工学院の授業見学会 教師も生徒も内なる炎をたぎらせる(1)
★6月1日(土)、工学院大学附属中学校は、授業見学会を実施した。感動した。これが素直な感想である。授業見学会が始まる前の30分間、教頭代行(中学教務主任でもある)の奥津先生から工学院の教育を俯瞰する語りがあった。30分で、こんなにコンパクトに工学院の教育の歴史と未来といまここでの教育活動の全貌と何と言っても生徒の成長の姿を物語ったのは奥津先生が初めてではないか。しかも、わかりやすい!
★校長と教頭はどこにいったのかというと、校長は広報部長とバンコクで海外帰国生対象の説明会や塾回りをしているという。教頭はオランダで脳科学と学びの新しい理論を学びに行っているという。つまり、充実とさらなるマーケット拡張と新機軸の三位一体ができているということなのだと直感した。
★校長はしばらく、海外遠征はしてこなかった。目下のところ、日本の教育改革を身を粉にして推進する私学人で、文科省のワーキンググループメンバーとして毎週、文科省や見識者と議論して変えたいでもできないというダブルバインド状態の世論を味方にした文科省の壁を乗り越えようとしている。
★そして、工学院はその日本のいや世界の未来を創る学校リーダーに自己変容しようとしてきた。2014年に校長に就任して、21世紀型教育ビジョンを提唱し、学内を巻き込んだ。当時は先生方にとっては、いい迷惑だったかもしれない。突然の雷鳴を聞いて、耳をふさいだ教師も保護者もいたはずだ。この真っすぐな改革手法は、ビジョン共有や共感的なコミュニケーションをしないでやってもうまくいかないと外部コンサルタントや情報シンクタンクの中には陰でささやいていた人もいただろう。
★しかし、平方校長は、真理は真理であるという信念の人である。誠の道を歩けば、ビジョンは徐々に共有されるものだ、道を一緒に歩きながら、内なる炎として燃え上がるものであると確信していた。もちろん、そうでないメンバーもいるだろう。でも、いつかは燃えるんだ。そういう信念を持っているのである。
★たしかに、真理は真理だという先生方は生まれた。しかし、同時にそうではない先生方もいただろう。最初は、マーケティングや組織開発のセオリー通り、この手法は学内に分裂を生み出したであろう。ところが、革新的な動きは、目に見える形だった。授業はPBLに変わるし、いちはやく学びのコンパスである「思考コード」をつくり、思考力革命をやってのけた。それらは、世の中は「主体的・対話的で深い学び」という名称でウネリになり、中学入試において思考力入試として新タイプ入試のトレンドの先駆けになった。
★C1英語と称して、ケンブリッジ・イングリッシュ・スクールにも本邦初認定され、ハイブリッドインタークラスは、紆余曲折ありながらも驚きのグローバル教育環境となった。
★全校生徒が1人1台のタブレットやラップトップを使いながら授業を受けられるようにもなっている。図書館は電子書籍化し、fabラボスペースにもなっている。ふだんのPBL授業は、授業を超えてデザイン思考のプログラムに発展しているし、fabスペースも図書館以外にも増えていて、まさにlearning by makingの環境は着々と整い始めている。
★高校からのハイブリッド・サイエンス・コースも、工学院大学をはじめとする他大学と高大連携をして、AP並みの講座を開設している。ブラックホール発見の研究者が工学院大学にはいるから、最先端の科学についての講義が今月開催される予定になっているとも聞き及ぶ。
★そして、改革しても大学合格実績なんてでないんだという世の固定概念も今春打ち砕いた。
★奥津先生、高校教務主任の田中歩先生、教科主任、学年主任、カリキュラムマネジメントリーダーなどが、一丸となって活動しなければこうは変わらない。工学院の先生方は控えめである。こういう状態はビジョンが共有されているというのだが、まだまだだという。
★それはそれでよい。しかし、大事なことは形になって動いていることと内なる炎は相関するものである。たしかに私がやったのだと単純な因果関係を振り回す必要はない。でも、大きなベクトルが動いていることも一方で事実である。
★今回、たくさんの受験生と保護者が訪れた。それは、大きなベクトルが動いているのが、受験市場ではなく教育市場で見え始めているのだろう。たしかに、受験市場も変わってきている。今まで通り偏差値や大学進学実績で選択する市場の相変わらず残っているが、思考力革命による一人一人の才能開発環境のクオリティを見極めて選択する教育市場が受験市場に割り込んできてもいる。
★それは、受験市場の中の心ある情報シンクタンクの方々が認めていて、受験案内や雑誌やSNSで大発信し始めてもいる。
★奥津先生は、そのことをきちんと語り、しかも工学院だけではなく仲間の学校とその道を切り拓いていることを語った。この余裕こそ、伝統と革新の新しいバランスが学内で充実してきたことの証拠なのだ。自分の学校が道を切り拓いたなどという学校もある中で、このジェントルマン的なスピーチはまさにクリエイティブクラスの証である。クリエイティブクラスはなんといっても寛容の精神の持ち主なのだ。
★そして、だからこそ、平方校長は先生方に任せて、バンコクに遠征したのである。海外の帰国子女市場は、まだまだ遅れているので、2014年にそうしたように、平方校長は再び、東南アジアに渡ったのである。子供たちの未来の知の実装を啓蒙しに。グローバル教育が、グローバルな環境の地で、そうなっていないパラドクスの知恵の輪を解きに。
| 固定リンク
「中学入試」カテゴリの記事
- 2025年中学入試動向(31)八雲学園 目に見えぬ凄まじい質的変化(2024.12.06)
- 2025年中学入試動向(30)三輪田の魅力 不易の読書と論文とボランティア(2024.12.06)
- 2025年中学入試動向(29)足立学園 大学進学実績とグローバル教育(2024.12.05)
- 2025年中学入試動向(28)富士見丘 11月合判模試の志望者数増(2024.12.05)
- 2025年中学入試動向(27)国学院久我山 本来的なSTEAMを「くがラボ」で(2024.12.04)
最近のコメント