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2019年5月 1日 (水)

令和 フォード主義からアップル主義へ 禁断の果実のリスク?

★令和になった。東洋経済ONLINEでは、<先進国の子も「労働力」にするコワい教育の歴史5/1(水) 6:20配信>という記事で、Appleのジョン・カウチ(アップルの教育部門初代バイス・プレジデント)のコンセプトを紹介している

★簡単に言えば、フォード主義からアップル主義にシフトするよというお話。フォード主義は、資本主義の3つの原理「効率性」「計算可能性」「予測可能性」を科学的合理主義的管理に徹底したベルトコンベアー型の大量生産方式であるが、その考え方はテイラーによる。これに対してアップル主義は、ラップトップやタブレット、スマホなどのデバイスによるパーソナライズ化方式。

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★このパーソナライズ化方式の理論的背景は、アラン・ケイ。そして、ジョン・カウチは、20世紀型教育を大量労働者生産様式であり、21世紀型教育は、個人の才能を大切にした教育であり、それにはパーソナライズ化が必要なのだと。そしてそれを可能にするのがApple社の多様なデバイスやアプリだというコトである。つまり、教育のリワイヤリングをApple社は牽引するよと。そのことについてこう語っている。

<教育のリワイヤリングを突き詰めると、「生徒に学習させたいことの教え方を変えること」という意味になる。情報を配って事実をムダに暗記させることは、もうやめるべきだということだ。

これからの教育は、子どもたちに理解させることを変えると同時に、批判的にものを考えるクリティカルシンキングや自由にアイデアを広げるクリエイティブシンキングを教え、子どもが自ら新しいことを発見し、理解し、生みだせるように導くものであるべきだ。

学習に関するリサーチと最新テクノロジーを活用して、いまの生徒一人ひとりのニーズに即して学習体験をパーソナライズ化する必要がある。>

★20世紀型教育が、労働者を養成する装置であるという考え方は、ミシェル・フーコーやピエール・ブルデューが、昭和の時代に語っている。

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★したがって、ジョン・カウチは、そのような社会学的課題発見に対し、一つの問題解決策を提案し、実践しているわけだ。フォーディズムからアップルイズムへというわけだ。

★しかし、一方で、このパーソナライズ化、すなわち「個人化」に対しても、ジークムント・バウマンやウルリッヒ・ベックなどから、社会的リスクを包含していると批判されている。

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★昭和は、明治時代に誕生したフォーディズムをアレンジする形で、トヨタの自動車組織の設立から始まり、1989年のベルリンの壁崩壊を招く年に幕を閉じた。大量生産方式が少なからず影響し、もたらしたであろうことは、明治は、日清・日露戦争、大正は第一次世界大戦、昭和は第二次世界大戦である。

★それが平成になってゲームボーイが爆発的に売れたことに象徴されるように、デジタル化の時代が、IT革命の光と影をもたらした。個人の力でテロという新しい戦争が始まった。

★国家社会を越境して広がるシリコンバレーの象徴GAFAは、グローバル社会の液状化現象に影響を与え、SNSで記号上つながっている仲間を生みだし、戦略的世界では絆はあるが、生活世界では絆は液状化し、個人化が進み、国家レベルの問題も「自己責任」として抑圧的に処理される社会の誕生となった。

★昭和の時代に、それを予言した思想家にハーバーマスがいる。社会はコミュニケーションによって成立するが、そのコミュニケーションが、マスメディア主導になると、物質的道具立てによる効率主義・合理主義的な戦略世界を構築することになる。一方自然言語を中心とする言葉による合理的かつ内省主義的な生活世界を構築することもできる。

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★バウマンらのように、戦略世界を構築する個人化社会になるとみなすのか、ジョン・カウチ自身が次のように語る個人が世界を変える時代になるとみなすのか、それは今のところ微妙だ。

<マハトマ・ガンジーもこう言っている。「世界を自分が見たいと望むものに変える存在になりなさい」教育のリワイヤリングを求める動きに貢献し、対話に参加することで、あなたにも、世界をあなたが見たいと望むものに変える存在になってもらいたいと願っている。>

★もちろん、平成になってリチャード・フロリダが語ったように、産業構造は大きく変わり、クリエイティブ・クラスが世に現れている。すでに、マックス・ウェーバーが希求していた生産道具が資本家から個人にようやく解放されたからだ。その生産道具とはパーソナルコンピュータである。

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★ベルリンの壁が崩れるところから始まった平成。デジタル化の波は、しかし金融危機を生みだし、テロを可能にし、原発をリスク回避不能な古いテクノロジーにしてしまった。

★これらを解決すべく国連はSDGsを発動している。しかし、それが生活世界を構築するのではなく、戦略世界の暴走を防ぐためだけの方策だとするなら、どうしても止められないAI戦争がはやくも預言されている。

★令和は、平和の象徴になるのか、新たなAI戦争の預言となるのか。たしかに、ガンジーの「世界を自分が見たいと望むものに変える存在になりなさい」というパーソナライズ化は重要である。

★しかし、フォード主義からアップル主義へというシフトが、テイラー主義のアレンジに過ぎないのか、戦略世界から生活世界へ、すなわち優勝劣敗主義からWell-being主義へのパラダイム転換のか、その見極めはとても大切である。21世紀型教育が、後者を標榜するのは言うまでもない。

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