【未来を創る学校03】新しい臨床知による教育の可能性
★よく教育改革で、「世界を変える 世界を創る」などという話になると、トレンド校長たちの登壇とか鼎談とか騒がれる。そしてそこにとぐろを巻くように、あのアイヒマンのような「普通の人びと」が現れる。しかし、実際に変えているのは、現場の教師であり生徒である。そこに光が当たらない。なぜか?セミナーやっても人が集まらないし、雑誌も売れないからだ。
★今重要なのは、現場で、英語やPBLやリベラルアーツやICTに技術的に格闘しているだけではなく、臨床教育学の方向性の新しい臨床知をすでに実践している先生方や生徒なのだ。基本は、ダイアローグという意味での対話だが、ソクラテスやヘーゲル的な哲学的対話ではなく、フッサールのような間主観ベースの現象学的な対話の流れだろう。
★「臨床教育学」というと河合隼雄の考え方が現場で広まっていた時期もあるし、今もそうなのだろう。しかし、もっと日常に臨床知が必要とされている。
★アイデンティティは、客観的に存在するわけでもないし、主観的に存在するわけでもない、諸関係とのかかわりの中で、成長し、自己変容していくのが、目の前の生徒の姿である。そして、それを見守りながらも共に語り合い、影響し合う間主観的な状況を互いに信頼できる日常の中での変容が起こっているのが現場だ。この変容は間主観を生み出す参加者全員に起こる。生徒だけが自己変容し、教師は自己変容しないというのは、臨床知ではない。だから、同じ学びのプログラムを活用している人やパッケージを求める人は「普通の人びと」で、恐ろしいのだ。
★つまり、この一見非認知的で非日常性を否定する「普通」を創り出そうという合理的・全体主義的教育の流れがあるということなのだ。GAFA的な強欲市場原理を持ち込む輩だ。
★教育に市場をいれてはいけないという話題があるが、それは強欲市場主義で、公正な市場はいれないわけにはいかない。市場のない生活はあり得ないからだ。なぜなら公正的な市場とは、間主観的な人間関係の信頼性が生成される場所で、学校現場で生み出されているのは、まさにここで生きる力だ。したがって、教育に市場をいれるなという人は、この信頼性を排除するこれまた「普通の人びと」の一極である。
★もともと、この公正な市場は、国家がコントロールする前から存在していた。この公正な市場をベースにした市民社会をめぐって啓蒙思想以来の政治・経済・科学がある。フッサールもその流れで、この流れを汲むマルティヌス・ヤン・ランゲフェルド(Martinus Jan Langeveld、1905年 - 1989年)の影響を受けて京都大学が拠点となって「臨床教育学」が生まれ浸透したようだ。河合隼雄は、その実践者の1人で、提唱者は、ランゲフェルドに師事した和田修二教授。
★ただ、和田教授は、根っこはハイデッガーだし、河井隼雄はユングである。ランゲフェルド自身はフッサールに影響を受けている。この三者の違いがあるのかどうかは、なかなか立証できないが、おそらくあるだろう。
★フッサールは、まさにあの時代が訪れる前夜にあの一色の雰囲気に抑圧されていたし、夜と霧のフランクルは、「普通の人びと」には想像を絶する凄惨な事態に閉じ込められていた。IBやランドスクエアを創設することに尽力したクルト・ハーンもその雰囲気に捕らえられていたが、イギリスが亡命をサポートしてくれた。
★私たち日本人だって、その雰囲気一色に染まっていた時代があったのに、それを国家からは制度としては一掃したが、組織や集団の中にはその雰囲気を作り出す反市民性の温床となってしまったところも依然としてある。
★この反市民性は、ドイツでもアメリカでも日本でもおそらく世界に拡散していて、弱者に刃を向く。知人の子どもがあの列にいた。あの瞬間そこは夜と霧の場と化した。
★反市民性は、かくして夜と霧をまといいたるところに忍び寄る。自己肯定感が低いとか主体性がないとか、だから制度でなんとかしようという改革が失敗するのは、忍び寄る反市民性を遮断できないからだ。むしろ、反市民性の雰囲気を増幅してしまうからだ。
★一方通行型の授業でなければ、大学実績はだせないと嘯いているのは、まさに反市民性に道を開く「普通の人びと」である。彼らは対話を好まない。命令される一方通行型人間関係が心地よいのだろう。
★すくなくとも、この忍び寄る反市民性の足音や気配に気づく知を教師も生徒も共有するには、今、新しい教育おける臨床知が必要だし、すでに生まれている。最近、保険体育、家庭科の先生、養護の先生、幼稚園の先生などと対話する機会が増えた。そこには新しい臨床知がすでに生まれている。それが何かを追究したいし、それがPBLの中の対話にも広がったとしたら、ようやく市民性が現場から生まれるだろう。そこに未来がある。
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