「深い思考スコア」と「偏差値」(07)中学入試が「深い思考」問題を出題することは、未来を拓く大きな一歩
★晶文社学校案内編集部発行の「首都圏中学受験案内2020年度用」は、令和元年に企画編集された画期的かつ歴史的な受験情報本である。「思考コード」と「偏差値」で、その学校のアドミッションポリシーの考え方やビジョンがわかり、その考え方が、その学校の教育とどんな関係にあるのか、そしてその有用性が大学合格実績のみならずどのような教育活動に現れているのかを簡にして要を得た情報整理がなされているからだ。
★今回の本ブログのシリーズで、同書のデータに基づいて、首都圏中学入試における全体「深い思考スコア」の特徴や傾向をみてきた。データは2018年のものだだから、2019年はもっと激しい変容になっていると思うが、それでも大きく変わる動向を読み取れるデータだと思う。
★さて、男子校、女子校、共学校のスコア平均の比較をしてみよう。各校の件数が違うから、一概にはいえないが、男子校は算数の「深い思考」スコアが全体「深い思考」スコアを引っ張っている。したがって、そんな中で、聖学院と佼成学園のように新タイプ入試で「深い思考」スコアを牽引している学校は、クリエイティブな思考力やタレントを評価される男子校として、これまで、一つのモノサシで私立学校に入門できなかった生徒に門を開いた希望の私学であろう。
★共学校は、新タイプ入試で牽引している学校が多いわけで、その未来への希望の塊が潜在している。女子校はもっと国語で「深い思考」問題を出題するかと予測していたが、男子校よりも低い。また新タイプ入試も共学校より低い。つまり、この中途半端なアドミッションポリシーが女子校低迷の一因である可能性が高い。
★実は、女子校でよく聞く話が、うちを受験する子には「深い思考」問題は難しすぎるという気遣いが、逆説的に生徒のモチベーションを下げている。ここまで挑戦して欲しい。そのためのケア態勢を、こんな風に整えているというのが、本来の気遣いで、気づかないうちに、受験生の挑戦心を削いでしまっている場合が意外と多い。
★本来の気遣いというのは、たとえば、聖学院のケースが挙げられよう。同校は、思考力セミナーと称して、思考力入試の対策講座をワークショップで説明会ごとに開催している。一般入試を受験する生徒も体験できるから、受験生全員にB2B3C2C3の学びの本当のおもしろさ=“Hard Fun”を教師と共有できる気遣いの場をマインドセットしている。それだけではない。毎回作成されるいわば思考のポートフォリオというよりハワード・ガードナー教授の提唱するプロセスフォリオであるハンドアウトは、いったん回収され、エンパワーメント評価としてフィードバック(添削ではない)コメントが添えられて郵送で返却される。
★だから、入学前から生徒の非認知的能力と認知能力の特徴を把握し、つまり最近接発達領域を見出し、入学してきたら、こんなプログラムを適用してみようと教師の間で対話が盛り上がっていると聞き及ぶ。
★個人情報の問題もあるから、聖学院は氷山モデルの見える部分しか広報しないが、実際には水面下の先生方の生徒に対する気遣いや共感共振を生み出す対話開発への努力が凄まじいのである。
★これは、共学校の工学院も同様だ。なぜ駒込と八王子でシンクロするのか?山口昌男の「中心と周縁」理論ということだろう。もっともどこが中心かほんとうはよくわからないのだが。ともあれ、中心は悪貨は良貨を駆逐するという経済原理が作動しやすく、周縁はイノベーションが起こるというのが世の常である。
★ところで、多くの学校で、算数と国語で、「深い思考」問題を出題できない理由はなんだろう。これは、複数回数の入試と即日合格発表の流れが関係している。算数と国語で「深い思考」問題を出題している学校は、たいていは入試回数は一回であり、合格発表は翌日か翌々日である。じっくり問題を練り上げ、時間をかけて採点をすることができるから、そのシステムに適合する問題をデザインするのは当然である。
★ところが、複数回数の入試で即日合格発表をする場合は、問題を多数作らなければならないし、どうしても採点しやすいデザインを考えなければならない。「浅い思考問題」、要するに知識問題を大量出題することにならざるを得ないのである。
★そこで、新タイプ入試で、そこを補おうとする。ところが、B2B3だけにすると、難度があがり、挑戦する意欲が挫けてしまう。そこで、創造的思考問題を出題する。しかも、いきなり創造的解答を出すのではなく、創造に到るプロセスを通過するから、生徒は最近接発達領域をその都度確認し、自分で次に進む足場を整えながら、進むことができる。
★創造的思考問題は、難度が高いわけではない。考える楽しみをどこまで膨らますことができるかだ。そして、ステージごとに足場をつくるサポートが問いの中に包含されている。
★一般には、まだまだこのことが理解されていない。このことが認知されるには、しばらく時間がかかるだろう。しかし、すくなくともこの理解に向けて走り出す希望のランターンとして晶文社の「首都圏中学受験案内2020年」は役割を果たすであろう。
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