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2019年6月 2日 (日)

工学院の授業見学会 教師も生徒も内なる炎をたぎらせる(了)

★授業見学会が終わった後、ラウンジでハイブリッドインタークラス志望者対象の説明を補った。参加者はまさに多様性で、日本人の家庭だけではなかった。時代は変わったのである。

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★昨日の新宿キャンパスのハイブリッドインターコースの授業見学に加え、今回の八王子キャンパスの授業見学でも、インタークラスの志望者は参加していた。十数組の受験生家族が説明を聞きに集まってきた。

★説明する先生は、高等部教務主任の田中歩先生。教務主任の前が英語科主任だったから、インタークラス志望者の方々に対応するのは万全。すでに、全体説明会で奥津先生が工学院の共通教育システムについては語っていたから、田中先生は、インタークラスとそうでないクラスとの違いがある部分に絞って話をした。

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★とはいっても、システム自体の違いは実はない。システムというより、日本語ではなく英語が活用されるという点の違いが大きく、そうなると日本語クラスと違い、英語の技能の差によって、授業の進度や理解がどうなるかという話が大部を占めた。

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★しかも、その英語の技能の差というのは、インタークラス立ち上げの時から比べて、かなり縮まっていて、むしろ日本語のケアをどうするかという心配が受験生の保護者から質問としてあがった。当然、その質問をする保護者は英語で質問するわけだ。

★田中先生は、当然だが英語で、ナチュラルに対話をする。日本語何級でなければ受け入れないというルールはないから、今のところ個別に対応していくという話を当然するのだが、田中先生の話は、いつも具体的だ。

★実際に、日本語がそれほどできなくても、日本語も使えるようになっているインタークラスの生徒の例をだしたり、実際にどうなっているか、細かい点は中学を担当している奥津先生に質問しながら回答していくという、オープンでカジュアルな対話を進めていった。

★また、数学や理科のイマージョン教育は、全員が海外大学志向とは限らないから、日本の学力との差はあるのかというような話題にも当然なった。基本、日本の教科書に準拠した教材の英語版を活用するから、その問題はないことを説明したが、基本はCLILという教科横断型の授業展開が多いので、歴史も含めて、かなり高次思考を養うから、そこはあまり心配しなくても大丈夫であることも、丁寧に対話していた。

★この柔らかい田中歩先生の対話力が、実は工学院の急激な進化によって生じる齟齬を解消する柔軟な対応力を組織全体で作っている。平方校長が東南アジアで新たな市場開拓遠征をしているときも、学内は十分に良好な循環を果たしていたのである。今までなら、文科省などでの会議でどうしても出られない時などビデオレターでスピーチを流していたが、今回はもうそれはなかった。

★奥津先生や同僚の先生方と協力してありのままの普段のPBL型授業やハイブリッドインタークラスの授業を展開したり、保護者と柔らかい対話を展開できるようになっていたのである。そして、システムの話だけではなく、当事者の懸念に柔らかく丁寧に対応できる対話のクオリティを向上させていたのである。

★対話のクオリティは、当事者がまずどんな不安を持っているかリサーチすることから始まる。すでに説明会や授業見学をしているのだから、保護者はむしろ質問したいことがあるはずだからと、一方的な説明はせずに、質問を受け付けながら、必要な情報を参加者全員とシェアしていくというグローバル市民性の高いコミュニケーションをとっていった。英語も日本語も、相手に応じて使い分けしながら語っていく姿に、参加者は実に安心した様子だった。何より、システムの話は当然わかっているが、個人に特有な話については、わからないこともあるということを素直に明かしながら、澳津先生と対話しながら、保護者と話す態度は、意外と学校説明会では見ることがないシーンである。

★それにしても、中1で入ってくる段階で、CEFRレベルでB1の生徒がボリュームゾーンだという話を聞いて、確かにレベルは毎年あがっていると改めて思った。また、今年から夏の中3の国際交流は、いつもは、オーストラリアのアデレードに全員でいっていたのが、今年はハイブリッドインタークラスの生徒は米国カルフォルニアで国際プロジェクト2週間プログラムを体験するという。

