工学院を語るわけ ダブルPBL
★2014年以降、工学院が時代に対応する教育を行い、同時に世界を変える教育を行っているという二重性について、多くを語ってきた。取材も行いその都度その様子をメモしてきた。しかし、その記事の正当性、信頼性、妥当性は、読み手には、なかなか判断がつかない。出版社の情報誌に登場するシンクタンクの見識者のように、頻繁に公の雑誌に登場するわけでもない私は、実際にお会いした人以外は、ピンとこないのは当然だ。
★ブログもSNS時代スタート時には、ブロガーとかいう言葉が流行ったが、今ではもっと最新のSNSが登場して、長々と文章で表現するのはどうなんだと疑問の声も聴く。
★出版社だと毎度おなじみの偏差値が高い学校の記事はたくさん出てくるが、そうでない学校の情報はなかなかでてこない。でもどんな学校も最初から偏差値が高かったわけではない。麻布だって、一期生は10人もいなかった。洗足学園や鴎友学園女子の偏差値も、当初は40レンジ前後からスタートした。
★学校とは進化するものだ。そういう意味で、2014年以降の工学院は注目していたのだ。私がただ語っていてはホンマノオトの独断と偏見、主観に過ぎないと思われるのも、そりゃそうだろうなと私自身思いつつ、にもかかわらず書きたくなるのだ。
★そんな思いでいたが、昨年末から、工学院の教育全般が公の情報誌や雑誌で取り上げられる機会が多くなった。オッーと思っているうちに、大学進学実績も出るようになってきた。サンデー毎日(2019年5月19日号)の「難関大学合格者 10年間で伸びたベスト500校」という特集で、難関私大の関東・甲信越エリアで、工学院は100位にランクインしている。
★私立高校だけに絞ると、42位である。首都圏私立中高一貫校は300弱あるから、たしかに工学院の大学進学実績の飛躍は相当なものだ。
★一方、晶文社「首都圏中学受験案内2020」に掲載されている思考コードから「深い思考力」を入試で出題している学校のランキングを出すと、首都圏の共学校の中で、第3位となる。これも、晶文社編集部が掲載しているデータから言えることなのだ。
★つまり、アドミッションポリシー、ディプロマポリシーにおいて世間の目に触れる部分で工学院の教育力の一端が表現され始めたわけである。
★こうして、受験生にとって魅力であるカリキュラム、進学実績を出すカリキュラムの中核である工学院のPBL型授業について書くことは、いよいよ意義があるということになるのだ。
★今、教務主任の田中歩先生は、工学院の教師になって2年未満の先生方とプロジェクトチームを立ちあげている。PBL型授業のリサーチやブラッシュアップ、新しいPBL型授業など、かなり創発的なチームをつくっている。私も、光栄にもときどき手伝いに出かける、授業リサーチは、各先生方の50分授業をまるまる観察して分析して、シートをつくり、それを共有しながら授業終了後の10分休みに、廊下で立ち話をするわけだ。
★田中先生と一緒にする場合もあるし、そうでない場合もあるが、基本授業リサーチは、先生方のタレントを結果的にエンパワーメントすることになる。
★昨日は、中間試験直前の授業を見学しに行った。中間試験直前期間は、多くの場合、テスト対策講座になる。いつものPBL型授業とどう変わるのだろうかと。しかし、ダイレクトにテスト対策をするだけでははなかった。
★柳田先生の世界史の授業は、四大文明がテーマだったが、現代の環境問題を解決するために四大文明のどんな点を生かすことができるのか、プレゼンテーションするものだった。そして、プレゼンの後のフィードバックのところで、エンパワーメント評価すると同時に、テスト範囲の知識を問答するというPBL型授業だった。
★中村先生の生物(化学)の授業は、光合成と呼吸の比較を問答していたかと思えば、化学反応という現象をどう科学的にとらえるか、身近な問題からディスカッションしながら考えていくPBL型授業が展開していた。中村先生は、常にいまここでの現象を科学的なものの見方に置き換える問答を繰り返しているのが特徴的である。
