三田国際学園のさらなる進化(03)中1MSTクラスの新しい学際的地理学
★2時間目は、教頭田中潤先生による地理の授業。田中先生は、「理系人になることを入学時から目標にしている中1MSTクラスであるから、予想通り、地理は暗記科目で、モチベーションがあがらないという生徒もいました」と。しかし、レヴィ・ストロースをはじめとする文化人類学に造詣の深い田中先生は、待ってましたとばかり、その先入観を砕いていく。
★田中先生は、今年の中1は、MSTのみならず、全体的に優秀であるが、それは従来の中学受験における勉強における優秀性で、本格的にフィールドワークを行ったり、問題を自ら発見したり、解決の方法論を工夫したりといった探究の学びは未開拓であるという。
★だから、地理を暗記科目だなんていう先入観は、新しい世界を開く格好の出発点。探究の真髄に生徒1人ひとりの知が開かれていくマインドセットを行えるよき機会だと捉えている。
★そこで、地形や気候を扱う場合、その内的営力と外的営力のメカニズムのダイナミクスを解明する思考実験授業を行っていく。私が見学した時は、プレートテクトニクスと世界の地形の相関関係を推理し、データによって解き明かしていくPBL型授業が遂行されていた。
★そのとき、地図に地形の3つのカテゴリーを色塗りしてみてくれるかなという田中先生の言葉を聞いた。あれっ?色塗りの手作業をアナログで行っていくとは!田中先生なら、タブレットを活用して、デジタル対応していくはずだが・・・と思ったのだ。
★すると、もうすぐタブレットが届くから、このような直接手を使って考える作業は、今日ぐらいかな。だからとっても貴重な体験だよと。連休が長かったことと、機種のバージョンアップがあったので、今年は手元に届くのに少し時間がかかているということだ。
★しかし、それがかえって、新鮮だった。デバイスを使わなくても、本質的なものの見方・考え方は学ぶことができる。それは、当然なのだが、最近は、私自身も含めて、デバイスありきになっている風潮があることを改めて感じた。田中先生は、デバイスは、その本質への気づきをもっと効果的に行える大事な武器ですよと。合理的な思考のプロセスが、真逆の野生の思考を生み出す気づきを得られるからですと。さすが文化人類学的視点。
★世界各地の標高と面積や人口との関係を、メッシュマップによってデータに変換する作業も行っていた。東大の今年の地理の問題でも出題されていたが、今回の授業で、その問題も中1段階であっさり解けてしまうほどパワフルな展開だった。
★タブレットを使えば、グーグルマップとGISのかけ合わせで、自分たちで創っていくことになるというのだから、もはや地理はデータサイエンス的な側面も持っている。
★また、このメッシュマップの発想は、白地図の空間に多重の情報レイヤーを重ねて、保険のマーケティングや地政学的リスクリサーチや自然災害予測学などに応用できる思考方法であることが、実際に一枚一枚のレイヤーを読み解きながら、ディスカッションしながら体得されていく授業だった。
★最後は、4つの地域の高度別面積分布のグラフを見せて、それがどの地域のものか考える問いを投げた。どれがアジアなのか、アフリカなのか、南アメリカなのか、ヨーロッパを示しているのか。プレートテクトニクスによって世界の地形の歴史を1時間で一気呵成に「思考=計算」してきたので、このような問題は中1MSTクラスのメンバーにとっては難しくない。大事なことは、どうやって考えていくか、計算していくのか、そのためにどんな情報やデータのレイヤーを重ねていくのかということだと田中先生は語る。
★ちなみにこの問題は慶応大学の入試問題であるということだ。
★田中先生は、「大学入試問題の中には、研究の最前線の成果を活用した良問もあります。大学入試悪玉論を語るのではなく、現場では、考える良問を活用することの方が有用だし、生徒が進むキャリアデザインにも希望があります。こんな研究をしている大学なんだということがわかるからです。中学入試は学校の顔と言われるが、大学入試も同じです」と語る。
★進学指導は、大学入試問題の背景にある学問の成果を生徒といかに共有していくかということである。そう考えれば受験勉強も学問の入口に立つことであり、生徒によっては、もっと先に進めるだろう。好奇心旺盛になり、開放的精神が開かれ、なぜだろうというワクワクする問いが自分の内側から生まれてくる。
★中1MSTクラスでは、もはや地理を暗記科目であるとみなす生徒は1人もいなくなっただろう。むしろ、地理学として、MSTクラスの学問対象のフィールドとなったことだろう。さすがは、田中潤先生。21世紀型教師の教師である。
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