戦略世界から生活世界へ いかにして可能か?
★「生活世界(life world)」という言葉は、エトムント・フッサールやユルゲン・ハーバーマスが使っているが、それは彼らの時代を支配しようとした暗黒面から防衛するあるいは奪還する人間的な世界という意味で使われてきた。フッサールは第一次世界大戦を経験し、第二次世界大戦がはじまる前年に亡くなった。
★ハーバーマスは、第二次世界大戦を経験し、戦後から冷戦終焉も経て、今も健在だ。ナチスに抑圧されたフランクフルト学派の研究所(IfS)再建に一役買いつつも、所長になることは辞して、さらなる新しい道を歩んでいる。その目標の一つに「生活世界」がある。
★ウィリアム・モリスは、彼らよりも前の世代。19世紀に生きた多彩な逸材。「生活世界」という言葉は使っていないだろうが、2つの世界大戦やその後今日まで勃発している戦争やテロの源流の一つである産業革命からいかに市民生活を防衛していくかあるいはデザインしていくかその構想やイメージを「ユートピアだより」という小説にしている。このユートピアは、AI社会でなければ実現できないような社会で、モリスの豊かで鋭い未来予測イマジネーションには驚いてしまう。
★ハーバーマスは、それぞれの時代の暗黒面に注目するというよりは、近代のメカニズムが、「生活世界」と「戦略世界(彼自身は戦略的行為としているが)の葛藤の歴史だと捉えている可能性が高い。果たしてその解釈が正しいのかどうか、私はハーバーマスを研究しているわけではないから、それは専門家に任せて、私はあくまで読者の1人としてある着想を持ったという話をしたいだけだ。
★「生活世界を戦略的行為によって植民地化している」とハーバーマスは語っているから、そのように考えていたのだろうと感じたわけだ。しかし、私はモリスのように「生活世界」はまだ世の中には存在したことがなく、それを望むことは「ユートピア」を描くのと同じことだと思うのだ。ただし、モリスは、このユートピアを社会主義的社会にショートさせてしまったという19世紀近代の社会の制約性を免れていない。
★社会主義にも資本主義にも「生活世界」は実現されていない。それは、モリスらのアーツ・アンド・クラフト運動そのものにはあったかもしれないが、生活世界として市民生活には広がらなかった。その運動は、バウ・ハウスやウィーン世紀末のアート活動、ロシアアバンギャルドに広がりはした。東急のルーツである田園都市株式会社(渋沢栄一創設)にも影響を与えた。
★そして、たしかにそれらは、その時代その時代の暗黒面に抑圧されてきたわけだ。この流れにあって、その暗黒面にあの手この手を使って、サバイブして今も脈々とその理念を継承し実現している団体が実は日本の私立中高一貫校である。すでに当事者は忘れているかもしれないが。
★そういう意味では、この生活世界という理念の系譜の私立学校が明治維新にできたのは奇跡であり、明治維新だったからこそ、生まれる条件があったということだろうが、それはまたいずれ考えたい。
★いずれにしても、ウィリアム・モリスは産業革命から生まれた暗黒面と対峙したし、フッサールは、第一次世界大戦を生み出す暗黒面と対峙した。ハーバーマスは、第二次世界大戦以降も姿を変えて現れる戦争を生み出す暗黒面と対峙した。そして、今私たちは、産業革命から生まれながら突然変異体となったAI社会から生まれる暗黒面と対峙しようとしている。
★ここで注意をしたいのは、産業革命やAI社会そのものが暗黒面なのではない。善なる側面と表裏一体なのである。しかし、AI社会が産業革命と大きく違うところは、機械の自動化ではなく、自律化という突然変異体となったことである。
★このことによって、化石燃料をゼロ化する可能性が見えてきたのである。産業革命の根源は化石燃料依存であり、それを巡り戦略世界が暗躍してきたわけだ。しかし、AI社会はそこを無化する可能性がある。
★こうなると、AI社会が暗黒面を標榜する意味がない。AIマシーンが1人1台の時代になったら、そもそも権力構造を維持する意味がない。それよりもすべての人々が幸せに生きていける生活世界を着々と創ったほうがよいのである。権力闘争というルサンチマンによるモチベーションが消滅した時、モチベーションを生み出すものは何か?それはアーツ・アンド・クラフトということである。
★人口減が経済危機に直面するのは、化石燃料の覇権競争から脱落するからである。しかし、Aiによってそれを解消するときがいよいよ到来する。
★クリエイティブクラスが誕生するというのは、そういうことなのであるが、当面、産業革命以降の近代化が頂点に達した戦略世界20世紀と生活世界のスタートである21世紀は同居し続ける。
★悲惨な事件もまだまだ起こる。戦略世界と生活世界の平衡をとりながら、進むしかないが、2040年には、生活世界の重要性が広まるであろう。それを生み出すプラットフォームの1つが私立中高一貫校の中に隠れている。これを見出すのが私のライフワーク。≪私学の系譜≫の探究とはそういうことである。
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