★今回も、梅雨の季節を迎え、洗濯物を干すと臭いが気になるだろうが、その臭いをできるだけ消すために洗濯するときどんな工夫をするのかと。スライドでは、洗濯洗剤のパッケージがいくつか映し出され、あとは生徒は図録で調べながら、考えていく。
★生徒たちは、図録にある、酵素の特徴、温度、湿度との関係、PHとの関係などのグラフを活用しながら紐解いていく。いくつもの条件のレイヤーを重ねて、絞り込んでいく。おもしろかったのは、行きつかなくてもプレゼンをするというところだった。ゴールに行き着いたチームと行き着かなかったチームのプレゼン内容の比較が、思考錯誤のプロセスを共有することになるからだという。
★新海先生の中3の数学は、順列と組み合わせの範囲を寺子屋型PBLで展開されていた。ハンドアウトが巧みに制作されていて、進むにつれて、壁が少しずつ高くなっていく。セクションごとに個人ワークをして教え合う。その段階で、先に進めないことがあるから、チームごとにアドバイスしに新海先生は飛び回っている。
★数学は、最近接発達領域を生徒と教師が共有する対話と最近接発達領域の仮説を前提にしたハンドアウトというファシリティーを活用するとこに重要な意味がある。
★生徒にハンドアウトの構成について尋ねると、計算→基本問題→応用問題→発展問題となっていますと回答するのかと思っていたが、「置換」操作が複雑になっていきますよ。例えば、この問題なんかは、最初2を1に置換、再び1を2に置き換えていくところに気づくかですねと教えてくれた。
★どうやら、中間テスト勉強をダイレクトにしているかと思えば、もっと大事な学びを生徒は経験しているようだ。
★新海先生は、大学時代、統計学とプログラミングを研究していた。直接、数学の問題を解決することが、間接的には、もっと大きな問題に生徒が興味を持つように、とくにAi社会に突入する時代に生きる生徒にとって、そこに思いを馳せながら授業は展開したいのだと話してくれた。
★そのとき、ふと振り返れば、柳田先生は、四大文明の問題を解決する中間試験の学び以上の学びを行っていたし、中村先生も目の前の現象を通して、科学的思考を常に経験できる授業を展開していた。
★カーネギー・メロン大学のランディ・パウシュ教授が、末期がんで亡くなる前の年、「最後の授業」というシリーズを家族のため、学生のため、同僚のため、世界のために行った。余命宣告を受けていたから、終身教授として大学が準備してくれたのだろう。感動的な授業で、今では本にもなっているし、YouTubeで見ることもできる。
★教授が、自分の幼いころの学びを説明するところで、“head fake”という名で「間接的な学び」について語っている部分がある。フットボールを一生懸命やっていたころがあった。練習はきついし、楽しいというわけではなかった。フットボール選手にもなれなかった。でも、人生にとって大事な学びを体験できたと。
★工学院のチーム田中の先生方のPBLはだからこそ、Problem based Learningではなく、Project based Learningなのだと腑に落ちた。田中歩先生は、このような、観察→分析→対話→シェアという授業リサーチや研究会を構築しようとしている。
★平方校長は、このPBLのうち問題解決に力点をおくのは、高2.高3で、それを戦略的PBLと呼ぶのだと。そして、問題解決を通して生徒一人一人が自分にとって大事なものを発見してくことに力点をおくのが、高1くらいまでで、それをエンリッチメント(拡充型)PBLと呼ぶのだと語る。「ダブルPBL」システムとでも呼びたくなる。生徒の内発的モチベーションが湧き出てくるのは、このダブルPBLの力点のバランスが、生徒の成長と共に変容するのだろう。それは今年一年田中歩先生といっしょに歩きながら見極めていくことになると思う。
★とにも、ランディ・パウシュ教授がいまこうしているのは、幼いころの“head fake”の学びがあったからだという体験とシンクロする発想が、工学院にはあるということだ。それは受験生にとってますます魅力的になるだろうし、大学進学実績もますます出るようになるだろう。
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