★英語の力を高めるというより、海外の高校から参加者が集まる場の中で、チームビルディングをしたり、STEAM的な学びの中で研究や議論を英語で行っていく。将来は、これはAPにつながるだろう。

★学内でのインタークラスの学びは、海外でアカデミックな議論や研究で即活用できる段階であることを証明することにもなる。

★工学院の先生方や生徒はまだ気づいていないかもしれないが、外から見ているとわかるコトがある。それは、ハイブリッドインタークラスの学びは、海外でのアカデミックな活動ができるレベルであり、インタークラスではない2つのクラスは、実は他校の英語教育におけるアドバンストクラスぐらいのレベルになってしまうという路線を歩いているのである。

★それがケンブリッジイングリッシュスクール認定校のレベルであるし、今英語科主任の中川先生が中心となって動いているラウンドスクエアというIB(国際バカロレア)以上の教育共同体の加盟への準備は、そういうことを示唆しているのだ。

★このレベルが、あたり前になっているのが今の工学院の景色なのである。米国のチャドウィックスクールやチャータースクールの校長、UC系のアドミッションオフィサーのスタッフと話をするときに気づくのは、自分を前面にだすのではなく、いっしょに何ができるのかという自然な対話ができる。コンセプトや目標、理念について、くどくど話すことはない。それはもちろん大切で、尊重してくれるが、実はそこは互いに自由でよいのである。民主的で、オープンで、根拠を明らかにする話し方ができれば、まず信用がそこで生まれる。

★しかし、何をいっしょにできるのか、どんなシステムで、どのくらいの資金がかかるのか、具体的な話に進まないと、信頼関係は生まれない。

★田中歩先生と帰国生の保護者は、実際にはそういう対話になっているのである。互いに足りない部分は、どうやって解決していけばよいのか、それができるかできないのか。できなければ、諦めるし、できればハッピーなのである。しかし、そこで根性は求めない。それでは、できないかもしれないではないか。できないものはできない。努力してできるものはできる。システム上は規定がなくても、そこは交渉なのである。

★グローバル市民性とはそういう柔らかい対話と契約である。だから、システム原則主義では、うまく対話ができないし、場当たり主義でも信頼を得られない。では、困ったときにはどうするのか。グローバル市民性の充実した対話は、ケースメソッドである。6年間の中で、こういう事例があったという話をするのである。グローバル市民性において契約やルールはシステム以外にケースメソッドという慣習法も極めて重要である。

★日本の法実証主義は、実はグローバル市民性をベースとする人間関係において、仇となることがある。私立学校の系譜が、社会契約を基礎とする啓蒙思想にルーツがあるのは、そういうことである。まして、工学院は、130年も前に創設された日本で初めての私立学校としての工学系の学校である。奥津先生が、説明会で、ファーストペンギンとして明治時代に創設された学校であり、2014年に21世紀型教育に挑戦する再びファーストペンギンとしての学校であるという、工学院の系譜について語っていたが、その出発点は、広く市民に工学の学問や技術を共有するためにできた学校なのであるというコトだった。

★ルーツとそれを継承する未来を創る工学院。出発当時からグローバル市民性の精神を共有していたのである。東京駅丸の内駅舎。赤煉瓦の駅舎を設計したのは、工学院の創設に尽力した辰野金吾である。その駅舎の面影は、オランダのアムステルダムに行けばそのルーツをリアルに発見できるし、何と言っても辰野金吾が師事したジョサイア・コンドルは、ロンドンから来た若き建築家だった。

★彼は、アールヌーボの美術様式を好む、当時としてはすでにグローバル市民性に満ちた建築家というかアーティストだった。したがって、彼の立てた鹿鳴館は、時の政府からは評判が悪く、お雇い建築家は解雇されてしまう。政府は、威風堂々とした権威や権力を象徴する様式を期待していたのだった。

★≪私学の系譜≫は、もちろん、紆余曲折してこうして連綿とし継承されるが、辰野金吾やジョサイア・コンドルが大切にしたグローバル市民性は、今まさに工学院中高で大輪の花としてなろうとしている。田中歩先生の対話法は、私が10数年前に出遭ったチャドウィックの校長さながらの叡智に満ちた柔らかい対話だった。

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