工学院の授業見学会 教師も生徒も内なる炎をたぎらせる(3)
★そんなことを妄想(笑)しながら、奥津先生のスピーチを聞いて、感動が増幅していたのだが、そのあとの授業見学(といっても一通りみてまわったので、授業のコンテンツそのものは把握していない)をして、やはり高水準で持続可能になったPBL型授業や英語イマージョン教育の数学など、毎年ここまでやるのは、人材確保や開発のシステムがしっかりしていないとできないことだと感銘を受けた。
★そんな中で、中1の数学のPBLの授業には、衝撃を受けた。数学はPBLにはなかなか取り組みにくい教科である。というのは、数学の教師の能力の問題ではなく、日本の数学の学習指導要領が、硬い数学領域で占められていて、柔らかい数学の領域を教科の授業の中で挿入することが難しいからだ。
★化学では、新物質の発見について考察する時に、柔らかい数学の領域を引き込むから、ワクワクするのであるが、それが数学本家本元の数学科の授業では難しい。「最近接発達領域」というのは、実は数学のためにあるようなものだが、それを仕掛ける意味で、PBLを挿入して、対話を通して、各生徒のそれぞれの「最近接発達領域」を見い出しながら、1人もおいていかない授業を展開することは可能だし、工学院の数学科のPBL型授業はここには到達している。
★しかし、今回目にした中1の数学の代数のPBLでは、ハンドアウトの問いは、斬新なものだった。数学というと、まずは計算の仕方や文字式、因数分解の取り扱いについて、基礎、応用、発展とたくさんの演習問題をこなしていくのが普通だろうし、その合間にPBLを挟んで、「最近接発達領域」を確認して、それぞれの壁を崩して進んでいくというパターンが多いだろう。
★ところが、私の目の前に広がっていた数学のPBLは、そういう部分もあるのだろうが、考える問題をバーンと投げて、個人で考え、生徒同士で対話して考え方を共有していくというもののように感じた。
★数学は、もともとイマジネーションは重要なのだが、問題演習になると、そこが自動化し、イマジネーションをいちいち立ち上げなくてもできてしまうということもある。
★ただ、東大をはじめとする国立大学の数学の問題の中には、一見するとよくある問題に見えるが、問題文を読むと、ブラックボックスでできていて、何がわからないのかをイメージしなおすところからはじめなければならない。よく国語は、数学の文章題も読まなくてはならないから教科横断の基礎であると言われるが、現状の学習指導要領の読解リテラシーは、すべての解答は文章題に書いてあって、ブラックボックスになっていない。
★本来ブラックボックスである小説も、文章が断片だから、ブラックボックスとして取り扱えないのが現状である。詩はたまにあるが、そういう取り扱いをしているかどうかは不明である。
★したがって、意外とそのような読解リテラシーでは、数学の問題文をすぐには理解できないのである。ある意味湯川秀樹などの科学者が語っているように、あるいは東大の現代文の素材文でも語られたように、数学や科学や歴史は、詩であり物語であると置き換えることができる。
★ところが、最近の現代文の素材文は、だんだん文学というブラックボックスの文章は避けられる傾向にある。
★そんな中で、中1の数学の授業で投じられた問題が、すてきだった。ちらっと見ただけだが、すぐに、“Listen to the sound of the earth turning.”というオノ・ヨーコの一行詩を思い出した。この詩集を読んだジョン・レノンがあの「イマジン」を作曲するインスピレーションを得たという。
★それはともかく、地球から一定の高さを結ぶひもの長さを求めるにはいかにしたら可能かという問題だったと思うが、目の前の手の中に収納できるスケールの円周を求めるのではなく、イメージするしかないスケールの大きい問題を投げかけていたのだ。
★まさに円周を求めるdirect learning以上に、イマジネーションや数学的思考など生徒は直接思ってもいなかったことまで想いを馳せることができる。そういうIndirect learningもカップリングされた数学の授業だったように感じた。数学のPBL型授業は、このダブルラーニングがいっぺんに立ち上がっている状態がもしかしたら理想的なのかもしれない。
★そういえば、工学院の卒業生インタビューで、同校での受験勉強が面白かったのは、目の前の問題を解くこと以上に、もっと何か重要なことを学べたような気がするからだと応えてくれていたのを思い出した。
★奥津先生が、学校説明のスピーチの中で、大学合格実績が伸びてきた話もされたが、まさに大学進学準備教育と中1の数学の授業がダブルラーニングという意味でつながっているからなのかもしれない。
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