界の本物のエスタブリッシュ校と同じ土俵で学べないということを熟知している。

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★従来は、それに気づいた一握りの生徒が家庭の力で留学したりしてきたわけであるが、現代の日本の国力の低下を救うには、一握りの生徒の教育ではなく、学校全体の教育の質の向上を果たさなくてはならないと田中歩先生は語る。

★そのためには、海外のグローバル高大接続が可能なコミュニティと数多く連携することが大切なのだと。実際3つくらいのコミュニティと連携する予定だという。

★しかしながら、連携したいからと言って、すぐに連携できるわけではなく、C1英語のレべルやプロジェクト型の学びができる環境でなくてはそれらのコミュニティとは連携ができない。

★しかも、海外のそのようなコミュニティは、日本の学習指導要領の教科主義とはまた違う、かなり柔軟な科目設定nなっていて、昨今言われている教科横断型教科とか合科とかいうのは当たり前なのである。

★したがって、チーム田中のメンバーのPBL型授業は、そのようなしなやかで強い思考力や知性やタフネスを生み出すような授業としての存在価値を高めていきたいのだという野望があるようだ。

★つまり、今の大学受験体制や大学入試改革の枠内の教科とか探究とかいうものにこだわりをもっていると、世界のエスタブリッシュスクールと同じ土俵で学び合うコトができない。そして、田中歩先生は、チーム田中は、このこだわりを捨て、現状の殻を打ち破る何かを生み出す予感がするというのである。

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工学院 チーム田中② 外のつながりも大切にする

★高校の教務主任田中歩先生は、前中学教務主任の太田晃介先生を招いた。現在、太田先生は、大阪市立水都国際の高等部の教頭。G20が、隣接地帯で行われているため学校は休みで、少しの合間帰省していた。その連絡を受けた田中歩先生は、だったら古巣のスクライビング研修に参加してよと頼んだそうだ。

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★ちょうど、新海先生がファシリテーターに挑戦していた時間帯だったので、1回目のスクライビングは見学して、2回目のベッキー先生のスクライビングワークのときにファシリテーターの役を果たした。実は、最後のオチのスキルの違いを演出するために見学していた。

★水都国際は、高校からはIBコースを設定する予定だが、それ以外は、IBのエッセンスを活用した21世紀型の先進的教育を実施している。英語以外の教科もイマージョン教育を行っているというコトで、大阪ではメディアに注目されている。

★しかしながら、太田先生にとって、それは工学院の時から経験しているから、自然体で仕事ができるということだ。ただし、職員室や会議もオールイングリッシュなので、設立準備期間に英語は相当ブラッシュアップした。

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★ベッキー先生のスクライビングも当然英語でファシリテートした。

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★大阪の水都国際の先生がファシリテートしたり、英語と日本語両方で研修が進むなど、工学院は完全にグローバルイマージョンのステージにある。

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★おもしろかったのは、太田先生のファシリテーターの最後のシーンで活用したスキルツールは「比較・対照」が中心だったのに対し、新海先生は「置換・変換」スキルが中心だったという違いだ。

★比較によるズレから気づくこともあるし、置換・変換のときに生じるズレから気づくこともある。いずれにしても、気づきのメカニズムを動かすスキルツールを二人は発動していた。

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★3回目再び新海先生がスクライビングのファシリテーターを行ったが、グラフに変換するスキルをさらに有効に活用していた。体験と共有のループがRe-creationを生み出す。つまりリクリエーション。やはり、このようなファシリテータのいる対話は創造的で楽しいのではなないだろうか。

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工学院 チーム田中① 新しいファシリテーターの誕生

★工学院では、教務主任田中歩先生が座長のプロジェクトであるチーム田中が活躍している。正式名称は、TGP(Talent Growth Project)で、2年未満の教師が、工学院のPBLを研究するチームで、当初は1人ひとりのPBL授業のタレント、テクノロジー、トレランスという3Tの基礎をマスタリーする目的で発足した。

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(新海先生のメンバーの対話を見守る眼差しは、授業のときに生徒を見守る眼差しと同期していた)

★しかしながら、工学院の思考コードを研修ごとに共有していくことによって、基準の解釈はズレはなくなりはしないが、対話によって共通するものも見えてきた。すると、各メンバーの授業は生徒の思考が活性化する豊かな授業が展開するようになってきた。

★だから、だれもPBLの基礎ができないということは、はやくもなくなったわえである。

★そこで、田中歩先生は、いろいろなアプローチをして、次のステージを探し始めた。9月以降のアップデートをどうするか。そのため、田中先生はメンバーの授業を見たり、対話をしたり、チーム田中のアップデートの最近接発達領域を模索している。

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★そんな中、考えてみればPBL授業で、教師は同時にファシリテーターも果たしているわけだから、このチームの研修の場でも、ファシリテーターのロールプレイができるはずだということになった。

★チーム田中は、PBLの基礎を思考コードをコンパスとして行うことはできるが、どこまで自覚的かは、まだメンバーによって違う。ジョエル先生やベッキー先生のようにすでにスーパーモデルの授業を行うコトができるメンバーもいるが、それぞれ授業デザインの方法や授業の各シーンや生徒の思考の広さや深さの質をどのように高めていくか対話をして分かち合ってはいない。

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★それは、1年通して続けていかなくてはならないけれど、その中で、そもそもファシリテーターとはどのような役割なのかどんな存在理由を持っているのかなど共有しておくことは優先順位として高い。

★そして、このようなロールプレイは、スポーツと同じで、理論書を読んだだけでは身につかない。体験が極めて重要である。体験を通して気づいたコトを対話し共有していくことがまずは優先順位が高い。ただ、そのタイミングがこんなに早くやってくるとは思わなかったというのが田中歩先生の驚きと感動だったと思う。

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★そんなわけで、今回は数学科の新海先生がファシリテーターに挑戦することになった。新海先生は、スクライビング研修を進めながら、数学の教師特有のスキルを道具として使った。それは置換あるいは変換という思考スキルである。それと統計学。

★濱崎先生が、自分の保険体育の授業のストーリーを語ったり、ジョエル先生が自身の英文学の授業のストーリーを語ったあと、それを他のメンバーがフローチャートに変換し、さらにメンバー全員でチャートの各節を思考コードで置き換えていく。ここまでは、今まで行ってきたスクライビング手法だが、今回はメンバーの喧々諤々の対話を聞きながら、言葉をグラフにさらに転換することで、シンプルにイメージを共有することに新海先生はチャレンジをした。

★その場で新たなファシリテーターの道具を創り上げたわけだ(レヴィ・ストロースの野生の思考のブリコラージュ手法)。それによって、授業の展開と思考コードの相関図をメンバーといっしょに創り上げた。ファシリテーターとして、どういう指示をだせばよいのか?それは、メンバーを信頼して、メンバーの対話に任せるという選択をした。

★Cocreationをファシリテートした体験は新海先生にとってはなかなかよきものだったと田中歩先生は微笑んだ。いずれにしても、思考コードと時間をグラフにすることで多くの気づきが生まれたが、その道具を新海先生ははやくもオリジナルツールとして獲得したのである。

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